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忘却の英雄  作者: 高原 巡
赤濡れ討伐編
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第七節『デート、その二』


「ここ、だよな……」


 扉を潜ると、いくつかの部屋があった。


 どの部屋に入ればいいのかわからなかったのだが、少し奥の部屋にエイルのネームプレートが吊るされた部屋を見つけた。


 廊下に燻っていても仕方がない、それに、さっきの俺が死んだというあの発言も気になる。

 俺は部屋に入ってみることにした。


 少し埃臭い匂いと共にドアが開く。

 部屋はあまり物が置かれておらず、殺伐とした風景だった。


 目の前に大きなベッドが置かれており、他にはタンスなどがあるだけで物があまり置かれていない。

 目的のエイルはベッドに座っていた。


「あ、ロプトさん……すみません、いきなり泣いたりしちゃって」

「俺が死んだってどういう事なんだよ」

「それは……すみません、上手く説明できません」


 エイルはさっき泣いたせいか目の下を赤くして、下を向いている。

 疲れているエイルに以上質問するのは気が引けたので、隣に座り少しの間、無言でエイルが落ち着くのを待った。




「――入るぞ」


 ドアがノックされ、俺は目が覚めた。

 いつの間にか寝てしまっていたらしい。


 部屋の窓から強い日差しが差し掛かり、目がくらむ。

 眩しい視界を開くと、そこには着替えたエイルと、アド爺が立っていた。


「起きましたか? ロプトさん。心配かけてすみません。お昼ができたみたいですよ?」

「やっと起きたか……飯が冷える早く来い」


 満面の笑みのエイルと、険しい顔のアド爺がそう言うと部屋から出ていってしまう。


 まったく、この二人は少しも俺のことを休ませる気は無いらしい。

 ため息をつくと、俺は立ち上がり二人の後を追った。




 ご飯を食べたあと(アド爺の手作りだったが無茶苦茶美味かった)、アド爺が「気分転換にでも行ってきなさい」と、少しお金をくれたので、エイルと二人で遊びに行くことになった。


「ロプトさーん、こっちですよーこっちー!」

「はいはい、わかったから静かにしてくれ……」


 エテルノの商店街に俺たちは足を運び、店を見て回っている。

 何故だろう無知な俺よりよっぽどエイルの方が楽しんでいる。

 だが、そんな疑問はエイルの純粋な笑顔で消し飛んでしまう。


「ロプトさん、『魔道具』ってわかりますか?」

「いや、知らないけど……」

「一度使ってみてくださいよ!面白い物が沢山あるんですよ?」


 ある店でエイルは俺に『魔道具』を渡してきた。

 エイルが渡してきたのは、手のひらサイズの石のような物体で、よく見ると綺麗な装飾が施されている。


「これをどう使うんだ?」

「これはですね……下の方に小さなボタンとかないですか?」

「ボタン……これか」


 エイルに言われた通りに下にあったボタンを押すと、魔道具の下に魔法陣が浮かび上がり、魔道具の上に小さな球体の形をした水が浮かび上がった。

 魔道具の上にあった小さな窪みから人形が三人出てきて、球体の中をすいすいと動いている。


「エイル、これは?」

「水魔法を応用して作られたインテリア用の魔道具ですね。こういう類の魔道具は割と簡単に作れるので、貴重品とされる魔道具も、普通に売っているんです」

「……」


 純粋に面白いと感じた。

 まだ、目覚めてから魔法を使ったことがないからか幻想的なこの光景に、少し見とれてしまう。

 そもそも俺に魔法は使えるのだろうか? 男の血が騒いでいるのか、無性にわくわくしてしまっている。


「エテルノは都市最大の魔法の町ですから魔道具の量も種類も多いんですよねー、魔法を使えない男の人とかは目を光らせながら『男のロマンだ!』って言ってはしゃぐらしいですが……ロプトさんはどうですか?」


 図星である。


「――いや別に興味ないな!」

「あれーロプトさん、珍しく声が大きいですね?焦ってます?」

「いや? 全然? これっぽっちも焦ってないから!」

「ならいいんですけどねー」


 エイルはにやにやしながら、この店を出た。

 こいつ、完全に俺のことをからかってる……

 もしかして前の俺にやっていた事と同じことをやってたんじゃないだろうな?


「お邪魔しましたー」


 俺もさっきの魔道具を元に戻し、エイルの後を追う。

 店を出ると、日が少しずつ沈みかけており、商店街を歩く人数も徐々に減ってきていた。


「そろそら帰らないとダメなんじゃないのか?」

「そうですねー夕刻までもう少しありますし、あと一つだけ行きたい店があるんです。いいですか?」

「まぁエイルが行きたいならいいけど……」


 断る理由も無いため、エイルが行きたいと言っている店に行くことになった。




「――エイル、アド爺とエイルの関係ってどういう関係なんだ?」

「どうしたんですか?唐突に」

「いや、そういえば聞いてなかったなって思ってさ」


 その店への移動中、ふと気になりエイルに質問した。

 最初、アド爺に出会った時から気になってはいたのだか、聞くタイミングが掴めず、聞けてなかったのだ。


「アド爺はですね……私の命を救ってくれた恩人です」

「……そうか」


 命の恩人。あまり想像がつかない。

 何かの危機を救ってくれたのだろうか。

 エイルは何かを思い出すかのように上を向いて、どこかを見つめている。


「アド爺は私の二番目に大切な方なんですよ」

「二番目?じゃあ一番は誰なんだよ」

「そんなの決まっています――」


 前を歩いていたエイルはそう言うと、振り返り笑顔で俺の顔を覗き込んだ。


「ロプトさん以外に誰がいるんですか?」

「――――」

「ロプトさんだけが生きていけるなら私は死んでも構いません」


 驚愕した。なぜ、こんなにもこの子は俺のことを想ってくれるのか全く理解できない。


 以前の俺がエイルに何かをしたのだろうが、今は俺はその記憶がない。

 俺にとって、以前の俺は全くの赤の他人なのだ。


 こんなにも尽くしてくれるエイルに、俺は申し訳ない気持ちと、歯痒い気持ちに呑まれ、言葉を失った。


「あ、ロプトさん、ここです。着きましたよ!」


 しばらく言葉を失っていると、目的地に着いたようだ。

 エイルがはしゃぎながら、店に入っていく。

 エイルに続き、中に入ってみると、そこには多くの服が置いてあった。


「服屋か……エイルはもう綺麗な服に着替えたんだから要らないんじゃ――」

「必要ですよ! 可愛い服とかを着たいに決まってるじゃないですか!!」

「お、おう」


 ぐいぐい来るエイルに無理やり首を頷けされ、俺はエイルの服選びに付き合わされた。




「あー楽しかった! 今日は最高の一日でしたねロプトさん!」

「俺は凄く疲れたよエイル……」


 エイルはさっき買った赤のブラウスを早速着て、るんるんとスキップしながら、俺の横にいる。


 このテンションの高さに全くついていけれていない俺は、軽く過労死してしまいそうだ。


 そんな俺の思考などつゆ知らず、エイルを見ていた俺に気がついたエイルは笑顔で返してくる。


 ああ、ダメだなこいつには一個も俺の意思は通じないわ。


 もう夕刻の鐘が鳴り、辺りは暗くなろうとていた。

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