6.お昼ねとおトイレはセットです。
俺とレヴィの長い話になることを感じてか、獣耳の美少女はおのおの難しい話を頑張って聞いていたようだが、どうやら眠くなってきたようで可愛らしいあくびをして、体を左右前後に揺らし始めた。
「おとーさん、ねむいの。」
天狐が目を擦りながら俺の上着を引っ張るので撫でてやると、一瞬は嬉しそうにするがすぐに瞳が小さくなる。
俺に撫でられるよりも、睡眠欲が勝った証拠だ。
他の子たちも眠気に勝てずにうとうとと体を揺らす。
そして、レヴィによればここは【人間界】ではないらしい。
「それじゃ、ここはどこなんだ?」
「このダンジョンは私のダンジョンに繋がっているの。 ヨハンのダンジョンはまだ開通前だから、最深部に適当に魔方陣を貼らせてもらったわ。 私のダンジョンは【天界】に繋がっている。 だからここも【天界】って事になるわね。」
「【天界】っ天使がいる所って事だよね!?」
「うん。 そうよ。」
レヴィが当たり前でしょって感じで軽く答える。
「そうよって、魔王って【冥界】とかに住んでいるイメージなんだけどさ。」
「あー。 【冥界】にも魔王はいるわよ。 私は出張先が【天界】だったってだけよ。」
「そ、そうなんだ。 魔王も大変だね。 出張なんてするんだ‥‥。」
苦笑いをして話を進めていく。
「それで、俺達は天界になんていたらDPを稼ぐ事はもちろん、経験値稼ぎも出来ないじゃんか。 どうするの?」
「それなら心配はいらないわ。 私のダンジョンの魔物を殺せば良いわよ。 ちょっと増えすぎていて困っていたところなのよ。」
この女は何気なくとんでもないことを言った。
「せっかくの魔物を殺しはちゃっていいの?」
魔物だってタダではない。
獣耳の美少女たちの部下に当たる下位種族だってDPを使って創造をする。
「うーん。 私の魔物たちは既に繁殖まで勝手にするから、自我の無い魔物たちは勝手に増えていくんだよね。 むしろ、ほったらかしにしていた無法地帯をどうにかしたいくらいなのよ。」
レヴィは顎に手を当てて困った様子で俺を見る。
「それはどういう意味なの? 自分たちでどうにか出来なかったの?」
「【天界】は天使の聖地よ。 魔王は忙しくて自我の無い魔物の相手をしてやれないのよ。 まっ、今の疑問含めて私のダンジョンに来れば良く分かるわ。」
ちらっと獣耳の美少女たちの様子をみると、天狐は子ぎつねに、福狸は子だぬきに、黄泉猫は子ねこに変身して、月兔と天狼にぬいぐるみのように抱かれて仲良くすーすーと寝息を立てて寝ていた。
動物の姿になった美少女達は可愛いのはもちろんの事、仲間を優しく抱きしめている姿も最高に可愛く、もふもふの毛が気持ち良さそうだ。
キツネとタヌキとネコは化けることが出来ると言うとは聞いたことがあるのし、ステータスを見て知っていたが、いざ本物をみると感動が押し寄せてくる。
すると、子供たちは寝言をむにゃむにゃと言う。
「おとーさん。 大好き。」
「おとーちゃん。 撫でて。」
「パパ。 えへへ。」
「お父様。 だっこして。」
「おとうさん。 そこはダメ。 ダメよー、ダメダメ。」
黄泉猫はどんな夢を見てるんだ?
黄泉猫は不思議ちゃんで、いつも眠そうな顔をしているがうちの娘たちの中で1番にすばしっこいみたいだ。
俺はそんな黄泉猫を点の目で見る。
*
黄泉猫は姉妹と体を寄せた事により、ぽかぽかしてより眠気が襲う。
そして、夢を見たのだった。
「ん?ここはどこ?まっしろい。まるで、ぎんせかい。」
黄泉猫は白い空間にいた。
だが、不思議な事が1つだけある。
それは、目の前に1つの桃が落ちている事だ。
桃は黄泉猫の大好物であるために、迷いなく桃を拾いに行く。
そして、手に取ろうというとき、桃に足がはえて黄泉猫の手を蹴飛ばして走って逃げていく。
「うっ、ももにけられた! はつたいけん! まつのだ!」
走って行く桃を追いかけていくと、いつの間にかたくさんの桃に追いかけられていた。
夢特有の意味不明の展開だ。
いつの間にか桃から逃げていた。
走っても走っても追いかけてくる。
「あっ!おとうさん。たすけて!」
黄泉猫は父と慕っている主人を見つけて助けを求めながら胸に飛び込んだ。
「おっ!どうした。桃。猫が食べたいのか?でもな、俺も食べたいんだ。ぱくっ!」
主人であるヨハンは黄泉猫のしっぽを口にくわえた。
「あっ!おとうさん。ダメよー、ダメダメ。」
まさかヨハンはこんな夢を見ていた事なんて一生涯知ることはなかった。
*
「可愛いわね。 この子たちを失いたく無いんじゃないかい?」
レヴィは獣耳の美少女たちの様子を見て俺に言う。
「うん。 この子たちを立派な魔物に育てあげて幸せな日常を笑って過ごしたい。」
「そうね。 それが1番よ。」
そういいながら、レヴィは俺の肩に手を乗せて真っ直ぐ俺の目を見て俺の名を呼ぶ。
「ヨハン。 君は【変化】を司る魔王。 私は君の世話を1年すら面倒を見てやれない。 まだ出会ったばかりだけど先の事を考えると悲しくなるわね。」
「もう悲しんでどうするの。 俺は魔王の取扱い説明書の知識しかない子供だよ。 色々と教えてよ。」
彼女は俺を抱きしめる。
俺の顔は彼女の豊満な胸にうずくまる。
