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2. ファーストブラッド

1/4修正。

この後のステータス・展開に少々変更があるため、順次修正します。

 

 武器が手に入った。これは安心の材料であると同時に、不安の種でもある。


 武器を持つ人間(死体だが)が存在することでこの世界には人間の命を脅かす存在があることが確定したわけだ。

 対抗手段もないまま襲われていた可能性を考えると喜ばしいことではあるのだが。


 右手に剣を下げ、左手に松明をかざして警戒しつつ引き続き壁伝いにしばらく歩いていくと、キィキィという鳴き声と羽ばたきの音が近づいてくるのが聞こえた。


 コウモリか!

 俺が剣を構えて松明をかざすと、数匹の大きなコウモリが襲い掛かってくるのが見えた。


 片手で剣を振り回して迎撃する。

 松明は攻撃には使えない。闇の中で光を失うわけにはいかないからだ。


 一匹は大して強くないが、暗闇の中で黒い物が無数に襲ってくるのは相当に厄介だ。目を皿のようにして敵を探す。


 かすり傷だらけになりながら一匹ずつ地道に剣で叩き落としてなんとか撃退すると、数の減ったコウモリ達は再び上に逃げ去っていった。


「ふう……助かった」


 早速剣が役に立った。白骨死体に感謝だな。


 自分の状態を確認する。致命的な怪我はしていないはずだが……

 視界上部のHPバーは15%ほどが失われている。


 =====================

 コール

 レベル 2 LP 11 SP 1 / 10

 HP 86 / 100 MP 100 / 100

 力 11 体 10 技 13 速 14 魔 10

 スキル:

