1.獣耳の美少女たち。
「おとーさんっ! おとーさんっ!」
誰なんだ? 誰かが俺を小さく温かい手でせっせと一生懸命に揺すっている。 しかも、何度も必死におとーさんって呼びながら。
俺は一人用標準サイズのベッドで大きめの抱き枕を抱えて寝ていた。
しかし、そんな俺を子供の声の無邪気さとかまって欲しさを兼ね備えた黄色い声が俺に向けられ眠りを妨げられる。
そのせいで、俺は夢という自分の世界から遠のき、現実の世界へと強制送還される自体となったのだ。
「おとーさんっ! おとーさんっ! 起きるのーっ! みんな、おとーさんと話したいのっ! じゃなきゃ、このもふもふしっぽで顔をこちょこちょするのっ!」
あまりにもしつこく揺らすので瞳を閉じた真っ暗な自分だけの世界から現実に戻るべく俺はゆっくりと目を開いた。
すると目の前には五人の美少女たちが俺を囲み、にーっとした笑顔でのぞき込んでいた。
年齢はだいたい八歳とまだまだ幼い顔立ちである。
しかし、驚いた事にそんな幼い彼女たちには見慣れないものが付いていた。
それは‥‥ケモミミだ!!
笑顔でにーっと寝ている俺をのぞき込みながら獣耳を時たま、ピクピクっと左右前後に動かしていてなんとも可愛らしい。
「えっ!? だれ、このちっちゃいケモミミたちは!? なんで俺のダンジョンにいるんだ?」
あまりにも突然の事でベッドから飛び跳ねるように勢いよく起き上がり部屋の隅に身を避難させる。
そして、眉をひそめ首を傾げた。
そんな俺は昨日から魔王になったらしいのだが、残念な事に魔物の作り方が分からなかったために配下の魔物はいない。
そのために魔王の家ともいえるこのダンジョンには俺しかいないはずだ。
「やっと起きたの、おとーさん。 やっとお話出来たの。 なかなか起きなくてあせったの。」
「そうなんだよ! おとーちゃんは寝ぼすけなんだよ。 ぐーすか気持ちよさそうに寝ていたんだよ!」
「起きたのですっ。 すーすーと気持ち良さそうに寝てましたですっ。 パパと一緒に寝れたら幸せなのですっ!」
「おきた。 むすめたちのたんじょうに、つきあわないなんてびっくり。 でも、むすめたちはぶじにここにたんじょうした!」
「やっと起きやがったです。 寝ているお父様をお守りしてやがりましたです。 このダンジョンはすっからかんで何もいないでやがるです!」
しかし、まだ声の持ち主は分からず周りを見回しながら部屋の隅から体を起こすと、幼い獣耳の美少女たちは俺にわちゃわちゃと抱きついてきて、満足げに俺の顔を見上げてにこーっとする。
笑顔の周りには♪が飛んでいるように見える。
そんな彼女達をよく見ると獣耳だけではなく、もふもふでふわふわのしっぽまで生えていたのだ!!
しっぽは一人一人、形が異なりそれぞれがもふもふしてて立派なしっぽだ!
しかも、せわしなくフリフリと振っている姿は母性をくすぐられるほど可愛い。
俺は男だけど‥‥。
「君たちはどこから来たのかなー? 迷子かな? お母さんはどうしたのかなぁー?」
あまりにも幼い容姿だったために優しく接することにした。
こんなに可愛い美少女たちを泣かしたくない。
それに、俺のステータスは自分でも本当に魔王なのかと思ってしまうほど低すぎて笑ってしまう程だ。
もし泣かして親が仕返しに来たら魔法すらろくに使えない俺にはひとたまりもない。
すると、先っちょがちょこんと黒いキツネ耳の美少女が俺の顔を見上げて口を開く。
「おとーさんの魔物なのっ!」