「分かったわ。 女についてとかいろいろ教えてあ・げ・る☆」
かなりわざとらしく大きな胸を俺の顔に押しつけてくる。息が苦しいくらいにだ。本当は感触を味わいたいが彼女の凶暴な胸で殺されてしまう。
「おしっこでやがるです‥‥。」
すると、その様子をうちの三女の天狼が目を擦り、独り言を言いながらこの状況を見て、オオカミしっぽをピンってさせて騒ぎ出した。
「お父様に何をしてやがるですっ! こ、この女‥‥。」
レヴィに何かを言いたいようだが、レヴィの実力を天狼は十分に知っているために歯を食いしばりながら睨んでいた。
「ごめんねー。 ちょっとヨハンが可愛くなっちゃってねー! 返してあげる。」
背中を押されて天狼のもとに行く。
「お父様! 大丈夫でやがるですっ? て、天狼がお父様をお守りしやがるですっ!」
拳を握り締めて心配そうな顔をして見てくる。
「大丈夫だよ。 心配してくれてありがとね。」
天狼は口はちょっと悪くて、プライドが高い所があるが、主人の力になろうとしてくれているのがよくわかる。
他の獣耳の美少女たちも目をゴシゴシと擦りながら目を覚ます。
「ああっ!! だれなんだよ? 僕の自慢のタヌキしっぽにヨダレを垂らしたの?」
「ご、こめんなさいですっ! でも、もふもふでしたっ!」
「そんなこともあるよ。 つっきー。 みーがゆるす。」
「かってに許さないでほしーんだよ!」
「おとーさん、何かあったの?」
天狐が目をゴシゴシと擦りながら歩いてくる。
「お父様が、あの女にいじめられていたのでやがるですっ!」
その一言に娘たち全員でムッとレヴィを睨む。
だが、天狼はすぐにおしっこに行きたい事を思い出し、トイレに行こうとするがトイレがないのでこの場で足踏みをして焦る。
このままではまた漏らしてしまう。
次第に他の獣耳の美少女たちにも伝染していき、むずむずと体をくねらせる。
確かに俺のダンジョンにはトイレは無い。
困ったものだ。
すると娘たちが敵対しているレヴィから救いの手が差し伸べられた。
「ダンジョンブックを開いて、ダンジョンの最深部の改造をすればトイレなんかすぐに出来るわよ。 DPが必要だけど。」
ダンジョンブック。それは魔王の魂の具現化された物であり、ダンジョンの核となる本。
「まだやったことないけど、ダンジョンブックで好きなようにダンジョンを改造出来るんだよね。」
「そう。 DPを少しあげるからトイレを作ってあげなさい。 漏らしたら大変だから。」
「《我の魂、形どれ!》」
体から光が溢れ出て、胸の高さに一冊の本が姿を現す。
昨日より少し分厚くなった気がする。それは美少女たちが俺の魔物になったからだろう。
俺の手元のダンジョンブックにレヴィは指で触れると淡く光る。
DPが俺のダンジョンブックに移ったようだ。
ダンジョンブックを開いてダンジョンの改造を始める。
特に最深部の改造は大まかな事から細かい数値まで入力して決めることが出来るので自分だけの理想のダンジョンを作れるのは言うまでもない。
まずはトイレ自体を購入してやる。
さすがに石材の壁だと寂しく暗いために、娘達が喜びそうなカモメが大空を飛んでいる壁紙にしてみた。
動物だと絶対に喧嘩するだろうからのチョイスだ。
このように詳細を決めて実行するとダンジョンが揺れて、今まで壁だった所にトイレが出来上がる。ついでに、福狸がゴーレムを作るときに凹ました地面も修復する。
それを見た天狼は急いでトイレに駆け込む。
「どう使うでやがるです? わからんでやがるです。 きっとこうでやがるです!」
しかし、彼女は洋式トイレの使い方が分からずに便座の上に立って用を足そうとする。
「あー! 違うよ!」
俺の声に驚いて体をびくつかせる。
まだ発射前で良かったと思いながら天狼を脇の下から、くいっと持ち上げて正しい座り方に直してドアを閉めた。
他の娘たちもまだかまだかとズボンとおパンツを脱いで列になって待っている。
しっぽはせわしなく揺れていて焦りを表していた。
そんな姿はなんだかしっぽが生えている、てるてる坊主のようで笑ってしまう。
そして、トイレから出て来たら天狼はスッキリした顔でオオカミしっぽを振りながらご機嫌だった。
レヴィは獣耳の美少女たちの様子に慣れてきたようだが、まだ少し顔を引き攣っていた。
「これでダンジョンの作り方が分かったでしょ?」
「うん。 大体分かった。 ダンジョンブックって便利だよね。 魔物のステータスや俺の使える魔法なんかもしっかりと書かれているもんね。」
「そう。 ダンジョンブックに書かれているのは魂に書かれているのと同じで絶対に忘れないのよ。」
「それじゃ魔法は覚えたら忘れる事も無いって事だよね?」
「そう。 知識も魔法も忘れない。 でもね、嫌な事も忘れられないのよ。」
レヴィは悲しい顔をする。
「どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。 それじゃ、アタックの時間だから私のダンジョンに戻るよ。 一緒にくるかい?」
「行く! レヴィのダンジョンはどんな所が知りたいし、アタックがなんなのか気になる。」
こうして、俺と5人の獣耳の美少女はレヴィのダンジョンに足を踏み入れる事にした。