8. ギルドと道具屋
第二話の展開を大きく変更しました。
今後のステータスにも影響がありますので、お手数ですがご覧頂けるとありがたいです。
コワモテ冒険者ビッケとドワーフのマノンに教えてもらった通りに歩くと、数分でその建物に着いた。冒険者ギルドだ。予想よりこじんまりとした建物だな。
扉を開けると、広くない部屋にいくつかの椅子があり、窓口の向こうには一人の娘がヒマそうに髪を弄っていたが、俺に気づいて声を上げる。
「あ、こんにちは。ご依頼ですか?」
「いや、冒険者になりにきた。コールだ」
「ほおお〜……このフェアリスの町で冒険者になるなんて……珍しい方ですね〜。ちょっとお待ちくださいね〜」
のんびりした喋り方の受付嬢はパタパタと奥に走っていった。
俺は掲示板にピン留めされている羊皮紙らしき紙を眺める。これが依頼か。異世界言語だが、俺にはちゃんと理解できる。
その中に一つ、目を惹くものがあった。
遺失物捜索……ゴブリンに奪われた倉庫の鍵の捜索。200ゴル。
ゴブリンに奪われた鍵……袋に入っていたこれか?
知らぬ間にクエストを達成している。オープンワールドRPGあるあるだな。
そんなことを考えているとパタパタと足音を立てながら受付嬢が戻ってきた。
「お待たせしました〜。お尋ね者ではないですよね。字は書けますか? この書類にサインをお願いします」
差し出された書類は契約書か。
ギルドに損害を与えないこと、ギルド員同士の私闘の禁止、受けた依頼を無断でキャンセルしないこと……などなど。
契約は問題なさそうなのでサインをする。書くことも問題なくできるようだな。
「はい、ありがとうございます〜。あ、私はプラムといいます。よろしくです。こちらがコールさんの仮冒険者証となります」
受付嬢プラムが差し出したのは、銅製の何も書かれていない金属板だ。エイラの入ってるやつに似てるな。
『私はミスリル製ですので、一緒にしないでください』
怒られた。てか、ミスリルなのか。高く売れそ……なんでもない。
「初級の冒険者証は名前が入っていません。200ゴル分の依頼をこなして銅級に上がれば名前が刻まれます。依頼をこなしていくと銅・鉄・鋼・銀・金の順でランクが上がって、上位の依頼やギルドのサポートを受けられるようになります〜」
なるほど、まあよくあるタイプだな。
これもゲーム好きらしい大賢者の手が入っているのだろうか。
「依頼はこちらの掲示板から選んで、私に声をかけてください。コールさん、頑張ってくださいね〜」
「あ、それなんだが……この遺失物捜索依頼、この鍵のことじゃないか?」
俺が鍵を見せると、プラムは目を丸くして傍ににある棚から書類を漁りだした。
「鍵の特徴、一致してますね〜。ゴブリンから取り返したんですか?」
「襲われたんで、返り討ちにしてな。これで依頼は達成か?」
「あ、はい。依頼者に確認しますが、現時点で達成としてよさそうです。お疲れ様でした〜。……な、なんと! 200ゴルの依頼を達成したので、銅級に昇格です。多分最速記録ですね〜。おめでとうございます〜」
お、おう。
駆け出し冒険者を楽しむ間も無く銅級になってしまった。
プラムはパチパチといまいち気の乗らない拍手をしている。
「では、名前を入れますので冒険者証をお預かりします。また明日おいでください〜」
冒険者証を取り上げられてしまった。
明日まで依頼を受けられないのだろうか。
俺の釈然としない表情を見て、プラムは報酬の銀貨を差し出しながら言う。
「え〜、アレですね。冒険者になるのですから、冒険者用の道具を揃えたりするといいんじゃないですかね〜。ほら、鎧とか買ってみたり……」
「確かに、鞄とかも欲しいな」
「でしょう〜? ここの裏に道具屋ありますので、買い物していってください〜。プラムの紹介だと言えば分かりますので〜」
仕方ない。冒険者活動は明日からだ。
今日は言われた通りに道具屋に寄ることにする。
ギルドを出て、割と活気のある道を通り反対側に回る。
このあたりは商店街のようになってるな。露店がならび、野菜やら日用品やらを売っているようだ。
掘り出し物もあるかもな。後で覗いてみるか。
古びた木造建築の道具屋に入る。
懐かしい駄菓子屋みたいだ。
「……いらっしゃい。冒険者か?」
「ああ、今日からね。コールだ。ギルドのプラムに言われて来た」
カウンターの奥にいるのは優しそうなお婆ちゃんではなく気難しそうなお爺ちゃんだった。
「新人だな。しょうがねえ、一式見繕ってやる。金は持ってんだろうな」
「いくらだ?」
「背嚢と外套、火口箱、水筒とロープ……ポーチベルト。ナイフと……あとはランタンと油だな。しめて300でいいぞ」
……もっと魔法道具みたいなものがあるのかと思ってたが、生々しいファンタジーだった。
冒険者用のクロークは毛布みたいな大きめのマントだ。風雨を防ぎ、野宿するときに包まれば寝袋代わりになるらしい。
火口というのは火打ち石で火をつける時、最初に燃やして火種とするための乾燥植物だ。それと火打ち石がセットになっているのが火口箱……というらしい。
「ランタンと油はいらないからもう少しまけてくれ」
「250だ。油は他にも使うから持っとけ。それとその剣、鞘がねえじゃねえか。オマケでつけてやる」
鞘か、忘れてた。どうせ切れ味は悪いから抜き身のままベルトに突っ込んでいた。よく誰にもツッコまれなかったな。
爺さんが適当に放り投げてよこした鞘は剣にピッタリだった。ぬぬ、お主できるな。
「ああ、そんな服で冒険する気か? 革鎧くらい選べ。別料金だがな」
確かに、防具は必要だ。この異世界には謎のバリアはないようだからな。
乱雑に置かれているが、手入れはきちんとされている革鎧の中から選ぶ。なるべく動きやすそうなやつがいいな。
「……ほお。いい目利きだ。中古だが、そいつはいいやつだぞ。300だ」
合計550ゴルか……今の所持金は591ゴル。
結構ギリギリだが、初期投資は重要だ。
「毎度。……ここで装備していくか?」
そのセリフは言うのかよ! なんか台無しだよ!
「いや、今日は持って帰るよ」
「じゃあ革鎧の着け方を教えておいてやる。まずこれを……」
ああ、そういうことね……
RPG伝統のセリフかと思ったよ。確かに知らないので、ふむふむと聞いておいた。
「ありがとよ、爺さん」
「爺さんなんて名前じゃねえ、ゼントだ」
ゼント爺さんに礼を言って店を出た。
ともかくこれで準備は完了だな。
今日はもう宿に帰って明日からの冒険に備えることにしよう。