第一節『二度目の目覚め』
「うっ、ん?」
二度目の目覚めは案外心地よい目覚めだった。
薄く目を開けると、暖かい日差しが窓からさしており、以前の様な激しい痛みも感じない。
「ここは、どこだ?」
ベッドから身を起こし辺りを見渡すと、少し古臭い木製の家に俺はいた。
――身に覚えのない場所だ。
ここがどこなのか思い出そうとするが、やはり全然知らない場所だ。
そして、最初に目覚めた時と同じく、場所どころか何も思い出す事ができない。
「くそっ、何なんだこの状況は」
記憶がない自分に怒りを感じ、近くの家具を殴りつけた。
家具は鈍い音が鳴り、少し揺れる。
こんな事をしても意味が無い事はわかっている。だが、何かをしなければ狂ってしまいそうだ。
『――っ、ロプトさん! ロプトさん!』
「くそっ、」
不意に、あの叫び続けていた声を思い出し、あの時のような頭痛に苛まれた。
幸い、すぐに頭痛は収まったが、あの声が脳裏から離れない。
――俺にはあの声しか記憶が無い。あの声の主なら俺の事を知っているだろうか。
じっとしては居られず、ベッドから降りて部屋を出る。
俺は、あの声の主を探す事にした。
家を出ると、そこは深い森林に囲まれていた。
なんで森の中に家が一つだけ建っているんだ?
周りに家はこの家以外は建っておらず。木しか見えない。
大自然に囲まれた家。
住み心地は良さそうだが、これでは到底人探しなどできない。
どこかに道はないのか。
俺はとりあえず近くに移動できる場所がないかを探す。
少し家の周りを歩いていると獣道が見えた。
こっちか?
他に道が見えないので奥に進んでみる事にした。
――チュンチュン、チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。
耳をすませば、木の葉が風で擦れる音も聞こえた。
地に生える草木は日差しで明るく照らされ、生き生きとしている。
綺麗な森だな。
歩いているだけで自然を感じる。
先程も木に囲まれてはいたが、ここはまたさっきとは違う、生命を感じる空間だった。
――おもしろい。
目的を忘れ、自然を楽しみながら先を進む。
歩けば歩くほど景色が変わるというわけではないが、これはこれで楽しい。
しばらく進むと、不意に小さな声が聞こえた。
俺は驚き耳をすませる。
これは、歌声?
聞き取りづらいが確かに綺麗な声が森中に響き渡っている。
人が、いるのか?
歩みを進めると、少しずつだが声量が大きくなっていくのを実感できた。
少し、聞いたことがある声だ。これは、もしかしたら叫び続けていたあの声かもしれない。
期待に胸を膨らませ、歩み進める。
周りの木が少なくなっていき、視界が広がっていく。
とうとう森を抜けると、そこは小さな湖の様な場所だった。
「――、――――」
さっきから聞こえていた音色が、湖の真ん中から聞こえる。
目を凝らし確認すると、そこには緑の髪の妖精が、蒼い湖で水浴びをしているのが目に見えた。
セミロングの翠の髪、少し尖った耳が幻想的な雰囲気を醸し出す。
小さな手で水をすくい、慎重に身体に流していく。
その幻想的な光景に俺は見とれた。
その光景は、ただただ美しかった。
自然が生み出す、軌跡ともいえる風景。
――もっと近くで見てみたい。
俺は、何も考えずにそう思ってしまった。
この行動が不思議でない程の光景だと俺は思ってしまった。
故に俺は数秒後、後悔することとなる。
「あっ」
コツン、と気持ちいい音が鳴り俺の足元から石が転がっていく。
どうやら石を蹴ってしまったらしい。
足元など見ずに前に進んだのが仇となった。
「誰だ!!」
「――っ」
彼女は俺に気づき。片手を少し上げながら叫んだ。
湖に波紋が浮かぶ。
すると、いつの間にか彼女の手には一本の大きな氷柱が浮かび上がっていた。
「乙女の水浴びを覗くとは恥を知れ!!」
「――くっ」
氷柱が俺をめがけて飛んでくる。
突然の出来事で焦ったが、ぎりぎりなところで俺は避けることに成功した。
恐る恐る俺はさっきまで立っていた場所を振り返る。
するとそこには、深々と氷柱が突き刺さった。
――あ、危ない、くらっていたら死んでいた。
そう思える程の強烈な攻撃。
俺はその光景に少し身震いする。
俺は恐怖を覚え彼女に視線を送ると、彼女はまた氷柱を作り出していた。
「ちょっ、ちょっと話を聞いてくれ!」
「何を話す事があるんですか? 覗いてきたのはそっちじゃ――」
彼女が俺に向かってまた氷柱を投げようとした瞬間、彼女の顔が驚愕の表情に変わる。
「――え? ロ、ロプトさん?」
その声と共に氷柱が砕けちった。