7.じゃんけんぽん。
俺と5人の獣耳の美少女たちはレヴィのダンジョンに足を運ぶ。
俺のダンジョンに設置されている青色の魔方陣はレヴィのダンジョンに繋がっている。
レヴィはアタックがあるからと急いで帰って行ったので、俺も迷いなく魔方陣に入ろうとすると娘たちが俺の服を引っ張てきた。
「どうしたんだ?」
「おとーさん。 あの女の人ほんとーにおとーさんの見方なの?」
天狐が心配そうに俺に聞く。
「大丈夫じゃないか。 色々と教えてくれたし。」
「分からないんだよ。 だってとっても怖かったんだよ。」
天狐同様に福狸も心配そうに俺を見つめる。
この子たちは漏らしてしまう程のレヴィの殺気を受けた。
だから余計にレヴィに対して敵対心があるが、実力を分かっているからこそ何も出来ずに歯がゆいんだろう。
「おとうさん。 みーたちじゃ、まもれない。 あぶなくなったらにげて。 やくそくして。」
黄泉猫が俺の腕をぎゅっと握り締めて目を見開いてみる。
この子たちにはそれほどの事なのだろう。
「分かった。 約束する。」
「おれっちも守ってやがるですっ! なっ、うさぎ!」
「わ、私はこ、怖いので、ここに、残るで、ですっ! ぶるぶるぶる。」
ウサギ耳の美少女の月兔は完全に怯えてウサギ耳を振るわせている。
「大丈夫だよ。 みんながいるから。 変化を恐れてはダメだ。 常に前に進んで行かないとね!」
変化を恐れ前に進まない事は成長の終焉を迎えるのと同じだ。
月兔の小さな体を抱えて1番に魔方陣に入る。
「いくよー! 月兔!」
「いやーですっー! 助けてくだしゃーい!」
月兔は大粒の涙を空中に漂わせながら、大声で絶叫しウサギ耳を振るわせる。
そして、魔方陣に入ると一瞬で景色が変わった。
「ここは?」
呟きながらウサギ耳の美少女を地面に降ろすと泣きながらポコポコと俺を叩く。
「パパっ! 酷いですっ! うえーん。」
あまりにも泣くから撫でてやると、えへへって言って目を細め、ウサギ耳をぴくっとさせる。
月兔の様子を見てちょろいと思ってしまった。
「ごめん。 じゃなきゃあっちでひとりぼっちになっていたよ。」
「うー。 それはやですっー。 ひとりぼっちはさみしーですっ。」
「ヨハン。 まさかそんな登場なんて思いもよらなかったよ。 抱っこなんて。 さすがは意外性ナンバーワン魔王じゃないか。」
慣れてきたようで呆れ顔になっていた。
「あれっ? 他の子たちはどうしたんだろ? まぁ、いいか。 そのうち来るよな。」
魔方陣の方をみるとあれだけ俺を守ろうと言っていた他の4人の娘たちがまだ来ていない。
いつまでも心配をしていたらきりが無いと思いもレヴィのダンジョンに視線を向ける。
「うわー! パパ、ここ凄いのですっ! 壁にたくさんの映像が映っているのです!」
月兔が珍しく興奮して袖を引っ張ってくる。
確かに凄い数の映像が薄暗い四方の壁に鮮明に映し出されている。
その部屋の中央にはダンジョンブックが台座の上で淡い光を輝かせて浮遊している。
俺のダンジョンブックとは事なり厚さが広辞苑の二倍ほどある。
「ここはもしかして最深部?」
「当たり! 良く分かったね、ここは私のダンジョンの核となる最深部さ。 君のダンジョンと私のダンジョンの最深部は繋がっているのさ。 くれぐれもダンジョンブックには触らないように! 子供たちにも言っておくんだよ!」
あの子たちなら興味本位で触ってしまう事は目に見えているので、しっかりと言い聞かせないといけないだろう。
「分かった。 それと、アタックってのは何をするの?」
「まぁ、見れば分かるわよ。 それにしても他の子たちは来ないのかね?」
