してやられたわ!
「のっほ~!」
マットレスの上で寝っ転がっているイーリナに、ポイッとプレートを投げ与えたらおかしな声を発して立ち上がった。
完全にフードが外れて素顔を晒しているが気づいていない。
それもそのはず市場では滅多にお目にかかれないアイルローゼ作のプレートだ。何より刻まれている魔法の式は戦争中に数枚だけ作られたという魔力増幅と言うレア物だ。
ひと目でそれに気づいていたら発狂物だろう。
「あり得ん! 本当に……この角度はどうすれば……この丸みは何だ? どうすればこんなに綺麗に削れる」
興奮の余りに色々な何かを置き忘れイーリナがプレートを色んな角度から見つめる。
先生の作品はどうしてもあれをしたくなる。
それほどまでに芸術点が高過ぎる。専門家に言わせれば『高過ぎる技術の結晶』なのだとか。
「とりあえず1枚だが……本物かね?」
「本物だとも! 逆にこれが偽物だとしたらこれを刻んだ作者は天才だ!」
大興奮のイーリナは顔を真っ赤にしてはしゃいでいる。
そこまで喜んで貰えると僕としても嬉しい。
「ちなみに刻んである魔法の式は」
「それは言わないで貰おう」
「……どうして?」
両目をキラキラと輝かせ彼女がこっちを見つめて来る。
「それを解き明かすのが楽しいんじゃないか!」
「そうっすか~」
「あ~これがあれば、しばらくは楽しめる!」
何故か荷物を纏めてイーリナが帰り支度を始めた。
「何処に行く?」
「帰る。自室で徹底的に解読する」
「……仕事は?」
「これが手の中にあるんだぞ?」
両目を剥いて怒るな。気持ちは痛いほど分かる。
「仕事をサボるのは悪いことではない。だが給金分は働け。それが最低限の常識だ」
「……分かった」
またマットレスに戻り彼女は紙とペンを取り出すと凄い速さで文字を綴り出した。
待つこと30分ぐらいか……イーリナの手が止まった。
「これで10日分の仕事はした。解読が終わらなければ10日後にまた来て仕事をする。文句はあるまい?」
「最低限の仕事はしたんだな?」
「した」
「なら仕方ない」
立ち上がり僕に書き上げた紙の束を押し付けて来る彼女からそれを受け取り、ついでに手を伸ばして背中に流れているフードを持ち上げ彼女の頭にかぶせる。
「頑張って楽しんで来い」
「……分かった」
折角フードで隠してあげたのに、彼女は顔を上げて僕に素顔を晒すと笑顔を残し部屋を出て行った。
ちなみにイーリナがプレートに描かれている式を読み解くまでに30日程度の時間がかかり、そして何故か僕の所に来てキルイーツ先生のアポを取るように頭を下げて来た。
まあそうなるよな。一応アポは取ったが……あっちの先生もかなりの気分屋だしな。
ついでに『国軍の軍医さんじゃダメなんですか?』と言うクレアの質問に彼女は若干視線を流した。
何だかんだでイーリナとて嫁入り前の女性である。
自分の腕に傷を残すようなことは出来る限り少なくしたいと思ったのだろう。
「可愛いわね」
うふふと笑う歌姫さんが、ノイエとポーラを手玉に取っている。
両方ともお姉さんオーラの強い彼女の太ももに頬を預けて甘えている。恐るべし姉属性!
ちなみに年齢で言うと歌姫さんことセシリーンは真ん中ぐらいのはずだ。
年長格のグローディアよりかは確実に落ち着いて見えるな。うん。
「って何故に出て来た?」
「あら? 本来の姿で出ると貴方が興奮して1日中凄い目に合うって」
「凄い目に合うと聞いて出て来るのってどうなの?」
「あらあら。それって女として嬉しいことじゃないかしら?」
うふふと笑う歌姫さんは、相変わらずにマイペースだわ。
「それより旦那様」
「はい?」
「最近ファシーが大変なのだけど?」
ファシーがだと?
「どうかしたの?」
「ええ。外に出たいけど本来の体だと貴方を満足させられないだろうからノイエの体でも良いのかと……ずっと悩んでいて。本当に旦那様は罪なことをするわね?」
「それって僕の罪ですか?」
可愛らしい悩みに若干ほっこりとして来たよ?
「それとあの子……最近悩んでいるみたいなの」
「悩み?」
「ええ。自分が本当に放出系の魔法使いなのかって」
「……」
それって今頃悩むことなの? ねえ?
「だからお姉さんとしてはあの子の為に旦那様に我が儘なお願いをしたいの。
魔法使いの系統を調べる紙があるんでしょう? それをあの子の為に準備して欲しいの……ダメかしら?」
「別に良いけど」
ファシーの為ならお安い御用だ。
何より珍しくノイエがこっちを見て視線でお願いしている。
あの目は絶対に『アルグ様。お願い』って強い意思が宿っている。僕にはそう見える。
「良かったわ」
「ってちょっと待て? 何故に服を脱ごうとしている?」
ノースリーブな感じのワンピース姿の歌姫さんが、自分の肩にかかる服を腕へと動かし脱ごうとしている。
と言うかツッコミを入れたのに止まらない彼女の手により、形は良いけど大きさ的には普通サイズの胸が片方姿を露わにした。
「あら? 旦那様にお願いするなら体を売りを渡せって」
「誰の言葉? ねえ? 誰の言葉?」
「誰だったかしら?」
その取ってつけたような言い訳は何ですか? 何より貴女がその気になれば、この国全ての音を拾うことが出来るはずなんだから、聞き逃しとかないよね?
「ノイエ」
「はい」
「その服を直す手伝いをなさい」
「はい」
スタッと起き上がったノイエは、まず完全に寝入っているポーラを音も立てずに抱えて姿を消した。また姿を現したノイエの腕にポーラは居ない。つまり彼女の部屋に置いて来たのだろう。
で、何故か歌姫さんの服を脱がす手伝いを始める。
「って何故に!」
「ん?」
首を傾げてノイエが僕を見る。
「お願いされた」
「誰に?」
「歌の人」
ノイエのセシリーンに対する認識ってそれなのね。じゃなくて、
「いつ?」
「さっき」
「どうやって?」
「指でこんな風に」
ノイエが自分の二の腕に指先を押し付けて文字を綴り出す。
そう言われるとセシリーンはずっとノイエを撫でていた。
撫でるのではなく文字を綴っていたのか!
「してやられたわ! なら僕はこれにて」
『じゃっ』と挨拶して僕は逃げの一手を打つ。
「ノイエ」
「はい」
「彼をここに」
「はい」
ガシッと回り込んで来たノイエの手により拘束される。
不条理なり! どうしてこうなると僕より彼女らの指示が優先される?
理由は簡単。ノイエがする気満々だから……と言うよりノイエは、まだ頑張れば赤ちゃんが出来ると信じているからだ。彼女の祝福をどうにかしないと絶対に宿らないのだけど。
「放せ~」
「ダメ」
ベッドに運ばれノイエに馬乗りされ身動きが取れない。
「さあノイエ」
「はい」
パンと手を叩いたセシリーンが楽し気に笑う。
「2人で頑張って旦那様に楽しんで貰いましょう」
「はい」
グッと拳を握るノイエがやる気だ。
つまり僕は今から……らっらめぇ~!
(c) 2020 甲斐八雲
イーリナだって女性なのです。若干行き遅れ気味ですがw
そして歌姫さんはファシーの為に外へ出てきました。
毎日ウロウロとしているファシーが可愛いのもありますが、本当はファシーが無意識にノイエと逢うことを恐れているのに気付いているから




