2.訪問者。
それは突然の事だった。
━━━ギュイーン━━
俺が魔物の獣耳の美少女たちと楽しくスキンシップをしていると急に目の前で鈍い音がした。
「なんだ? 誰かなんかしたのか?」
獣耳の美少女たちに目を向けると怯えた様子で首を横に何度も振っている。
「誰も何もしてないの。 おねーちゃんがしっかりと見てたの。 なんか危ない気がするの。 おとーさんこわいの。」
キツネ耳の美少女が怯えながら服を握ると他の獣耳の美少女たちもぐっと強く服を掴んだ。
音がした方向を見ると空間に黒いヒビが入っている。
「このヒビは何なんだ? ってか、どういう状態なんだよ!?」
「おとうさん。 みーはわかる。 いまはくうかんがとてもふあんていでじぐそーぱずるみたいに、ばらばらになるかも!」
この状況にも猫耳の美少女は焦る様子を見せることなく、眠そうな細い目で辺りを伺っている。
「それは困るけど、どうしたらいいんだ? このまま魔王になって二日目で死ぬのか俺は‥‥?」
「ひゃー!! パパこわいです。 死ぬのはまだいやなのですっー!」
ウサギ耳の美少女だけは一人パニック状態になり、俺のシャツの中に頭を入れて震えながら怯える。
そして、いきなりガラスが割れるようにそこにあったはずの空間が砕け散り、代わりに白い粒子と共に吸い込まれてしまいそうな暗黒の世界がこちらをのぞき込んでいる。
この漆黒の暗黒の世界からは一人の足音がする。
その音は硬く面積の少ない靴によるものだとすぐに気がついた。
だんだんに音は大きく鮮明に俺たちの耳にテンポ良く届く。
娘たちは初めて遭遇する得体の知らない状況に怯えながらも俺の服を強く握りしめて、小さい手やしっぽで片目を隠しながらも怖い物見たさで凝視をしている。
ついに、その不気味な世界から1人の人間の姿が見えたと思ったら、女性が我が物顔で俺のダンジョンの最深部に足を踏み入れたのであった。
彼女は体のラインが分かるような黒いシースルーのドレスを着て、目立つ紫色の口紅をつけている。
足には音を立てていたであろう赤く高いハイヒールが彼女の事をより美しく主張させている。
黒く長い艶のある美しい髪に負けないキリッとした顔立ちの容姿をしていた。
その女性の姿をみて、ウサギ耳の子を除く獣耳の美少女たちは眉間にしわを寄せながら俺の前に勢いよく割って入って守ろうとしてくれる。
こういう所はまだ幼くても魔物の血をしっかりと受け付いていて、主人を守ろうとしてくれているが、足は恐怖で震えていた。
「ひゃー。 パパ。 こわいのですっ。 ブルブル。」
しかし、ウサギ耳の美少女だけは飛び跳ねて手足をバタつかせたのち、ウサギ耳をペちょんと垂らしプルプルと震えながら怯え、俺の後に涙ぐんで隠れる。
ときおり、顔を出して辺りの様子を伺っていた。
「みんな、おとーさんをまもるの!」
「「おー!」」
キツネ耳の美少女の一声でウサギ耳の美少女以外の美少女たちは戦闘態勢にはいり、それぞれのもふもふのしっぽをぶわぁって何倍もの大きさに逆立てる。
それを見ていた紫色の口紅をつけた美女は、好戦的な笑顔を見せてきた。
「ほぉ。 ちっちゃいおチビちゃんたちがこの私とやり合おうなんてね。 良い度胸じゃないか。 格の違いを見せてやらないとね。 それじゃ、いくわよ!!」
そういうと、彼女は好戦的な笑顔から暗く不気味な笑顔に変わる。
彼女からとてつもなく大きな魔力を感じる。
その俺の予想が当たり、一瞬の爆風ののちに、全身から勢いよく魔力が放たれ溢れ出したのが分かる。
その量は絶大であった‥‥。
俺のいる空間を彼女の魔力で満たしドス黒い靄がかかる。
それだけではなく彼女の回りの空間が不気味に渦のように歪み始める。
彼女の魔力には全身の血の気が引くほどの冷たい殺気が込められており、恐怖から気絶をしそうになるほどだ。
俺はその殺気に当てられて内臓の内容物が込み上げ、全身が恐怖のあまりに痙攣し呼吸を乱していた。
あまりにも力の差があり過ぎる。 こんなの勝てっこない。 俺はどうすればいいんだ?