赤い髪のセミロングが似合うキツネ耳の美少女は、小さな手を胸に当てて誇らしげにえっへんをしながら答えてくれた。
キツネ耳の美少女だけではなく、他の獣耳の美少女たちも誇らしくえっへんしていて可愛く思えてくる。
「おとーさんって俺の事か? つまり、俺の魔物ってこと? えっ!? 君たちがかい?」
俺は五人の獣耳の美少女たちに違う呼び方で父と言われていたのを思い出した。
その間にも、5人はうんうんと頷き、それぞれのもふもふのしっぽを揺らしていた。
「そうなんだよ! おとーちゃんが私達を召喚してくれたんだよ! 会えて嬉しいんだよ!」
今度は暗い品のある茶髪のロングヘアの丸いタヌキ耳の美少女が嬉しそうに見上げて答える。
俺はその事を聞いて考えてみた。
俺は昨日、魔王として生まれたけど、いざ頑張って魔物の創造をしようとしてみたが魔物を創造する事が出来なくて、意地焼いてふて寝をしたんだっけ。
枕元を見ると創造に使うルーンが1つも無く、タヌキ耳の彼女の話に信憑性がでてきたわけだ。
「でっ! 俺はどうやって創造したんだ? 誰か知っているかい?」
あれだけ頑張って出来なかった魔物の創造を寝ているうちにしたなんて、不思議で不思議でたまらない。
「お父様はヨダレを垂らしながら、もふもふ最高ーって言って召喚をしていたのでやがるですっ! 気持ち悪かったでやがるですっ!」
すると今度は黄色い髪をポニーテールにした、白のオオカミ耳の美少女が少し引いた目で見てくる。
それは他の獣耳の美少女たちに伝染し、他の美少女たちも俺から離れて、引いた目でじーっと目を細めて見てくる。
確かに俺は夢でもふもふをもふっていた夢を見ていたのだ。
しかも、5回もだ。
まさか、それが原因で魔物を創造するなんて信じられない。
見透かしているような獣耳の美少女たちの目に少し動揺してしまった。
だが、俺の魔物っていうからには少し威厳を出してもいいだろうから少し強めに出てやろう。
「そ、そうか。 寝ているうちにそんな事があったのか。 でっ、そんな生みの俺を嫌いになったか?」
「パパを嫌いになんてならないのですっー。 みんなパパの事大好きなのですっ! そんな事言わないでくださいなのですっ!」
今度は弱気で今にでも泣き出しそうな部分的に三つ編みをしている純白の髪をしたウサギ耳の美少女が抱きついて、すりすりと頬ずりをしながらぎゅーっとする。
それを見ていた他の子達もズルいと言いながらぎゅーっと抱きついてくる。
可愛い獣耳の美少女達にもみくちゃにされて幸せだ! たぶん俺は鼻の下を伸ばしていただろうな。
「それは嬉しいよ。 みんなよろしくな。 強い魔物になってくれよ。」
「おとうさん、よろしく。 みーたち、おとうさんのためにがんばるからすてないでほしい。」
目が半開きでいかにも眠そうな顔をした、ショートカットの水色の髪のネコ耳の美少女が心配そうにこっちを見て涙ぐむ。
口は涙を堪えているようでへの字に曲がっていて、眉間にはしわが出来ている。
それはネコ耳の美少女だけではない。他の獣耳の美少女たちもだ。
この子達はまだ幼く、役にたたなければ捨てられてしまうと思っていて不安になっているのだろう。
子供の魔物らしくてなんとも可愛らしい。
「そんな事はしないさ。 だって俺は君達のおとーさんなんだもん!」
この言葉を聞いた美少女達は安堵して涙を拭って、またわちゃわちゃと抱きついてくる。
なんか昨日は不安だらけだったけど、急に賑やかになって嬉しいなぁ。 おとーさんか‥‥。
それにしても俺はなんで魔王になったんだ?
