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ボイーン? バイーン?

(2/1回目)

「アルグ様」

「お帰りノイエ」

「はい」


 日中は、野外で椅子に座って本を読んで過ごすことが日課になった。


 こっちの世界でも冒険物とか結構多くて面白い作品もある。

 それに外に居ると彼女の帰りが一発で分かるしね。土煙を上げて真っ直ぐ来る人なんてノイエ以外に居る訳がない。


 今日も仕事が終わってから彼女は全速力で駆けて来た。

 途中でドラゴンを狩って来る日もあるけれど、今日の手に持つはフレアさんからの書類の束と……


「それどうしたの?」

「拾った」


 襟を掴まれ猫持ちにされたミシュだった。




「あは~。良い! 温泉が骨身に染みる~」

「……」


 先に温泉に飛び込んだミシュは元気に泳ぎ出す。マナーもへったくれも無い。


「あっ」

「痛い?」

「ちょっと沁みただけ」

「……」


 背中の傷口に軟膏を塗るノイエの指が優しく動く。

 直接傷口をお湯に浸けるのは良く無い。だからこうして水を弾く薬草入りの軟膏を塗ってから入るのが普通らしい。


 ただその薬草が意外と沁みるので困るんだけど。


 腰に布を巻いて大事な部分を隠してから湯に向かう。軽くかけ湯をしてから温泉に入る。


 あ~。やっぱり気持ち良い。って馬鹿の犬かきが邪魔だな。


 この世界での温泉は基本混浴なので知らない男女が一緒に入る場合は、こうして布で体を覆うことが一般的なマナーになっている。どこぞの馬鹿は全裸に見えるけど。


 スッと波紋すら起さず僕の隣に入って来たノイエも全裸だし。

 あれ? マナーを守っている僕の方がおかしい感じになってない?


「で、ミシュ?」

「ふぁい」

「何でこんな北に居るの?」

「いや~。話すと長いんですけど……」


 そう前置きをして彼女は語りだした。


 何でも僕を襲撃した実行部隊を追って延々追い続けること数日……相手が川に飛び込み泳いで上流に向かうと言う荒業を見せたおかげで追跡を断念したそうだ。

 それからはドラゴンから逃げ回りつつ、空腹で目を回していたらノイエに拾われたとのこと。


「あのオーガを追ったのね」

「はい。あれはズルいですよ! どうしたらあんなこう……ボイーン? バイーン? な胸とかになるんですか!」

「そもそもの骨格から何から違うから仕方ないんじゃない? それにあの人……本気を出すごとに膨らむし」

「あれ以上膨らむんですか! それってどんなくす玉!」


 胸だけじゃないんだけど……それを指摘しても疲れるだけだから、まっ良いか。


「あ~。私もあんな立派な胸が欲しいです」


 あれは人のサイズじゃ無いからね。

 ってノイエ……自分の胸をモフモフしないの。十分なサイズだからね?


 ゆったりとお湯に体を預けて弛緩する。

 ミシュはノイエを連れ出し湯から出た。


 何かする気か?


「ふっふっふ……普段からお世話になっている隊長の全身を隈なく洗ってあげましょう!」

「……」

「さあ大人になった証拠を私に見せて見なさい!」


 片手に布を、もう片手に液体石鹸を持ちミシュがノイエに襲いかかった。


「ぬあ~! 何なんですか、この腰の細さはっ! って意外とお尻が良い形! 何よりこの胸がけしからん! お姉さんはお前をこんな風に育てた覚えはありませんっ!」

「……」


 押し倒されて隈なく洗われるノイエはやられたい放題だ。


 でも自分のことが全く出来ない彼女は、昔からこんな風に洗われて来たらしい。

 メイドさんたちはこんな過激にやらないだろうけど。


「あ~満足」

「……」


 ホクホク顔で勝ち誇った様子のミシュと、疲れた感じのノイエが印象的だ。

 ノイエがやられたままで終わるのは許せん!


「ノイエ」

「はい」

「お礼にミシュを洗ってあげな」

「えっ?」


 ミシュが凍った。


「分かった」

「……隊長? あれ~? どうしてそんなにワキワキと指を動かしているのか……うにゃ~っ!」


 攻守逆転して、今度はノイエがゴシゴシとミシュを洗う。そう……ゴシゴシだ。


「剥ける! 何かがつるんとっ! あは~! ちょっと良い感じになって来たかも~!」

「……」


 無言のままミシュの顔を洗うノイエ。

 きっとそこを洗っても……彼女の腐った性根は洗えないと思う。




「で、アルグの所で一泊して帰って来たと?」

「あはっ」


 笑って誤魔化す馬鹿者に、ハーフレンは机上のペーパーナイフを掴んで放った。


「危ないですよね~。あれです。私に硬いモノを向けるならこっちにズコッと」

「馬鹿言って無いで報告しろ」

「はいはい。敵の実行部隊は大将軍配下の者で間違い無いかと」

「キシャーラの配下か。で、アルグをあんな風にした大女は?」


 ミシュは話しながら勝手にソファーに座り、テーブルの上の菓子に手を伸ばす。


「あんな化け物……隊長以外にも居るんですね」

「お前がそこまで言うってことは、実力は本物か?」

「はい。追撃中何度か仕掛けましたが……いや~怖い怖い。振り回す腕で立木を圧し折ったり、小型ドラゴンを片手で掴んで投げてきたりとやりたい放題でした」


 砂糖をまぶした焼き菓子を頬張りメイドに飲み物を求める。

 それ程無茶をする相手と対峙して無事に帰還する彼女もまた大概なのだが。


「この国で相手が務まりそうなのは?」

「隊長だけでしょうね。王子でも無理かと」

「でも俺としては一度遭って戦ってみたいんだがな」


 好戦的な笑みを浮かべる元飼い主に、ミシュはやれやれと肩を竦める。


「確かに信じられないくらい巨乳でしたけどね」

「……弟の仇を討とうとする兄としての発言なんだがな?」

「無い無い。誰も信じないって」


 とりあえずハーフレンは、机上のペンを馬鹿の頭に投げた。


「だからズコッとしたモノをですね」

「寝言は良い。……フレアには適当に言い訳しておくからちょっと仕事をして来い」

「あ~。面倒臭いんですけど?」


 羽根ペンのクルクルと回してミシュはソファーに転がる。

 あからさまに何かを要求する馬鹿に優しさを提供することとする。


「敵前逃亡って斬首だったよな?」

「逃げて無いし! 追ってたし!」

「目撃証拠が無ければ……な?」

「……この人で無しが」


 ブ~と頬を膨らまして白旗代わりに羽根ペンを振った。




(c) 2018 甲斐八雲

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