俺は半分意識を失いつつある状況で精一杯の思考を働かせる。しかし、打開策どころか駄策すら思い浮かばない。
「「うわー。 怖いよー! たすけてー!」」
その恐怖を感じ取った獣耳の美少女たちは、一瞬で俺のうしろに隠れ、ブルブルと全身を震わせて、叱られた子供のように涙ぐんで謝る。
「「ごめんなさい。」」
「分かったのなら良いよ。 ちょっとやり過ぎちゃったようだね。 ごめんごめん。」
そういいながらさっきとは一変した優しい笑顔で俺に近づいてくる。 同時に一瞬で思い空気が余韻を残さず消え失せた。
美少女たちは俺の服をぎゅっと掴んでガクガクと四肢を振るわせている。
しっぽはぺょんと垂らしてすんとも動かさない。
「俺はどうなっても良いから、この子たちは逃がしてやってくれ‥‥。」
恐怖で意識朦朧のなかで精一杯の思考を働かせて、やっと出て来た言葉だ。
殺しに来た生物にこれを言っても助けてくれるはずはないが、せめてもの足掻きとして言葉にだす。
「なんか、勘違いしてないかい? 私は君を立派な魔王にするために色々と教えに来たんだよ。 ちょっとやり過ぎちゃったけど、敵ではないよ。 少なくとも今はね。」
俺はその言葉に呆気にとられ、開いた口が塞がらない。
まさか殺気全開で娘たちの相手をしていた生物からそんな言葉が出るなんて思いもよらなかったからだ。
「えっ。 本当なのか?」
「そう。 本当さ。 てへっ!」
今度は、彼女は意地悪な笑顔を見せながら言った。
その言葉に安堵し、恐怖によって力んでいた全身の力が抜けて地面に膝を付いて崩れ落ちる。
娘たちは俺が何かをされたんじゃないかと思い、奥歯を噛み締めて泣きながら彼女を睨む。
「いやー、本当にごめんよ。 つい、調子に乗っちゃってさ。 大人げなかったよ。 それにしても、なんだい、その獣耳の子供たちは?」
「こ、これは俺の魔物だ。 か、可愛いでしょ。」
恐怖の余韻が体に残りながらも彼女の質問に答える。
「こ、これが、君の、ま、魔物なのかい‥‥。」
彼女は引き攣った笑顔で俺の顔をみる。
「そうだよ。 みんな、俺の魔物だよ! みんな、大丈夫だよ。 敵ではないみたいだよ。」
そういいながら美少女を見ると、安堵の顔を一瞬するがみんなもじもじと股を抑えていた。
そして、キツネ耳の美少女が俺の袖をもって顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言う。
「うぅぅ、おしっこ、漏れたの。」
キツネ耳の美少女のズボンにはシミが出来ていた。
そして‥‥。
「「わたしも。」」
キツネ耳の美少女だけではなかった。全員漏らしていたのだ。
俺も気絶しそうな程の恐怖を味わったのだから、彼女たちがなんともないわけがない。
「ちょっとごめん。 待っててくれないか? この子たちの世話を見ないと。」
すると、彼女はさらに引き攣った笑顔で俺を見る。口が引きつり口角が上がりきっていない顔だ。
俺は順番に彼女達の並ばせて、ズボンとおパンツを脱がしていく。
「おとーさん、ごめんなさい。」
「おとーちゃん、怖かったんだよ。」
「おとめとして、はずかしい。 いちごになっちゃう。」
キツネッ子とタヌキッ子、ネコッ子は素直に脱いでくれたものの、ウサギッ子は泣きじゃくってなかなか脱いでくれない。
