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13.前哨戦。

 流石に居住地のこの場所での魔物の戦闘は他の魔物の迷惑になる。そのために、場所を移動することになった。


 決闘場所はレヴィのダンジョンの78階層の草原のエリアで行う。

 ここは77階層らしくすぐ隣だ。


 そこまでは1本道のためにレミルと天狐は前哨戦で競争をする事となったらしい。


 77階層の町中を抜けて回廊を駆け上がり、78階層の丘の上に唯一ある木に先にたどり着いた方が勝ちだ。



 天狐は準備運動をしている。


 屈伸して、アキレス腱を伸ばして、そして、キツネしっぽをよーく伸ばす。


 しっぽは関係あるのかな? 疑問を持つ。


「天狐、頑張るんだよ! 勝つんだよ!」


「もふもふがちりちりになっても、みーたちはなかま。」


「雷鳴猫なんかに負けるなでやがるですっ!」


「天狐おねーちゃん。 勝つのですっ!」


 それぞれエールを送る。


 娘たちの結束力も種族を超えて強くなってきているのを感じる。


「ここはみーがかけごえを。」


 黄泉猫がここは自分がとしゃしゃり出る。

 おかしな事を言わなければ良いと思うが案の定だった。


「みあってみあってはっけよーい、のこった!」


 天狐とレミルは一瞬ビクッとし、すぐにお相撲を始めようとするが娘たちはツッコミをいれる。


「「それはお相撲!」」


 何故ツッコミが出来たのは不思議でしょうがなかったから後で聞いて見ると、俺が気を失っていたときに黄泉猫に教わったそうだ。つまり、遊んでいた。


「おー。 しょうぶはおすもうじゃなかった。 きをとりなおして、よーいどん!」


 黄泉猫の声で2人はもふもふのしっぽを靡かせて、肩をぶつけ合わせながら走って行ったのだ。


「「頑張れー!」」


 娘たちはもちろん天狐を応援して、嵐のようにトコトコと天狐たちのあとを追っていった。


 そして、俺は取り残されたが子供たちから解放されて少しリラックスできた。

 多少は俺にベッタリ過ぎるの子供たちの事がストレスになっていたのかもしれない。

 リラックスして歩いている俺の隣にはレヴィが鼻歌を歌いながら、のどかで穏やかな過ごしやすい草原のフィールドを歩いていた。

 レヴィが子供たちがいないことをここぞとばかりに大人の話しかけてくる。


「ヨハン。 どっちが決闘に勝つか賭けをしないかい?」


「ああ、良いよ。 何を賭けるんだ?」


「それは決まっている。 お互いの魔物さ。 ヨハンは天狐、私はレミルを賭けにだすよ。 もちろん、勝負は見えているから乗りにくいだろう。 だからルーンも3つほどさらに賭けてあげるわ。」


 ルーンはレベル差を考慮しての提案だろう。


 俺は天狐と離れたくない。

 当然断ろうとしたが先を読まれて先手を打たれる。


「嫌とはいわせないわよ!!」


 急に彼女からは針で全身を刺すようなプレッシャーが俺を襲う。

 生きたここちのしない程の絶大な殺気が混ぜ込まれていて、冷や汗がにじめ出て頷くしな出来なかった。


 レヴィは一万年ほど生きているらしいので、レベルに上限がなければかなりの桁になっているはずだ。

 そんな彼女の殺気は針のついた岩で地面に押しつけられるように重く、鋭く、痛い。


 1番の気がかりは、なにより俺にベッタリな天狐が1番悲しむだろうし、俺だってそんな顔は見たくない。短い時間だが他の娘たちとも仲良くなり、楽しそうに遊んでいる天狐や他の獣耳の姉妹を見ているとなおさらだ。


 だが俺は魔王として生き残る必要がある。


 つまり、優しい言葉を俺に掛けてくれるが、完全に味方ではない可能性もある。

 完全に味方ならこんなに提案はしてこないだろう。


 だから彼女の機嫌を損ねる事は死につながる可能性もあるからだ。

 それに魔王は魔王を殺すと殺した魔王の司る性質を得ることが出来るために、レヴィは完全な俺の親ではないために、【変化】のルーン欲しさに俺を殺すかもしれない。


「この話は天狐に言っても言わなくても良いわよ。 私はレミルには言わないけど。」


 だが、俺はしっかりと天狐に話を伝える事にはした。



「行くでやがるですありますっ! キツネなんかに負ける訳がないでやがるであります!」


「天狐もしょーぶには負けられないのっ!」


 ヨハンが体を休めていたウッドハウスから黄泉猫のかけ声と共に勢いよく駆けていく。

 その後を獣耳の美少女たちが嵐のようにわちゃわちゃと勝負の行方を見ようと走って行く。


 大体のコースの説明は受けたのだが、このダンジョンに長く住んでいるレミルに地の利がある。

 最初はダンジョンで最大のメインストリートをかけていく。

 沢山の露店や魔物で賑わっている。そのために天狐は魔物をかき分けて前に進むのだが、今日は魔物たちの間では新しい魔王の誕生を耳にして、勝手に祝う日らしく混んでいてなかなか前に進めない。


