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15.天狐、君の名は‥‥。

 レミルとの戦闘によって天狐は瞳が開かないくらいに腫れ、全身から軽度ではあるが出血して衣服を土汚れと共に汚している。

 それには訳がある。


 それはこの戦いでは、お互いの魔物を賭けていて、勝った方は負けた方の魔物を得ることができるといった内容なっているから、天狐は俺と離れ離れにならないように一生懸命に頑張ってくれている。

 それは仲間である獣耳の美少女たちも十分に分かっているから涙ながらに俺にお願いをしてきた。


 そのお願いは自分のためではなく、仲間のための願いであった。



「天狐は僕たちの仲間なんだよ! 一人だけどっかにいっちゃうなんて嫌なんだよ!!」

「そうでやがるです! 一応おねーちゃんでやがるです!」

「てんこがいなかったらだれがみーたちをまとめる。」

「天狐おねーちゃん! これが私たちの気持ちです!! だから、」


「「天狐に名前を!!」」


 天狐という存在を他の娘達は認め、必要としている事を言葉として俺に口にする。


 魔王という自分勝手な主人の気まぐれで魔物の人生が大きく変わってしまう。

 それは新天地での活躍なのか、地獄の扉を開く事なのかは分からない。

 でも、娘たちを不安にさせてしまったことは変わりない。

 だが、その一時の感情に分類されるであろう経験こそが彼女たちの気持ちをまとめ、少しだが成長させてくれた。


「みんな‥‥。  ありがとう。 でも、お名前は勝ってからなの。」


「天狐。 これが仲間の意思のようだな。 本当はまだ早いと思うが、目の前でこんなにも頑張っいる娘をそう簡単に手放す事なんて出来やしないよ。 これから何が俺たちを待っているかなんか分からない。 それでも、俺についてきてくれる意志があるなら魔王として、主人として、親として俺からこれを受け取ってくれ!!」


 俺は親指を噛み流血させ、天狐の顔の切り口を撫で血を拭う。


 いつしか俺の体は光出していた。

 天狐に俺から漏れ出る光の欠片が流れ入り、腫れた瞳に力が戻り生気を取り戻していく。


「君の名は‥‥。《ココロ!》 そう。 ココロだ!!」


「ココロ。 それが天狐の名前! かわいいの。 おとーさんのぽかぽかの気持ちがよく分かるの。 でも、ごほーびとして欲しかった。 だけど勝てば問題ない!!」


 魔物に名前をつけ、お互いの血液を共有することによって【血盟の守護者】となる。


 天狐はその儀式を終え、初めての【血盟の守護者】のココロになったのだ。


 ココロの潜在能力もようく分かる。それだけではなく、彼女の意志、記憶まで流れ込んでくるのだ。


 誰だろうか? 特に俺に流れ込んでくる二人の男の人は? 

 どこなんだろうか? 全く異なる景色の二つの世界は?



 たくさんの記憶や能力を共有したココロは、大きく腫れた瞳の先には強い意志があるように見える。

 これは守護者としての自覚なのだろう。


 再び、戦場に戻っていく。どこか頼もしい後ろ姿になったように見える。


 成長したんだな。



 そして、ココロはレミルに向かって最後の力を絞り出して技を繰り出すべつ、魔力を練り上げる。


 それに対してレミルは再び雷を手に纏う。


 さっきも見たように当たれば確実に死ぬであろう殺傷力を備えている絶対的な一撃だ。


 それに対してココロは頑張って魔力を練って技を繰り出そうとするが、なかなか発動まで手こずっている。


 「ココロー! 頑張るんだ!」


 俺の声を聞いたココロは視界を奪われるほど腫れた瞳を一瞬だけ見開く。

 そして、今の天狐の最初にして最大の技を繰り出す。



「へんげっ!」



 ココロの体は穏やかで温かい光を纏い、次第に彼女の体に変化をもたらす。



 狐耳は大きくなっていく。。


 体は幼い人型から成獣の獣型に。。


 そして、もふもふの狐尻尾は大きくなる。。


 それだけではなく、4本に数を増やす。。


 いつしか、凛としたもっふもふになる。。



 その姿は九尾といった禍々しさや、負の感情をかもし出すものではなく、神々しく美しい姿をしている4本の尻尾の大きく立派な狐だ。


 この姿は天狐の狐としての本来の姿なのだろうか? まだ、どっちが本来の姿かは分からないが明らかに今までのココロの力を遥かにしのぐ強さを持っている事を【血盟の守護契約】によって強くなった絆によって理解する。


