全員殺しちまえば、引く必要は無いはずだよ
「平和って良いよね~」
「どうしたんですか?」
「こうして平和を満喫しているのです」
今日はノイエも執務室に来たので、彼女をソファーに座らせて膝枕を堪能しているのです。
優しい感じでノイエが僕を撫でてくれて幸せです。
ただ彼女が俯いた時とかに頭上の宝玉が落ちそうな動きを見せるからめっちゃ焦る。
彼女のアホ毛が常時支えていると知っていてもやはり怖い。
「幸せは良いですから、こっちの書類にサインして下さい」
「代わりにしといて」
「これは国王陛下行きのちゃんとした書類なので無理です。仕事して下さい」
「うむ。どこかの魔法隊の隊長を思わせる言われようだな」
ニートでは無い僕は、ノイエの太ももと言う桃源郷から離れる選択を選ぶ。苦渋の決断だ。
「チビ姫~?」
「ドーン! 呼んだです~?」
「呼んだが来るとは思わなかった」
「呼んでおいて酷いです~」
拗ねた王妃らしいチビ姫が僕が退いて空白地となったノイエの太ももを占領した。
銃殺刑にしたい悪の所業だな。
「って寝るなよ?」
「嫌です~。このスベスベを堪能するです~」
どこの変態親父発言だ全く。
「ちょいとケーキを頼んで来て欲しかったのだが仕方ない」
「任せるです~!」
パンパンとチビ姫が手を鳴らすと長身のメイドさんが姿を現す。
馬鹿兄貴の所に居たはずのメイドだが、やはりチビ姫の専属になったらしい。
「お呼びでしょうか?」
「ケーキです~。おにーちゃんの許しが出たです~」
「でしたらこちらがメニューにございます」
何処から出したそのメニュー? この国のメイドさんのエプロン裏は四次元なのか?
「これとこれです~。ノイエおねーちゃんはどれです~?」
「これとそれとあれとこれも」
「凄いです~。4つです~」
「……2つずつ」
「8つです~」
流石に書類にサインする手が止まる。
8ホールだと? どこのゴルフ場ですか? ケーキですよね?
チビ姫に良いところを見せようとしているなら構わないが……最近のノイエの食べる量が増え過ぎている。具体的には賢者の試練前の倍ほどだ。
絶対におかしい。何がおかしいと言うと、ここ最近あの賢者が全く出て来ない。
「ポーラ?」
「はい」
シュタッとウチの可愛いチビメイドが姿を現す。
ノイエの義妹でドラグナイト家の一員なのに立派なメイドだ。
ガシッと義妹の肩を押さえてこっそり耳元に口を寄せる。
「最近あの馬鹿は?」
「……しずかです」
嘘の付けないポーラが全力で視線を逸らした。
「つまり何か企んでいると?」
「……しりません」
全力で逃げ出そうとする義妹を僕は逃がさない。
「ポーラ。お兄ちゃんは本当のことが知りたいんだ。知っていることを言いなさい」
「……いえません」
つまり何かしら口止めされているのか。
あの賢者……何企んでいやがる?
「仕方ないよな。所詮過去の遺物だし、きっと平成の次の元号も知らないであろう残念生物だしな」
「……煩いわね? 始末するわよ?」
ギロリと右目に模様を浮かべてポーラがガラの悪い声を発する。
「つか事実だろう? 平成の次は何よ?」
「……私ってば元号を使わない地方で暮らしてたから」
すげえ言い訳だな?
「で、何を企んでいる?」
「……使い過ぎた魔力を回復中。餌を食わせりゃどんどん魔力を生み出す便利アイテムがあるんだから良いでしょう?」
「人の嫁をアイテム扱いするな」
「そうよね。お嫁さんにはアイテムを使いたいお年頃よね?」
「天誅!」
バシッとポーラをハリセンチョップして気づく。
周りの視線が……特にノイエの視線が。
「アルグ様?」
「落ち着きなさい。ノイエ」
立ち上がったショックでチビ姫が床に落ちたことはスルーして、怒れるノイエがこっちに迫る。
「おねーちゃん」
「何ですと!」
泣き真似したのであろう賢者がノイエにすがり付いた。
「おにーさまがバシって」
「はい」
「ひどいです」
「はい」
ポーラの頭を撫でるノイエさんの目が笑えないレベルで怒っている。
「ノイエ。落ち着きなさい」
「……」
スッと立ち上がり僕は彼女の前へと移動する。
「済みませんでした!」
迷わず土下座だ。僕は謝る時に足掻いたりしない。全面的に非を認め許しを請う。
しばらくポーラを抱いて怒っていたノイエだったが……ケーキが届いたら怒っていたことを忘れてモクモクと食べ始めた。
ユニバンス王国北西部自治領・帝国領との最前線
「全く……アタシは使いっぱしりじゃないんだけどね」
「諦めて下さい。トリスシア」
「嫌だ嫌だ」
バリバリと頭を掻いて彼女は大きく背伸びをする。
自治領の武神と呼ばれる食人鬼のトリスシアだ。
並みいる兵よりはるかに大きい体は良く目立つ。それは敵対する帝国軍から見てもだ。
「こっちが終わったら次は何処に行く?」
「心配しなくても戦場が貴女を待ってます」
「はん! 面白くないね!」
だが愉快そうに笑い彼女は、最近使い出した金属製の太い棒を手に持つ。
ユニバンス王都に居る食えない餓鬼が送って来た武器だ。
『鬼が使うと威力が増します』とか言っていたが、材質は鉄のただの金棒でしかない。
それでも何故かトリスシアは気に入り、戦場で振り回しているのだ。
「なあヤージュ?」
「何でしょう?」
「あそこに嫌な旗が見える気がするんだけど気のせいかね?」
「残念なことに帝国の女狐の手勢です。本隊はまだ到着していませんが」
「そうか」
ボリボリと尻を掻いてトリスシアは苦笑した。
「なら前にやられた仕返しをしても良いわけだ?」
「構いませんが引き際を間違えずに」
「安心しな」
ニヤリと笑い彼女は金棒を舐めた。
「全員殺しちまえば、引く必要は無いはずだよ」
帝国対自治領との戦いは自治領側の圧勝で終わった。
けれど帝国側は徹底してトリスシアの戦い方を終始調べ続けた。
最初から初戦など負けるつもりで仕掛けた戦いだ。
得たい物は……食人鬼の情報だった。
(c) 2020 甲斐八雲
平和を満喫している夫婦は…それに気づく。最近あれが静かだと。
基本嘘つきな刻印さんは色々と誤魔化して話をうやむやに。
遂に新領地では帝国軍対新境地軍の争いが始まった。
帝国の女狐は情報集めに終始します




