プロローグ『無からの目覚め』
「ロプトさん――ロプトさん!!」
全身の激しい痛みと、耳に響く声を聞きながら、俺は目覚めた。
朦朧とする視界。
上手くまとまらない思考。
「――あ、あぁ?」
耳に響く声の主を確認しようとするが、あまりよく見えない。
無理やり目を開こうとすると、今度は激しい頭痛が俺を襲った。
見えないなら、もういいかな……
目覚めたばかりだが、こんな状況理解が追いつかない。
そうこうしているうちに、だんだんと意識が遠のいていく感覚がやってきた。
――無理して目覚める必要もないだろう。
俺は抵抗せず、眠りに付こうとする。
「起きて――起きてくださいロプトさん!!」
だが、俺を起こしたあの声はそれを許さないらしい。
耳元で、彼女は大声で叫び続ける。
俺が目覚めるように。
俺が、眠ってしまわないように。
なぜこんなに叫んでいるのかは分からないが、とても必死なのだという事は理解できた。
何とか声に応えたい。だが、今は口を動かすことでさえ辛い。
「ロプトさん! ロプトさん!」
――ロ、プト? 誰だ?
身の覚えのない名前。
だが、この名前を呼ぶ人物は俺に向かって言葉を投げかけているように感じる。
俺は、誰だ?
自分の名前が思い出せない。いや、名前だけではない。
何もかも、思い出す事ができない。
思い出そうとしても、激しい頭痛がそれを拒んだ。
おれは、俺はいったい――
疑問と激痛の波に呑まれながら、俺の意識は少しずつ遠のいていった。