 レミルは自分の事に精一杯で相手の変化に驚くことはなかった。敵は敵だ。


 だから、雷の纏った手をココロに向けて鋭く貫くように襲いかかる。



 あと10メートル

 レミルは地面を力一杯に激しく蹴る。

 自分に出来る最大限の力を全てだし、目の前の敵を倒すために。


 7メートル

 さらに、レミルは地面を蹴って加速する。

 この時、レミルは自分の速度が過去最速になっていたが彼女は気づくことはないだろう。


 6メートル

 レミルは慣れない戦闘で体中に激痛が走る。

 限界を超える速さに体は悲鳴を上げるがそんなの今はどうでもいい。

 彼女の体を動かしているのは、意地とプライドだけだ。



 4メートル

 レミルは右腕をココロに向ける。



 3メートル

 レミルは声を荒げる。


「これで終わりでやがるであります!!」


 2メートル

 あとは触るだけ。



 1メートル

 そして、勝ちを確信した。



 手が届く。



 その刹那。


「こんー! かっっ!!!!!」


 あと少しでココロに触れるという瞬間、レミルは視界が真っ白くなり全身を激しく襲う衝撃を受けた。


 狐型のココロを中心に円状に見えない力が衝撃波として発散され、草原の地面が地面ごとえぐり飛ばし、草と土の雨が降り出す。



「これは、心意なのか!?」


 レヴィが興奮して目を見開く。



 そして、子供の喧嘩であり、魔王の自分勝手な戦いに決着がついたのだった。



 勝ったのは天狐のココロだ。


 レミルは激しく吹き飛ばされ、地面を転がり込み意識を失い倒れ込んでいた。


 娘たちはバンザイしてココロの勝利を喜ぶ。

 認めている仲間の勝利は嬉しいのは当然だ。


 ココロは白い煙と共に人間の姿に戻り、フラフラと歩いてくるので、俺は優しく抱きかかえる。


 涙が勝手に出てくる。


 頑張ったココロの思いがよく伝わったからだ。



「まさか、天狐が勝つなんて思いもしなかったよ。 生まれたばかりの子ぎつねが心意なんか使うなんて信じられないわ。」


 心意とは心の力。

 思いが強ければ強いほど自分の能力を遥に超える力が形となって具現化し状況を変える力。


 しかし、その意味を知る事となるのはまだ先と事だった。


 俺は心意の意味よりココロの容態が気になるためにこの時は聞くことすらしなかった。


 そして、ココロは俺といる事を選んで勝ち取ったのである。


「おとーさん。 ココロが、かったの、、これで、おとーさん、といられ、る。」


 重たい瞳を開きながらそれだけ言って、ココロは安心したようで俺の腕の中でスヤスヤと眠り始めた。


「約束通りにレミルはヨハンの魔物になったわ。はいこれ。」


 むっと不機嫌そうな声で掌に1枚の和紙を出して、クルクルと巻いて投げるように渡してきた。


 初めて見る文字だったが読めるので、目を通すとレミルの所有権を表しているようだ。

 雷鳴猫のありとあらゆる情報が詳細に書かれている。


 正直驚いた。魔物は物のように所有権を書面で表さしていて、書面のやり取りで魔物の主人が代わることに。


 少しだけ寂しそうにレヴィはレミルを抱きかかえながら、俺に着いてくるように言う。


 そして、着いていくと77階層の医務室がある居住地にたどり着いた。


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