 魔王の本人はこの事には気づかなかったようだが、殺伐としているレヴィの天界にあるダンジョンでは息抜きと生じて、ちょっとしたことでお祭り騒ぎのイベントが行われる。


 そのイベントのせいで天狐はレミルとの競争に遅れをとったのだ。

 その、レミルはいつの間にか、メインストリートに面して建っている建物の屋根をかけて一目散に回廊を目指していた。

 なかなかの距離があるようで、さすがの魔物でも猛スピードで走っていれば汗もかく。ポケットに入っていた黒と黄色のハンカチを取り出し汗を拭う。

 だが、ふとした瞬間に手から離れて落ちてしまったのだ。


「おかーさまから貰ったハンカチがっ!」


 レミルはすぐさま拾いに行くが運悪く山車として観客を集めている神輿の上にある鯱に引っかかって進行方向とは反対方向に行ってしまった。


「「わっしょい。 わーっしょい!」」


 このハンカチはレミルが一番大切にしている物であるために血眼で追いかける。


 山車は神輿みたいな形をしていて、その屋根の頂点の鯱にハンカチは引っかかっている。

 体に紫電を走らせてレミルはハンカチはめがけて一直線に拾いにいったのだった。


 その頃、天狐は屋根の上を跳んでいるのを見た。


「うっ! 屋根ならすいてるの! 天狐も屋根の上を走るの!」


 そして、目の前にある神輿をジャンプ台にして屋根に乗ろうとしたときだった。


「ぬぅ!」

「そこをどくでやがるであります!」


 山車の上で二人は頭からぶつかり山車に落ちる。

 レミルはハンカチを回収したが、天狐と共に神輿に落ちた事により壊れて光と共に粉々になる。


「レミルのお嬢さん! キツネ耳のおチビちゃん! なにを、してるのですかなぁ?」


 地面に転がっている二人を見下ろすように、灰色の体毛に獣の狼顔をしているコボルトたちに囲まれ、怒られるが勝負を思い出してそっちのけに二人は走り出す。


「ごめんなさいでやがるであります!」

「ごめんなさいなの!」


「ちょっとまっ‥‥。 だから、罰が当たったようですな。」


 一人のお年を召したコボルトが呟いたのであった。 


 二人は78階層に向かう回廊を目指したのであった。


「んっ、この黄色と黒のしましまは‥‥。 あっ、レミルのしっぽでやがるであります!」


 そう、レミルが目撃したのは黄色と黒のしましましっぽ。


 なぜだか、子ぎつね天狐のしっぽには自分のしっぽがついていたのだ。そして、その子ぎつね天狐のチリチリしっぽは自分についていたのだ。


 実は神輿の上についていた鯱はこのダンジョンでは七不思議の一つとされており、お互いの大切な物が入れ替わるみたいだ。


 二人の大切な物……。それはもふもふしっぽだ!


 レミルは天狐を呼び止める。


「おいっ! キツネ待つのでやがるであります!」 


「やなの! しょーぶちゅー!」


 レミルは天狐の腕を引っ張って止めるが振り払おうとする。


 すると、後から追いかけていた四人の獣耳の美少女たちはその様子をみてびっくりする。


「て、天狐おねーちゃんのしっぽとレミルちゃんのしっぽが入れ違っているのですっ!」


「「ほんとだー!」」


 天狐は目をまん丸に見開いて自分のしっぽをみる。


「のーんなの! でももふもふだからいいかな。 って、良くないの。 天狐のしっぽは神様のしっぽ!」


 それに対してレミル凄く悲しそうにする。


「このままじゃお嫁に行けないでやがるであります。 あっ、聞いたことがあるでやがるであります。 あの神輿の鯱は大切な物を入れ替えるでやがるであります。 だから、しっぽが入れ替わったでやがるであります!」


「むむ、なら、戻って触るの!」


 二人は走っても鯱に障りに行くことにした。


「これはたいへん。 いちだいち。 けもみみにしっぽはいのちどうぜん。」

「そーなんだよ。 僕もこのしっぽは大切なんだよ。」

「天狼のしっぽも大切な役割があるでやがるです。」

「私のしっぽは‥‥。 交換してもいいかもですっ。」


「「「「‥‥‥!」」」」


 月兔の発言に一同、口を大きく開けて驚いた。月兔は長くもふもふのしっぽに憧れがあるようだがまさかここまで言うなんて思いもしなかったからだ。


 そんななか、レミルと天狐は鯱のもとに向かった。


 魔物だかりが出来ており、二人はジャンプして中央にたどり着く。


「みんな、触るんじゃないぞ! この鯱はお互いの大切な物を入れ替える特性があるからよ。 さっきのおチビちゃんたちみたいにしっぽが入れ替わっちまう。 1カ所だけとは限らないからな。」


