ファはリスさん
『きょうはひとりでねます』と空気の読めるポーラがカートを押して寝室を出て行った。
流石に居た堪れない気持ちになって来る。
明日辺りはポーラを呼んで家族3人川の字で寝ようと思う。
で、ベッドの上にはノイエとファシーが居て……ノイエが抱き付いたままだ。
「落ち着けノイエ」
「むっ」
「ファシーが潰れるぞ?」
「やっぱ、り……ちい、さい?」
どっちに何を言ってもマイナス反応を示すなよ。
「とりあえずノイエはお風呂をして来なさい」
「……ファも一緒」
何ですと? 今、僕の耳は聞き取り違いをしましたか?
「ノイエさん」
「はい」
「今抱いているのは誰ですか?」
「お姉ちゃん」
「……」
やはり聞き違いか?
「で、誰とお風呂に行きたいと?」
「ファと一緒に行く」
「聞き違って無いのかい!」
「ん?」
何故かファシーと一緒にノイエが首を傾げた。
『お姉ちゃん』と『ファ』が混ざってて尚且つノイエがそれを理解してないだけか。
と言うかノイエに『ファ』だけでも呼ばれるとは……どんな仕掛けだ? それよりも中の人たちが荒れてなければ良いけど。
「ファも一緒」
「待ちなさい」
「むっ」
ファシーを抱えて立ち上がったノイエが、そのままお風呂に向かおうとする。
仕方ない。ここは……ハリセンを呼び出す。
「ファシー」
「は、い」
「色を白くしてポーラのようにするから少しだけ我慢してね」
「は、い」
断わりを入れて軽くハリセンでファシーの頭を叩く。
髪の毛が白くなって……どうにかポーラに見えなくもない。
《と言うか色々と面倒だな》
ここまで来たらメイドさんたちにネタ晴らしをして、屋敷内だけでもノイエの家族たちが自由に歩き回れるようにするべきか?
この手の相談は先生かホリーだな。
ノイエがファシーを抱きしめたままお風呂へ向かう。
僕は食堂によって夕飯を食べて……まあ良いか。ファシーはお嫁さんだし。
そのままお風呂に向かった。
「……」
両膝を抱いたファシーがずっと僕を見て来る。
いつもの感覚でお風呂に行ったら、全裸のノイエとファシーが居た。当たり前だけどね。
で、僕に全裸を見られたファシーは、悲鳴を上げて湯船の中に隠れてしまった。
ノイエが救助してずっと抱きしめていたけど、終始腕で裸を隠す様子が可愛らしかったのです。
まあ本人の申告通り……胸とかツルツルだったけどね。
「アルグ様」
「ん?」
「ファをイジメた?」
「イジメてはいないよ」
「……」
そんな人を疑うような視線を向けるなと言いたい。
ただ全裸を見ただけだ。そのダメージがこっちの予想以上だっだけだ。
「ずっと黙ってても辛いので、ノイエさん」
「はい?」
「ノイエとファシーはずっと動物で遊んでたんでしょ?」
「はい」
「どうやって?」
僕の知る限りノイエは基本動物受けが悪い。
懐いているのはナガトぐらいで、後は大半が逃げ出す。
「ファが集める。ファは動物を操る人」
「……違う、よ。ノイ、エ」
「違う?」
膝を抱くファシーが前髪越しにこっちを見る。
「あの子、たちは、勝手に、集まった」
「……違うよ。動物さんはファが好きなんだよ」
「……」
少し頬を赤くしてファシーが両膝に顔を押し付ける。
「でも」
しばらくして復活したファシーがまた口を開いた。
「今なら、使える」
「使えるって何を?」
つい興味を覚えて口を挟んでしまった。
ファシーは増々頬を赤くする。
「動物を、操れる」
言ってファシーは辺りを見渡す。
「でも、居ない、からっ」
言葉を残しノイエとファシーの姿が消えた。
開かれた窓の様子から……ノイエが超機動で外へ向かったのだろう。
ベッドを降りて壁際の伝声管でメイドさんに洗面器とタオルを頼む。
お風呂に入った後なのに汚れるようなことをするなと言いたい。
少なくともノイエは裸足だったはずだ。
水を満たした洗面器と真っ白なタオルが部屋に届いた頃……ノイエがファシーを連れて戻って来た。
「お帰り」
「はい」
「……」
黙って洗面器を指さすとノイエがチラッと足を確認して……ベッドの端に腰を下ろす。
良いんです。お嫁さんの足を拭ける名誉だなんてこの上なき幸せですから。
お嫁さんの足を拭く名誉を堪能する横で、蒼い顔をしたファシーがベッドの上で崩れ落ちた。
ノイエの超機動は普通にジェットコースター以上の衝撃だからな。
屍と化しているファシーの足も丁寧に拭いておく。
「で、何してたの?」
「……リスさん」
「はい?」
「ファはリスさん」
ウチのお嫁さんが半ば気絶しかけているファシーを抱き寄せ、『起きて』と言いたげに姉の体を揺すぶりながらそんなことを言って来るのです。
ファシーはリスと言うより猫だと思う。ノイエもだけど。
「リスさん」
「ノイエさん?」
今度は辺りを見渡すノイエの視線が窓の方に向けられた。
何事かと振り返ると……トコトコと毛玉が走って来る。
リスだ。何か凄く大きなリスだ。
猫ほどの大きさのリスなんて初めて見た。やっぱり異世界だ。
何故かノイエたちの足を拭くのに使ったタオルの上に乗り、クリクリとその足を拭う。
流石異世界だ。ここまで礼儀正しいリスが居るなんて。
「……食べるの?」
「むっ」
何故かノイエが頬を小さく膨らませた。
「リスさんは友達。おいで」
やって来たリスはノイエの言葉を無視して、真っすぐファシーの胸に飛び込んだ。
「……」
若干涙目のノイエの様子に掛ける言葉が見つけられない。
ようやく意識を取り戻したらしいファシーの胸で甘えるリスは……飼い猫のようだ。
「ファ……」
「ノイエと、遊んで、あげて」
いつものたどたどしい感じの口調だが、若干早口でファシーが手の中のリスに命じる。
コクンと頷いたリスがノイエの足から腕を昇り……アホ毛の上に座った。
って椅子やん。お嫁さんを椅子にするな。
「リスさん」
あ~……椅子にされてもノイエ的には満足なんだ。
嬉しそうにアホ毛を揺らしているノイエは、器用に頭を動かしてリスと戯れている。
きっと遊んでいるんだろう。それで良い。
こっそりとベッドに近づいて今のうちにファシーを回収する。
「ねえファシー?」
「は、い」
僕の胸にすがり付いて甘えて来るファシーはやっぱり可愛い。
「あのリスって大きくない?」
「……魔法」
「どんな?」
「魔女に、教わった」
先生! リスを猫ほど大きくする魔法って何なんですか!
(C) 2021 甲斐八雲
ファが好きで離したくないノイエは、ギュッとしてます。
で、ファシーは魔女から習った魔法を披露します。
リスを猫ほど大きくする魔法って何さ? 教えてアイルローゼ!