「レヴィの事を警戒しているから分からないけど、守るって意気込んでいたから来ると思うよ。」
*
そんな話をしている頃。
「あー。 おとーさん行っちゃったの。 どうしよー。」
天狐が口を開けて呆然とする。しっぽもあまりの唐突な事にぴんっとさせる。
「大変でやがるですっ! お父様を守らなければならないのでやがるですっ! あの女に喰われたら大変でやがるです。」
「そう。 はやくいかないと。 だめ。 あのおんなにくわれちゃうかも。」
「さすがに食べられはしないと思うんだよ。 それより、黄泉猫に先を譲ってもいいんだよ。」
どうやら守るって意気込んでいたが、あの怖い女の人のダンジョンに行く事も、魔方陣に入る事も怖いらしくその場に座り込んで話合いをしていた。
「おとーさんがあの女の人にいじめられていたら大変なの。」
「みーも、どうかん。 きつねがおねーちゃんだからさきにいくべし!」
「そうでやがるですっ!」
「そうなんだよ。 おねーちゃん!」
3人はうんうんって頷く。
「うぅぅ、ずるいの。 こんな時だけおねーちゃんって言うの。 うー。 でも、天狐はおとーさんを守りにいくの。」
天狐は立ち上がり勢いよく魔方陣に走って行くが途中でブレーキを掛けてギリギリで止まる。
「やっぱり、ここはこうへーにじゃんけんをするの。」
3人はあきれ顔でえーって声を漏らす。
「おねーちゃんの言うことを聞くの。 だから、じゃんけんぽんをして、負けた人から行くの!」
「分かったでやがるですっ!」
「分かったんだよ。」
「おねーちゃんをみせてほしかった。」
そして、なんだかんだじゃんけんをし始める。
「「「じゃんけん」」」
「ろっくしーざーぺーぱー」
「むむっ! 黄泉猫だけ違うでやがるですっ!」
「あいむそーりー、ひげそーり。 みーはきこくしじょのためにごかんべんを。」
「「生まれたばかり!」」
「そうであった! でも、ぜんせがわれをよんでいる。」
「そんなことはどうでも良いの。 早くじゃんけんするの。」
そして、気を取り直して。
「「じゃんけんぽん!」」
天狐が一人勝ちして飛び跳ねて喜ぶ。
「かったのー!」
「なにがおねーちゃんでやがるのです。」
「しょうがないんだよ。」
「それじゃさんにんでごー!」
3人は手を繋いで恐る恐る魔方陣に入って行った。
「ちょっ、ちょっと待ってなの。 おねーちゃんを一人にしないでなの。」
ゴーレムを除いて、ひとりぼっちになった天狐は寂さと不安に追い込まれて急いで魔方陣に飛び込んだのてあった。
「おっ! やっと来たね。」
「おとーちゃん!」
「お父様!」
「おとうさん!」
少し遅れて天狐が来た。
「天狐遅れてどうした? なんかあったのか?」
「天狐はおねーちゃんだから妹たちのお世話をしてたの!」
胸を張ってえっへんする。
「そうか、天狐はえらいね!」
そんな天狐を撫でてやる。
「いえーす! 天狐はおねーちゃんなの!」
キツネしっぽを振りながら親指を立ててグッドってする。
「さすがおねーちゃんですっ!」
しかし、他の3人は不満な顔をする。
「どうしたんだ? 不満そうな顔をしてるけど。」
「ふんっ。 知らないんだよ。」
「ず、ズルいでながるです!」
「みーはしんじつをつたえる。 てんこははびびってさいごにきただけ。」
「うー。 よみちゃん、それは秘密なの。」
天狐がしっぽを逆立てながら、しーって口に指を置く。
なにか隠しているようだ。でも全員が来たのだからそれでいい。
すると、あとから来た娘たちも部屋の状況に気がつき目を輝かせて部屋をかけずり回る。
お昼寝したから、それはそれはもう元気いっぱいだ!