怖くて泣いているのか、漏らした事に罪悪感を感じているのかは分からないが、とにかく泣いて目を真っ赤にしていた。
「ほら、脱いで、怒らないから。」
「ぐすっ。 パパ、嫌いにならないですっ‥‥?」
「ならないよ。 大丈夫!」
「よかったですっ。 うえーん。 ぐすっ。」
なんとかウサギッ子のズボンとパンツを脱がすことに成功して残るはオオカミッ子だけだ。
狼耳の美少女は目を合わせようしない。
「も、漏らしてないでやがるですっ!」
狼耳の美少女はプライドが高く、意地を張って漏らしてないと言葉を詰まらせながら言い張る。
「でも、シミが出来てるよ。 脱ぎなさい。」
小さな手で隠して下手な口笛をふく。
でも、目が泳いでいる。自覚はあるようだ。
「いやでやがるですっ! 漏らしてないでやがるですっ! おれっちは子供じゃないでやがるですっ!」
その言葉に俺はやっぱり意地悪したくなってしまう。
「それじゃー、もう撫でてやらなーい。」
今の人生経験の少ない子供たちには、なでなでは最高のご褒美である。
「うー。 いやでやがるですっ! すぐに脱ぐでやがるですっ。」
プライドよりも、撫でられるを優先したのは子供らしい。笑ってしまった。
一瞬でズボンとおパンツを脱いで下手な口笛を吹きながら片手で渡してくる。
きっと、恥ずかしくしょうがないのだろう。
これで全員脱がしたから、昨日読んだ魔王の取扱説明書に書いてあった記憶の片隅の水魔法を使って洗ってやる。
「《ウォーターボール!》」
単純な模様の魔方陣が現れ、中からバケツに入るほどの水が浮遊している。そこに服を突っ込んで綺麗にしていく。
その間にも、ウサギッ子は鼻を啜り、目を擦って泣いている。
その事に気を使ってからキツネッ子とタヌキッ子が、わたわたと辺りを走り回ってウサギッ子に話しかける。
「すーすーして、きもいいの! ウサギちゃんも一緒にやるの!」
キツネッ子が目を細めて走りながら言う。
キツネしっぽも気持ち良さそうに空中を泳いでいる。
「本当に気持ち良いんだよ! すーすーが癖になるんだよ!」
タヌキッ子も同じく目を細めて天狐を追いかけながら言う。
負けずにタヌキしっぽも空中を浮遊する。
「ほんとうにきもちい。 これはくせになる。 どうしよう、ろしゅつきょうになったら。」
ネコしっぽを股から前に出して大事な所を隠して、てこてことネコッ子も走る。
「やっ、やってみるのでやがるですっ! うわ! ほんとうでやがるですっ!」
3人の輪の中にオオカミッ子が入り走り回る。プライドが一番高そうなのに一番開放的で楽しんでいるようだ。
「わ、わたしもやってみるのですっ! ほ、ほんとなのですっ!」
ウサギッ子は泣くのをやめ、美少女たちの輪に入り、鬼ごっこを下半身裸で始めだした。
「みんなで遊ぶとたのしーの!! おとーさんと一緒にするの!」
彼女たちのお尻のつけ根からはもふもふのしっぽがきちんと生えており、本物のしっぽだと確認できた。
5人はしっぽを靡かせながら、すたすたと鬼ごっこを楽しんでいる。
初めは天狐が鬼だったのだがいつの間にか月兔が捕まって鬼になったのだが‥‥。
「待ってくださーい。 私をおいていかないで下さいなのですーっ。(泣)」
当然の事、月兔が鬼だから他の獣耳の美少女たちは逃げ回る。その後を月兔が泣きじゃくりながら追いかける。
この子は本当に鬼ごっこのルールを知っているのだろうか?
