口だけの姉でないとノイエに証明したいんでね
「お主はリアのことを伝えに来るだけで良いと儂は思うのだがな」
「でしたらご自分の国をもう少し確りと管理なさって下さいませ」
「そうだな」
いつも通りに訪問して来たメイド長の言葉に国王たる彼は額に手をやった。
「お主の報告は全てで8つだったか?」
「ええ」
「5つしか届いておらんよ」
「でしたらその3人を締め上げれば自ずと答えは出ましょう?」
「そうだな」
一度は頷き彼は思案する。
「今回は近衛に任せよう」
「あの馬鹿王子を試すと?」
「それもあるが近衛団長の反応も見たい。だから任せるのだよ」
「……人の上には立つ者ではありませんね。面倒で厄介です」
「メイド長と呼ばれるお主がそれを言うか?」
「ええ」
クスリと笑いメイド長は冷たい笑みを浮かべた。
「わたくしは基本、支配すれども統治せずですので」
「お主のその自由な立場には心底憧れるぞ」
「近衛が動くだと?」
「はい」
報告に来た部下の言葉にゾングは焦った。
どうして気づかれたのか……悩むと直ぐに答えが出た。
1人だけこの場所から姿を消した者が居る。あの男の手の者であったアルフレットだ。
《裏切ったか……っ!》
激しい憤りに身を震わせ、それでも彼は感情をねじ伏せた。
今は急ぐ時だと気付いたのだ。
《全員に告げれば混乱が生じる》
部下たちにも告げられない。
出来れば何人か連れて行きたい者も居るが……万全な準備も無く連れ歩くのは危険すぎる。
ペンを手にしたゾングは、スラスラと紙に言葉を綴る。
《これで良い。こうするしかない》
一枚の指示書を書き上げ、彼は報告に来た部下にだけ旅の準備をするように命じる。
誰にも余計なことを告げず、ただこの場所を離れる準備をだ。
「ですが誰かに問われたら?」
「適当に言い訳をすれば良い。とにかく急いでこの場を離れるのだ」
王都から来た部下が何日でこの場所に辿り着いたのかは分からない。
そして近衛がこの場所に辿り着くまでの時間もゾングには分からない。
結果彼は適当な指示を出しその場を離れることとなった。
『化け物たちを全て始末しろ。方法は任せる。それが終わったら集合場所の東の3にて合流し全員で移動するように』と置手紙を残して。
「全員集まれ! 今直ぐにだ!」
監視の1人が張り上げる声に全員がやる気のない目を向ける。
アイルローゼはその中で久しぶりに見つけた褐色の少女を連れ、ノイエの元へと向かっていた。
分かっている。魔法で壊されてしまった精神は治せないと。
けれどそれでもすがりたくなるのだ。
切り株に腰かけ人形のように無反応な少女をリグに任せ、アイルローゼはまた広場に戻った。
「良いか! これよりお前たちには最後の試験を受けて貰う!」
偉そうに声を張り上げる相手を見つめながら、アイルローゼは静かに地面に爪先を置いて線を描く。
ちゃんと発動するか確認していない魔法だが、ずっと準備はして来た。
失敗したら面倒臭いぐらいだ。
「最後の1人になるまで殺し合うが良い! それがお前たちへの課題だ!」
ザッと最後の線を引いてアイルローゼは魔法語を綴る。
声としてそれを放てば……施設の外壁に仕込んで来た術式が発動する。
「解放!」
外壁を形成する石に刻んだ術式が一度の魔法で耐え切れずに焦げて形を崩す。
けれど魔法は発動した。
その証拠にアイルローゼは自分の首に嵌められている首輪を外してみせた。
「カミーラ」
「何だ?」
「あそこに居る馬鹿を黙らせてくれるかしら?」
「面倒だな」
座って話を聞いていたカミーラは首輪を外した魔女を見て、苦笑するなり立ち上がる。
そのままの勢いで地面を叩いて魔法を放った。
「あがっ……何がっ?」
偉そうに語っていた監視が自身の胸を貫いた串を抱くように地面へと崩れ落ちた。
「それでどうする?」
監視を殺してみせたカミーラの問いに、グローディアが声を上げた。
「とりあえず関係者以外は全員始末するしかないでしょう?」
「後は?」
「私に考えがあるわ」
もう一度問うたカミーラの言葉にカミューが反応した。
「もう出し惜しみはしない。私の魔眼を使って全てを終わらせてあげる」
「そうか」
土の棒を作り出したカミーラはそれをクルリと回して脇で押さえる。
「だったらまずは大掃除だな」
それから僅かな時間で監視たちはある程度片付けられた。
「質問がある」
カミューの問いに全員がその目を向けた。
「この中にノイエの為に死ねる者は?」
約半数の手が上がった。
中には意外な人物も居たが、相手のことを知るカミューとしては……ただ単に死にたいだけかもしれないと察して何も言わなかった。
「なら最低だけど最悪では無い方法がある」
「どんな手よ?」
座りながら体を左右に振るわせる舞姫にカミューは苦笑した。
「私の魔眼で全てを奪い取る。そしてこの魔眼をノイエの目に移植する」
「……どうなるの?」
最初に尋ねてしまった手前、言葉を続けるしかないレニーラが問う。
「魔眼が得た魔法や術式をノイエが使えるようになる。つまりノイエは強力な武器を手に入れる。下手をすればこの大陸で最強の存在になるかもしれない」
「「……」」
全員がカミューを見つめ凍り付いた。
「もう一度言う。ノイエの為に死ねる者は手を上げて……と言うか全員の魔法や術式は全て奪わせて貰うけど」
「その後は?」
王女だった者の問いにカミューは視線を動かした。
「抜け道から逃げ出したい者は逃げれば良い。別に今なら正面から出れるだろうけど……私たちを急いで始末しようとしたのは王国が動いたんだろうな。だったらここに残っていれば改めて処刑台に昇れるはず」
言い捨ててカミューはもう一度全体を見渡した。
「さあ……自分の人生だ。さっさと決めてくれ」
そっと左目に手を当てカミューはその顔に笑みを浮かべた。
「私は口だけの姉でないとノイエに証明したいんでね」
(c) 2020 甲斐八雲
近衛が動き、施設では殺し合いの指示が出る。
察知したアイルローゼは首輪を解放し、ある程度の監視はこの時点でお亡くなりに。
嘘つきと呼ばれることとなるカミューはここで自分の魔眼の力を晒す。
そして願う。
ノイエに全てを残し…全てを奪い尽して、全員で死ねことを