 看破Lv1

 =====================


 お、レベルが上がってるな。

 足元に落ちているコウモリの死体は4匹だ。これくらいでレベルが上がるのならすぐ強くなれそうだ。

 ……最初だけかもしれないが。


 HPはやはり少し減っており、LPは増えている。レベルが上がると増えるのかな。

 他のステータスは変わっていない。HPやMPは割合表示だろうか。



 一通りの確認を終えて、再び歩き出そうと前に目を向ける。すると、前方少し行ったところには地面がないことに気づいた。


「うわ、崖かよ……」


 危ない。コウモリに襲われてなかったらそのまま進んで落ちていたかもしれない。


 さて……悩みどころではあるが、暗闇の崖沿いを歩いていくのは自殺行為だろう。引き返すしかないか。

 そう思い踵を返すと正面に音も無く三匹の獣が身構えていた。


 狼か? 体長は1メートル程度、細い全身は黒い毛皮に覆われている。

 こちらが身構えると同時、一匹が飛びかかってきた。


「……ッ!」


 肩に喰いつかれ、押し倒される──前に突き出した剣に胴体を貫かれ、黒狼はビクンと体を痙攣させる。

 だが、俺は死体の下敷きになって動けない。


 他の黒狼達は横に回り込み、俺の手足に噛みつこうと機を窺っている。


「こんなろっ!」


 左の方に死体を蹴り飛ばし、引き抜いた剣を右側の狼に振り回して牽制するが、それを掻い潜って顔面に爪を突き立てられる。


 俺は呻き声を上げながらもなんとか立ち上がり、狼達の居ない方へ向かって駆け出そうとする──が。


 そちらは崖だった。

 俺の足は空を切り、体は暗闇の中へと真っ逆さまに落ちていく。


 何もかもがスローモーションに見える。

 極限状態に脳が加速しているのか。


 崖の出っ張りに足をぶつけ、爪を立て、なんとか落下の勢いを削ぎながら滑落していく。

 やがて、そのまま落下先の地面に激突した。


「ってえ!」


 鈍い音がした。どこかが折れたか──


 視界端のHPゲージは赤い線が僅かしかない。

 これは、死ぬのか……


 現実世界で特になにも成せないまま死に、ファンタジー世界に転移してもなにも出来ずに死ぬのか。


 ……なにも分からないままゲームオーバーなんて、納得できるかよ。

 初見プレイは得意だったはずだ──


 それは下らないゲーマーの矜持かもしれない。

 だが、この状況で自らを奮い立たせる要素があるのなら、なんにでも縋ればいい。


 途中で離して落としていた剣を拾い、杖にして立ち上がる。

 松明は少し離れた場所に落ちていた。


 敵は追ってきていない。

 体のダメージを確認する。


「いって……!」


 折れたのは肋骨のようだ。

 両手の爪は剥がれかけ、足は打ち身だ。激しく痛む。

 ボロボロだな……ステータスを確認すると、HPの残りはたったの4だ。


 だが、動ける。

 動けるうちは──諦めまい。


 足を引きずるようにして松明を拾い、周囲を照らすと……岩場の上から黒い狼がこちらを見ているのが見えた。囲まれている。


「……嘘だよな?」


 俺の呟きと同時、狼達は一斉に襲い掛かってくる。

 喉笛に喰いつかれた瞬間、俺の意識は暗転した。



────



 気がつくと、見覚えのある部屋だった。

 見慣れたワンルーム……ではなく、魔法陣の部屋だ。


 なかなか力の入らない全身を無理やり起こす。

 今のは夢だったのか……?


 だが、両手のある場所には拾った剣と松明が落ちている。これを拾ったのは夢じゃない。


 すると、死に戻りか。

 ステータスを確認する。


 =====================

 コール

 レベル 2 LP 1 SP 1 / 10

 HP 100 / 100 MP 100 / 100

 力 11 体 10 技 13 速 14 魔 10

 スキル:

 看破Lv1

 =====================


 LPが激減している。10、減ったのか。

 レベルアップにより1上がっていたから助かったということだろうか……


 なんにせよ、もう一度チャンスがあるということか。


 立ち上がり、ラジオ体操をするように全身を動かすと、徐々に全身の感覚が戻ってきた。

 骨折や打ち身も治っているようだ。これならなんとかなるか。


 今度は反対側に行ってみよう。

 もう死ぬのはごめんだ。

 おそらく次はない。慎重に行かなければ。



 松明の通路を抜けて足場を降りた後、剣を持った死体のあった反対側へ向かう。


 暗闇を睨みつけるように警戒センサーを最大レベルにして壁沿いを進むと、一つの横穴が目に入った。


 穴を覗き込むと、松明こそないが最初の場所と同様の通路が伸びている。

 このまま壁沿いを歩いていても埒が明かなそうだし、入ってみることにしよう。


 通路の奥の方からはうっすらと光が見えた。

 光が恋しいな。蛾にでもなった気分で光の方に歩いていく。


「これは……」


 通路は途中から岩肌ではなく、切り出された石のような明らかに人の手が入った壁になっている。

 そしてその壁が微かに白く発光しているようだ。


 ある程度明るくなったところで松明の幻の火が自然と消えた。

 ……これ、またちゃんと点けれるんかな……一応ズボンのベルトに突っ込んでおく。



 やがて、今度は扉もない部屋に出た。

 いや、部屋というより非常階段のような縦穴で、部屋の入り口上部には(ひさし)があり、その下からは階段が螺旋状に下に向かっている。


 壁や床と同じく発光する階段を降りていくと、3周くらいしたところで床に着いた。


「……なんもないな」


 見事になにもない。縦穴の底は空っぽである。

 期待外れもいいところだ。


 床や壁、階段裏をくまなく探り、触れてみたり剣でつついてみたり、小一時間調べてみてもがやはりなにもない。

 クソゲーめ……こういうところにはお宝を置くべきだろうが。

 仕方なく階段を戻る。



 入り口が見えたところで、その上部から突き出した庇が気になった。

 ……これ、なんのためにあるんだ?


 庇の上部、天井までは大人一人分の高さがあるが、必要性はまったく感じない。

 下からは庇の上側は見えない。気になるな。


「登れるかな……」


 階段の一番上の段から跳躍して庇に手を掛け、体を引き上げる。

 在宅ワークでなまった体は懸垂などできるはずもなかったが、予想外に軽く登れて驚く。ステータスの恩恵か。


 庇の上に登るが、そこも一見なにもない。

 だが、入り口側の壁に違和感を感じて、よく見るとうっすらと切れ込みが入っている。


 切れ込みを押すと、壁が開いた。

 ……隠し扉だ。

 屈めばなんとか通れる程度の通路になっている。


 感動を抑えつつ、なだらかな上り坂となっている通路を四つん這いで進む。

 そう、こういう発見のために俺はデバッガーをしていたのだ。


 バグと隠し要素は真逆だが同じだ。人のやることであり、そこには何らかの意思が働いている。

 製作者も気づかない盲点がバグとなり、意図的に隠した物が隠し要素となる。

 製作者の意思を読み取り、それに従うかあるいは逆を行く。


 まだ誰も見つけていないものを暴き出す。それが俺の天職だ。


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