 中央で仕切っているコボルトが若いコボルトを含む魔物たちに注意をしている所だった。


「「了解です!」」


 コボルトたちは慎重に鯱を扱うが雑に扱うが者もいた。それは、二人の獣耳の美少女だ。


「そんなの知らないの! これを触って元通りになるの。」


「やるでやがるであります! せーの!」


 二人の体は光に囲まれる。


 そして、光が治まった時には‥‥。


「それ、天狐のキツネ耳なの。」


 天狐とレミルの耳と尻尾は完全に入れ替わってしまった。回りのコボルトからは!あーあー、とやっちまったなって感じの声が聞こえてくる。


「なら、もう一回でやがるであります!」


「大変な事になてしまっとるな。

 コボルトのじいさんはどこか楽しみながら、その様子を見ていた。

 そうして、五〇回を超える末に元に戻ったのであった。


「「はぁ、、、」」


 焦りから解放されな二人は肩で呼吸をしてから、また走り出したのであった。


 そして、待っていた獣耳の美少女たちの前を走り抜けて78階層へと続く回廊を駆け上がって行ったのであった。


 78階層の草原に唯一ある桃桜の木がゴールである。その道のりは平坦な草原を抜けて丘を駆け上がと目の前に大きく、桃の匂いがする桜の木ぎ見えてくる。


 だが、一見スピード勝負になるかと思いきやそんな単純ではない。特に天狐に対してはだ。


 先行しているのは天狐だ。レミルは天狐の様子を後から見ながらいつでも抜けるぜって感じに余裕を持ちつつ追いかける。


 天狐は草原を抜け、丘の麓にまでたどり着いた。


「あとはあの木に触ればゴールなの! いくの!」


 天狐は勢いよく駆け上る。だが、競争相手のレミルがいないことに気がついたのた。


「レミルちゃんがいないの!? ならこのしょーぶ、もらったの!」


 天狐はさらに走るスピードを上げ、ラストスパートをかける。


「かったの!」


 そう確信して叫んだとき天狐は自分が大魔王のレヴィアタンのダンジョンにいることを自覚したのだ。

 なぜなら、ダンジョン特有の罠が仕掛けられており、辺り一面の地面が真っ黒い奈落の入り口とかす。


 天狐は目をまん丸にして空を泳ぐ。チリチリキツネしっぽをぶるんぶるんとスクリューのように回すが重力に逆らえずに叫びながら落とし穴に落ちていった。


「のーんなの!」


 すると、落とし穴の淵から見下ろすようにレミルが顔を出す。


「がはは、ざまーねーでやがるでありますっ! この桃桜の木はおかーさまのお気に入りのお昼寝場所だから、他の魔物が寄りつかないように罠が仕掛けられているでやがるでありまーすっ!」


「ずるいの。 だから、レミルは違う場所を走っていたの。」


 天狐はあまりの悔しさに奥歯を強く噛み締める。そして、追いついてきた他の獣耳の美少女たちも悔しそうにしている。


「そうでやがるでありまーす。 これでレミルの勝ちでやがるであります。」


 そう言うとレミルは桃桜の木に手を着いたのであった。


 他の獣耳の美少女たちが追いついてきて、この状況に異論を唱える。


「こんなのずる。 ちゃんとせつめいするべき。」

「そうでやがるです。 ケモミミの勝負は正々堂々するでやがるですっ!」

「天狐すぐにそこから助けるんだよ。 地属性の僕に任せるんだよ!」


 福狸が地面に手をつき、落とし穴に階段を造ると、天狐はしょんぼりと上がってきたのだ。


「ふーちゃんありがとなの。 悔しいの。」


「天狐おねーちゃん。 残念なのですっ。」


 月兔に肩を叩かれてより落ち込み、レミルはより勝った達成感からはしゃぎ始めたのであった。


「勝ちは勝ちでやがるであります!」



 78階層につき、天狐にやっと追いついてレヴィとの賭けについて話す。天狐はなんだか土汚れが激しいのは気のせいではない。

 その横では前哨戦で勝ったレミルがはしゃいでいた。

 そんな様子を娘たちはやるせない顔をしていた。


 何かあったのだろうか?


「天狐。 レミルとの決闘で負ければ天狐はレヴィの魔物になることになった。」


「えっ。 急にそんなこと言われてもいやなの! 天狐はおとーさんと一緒がいーい!」


 首を横にブンブンと振って離れたくないと俺の腕を掴む。天狐も感情が尻尾に出るタイプのようでペちょんと垂らしている。


「天狐。 ごめんな。 レヴィに殺されるかもしれなかったから天狐を賭けの対象にして‥‥。 でも、俺は魔王だ。 生き残る必要があるんだ。 そこは理解してくれるか?」


 しっかりと天狐がいなかった時の状況を説明する。他の娘たちもビックリした顔をする。どうやら状況を理解したようだ。


「そうだけど‥‥。 うぅ、おとーさんひどいの。 でもレヴィアタンさまはもっとひどいの!  だから勝っておとーさんといっしょにいたい!」


「ごめんな。 でも天狐を信じているからな。」


 俺は自分の魔物を賭けに出してしまった最低の魔王だ。しかし、魔物の使命も魔王を守る事であるからして、これも魔物の仕事と言えるだろう。


 そうして、彼女の背中を優しく押して決闘の場に見送った。


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