16.先生はエロいです。
天狐のココロはレミルとの戦いでなんとか勝利をして、今は俺の背中でスヤスヤと眠っている。
娘たちも心配そうにココロの様子をうかがっている。
そんなココロは可愛らしい事には寝言でおとーさん大好きと何度も言う。
たまーに、ベナッタ美味しいと寝言を言うので、ベナッタの正体が気になって歩いていると77階層の居住区にたどり着いた。
たくさんの家が整理された区域に碁盤の目のように並んでいて、様々な種類の魔物達がワイワイと暮らしている。
碁盤の目の中央には遠くからでも目を引く大きな教会みたいな清潔感ある白い建物に入っていくと、たくさんの耳の長いエルフ達が忙しそうに魔物の怪我などを治していた。
どうやら病院みたいな所らしい。
白いカーテンのような布で区切られた個室には重度な患者には数人で付きっ切りで治し、軽度の患者にはポーションを支給して怪我の治りを見ている。
この怪我は前日のアタックと言われている天使の襲来によって受けた怪我だろう。
その様子を天狐を背中に抱え、四人の獣耳の娘を従えながら横目に見ていると、その中で1体の異彩を放つ金髪の豊満な体のエルフに向かってレヴィは話しかけた。
きっとこのエルフは特別なエルフつまり、オリジナルの魔物なんだろう。
そのために、他のエルフ達からは大先生と呼ばれており尊敬の念を向けられているようである。
「ステファー、この子達の怪我を治してあげて。」
「あらっ、ご主人様。 そこの男の子は例の新しい魔王様なのかしら? きゃー! なにこの子たち、もふもふしてて、かわいいー!!!」
娘たちをみて、大声で奇声を上げて興奮する。
娘たちはしっぽを逆立てて俺の後に隠れようとするがぐっと我慢する。
だが、ステファーの興奮した顔を見ると身の危険を感じて後に隠れていた。
そんなエルフは白い白衣みたいたな服を着ていて保健室に居そうな格好をしている。しかし、胸元は大胆に開いていて、スカートは履いていないのではないかと思えるほど生足が露出していて視線に困るくらいだ。
そして喋り方からしてこのエルフは少し意地悪そうだ。 そして、なんかエロい!
「そうよ。 ステファー、手なんか出しちゃダメよ。 あんたはすぐに気に入った生物をからかって遊ぶ癖があるから。」
「それは残念ですー。 で、今日は何の用事ですか、まっ、きっとそこの猫ちゃんと、見かけない狐ちゃんの介護ですか? うふふ、」
ステファーは可愛い人形を見るように寝ている2人を危ない目で見てくる。
「そうよ。 怪我だけじゃなくて魔力も回復させてあげて。」
「承知しました。 でも、魔力を回復されるのは結構、至難の技なんですよ! ちょっと何か対価をくださらないと、、」
「まったく。 しょうがないから、レミルを好きにしていいわよ。 もう私の魔物ではないしね。」
ステファーが一瞬、えっと驚いた顔をするが、すぐに何もなかったかのように表情を戻し治療を始めるようにエルフ達に指示をする。
エルフはこのダンジョンでは唯一の治療行為をすることが出来る能力を持った魔物だ。
そのために、普段は戦闘などせずにここで魔物達の治療をしているようだ。
だが、彼女らが戦えないというわけではない。
彼女らだって十分に高水準の能力であり、ただ治療行為をすることが出来る魔物がいないために彼女たちが、その役割を負っているだけだ。
ステファーが若い童顔のエルフを呼んで何やら話し合いをしている。
「大先生。 この子たちは私一人じゃ難しいです! せめて三人で一人の面倒を見るのが限界です。」
「そういわないで頑張ってよ。 せっかく生まれてきて五年が経ったんだからそれ相応の能力はあるはずよ。」
どうやら、新人を育成している最中であり、魔王直々の命令という任務を任されているようだが、どうも自信がなさそうな様子である。
「でも、先輩たちとは違ってレベルだって上限の80に到達していないどころか、半分の40程度です。 だから、魔力の関係で‥‥。」