「「うわー、きたー。」」
「私を嫌いになっちゃったのですかーっ、(泣)」
そして、月兔は顔から地面にすぺんと転びその場で泣きじゃくっていた。
やっぱり、この子はルールを知らなかったか。
そんな様子をさらに引き攣った笑顔で彼女は見ていた。もう笑顔の原形が見当たらないくらいにだ。
さすがに月兔が可愛そうで見てられなくなったので獣耳の美少女たちを呼ぶ。
「ほら、風邪ひくぞ! それに女の子が下半身裸はダメだろ。 今乾かすからそこに座って待ってなさい。 これあげるから!」
「「わーい! これなぁーに?」」
5人は俺の前に綺麗に横一列に三角座りで座って、俺の手にある真ん丸の物体を見て首を傾げる。
「これは飴だ! ほら舐めてみな。 噛んじゃだめだぞ!」
5人は1つずつ手に取り恐る恐る口に運ぶ。
そして、5人の顔はぱっと花が咲いたように笑顔になり、口の中で飴をコロコロっとする。
「甘くておいしーの!」
「硬いけどおいしーんだよ!」
「すごくあまいのですっ!」
「うん、びみ!」
「う、うまいでやがるですっ!」
5人はしっぽをふりふりと絶え間なく振っている。
そんなこの子達の様子をみていて開発して良かったと心から思った。
彼女達にあげた飴は俺がユニークスキルで昨日作ったものだ。
魔法の練習にダンジョンブックと書いてある本からサトウキビといった植物を購入して育てて、俺のユニークスキルの【変化】で状態を変化させて、甘い汁を個体化させたのである。
もちろん、そのおかげで日常生活程度の魔法は使えるようになった。
でも、あめちゃん自体は改良をしなくてはならない。ただ甘いだけでは飽きがくるからだ。
そうしているうちに第1階級風魔法《そよ風の遊び》で掌サイズの竜巻を作り、乾かしている服が乾く。
下半身裸の子供たちにおパンツを履かせていく。
おパンツとズボンにはしっかりとしっぽを通す穴があいており、さらに分かり易いように、キツネや、タヌキの顔の絵が書いており、誰の物かが一目で分かるようになっていた。
「「ありがとう! 大好き!」」
美少女たちは嬉しそうにしっぽを振りながら、俺の足を抱きしめてお礼を言ってくれた。
良い子達だ。
これで一通りやらなければならないことは終わったので彼女と話を再開させる。
「待たせた。 すまん。」
怒らせたら怖いし、また、洗濯するのが面倒くさいから素直に謝る。
「初めてだよ。 魔王が魔物の子供たちの世話をするなんてさ。」
最高に引き攣った顔で俺と話す。この顔は生涯忘れないだろう。笑えてくる。
「えっ! そうなのか? 魔物は子供の姿で生まれてくるんじゃないのか!」
「うーん。 きっとね、君がこの姿を想像して創造したんじゃないかい? ロリコンね。ロ・リ・コ・ン!」
「そんなにロリコンを強調しないでほしい。 それに、俺が寝ているうちに創造したみたいでよく分からないんだよね。」
その言葉で彼女は目と口をこれでもかっというくらいに開いて驚く。
「はぁー!? 寝ながら創造したの! 逆に凄いわ。 創造には高度な想像力と沢山の魔力が必要なのよ。 それに、なんで、5人もの魔物がいるのよ!?」
「だから、起きたらいたから分からない‥‥。」
「新しい魔王に渡されるルーンは全部で5個。 魔物を創造するときに使うルーンは2個。 明らかに数が足らないわよ。」
「そうなんだ。 確かに足りない。 なんでだろ?」
「うーん。 謎ね。」
そういって彼女は首を傾げた