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還らぬものと帰るもの





「……アウトサイダーの噂は、ボクも聞いたことがあります」


 地面に腰を下ろし互いに向かい合い状態で(アネットは再度ルカのローブを羽織り直して)。

 かくかくしかじかとアネットが語りを終えると、それまで黙って話を聞いていたルカがゆっくりと口を開いた。


 お行儀よく正座していたルカと対照的に、アネットは粗雑にあぐらを掻いて足を開いていた。

 ローブの下から下半身がチラチラと覗いていたが、気にしていないというか全く気がついていない様子だ。


 ルカは紳士的に目を閉じると、焦点をアネットの顔に固定して話を続ける。


魔法職(マジックユーザー)の間だとそれなりに有名な話なのですが。この世には、歴史の転換点に現れ人々に力を授ける神のような存在がいると」

「力を授ける?」

「ええ。かの英雄ランベルトも大魔導師オズも、アウトサイダーに力を授けられたのではないかと噂されています」


 その二人の名前はアネットにも覚えがあった。

 というかむしろ、それぞれが冒険者であれば知らぬ者などいないレベルの過去の偉人である。


「しかし神ねぇ……」


 アネットが出会った顔のない男は、神と言うより悪魔や道化師に近い何者かだった。

 もっと率直な感想を述べれば、ただの愉快犯としか感じられなかったのだが。


「あとはこんな話もあります。この世界に魔法やモンスターを生み出したのも、実はそのアウトサイダーなのではないかと」


 アネットが訝しんでいると、その感情を見抜いたルカが補足説明を入れた。


 いつの世も、何処からか現れて人の社会に混迷を巻き起こすモンスター。

 そして、それらを討伐するのにもはや欠かせない存在となっている魔法の力。


 なるほど。全てがあの愉快犯のマッチポンプであるとするならば、筋は通るし納得もできる話だ。


「なんかスゲェ奴に目を付けられちまったんだな、オレ」

「ボクも驚きましたよ。皆さんのご遺体を埋葬していて、いざアネットさんの番だと振り返ったら、そこに貴女がいたのですから」


 ルカのセリフに釣られて、アネットは視界の隅に映っていた墓標へ目を向けた。


 ドラゴンの亡骸の少し脇。

 激闘の中で抉れた地面を利用して作られた四つの墓と、そこに突き立てられた各々の愛用武器。

 最後の一つには自分が埋められる予定だったのだろう。中央の墓穴は空白のままで、その前にはアネットが使っていた愛剣と鎧の残骸が転がされたままとなっていた。


 武具の破損具合から、己の死骸がどんな有様だったのかを想像してアネットは眉をしかめる。


 振り返ればルカの横顔が見えた。

 その泣き腫らした目元に気がついて、アネットは己の軽率な振る舞いを恥じるように頭を下げた。


「悪かったな、おまえにばっかりツライ想いをさせちまったみたいで」

「そんなことないです。あそこで躊躇えば二人とも殺されていたでしょうし。……それに結果論ではありますが、こうしてもう一度貴女の声を聞くことが出来たのですから」

「まあ、そこだけはあいつに感謝しないとだな」


 ルカと一緒になって苦笑し合った後で、アネットは立ち上がって自らの墓穴に近づいた。

 そして仲間たちの墓標を見渡して、目を細めたまま静かに黙祷を捧げる。


「オレたち“鋼鉄の六人スティール・ヘキサゴン”も、あっという間にただの二人(ライン)になっちまったな」

「皆さん勇敢な、素晴らしい冒険者でした」

「……知ってるさ」


 背中を追いかけて来たルカに目配せしながら、アネットは再度墓に視線を戻す。


 大斧。

 大盾。

 大弓。

 大剣。


 それはパーティの脳筋っぷりを余すとこなく象徴するような。

 “鋼鉄の六人”の名に恥じない、普通の冒険者はまず運用しないであろう大柄な装備が立ち並んでいた。


「わりぃな、みんな。なんかオレだけ抜けがけしたみたいになっちまったよ……」


 面々の笑顔を思い出しながら、アネットは心の中で謝罪する。

 謝罪しながら、ふと疑問を感じた。


 ――なんで自分だけが生き返れたのか?


 アウトサイダーは“オレたち”の偉業を称賛していた。

 だとすれば、チーム全員が願いを叶えてもらわなければ理屈に合わない。


 ドラゴンにトドメを刺したのが自分とルカだから?

 でも、アウトサイダーは「六人で打破した」と仲間たちの健闘も讃えていたはずだ。


 他の仲間たちはアウトサイダーの甘言を拒否したのか?

 でも、自分だって叶えてもらうつもりのない願いを受諾された結果ここにいるわけで。


 ……?


 しばらくぽくぽくと考えてはみたが。


「まあいっか」


 という結論に落ち着いた。


 考えたところで、自分だけが生き返ってしまったという事実は変わらない。

 だとすれば、その事実を受け入れて前に進むだけだ。


「それじゃあ帰るとしようぜ、オレたちの街へ!」

「はい!」


 アネットがいつもの調子で元気よく振り返ると、ルカは忠犬のように嬉しそうな笑顔を返してくれるのだった。





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