魔物のレベルには上限がある。
Sランクは120レベル。Aランクほ100レベル。とランクが一つ下がるに連れて20レベルずつ下がっていきFランクとGランクについてはレベルが上がらない。
だが、例外として名前を持った魔物はレベルの上限がなくなり永遠にレベルが上がっていく。
「はいはい、分かった。 それじゃ、手が空いている者を集めてきなさい。」
童顔のエルフは早足で仲間の元に向かっていったのだ。
「ステファー、新人のお世話は大変ね。 5年前に生まれたエルフがここで仕事をするのようになるなんてね。 時間が進むのが早くなった気がするわ。」
「それは、年を、いてっ、、」
「なんか言ったかい?」
「なにも、言ってないです。」
ステファーはレヴィの隕石のようなげんこつを頭に喰らって緑色の瞳に涙をうっすらと浮かべるが、わざとらしいくあざとい。
そんなやりとりの後に16才くらいの童顔のエルフは同じくらいの年のエルフを集めて戻ってきた。
「大先生。 集めてきました。 それでは、魔法とポーションでの治療がよろしいかと‥‥。」
「そうね。 ここはあなたたちに任せるわ。」
治療は魔法と自家製のポーションで行う事になった。
つまり、重傷と診察されたようだ。
16くらいの童顔のエルフは天狐の前にやってきて深々とお辞儀をしてくる。
「よろしくお願いします!」
若い明るいがどこか自信のなさそうな声で挨拶をする。新人特有の責任に押し潰させそうな状態なんだろう。額に汗もうっすらとかいている。
それにしても、うん、ステファーと異なりまだ発達途中で全てが控えめだ。 不覚にもそう思ってしまったが、首を横に振って違う事を考える。
なんせ、娘たちは鋭いのでツッコミを入れられてしまうからだ。
だけど、辺りを観察していて気がついたが、他で治療している一人前のエルフは豊満な体をしていて、体の発達具合が能力の上下を表しているようにも見える。
成長にもレベルや時間に影響をするのだろうか?
そんな疑問を持ちながらも、いつしかココロとレミルに3人づつ付き添いがつき、手をかざして半球体の魔方陣を創り出すし囲んでいた。
治療魔法の魔法陣に囲まれている2人の体は穏やかな優しい光を放ち、次第に怪我した箇所に光が吸収されて傷が治っていく。
ココロの傷が治っていく様子を見て、娘たちも安心したせいか、ふざけてくすぐりあいを始める。
「ちょこちょこ。 ポンポコちょこちょこ。」
黄泉猫は険しい顔をしていた福狸のお腹をくすぐる。
「アハハ、お腹は弱いんだよ!」
福狸は仰向けでお腹を押さえて、手足をバタバタさせる。
「ここはどうでやがるですっ!」
今度は天狼が月兔の耳を指で撫でるように触る。
「ウサギの耳も敏感なのですっ!」
「やり返すんだよ!」
「おー。そこはダメよー、ダメダメ!」
いつしなく呑気ではあったがそこが良い。
「あ、ココロおねーちゃんが起きたのです!」
そして、最初に起きたのはココロであり、目を擦りながらあくびをして起き上がる。
ココロの腫れた顔は綺麗に傷1つなく、いつもの整った可愛い顔に戻っていた。
「おとーさん、ココロが勝ったの。これでおとーさんとずーっといっしょなの!」
魔方陣から抜け出して、そばで座っていま俺に抱きついきブンブンと尻尾を振る。
エルフたちは天狐の行動に戸惑いを見せながらも頬をかいて、胸をなで下ろして役割を終えた事にほっとしている様子だ。そんなエルフたちの頭を軽くポンポンと手を乗せて褒めながらステファーは天狐のもとにきた。
「あら、狐ちゃんは起きたみたいね! これを飲んで魔力も回復しようね。」
元気になったココロに話しかけてステファーが天狐に液体が入った瓶を渡した。
「あっ、僕も欲しーんだよ!」
「みーも。」
「おれっちも、」
「わ、私もですっ!」
ココロは瓶に入っている魔力回復用のポーションであり一気に飲んだ。
「うっ、ま、まずいのーー。」