本当の親ではないものの、何度も父と呼ばれこれ程まで慕ってくれていれば可愛くてしょうがなくなっていた。
だから、手が勝手に獣耳の美少女たちの頭に伸びていったのだ。
最初に手が伸びたのは、顔を真っ赤にしてピクピクと震えながら泣くのを我慢していたウサギ耳の美少女からにだ。
「心配させてごめんな。 泣かないでニコッと笑ってくれよ。」
さすがに幼い獣耳の女の子を泣かしっぱなしっていうわけにはいかない。俺の趣味ではないからだ。
頭に手を乗せようとすると頭を少し引っ込めるが、ペちょんと垂れていたウサギ耳が一瞬ピクリと動き、次第にさっきとは異なるピクピクをウサギ耳で表現して嬉しさを爆発させる。
冬から春が訪れるて来たように暖かい表情に変わっていく。
「パパの手、大きくて優しくて温かいのですっ! もっとなでなでして欲しいのですっ! 幸せですっー!」
そういうと、顔を赤らめて、にーって笑顔になり大きくて丸いもふもふのしっぽをぶるぶるっと動かす。
もちろん、ウサギ耳も落ち着きなく動いている。
「あっ! ずるいの。 なでなでしてほしーの!」
「ずるいんだよ。 おとーちゃんになでてほしーんだよ!」
「どうしてもって言うなら撫でられてやっても良いのでやがるですっ!」
「ずるい。 みーもなでなではすき。 ごろごろしちゃう。」
それを見ていた獣耳の娘たちは自分の欲望に素直に自己主張をし始める。
あまりにも俺の強く服を引っ張るのバランスを崩してすてんっと地面に転がる。
子供といえども魔物であり、なかなかの力はあるようだ。
「いててて、ちっちゃいのに以外にも力が強いな。 それとも俺が弱すぎるのか、どっちなんだ? んっんっっ!? なんか膝が重いようなって‥‥!」
俺は膝の上に目を向けるとキツネ耳の美少女がいつの間にか膝の上にちょこんと座って、もふもふのキツネしっぽを振りながら撫でてもらうのを、下から上目を使いをして待っていたのだ。
「おとーさんっ! なでて。 ウサギちゃんだけずるい。 なでなでしてくれるよね?」
キツネ耳の美少女は一瞬だが不安そうな顔をしたが、期待の眼差しで俺を見てくるので撫でてやらないわけにはいかない。
「もちろんだ。ほら、なでなでー!」
赤髪のキツネ耳がついた頭を撫でるとキツネ耳の美少女のしっぽは加速する。
しっぽのフリフリで風が起こる程に激しい。
「おとーさん、だいすき! これからもずーっといっしょなの! って、うわ~!なの。」
俺にギューッと抱きついて甘えているキツネ耳の美少女を引き離そうと茶色い陰がキツネ耳の美少女に襲いかかったのだ。
「どくんだよ! 僕もおとーちゃんに頭をなでてほしーんだよ。」
タヌキ耳の美少女がキツネ耳の美少女をひょいっとどかして膝の上にちょこんと座る。
キツネ耳の美少女は地面を転がり、他の獣耳の美少女たちに抱きかかえられながら目を回していた。
「そんなに撫でて欲しいのか? しょうがないなー。 なでなでー!」
苦笑いしつつ同じく撫でてやるともふもふタヌキしっぽをブンブンと振る。
「僕もおとーちゃんと離れたくないんだよ。 一生懸命に頑張るんだよ!」
「それは嬉しいよ。」
タヌキ耳の美少女を撫で終えるとすかさず自分の番だと猫耳の美少女がすんなりと甘えてくる。
「みーのばん。 まっていました。 おもうぞんぶんなでなでをあじわう。 ごろごろさせれば、きみはてんさい。」
「てんさいって。 そんな才能いらんわ。 なでなでー。」
ネコ耳の美少女も撫でてやると体をくねらせながら、もふもふのネコしっぽを縦横無尽に振る。
いかにも猫らしいしっぽの振り方だ。
「おとうさんはてんさいだった。」
「それはどうも。」
「だから、みーはおもうぞんぶんあじわった。 てんさいのなでなでをおおかみみみのかのじょにばとんたっちする。」
ネコ耳の美少女は俺の膝の上から立ち上がり、素直にオオカミ耳の美少女に場所を受け渡す。
しかし、他の子と違って狼耳の美少女は座って甘えようとしてこない。
「君はいいのかい?」
「お父様がどうしてもっていうなら撫でられてもいいでやがるですっ! おれっちは子供じゃないでやがるです!」
フンッと顔を横に振るが目だけがこっちを見ていて何かを期待している様子だ。
つい意地悪をしたくなってしまった。
「それじゃ、撫でなくてもいいか。 子供じゃないんだからね。」
その言葉を聞いて一瞬で俺の服を掴んでへの字に口を曲げている。
あまりの行動の早さにくすりと笑ってしまった。
「うぅぅ、撫でてほしいでやがるですっ。」
この子はツンデレなんだろうか。
撫でるのをしないと言うと涙ぐんで今にでも泣き出しそうになる。
我慢さしているために、オオカミ耳ともふもふオオカミしっぽはプルプルと垂らしながら震えていた。
やっぱり可愛そうなので撫でてやるとみるみるうちに笑顔になっていった。
「やったのでーす!」
オオカミ耳の美少女は嬉しさを爆発されるが他の子の目を気にして平然を装ったのであった。
昨日とは全く異なる身の回りの雰囲気に少し戸惑い思い出しながらも、俺は魔王としてのスタートラインに立つことが出来たのであった。
もふもふに関してはちょっと違ったけどまぁ、可愛いからいいか。