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忘却の英雄  作者: 高原 巡
赤濡れ討伐編
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第三節『魔獣の襲来』


「……暇だ」


 エイルが魔獣を片付けに行ってから三十分は経っただろうか、まだエイルは帰ってこない。

 ここで待っていろと言われたので待ってはいるが、する事がなさすぎた。


 ――だが、する事がないのなら作ってしまえばいい。

 そういう思考に至った俺は、この家の構造をじっくりと歩きまわって確かめてみた。


 まずこの家、部屋がこの部屋しかない。

 かなり小さな家のようだ。

 そして、部屋の中はというと、台所とベッドと椅子のみ。

 いたってシンプルかつ生活感の溢れる部屋だ。

 ここまではいい。ここまでは普通だ。

 だが問題は、()()()()()()()


「……」


 まるで、ここで二人の人間が暮らしていたようだ。

 部屋の主はエイル。今、ここに寝かされているのは俺。


「出会った時から疑問なんだけど、俺とエイルの関係はどういう感じだったんだ?」


 エイルとの関係は謎が深まるばかりだ。


「…………」


 いつまでも考えていても仕方がない。思考を停止してベッドに寝転んだ。


「あー、暇」


 ベッドでごろごろしていると、突然外から爆発音が聞こえた。


「おぉ、びっくりした。だいぶ近かったな」


 さっきはあんなに大きな氷柱を打ち込んできた人物だから心配はないだろうが、少し気になる。

 俺は窓から外を見てみた。

 しかし、見える物は木しかない。


「まぁ、近くても見えないか」


 諦めて窓から離れようとすると、今度はドドドドという音と、少女の叫び声が近づいてきた。


「なんだ?」


 徐々に大きくなっていく音。

 そして、更にこの部屋までもが揺れ始める。


 もう一度窓から外を確認すると、そこには大きなアリの頭が見えた。


「――さん逃げて!!」


 辛うじて聞こえた少女の叫び声を最後に、俺は家と一緒に吹き飛んだ。






「あぁ、くそっ」


 身体にのしかかる家の瓦礫をよけて立ち上がる。

 悪態をつき前を見ると、さっきまで家が立っていた場所でエイルと巨大なアリが戦っていた。


 全長約1.5メートル。

 立てばエイルと同じ程の高さのあるアリだ。見た目はただのアリだというのに、とにかくでかい。


「家を潰すなんてひどい害虫ですね! あと三、いや四匹ですか」


 そう言っている間にもアリ達は動きを止めない。

 アリ達は立ち止まるエイルに向かって口を開いた。


 瞬間、エイルが反応する。

 噛み付いてくるアリを避けたり、杖で防ぎながら彼女は何かを呟いた。


「【散りゆく涙も凍りつく、我は古の女神なり――ミクロス・パゴス】」


 エイルの上に魔法陣が浮かび上がる。

 すると、小さな氷の破片が宙に浮かび、アリ達に瞬く間に襲いかかった。


 幾つもの氷がアリ達に突き刺る。

 二匹は頭に刺さり倒れたが、あと二匹は腹に刺さっており動きが止まらない。


「くっ、せめて神具さえあれば――」


 とうとう、捌ききれなかった一匹がエイルに襲いかかったと思った瞬間、そのアリは爆発した。


「――っ」


 エイルが吹き飛び目の前に飛んでくる。


「お、おおう危ない!」


 とっさに飛んできたエイル抱え込めた事に俺は安堵し、エイルを見る。

 爆発のせいか服は所々が焼け焦げ、皮膚にも軽い火傷が見られる。

 一目みただけでも、エイルはかなり憔悴しているように見えた。


「ロ、ロプトさんありがとうございます、でもあと一匹残っているので、下ろしてください」

「そんな事できるか! お前、怪我してるだろ!」

「でも、まだ敵が――」


 それでも言うことを聞かないエイルを俺は後ろに下ろした。


「そこで待っててくれ、一匹ぐらい俺が片付けてくる」

「えっ」


 言い終えると、俺はアリに向かって走った。


『ギシャァァァ』


 アリは俺の姿を確認すると、雄叫びをあげ俺に襲いかかる。


 ――だが、この動きはエイルの時にもう見た。


 爆発されると厄介だが要は攻撃を受ける前に殺してしまえばこいつらは爆発できないのだろう。

 現にエイルが殺したアリは爆発していない。


「ふっ!」


 アリの攻撃をあっさり避けると、さっき台所で拝借したナイフをアリの細い首に突き立てた。


『グギュ!』


 ナイフは見事にアリの首を切り離し、アリの頭は転げ落ちる。


「ふぅ、よし! やっぱり一匹ぐらいなら俺でも戦えるな」


 記憶をなくし、戦い方などはよく分からないが、元の身体がいいのか難なくこの程度なら動けそうだ。

 アリを倒した満足感に浸りながら、エイルの方を振り返り、状況を伝える。


「エイル、倒せたぞ!」

「ロプトさん、よかった無事で。怪我はありませ――」


 安堵の表情を見せたエイルの表情が、突如激変した。

 まるで恐ろしいものを見ているかの様に。


「ロプトさん、後ろ!」

「ん?」


 振り返ると、頭に氷が刺さったアリが俺に覆いかぶさった。

 身体が拘束され身動きが取れない。

 そしてアリの身体が一気に膨張する。


「あ――」


 次の瞬間、アリは大爆発を引き起こした。


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