しかし、予想外にあまりにも苦くて尻尾を逆立てて、うぇーって吐き出すまではいかなかったものの、勝手に口からポーションが垂れ落ちていく。
見る人によって吐いたか、垂れ落ちたか分かれる判断になるくらいに勢いはないが量は激しかった。
「「やっぱ、いーらなーい。」」
娘たちはココロの様子をみて、やっぱりいらないって言い始める。
「あら、狐ちゃんは苦いのが苦手なのかな? だったらこれはどうかしら。」
今度ピンクのポーションを持ち出してココロに渡す。
ココロは恐る恐る口に含むみ、苦くないと分かり、美味しそうに笑顔で飲む。
「これ、甘くておいしーの! これすきなの。 もっとちょーだーい!」
ココロはご機嫌に尻尾を振ると自分の尻尾の変化を感じて尻尾を触る。
「おとーさん! ココロのしっぽがもふもふなの! それも、前よりも大きくなってるの!」
嬉しそうに大切そうに抱きかかえ、自分で自分の尻尾を頬に当ててもふる。
ふわふわで、もふもふで気持ちよさそうだ。
そのココロの尻尾はココロが4本の尻尾の狐になった時に変化が起きたみたいで、チリチリ尻尾からもふもふ尻尾なり、大きさがココロの成長を示す。
ココロのレベルは上がってはいないがそれ以上にさっきの戦闘が彼女に成長を与えたのだろう。
少し経ってレミルが目を覚ました。
レヴィは壁に寄りかかり腕を組んでレミルを見下ろすように見ている。
それに対して、レミルはなんだか主人のレヴィの前に居づらそうに地面を見て、ペちょんと猫耳を垂らしてぺこんと座っている。
無理もない。レベル差があるココロに負けたのだから。
「レミル、あなたはレベルが1の天狐に負けたのよ。」
問いただすようにレミルに話しかけるとレミルはさらに尻尾を垂らして答える。
「うぅぅ、おかーさま、ごめんなさいです。 でもレミルも頑張りましたです。」
「あぁ、分かっているわ。 あんたは1回も戦った事が無いから良い経験になったでしょう。」
レミルはパーティーの仲間が得た経験値のみで育ってきた箱入り娘だ。戦闘を見ているのと実践するのでは大きく異なる。
「それじゃ、許してもらえるですか?」
「いや、あなたが負けたことにより、私は賭けに負けたのよ。 だから、ルーン3個とレミルはヨハンの物になったのよ。」
俺と賭けをしていた事や負けたら何を失うかをレミルに話した。レミルの顔からだんだんに血の気が引いていくのが分かる。
「待って下さい。 レミルはおかーさまの魔物です。 こんなレミルの事をやらしい目で見てくる魔王が主人なんて嫌なのですっ。」
レミルがレヴィにすがりつくように寄っていく。
「そんなの知らないわ。 あんたが生まれたばかりの天狐に負けるからよ。 だから、弱い魔物は嫌なのよ。」
レヴィに手を振り払われてその場に崩れ落ちる。
「そんな、そんな、レミルは、レミルは、おかーさまの魔物ですっ! うぇーん。」
レミルはその場で上を向いて大泣きする。
流石に可哀想だと思い、ココロがレミルをなでなでと頭を撫でるが手を振り払われる。
しかしココロは嫌な顔なんてしなかった。
「違うわ、肩の紋章を見てご覧なさい。」
レミルは腕をまくって泣きながら肩を見る。
同じように娘たちも自分の肩を見ると、6人とも同じ紋章がある。
つまり、その紋章は俺の魔物という事を表している。レヴィから所有権を書面で渡されたから当然にそうなる。
魔物には主人の紋章が体のどこかに現れる。特に肩に多いらしい。
「うぅぅ。 そんな、そんな。 おかーさまなんか嫌なのです。 うぅー。」
レミルは大泣きしながら走ってどっかに行ってしまった。
可哀想な気がするが魔物の世界は甘くない。
「あら、残念。 レミルちゃんを自由にするのはまた今度みたいですね。」
そんな様子を見ていたステファーが場を沈めるように声を放つが、さらに雰囲気が重くなり下を向く。エルフたちもこの場に居づらそうにしている。
俺はレミルの新しい主人となったが、彼女にどう話しかけたら良いか分からなかったために今日はそっとしておくことにした。