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6. ゴブリンの丘

 

「外……じゃないんだよな」


 スロープは途中で終わっていたので途中からロッククライミングの真似事をしつつ出た場所は、明るかった。


『かつてフェアリス平原と呼ばれていた場所です。丸ごとダンジョンに取り込まれたようですね』


 徐々に光に目が慣れてくると、周囲には草が生えていることに気付く。草原のようだが、草は萎びていて元気がなく、巨大な岩の柱が散在して天井を支えている。不思議な光景だ。

 俺が登ってきたところを振り返ると、それは草原の真ん中にある数メートルの大穴だった。


「光源は太陽じゃないな」


 頭上を見上げるとかなり高い場所の岩肌の天井に光るものが複数ある。あれが太陽の代わりか。

 暗闇にずっといたためにかなり眩しく思えたが、目が慣れてくるとさほど明るくもないことに気づく。むしろ薄暗い。曇りの日程度か。


擬陽虫(ぎようちゅう)です。朝になると出てきて光を放ち、夜になると巣に引っ込みます。至る所にいるのですが、大空洞では光を嫌う魔物に駆除されてしまうようですね』


 こいつがいるお陰で人間も生活できるんだろうな。

 だが、町は周囲には見当たらない。近くにある丘に登って見渡してみよう。


 と、その前にステータス確認だ。


 =====================

 コール

 レベル 3 LP 2 SP 5 / 10

 HP 92 / 100 MP 100 / 100

 力 11 体 10 技 13 速 14 魔 10

 スキル:

 看破Lv1 気配察知Lv1 暗視Lv1 真眼Lv1

 剣術Lv1

 =====================


 よし、ちゃんと【剣術】を習得している。さっきの虫のお陰だな。


 習得が順調なのはいいが、スキルスロットが心許なくなってきたな。5の倍数で増えるんだったか、そろそろ習得を厳選すべきか……



 丘の方に近づいていくと、何かが草むらの中に隠れた気配を感じた。バレバレだ、バカめ。


 気配からはさほどの脅威を感じない。

 足を止めて剣を向けてやると、気付かれていることが分かったか自分から姿を現した。


「ゴブリンか?」

『ゴブリンです』


 緑色の皮膚をした小鬼……定番過ぎるモンスターだ。説明は不要だな。

 丁度いいところに現れてくれた。【剣術】を試してみよう。


 俺を囲んでいるゴブリンは三体。

 正面で槍を構える一体に向かって駆け出す。先手必勝だ。


 慌てて突き出される槍を剣で払うと、槍先がへし折れて飛んでいった。

 返す刀で首を薙ぐと、切れ味がよさそうにも見えない両刃の剣は少しの抵抗と共に向こう側へ通り抜けた。


「ギャッ!?」


 背後のゴブリンが驚愕の色を含む叫び声を上げた。

 俺が振り返り剣を向けると、残り二体のゴブリン達はあからさまに狼狽する。


 俺は格闘ゲームやFPSなどの対戦ゲームは準プロ級の腕前だと自負しているが、実際の格闘は素人だ。

 だが、この体はよく動く。コントローラーで操っているようにスムーズだ。


 人型の相手との戦いは初めてだが……懸念していたような緊張や恐怖はない。


 思わず口の端が釣り上がるのを自覚する。

 楽しい。


「ギィィッ!!」


 それを挑発と見て取ったか、ゴブリン達は同時に掛かってきた。棍棒と、錆びた剣か。


 俺は慌てずに大きく迂回し、二匹が直線上に来るように位置を整える。相手が雑魚でも囲まれるのは良くない。対戦ゲームの経験からだ。


 近い一匹はこちらの動きに追随して向き直るが、相棒が邪魔になった方はたたらを踏む。これで擬似的な一対一だ。


「よっ」


 こちらの剣を警戒しているゴブリンは足払いに対応できず無様に転がる。

 その頭部に剣を振り下ろすと頭蓋を砕く嫌な感触が手に伝わってきた。


 最後の一匹は棍棒を振りかざして仲間の死体を跳び越えるように跳躍する。

 体を半身に開いて避けると棍棒が地面を叩く。

 動きが止まったゴブリンの顔面に剣の柄頭を叩き込み、怯んだ隙に頭頂からまっすぐに剣を打ち込んだ。


 顔面の半分を砕かれたゴブリンはいろんな汁の飛沫をあげながら膝から崩れ落ちた。


「……うわ、グロいわ」


 これは三角マークが必要だな……

 当然そういったゲームは見慣れているが、実際に目の当たりにすると自分がやったことながらやはりグロい。


 そうは言いつつも俺に動揺はない。

 ちょっと精神的に大丈夫かなと思うが、弱肉強食のファンタジー世界においては歓迎すべきだろう。



 そうだ、確認しとこう。懐の金属板に話しかける。


「エイラ、レベル上がった?」


『戦闘にもすっかり慣れましたね、コールさん。おめでとうございます。レベル4です』


 =====================

 コール

 レベル 4 LP 3 SP 5 / 10

 HP 82 / 100 MP 100 / 100

 力 11 体 10 技 14 速 15 魔 10

 スキル:

 看破Lv2 気配察知Lv1 暗視Lv1 真眼Lv1

 剣術Lv1

 =====================


 よし、寿命も延びているし、スキルの熟練度も上がっている。順調順調。


「一撃も食らってないのにHPが減ってるな」


HPヘルスポイントは体力の目安です。飲まず食わずで登攀や戦闘をした疲労があるのでしょう。0になっても死ぬわけではありませんが、疲労困憊で動けなくなると思います』


 なるほど。

 逆に考えると、致命的な攻撃を受ければHPに関わらず即死も普通にあり得るということだな。


「技と速の値が上がったか? 確か13と14だったような……」


『基礎値はレベルとは無関係ですが、鍛錬によって増えますので』


 戦闘への熟達によって数値に反映されたわけか。

 力を上げたければ筋トレか……陸上部だった高校生以来だが、ステ上げのためにやってみるか。


 ゴブリン達はなんかいいもん持ってないかな、と死体を眺めてみる。

 身に纏ったボロ布、切り飛ばされた槍、棍棒、ボロ剣……役に立つものはなさそうだ。


『ゴブリンは襲った人間から奪った金品を貯め込む性質がありますが、持ち歩いてはいないようですね』


「なんのために貯め込むんだ?」


『上位ゴブリンが集めさせて上納させるようですね。知能のあるゴブリン間では普通に取引があるようですが』


 なるほど、こいつらは使いパシリか。ちょっと不憫にも思えるが、問答無用で襲いかかってきたからな。同情には値しない。


 おっと、とにかく丘に登って街を探さないと体力の限界がきてしまうな。野宿はさすがに嫌だぞ。



 えっちらおっちらと丘を登っていくと途中にはゴブリン達のねぐらであろう簡素な洞穴があり、中には獣の骨などが散乱している。

 エイラの説明にあったお宝があるのかと思い探ってみるも、残念ながらなにもない。



 頂上まで来ると、てっぺんには一際大きな木が生えていた。


 木登りすれば遠くまで見渡せそうだが、その必要もなく、正面やや左に町が見えた。エイラが言っていた町で間違いなさそうだ。

 街中のど真ん中に岩柱が立っているが、外周の方には畑や牧場などまである。人々はダンジョン生活に適応しているようだ。


 ……にしても、こういうところに生えている木はちょっと怪しいな。

 話し掛けると妖精が返事したり、お宝が隠されてたりとかするパターンが……さすがにゲーム的に考え過ぎか。


 と思いつつ木を眺めてみると、視界の端に引っかかる違和感を感じた。


「……なんかあるな」


 違和感を感じたあたりを探ってみると、分かりにくいが木には細長い(うろ)があり、その中になにかが入っているようだ。

 小さな布の袋……引っ張り出すとチャリ、と音がした。


「コイン?」


『先ほどのゴブリン達が住処ではなくここに貯め込んでいたようですね』


 ほほう……ほほう。


 俄然楽しくなってくるな。

 こういった宝探しこそ異世界ファンタジーの醍醐味というものだ。


 さっきの違和感は俺の取得したスキル【真眼】によるものだろう。注視しないと気づけなかっただろう地味なスキルだが、ちゃんと働いている。


 至る所にこんな感じにお宝が隠されているとしたら……俺のデバッガーとしての経験と【真眼】のスキルによって暴き出せる。


『楽しそうですね、コールさん。悪そうな顔してますよ』


「ん? そうか? 気にするな」


 きっとこんなチャチなお宝だけじゃないだろう。

 なにもかもを漁り尽くしてやろう。


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