8.竜とネコ耳。
レヴィのお説教を受けた娘たちが漏らした服を魔法で洗い終えると、どうやらアタックという物が始まったらしい。
「それにしてもこの映像はどうなっているんだ? 鮮明で映像が動いている。 どんな仕掛けなの?」
「それは全て私の魔物が肉眼で見ているダンジョン内の様子が映し出されているから、こんなに鮮明でかゆい所にも目が届くんだよ。」
「つまり映像全部って、こんなにたくさんのいるのか! 百はいるな。」
「これは氷山一角よ。 ダンジョンブックを見ないと魔物の数は私も把握はしてないわ。」
俺はその規模に唖然とする。
そして映像が一旦は砂嵐のように乱れ、復興した時にはたくさんの光輝く子供のような生物が洞窟のようなダンジョン内を縦横無尽に飛び回って、彼女の魔物らしき生物と交戦してている。
その子供のような姿の天使は顔が半分なかったり、手足が倍の数あったりと俺の知識にある神の使いとは思えない程の酷く醜い姿をしていた。
アタックとは魔王の敵の天使が彼女のダンジョンに攻め込む事であるみたいだ。
彼女にとっては自分の家が外からの侵略者に侵されるということは深刻な事でもある。
「あれが天使なのか? もっと可愛いらしい生物だと思っていたよ‥‥。」
あまりの想像との差と醜さに黙り込む。
娘たちも、もふもふのしっぽや小さい手で片眼を隠しながら恐る恐る見る。そして、ぷるって震えて隣の姉妹と身を寄せる。
また、漏らさなければいいと願う。
「現実はこんなもんさ。 でも安心しな。 君は【天界】ではなくて、人間が多くいる【人界】で仕事をする事になっている。」
「良かった。 人間なら何とかなるよ。」
「でも、人間は人間で厄介なんだよね。 ずる賢くてね。 あっ、ちょっと待ってな。 今回の山だわ。」
すると一際大きい光る浮遊発光体がゆっくりだが進んで来た。
手には剣を体には鎧を着ていて彫刻のように表情は硬くら明らかに異質であった。
その力は他の天使とは比べものにならない程の力を持っている事を生まれたばかりの俺でも一目で分かる。
「しっかりと見ておきなさい。 ヨハンもいずれ戦う事になるのだからね。」
レヴィは自分の魔物を何らかの力で呼び出しす。
これは魔王のダンジョン内特権であり、魔物との共鳴だ。
共鳴するには名前をつける事で存在を物理的以上に近づけなければならないのだがこの時の俺はまだ知らなかった。
「ご主人さま。 お呼びですかな。」
すると、1人のスーツを着た紳士がドアをノックして入ってくる。
スーツを着た紳士は白髪で口髭も白く、50代半ばの姿をしている。見ようによっては執事のようにも見える程の清潔感と気品を備えている。
「ドレエル、久々に本気を出してもかまわないわ。 新しい魔王があんたを最深部から見てるからね。」
ドレエルとはきっとこの魔物につけられた名前だろう。
「それはそれは光栄です。 是非とも新しい魔王様に良いところをお見せしたいと思います。 久々に燃えて来ましたぞ。」
高鳴る気持ちを抑えながらも、彼は礼儀正しくお辞儀をしてから静かにドアを閉め、彼は早急に戦場に向かった。
やがて、最深部の映像で彼の姿を確認する事が出来た。
両手を合わせて魔力を練り上げていくと次第に黒い霧を纏っていく。
しかもだんだんに膨れ上がり姿が見えなくなったと思った頃には、俺の知っているさっきまでの人間の姿はどこにも無く、そこにはいたのは大きな漆黒の黒い西洋の竜だった。
娘たちはおのおの彼の姿をみて、三角座りで指を指して感想を言う。
「おとーさん、あの竜、かっこいいの。」
「黒い竜なんだよ!」
「みーはのってみたい。 どらごんふらい。」
「邪気を放ってるでやがるですっ!」