「これはなんでやがるですっ! ぷかぷか浮かんでやがるですっ!」
他の娘たちもよってくる。
天狼がダンジョンブックに触ろうとすると、大声が飛んできて全員でしっぽをピンって逆立てながら一瞬で俺の後に隠れる。
「まったく。 油断も隙もないね。 これはヨハンの責任よ。 魔物の行動をしっかりとコントロールしなくちゃダメだよ。 ここは幼稚園じゃないんだよ。 孤児院なら良いけど。」
えっ! 孤児院ならいいの?
誰もがツッコミを入れるだろう。
「わ、分かった。 しっかりと言い聞かせるよ。」
「まったく。」
彼女は最高に不機嫌な顔をした。それ程にダンジョンブックは大切なものだ。
「みんな。 ここはレヴィのダンジョンだから大人しくしようね。 じゃなきゃ、みんなは強くなれなくなっちゃうよ。」
「強くなれないのはいやでやがるですっ!」
「ごめんなさいなんだよ。」
「すまぬ。 おとうさん。」
「おとーさん。 ごめんなさい。」
「パパ。 わ、わたしは強くならなくてもいいのですっ!」
なにやら言いたそうな顔をして、レヴィは娘たちに言った。
「それとね。 君たち魔物はね、主人を守るのが仕事でしょ。 なんで、ヨハンの後に隠れるの。 ヨハンを守らないと!」
娘たちは下を向いて目を合わせないようにするのは、自分達も分かっているからだろう。最初は守ろうとしてくれていたのだから。
天狐が1番にほとほとと俺の前に歩いてきてレヴィを睨む。
順に、福狸、天狼、黄泉猫とでるが、月兔だけは俺のうしろに隠れていただけだった。
「一人だけ分かってない奴がいるね。」
レヴィが近づいてくると、勇気をだして、必死に守ろうと4人の娘たちが噛みついたり、引っ張ったり、叩いたりする。
しかし、そんなのはレヴィにとって痒い位にしか思っていないだろう。
俺を押してどかし、ウサギ耳の美少女の月兔の襟を掴んで引っ張る。
「ひゃ! パパ、たすけ、、うっ。」
月兔は苦しそうにもがくがどうにも出来ずに泣き始める。
「レヴィ、止めてくれ! まだ子どもなんだ。」
「そんなの関係ない。 弱い魔物は死ぬ。 そんなの常識以上の鉄則よ。」
レヴィは月兔の苦手な性質の雷属性の魔力を腕に走らせる事で紫電がビチビチと音を立てる。
「やめるの!」
「させないんだよ!」
「やめるでやがるですっ!」
「させない!」
一斉に自分が出来る最大限の魔力を放つが無情にも片手で振り払われて通用せずに、レヴィは月兔を襲う。
「ま、まだ、パパと一緒にいたいのですっ!」
泣きながらもレヴィの手に噛みついて抵抗する。
そして、レヴィの腕は月兔の頭にゆっくりと紫電を走らせるながら近づいていった。
そして、優しく撫でたのだ。
彼女が俺の魔物達に大切な事を教えてくれたことに一段落した後に気がついた。
少し乱暴だがそれは彼女なりの優しさだろう。
「ちゃんとやれば出来るのじゃない。 魔物は自分、仲間、主人を守る事が出来なければいないも同然だから、これから先も頑張るのよ。」
そういいながら、順に娘たちの頭を撫でて魔王の玉座に腰を掛けた。
娘たちは地面に激しく汗を掻きながら放心状態でぺたんと座り込んでいた。
そして、一言。
「「「「「おしっこ漏れた。」」」」」
やっぱりかーい。
ちゃんちゃん。