「こ、怖いですっ。 ひゃー! パパー!」
雄叫びを上げればダンジョンが地響き、赤い鋭い爪を振り回せば敵を簡単に蹴散していき、そして単純な力だけで薙ぎ倒す。
「ドレエルは竜人なのさ。 普段は人間の姿をしていて、戦う時は竜になる。 まぁ、最近は竜にならなくても勝てる相手ばっかりだったから今日は派手に暴れているわ。」
確かに彼は戦うというよりは異常な程の力を発散しているというように見える。
この矛先が自分に向くとと考えると心臓の鼓動が早まり、背筋が凍り付く。
娘たちは危機感が無く呑気だ。だがそこが良い。
そんな万全な装備をしている天使は竜になったドレエルに何もするすべなく一方的に攻撃を受けるだけだった。
そして、大きくドレエルは口を開き高濃度のエネルギーが口付近に集中して大きな魔方陣が発生する。
「まずい、あいつ、本気を出しても良いっていったけどやり過ぎ!」
その空間にいた全て魔物は我先にと他の階層に逃げていく。
そのために彼を見ている魔物が居ないため彼の様子が分からない。
だが、3秒後に部屋が大きく立っていられないくらいの縦揺れが襲う。
あまりの揺れに娘たちは三角座りをしながら、お尻で跳ねていた。
「すっ、すごいの!」
「これは地震なんだよ!」
「なんて咆哮でやがるですっ!」
「はねると、おしりがいたい。 ふたつにわれる。 あっ、もうわれてた。」
「パパ! 怖いですっ! うえーん。」
竜の咆哮であり、あの1発でここまで揺れが起こるのは驚異でしかない。
流石に娘たちもこの状況に危機感を覚えるだろう。たぶん‥‥。
するとレヴィが新たな魔物の名前を呼ぶ。
「まったく。 レミル、すまないがちょっとドレエルの様子を見てきてくれないかい?」
いつの間にか俺のうしろには黄色をベースとした黒い水玉の獣耳の1人の美少女が出入り口からコソコソしながら見ていた。
不意に自分の名前が呼ばれた事に驚いて尻尾をぴんっと逆立てて、焦って部家に入ってくる。
しかし、俺と目が合いさらに尻尾を逆立て、5人の美少女たちを睨みながら部屋の隅をよそよそしく歩いきレヴィのそばに行く。
「おとーさん、ネコ耳の女の子なの。 天狐たちといっしょなの! 仲良くなれるかな?」
天狐が嬉しそうに俺に報告してくる。しっぽも揺れていて友達になりたいのだろう。他の娘たちも彼女の事が気になるようだ。
「仲良くなれればいいね。 きっと大丈夫だよ。」
レミルと呼ばれている美少女は姿から見て、12、3才だろうか。娘たちより少し大きい。
だが人見知りをするタイプのようで、なんかそわそわと挙動不審で俺の目を気にしているようだ。
「き、キツネなんかと一緒にするなですっ! うう、おかーさま。 なんでレミルなんやがるであります。 トールの爺さんが1番近いでやがるであります!」
口調が天狼に似ている。
獣耳のレミルは彼女の目の前で時短馬を踏みダダをこねる。
そんなレミルのもふもふの尻尾は足を勢いよく地面に叩きつける度に、ゆっさゆっさと揺れるのだった。
「トールはこの前の戦いで力を使いすぎたのは分かってるでしょ。 だから、おねがーい!」
レヴィはそんな不機嫌であり挙動不審のレミルの頭を撫でてやると、レミルはにまーっと笑顔になり、ふにゃーっ溶けるようにと脱力すし尻尾を左右に激しく振る。
なんだこの生物、俺の娘たちには負けるけど超かわいいじゃないか。
レミルは余韻にしばらく浸っていたがブンブンと首を横に振って我に返る。
「しょーがないです。 レミルに任せるのです! だからもっと褒めやがれであります!」
ぶるんぶるんと大きな黄色と黒のしま模様のもふもふ尻尾を左右に振りながら歩いて行ったのだった。