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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Side Story 08 追憶⑥ 『最後に残るモノが希望』

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追憶 グローディア 結

 そっとティーレにメイド服を着せて横たえる。


 少し体を拭くのが甘く、服を着せるのに時間がかかったが……それでも長い付き合いのある相手だ。グローディアとしては時間の無駄だとは思いたくはなかった。

 ただし誰かがティーレを見つければその不自然な眠りを不審に思い自分の所に来るかもしれない。これ以上はゆっくり出来ない。


 駆けるように部屋に行き飛び込み準備を進める。


 敷かれている絨毯を退かし、床に描かれている魔法の式を確認する。

 異世界の魔法の式は円形と線を基本とした物だった。

 それを今一度確認し、間違いが無いか再度確認を済ませる。


《問題はない》


 次は鞄を開いて2つの石を取り出す。


 膨大な魔力を要する異世界魔法を使うにあたっての一番の問題を解決する異世界の魔道具だ。

 2つの石を片方ずつ手で持ち、ゆっくりと呼吸を整える。


 あの魔女にして『死ぬ可能性が高いから使いたくないわ』と言わしめた魔道具。

 床の魔法式の前に立ち、ゆっくりと両腕を伸ばし息を吐いてグローディアは両手に魔力を集める。


 循環と加速と魔女は言っていた。


 自分の魔力を右手から左手に放って左腕から上半身に通してまた右腕へと流す。

 そうすることによって自身の中で魔力を循環させる。加速することにより魔力が呼び込む力を石の力によって魔力へと変換させる。


 呼び込む力は生命力だ。


 自分の命を削って魔力を循環させ続けて量を増やす。

 少しぐらいの使用なら問題は無いが、グローディアが求めるのは異世界魔法を使用できる分だ。

 全身を震わせ大量の汗をかきながら……グローディアは魔力を増やし続ける。


『命を捨てる覚悟があるなら使えば良い』と告げた魔女の言葉の意味が分かった。


 意識が飛びかけながらも唇を噛んで使い続ける。

 失敗は出来ない。この魔道具は一度きりの物なのだ。


《私を見くびるな》


 唇から鮮血を溢しグローディアは抗う。


《この日の為に全てを費やしたんだ》


 喉の奥から込み上がって来た液体を吐き出す。ゴボッと出た物は塊の血だった。


《代償だというならこれぐらいなんでも無いわよ》


 歯を食いしばりグローディアは循環と加速を続ける。


 彼女の強い意志で発生した魔力は、魔道具の限界を越えた。

 バリンと両方の石がグローディアの手の中で割れ、崩れるように床へ座り込む。


 それでも彼女の目から光は失われていなかった。


 パンと式の外側に手を着いて、全ての魔力を込めて魔法語を放つ。『叶えろ!』と。

 全身から力が、魔力が吸い取られ……グローディアは意識を飛ばし掛けた。


 それでも気絶しなかったのは、背骨に冷たい氷が、氷柱でもねじ込まれたかのような感覚に襲われ気絶することが出来なかったのだ。


『願いを言え』


 頭の中に響いた声に、グローディアは朦朧としながらも反射的に口を開く。


「ラインリア伯母様を助けて……」


『それで良いのか?』


「それが私の全てよ!」


 鮮血を吐き出しグローディアは吠えた。


『良かろう。叶えよう』


 頭の中に響く声にグローディアは満足した。

 これでようやく願いが叶うのだから……。


『願いを叶えた』


「……そう」


『では対価を貰おう』


 安堵から床へと崩れ落ちたグローディアは、自身が描いた魔法の式の上に禍々しい黒い球体を見た。

 それはゆっくりと動き、形を変え続ける。


《対価?》


 動かない口から言葉は出ない。

 だがグローディアの消えかけた意識に応じるように、それは彼女の頭の中に響いた。


『願いには対価を払う。当然であろう?』


 どこか笑って聞こえる声に……グローディアは全身が粟立つのを感じた。


『さあ見せよ。人の子等よ!』


 床に頬を預け、グローディアはほとんど意識を手放していた。


『我に見せよ。その……胸の内の……』


 最後までグローディアはその言葉を聞くことは出来なかった。




《……》


 悪い夢から目覚めたようにグローディアは目を開けた。


 全身が濡れていてベトベトして気持ちが悪い。

 それでも体を起こそうとして……ようやく気付いた。


 自分が自室では無く屋敷のエントランスに居ることにだ。


《何が?》


 天井に向いている顔を動かし横を見る。頬にペトリとした感触を得た。


《何が?》


 もう一度目を動かしそれに気づく。

 視界には床らしき板石と血液らしき液体が広がっていた。


『自分の吐き出した物か?』と思ったが、それが違うことが分かった。

 視界に血液を流す存在が見えたからだ。

 執事の服を着た……そのな人物はこの屋敷に1人しかいなかった。


《何が?》


 三度の疑問に、グローディアは必死に石のように重い体を動かし体を横へと向けた。


 しばらくの休憩を挟んで少しずつ体を起こして行く。

 どれほどの時間を費やしたのか分からないが、ようやく立ち上がった。


 立ち上がり……理解した。


 屋敷の中が酷い有様だった。

 至る所に血だまりが生じ、その血は供給するのは人だったらしき存在だ。

 ただその衣服から屋敷に努めているメイドや下男などだと分かる。


 必死に床を伝い屋敷内を探せば……居間でそれを見つけた。

 バラバラになった血塗られた上質な布はドレスや衣装を形作る物だと分かる。


 故に転がっている肉片や半分となっている頭部などを見れば嫌でも分かる。

 嫌っていたし嫌われていた家族が全員死んでいた。


「そう」


 泣き出しそうな感情を噛み締めグローディアはその場を離れる。


 確認したいのはただ1人だ。


 壁を伝いどうにかたどり着いたのは浴場だった。

 開かれている扉を過ぎて中に入り……グローディアは膝から崩れ落ちた。


「……ティーレ」


 壁を背に座っている彼女は、わき腹を大きくえぐられ内臓がこぼれていた。

 素人目にも助けられないと理解出来る姿に……グローディアは口に手を当て泣き出した。


「ごめんな、さい。わたしが……」


 嗚咽と共に溢れる言葉が止められない。


 自分がやったことが理解出来た。取り返しのつかないことをやったのだと。


「ごめん……なさい」

「……ええ」

「えっ?」


 空耳だと思いながらも顔を上げると、ティーレは血の気の無い顔を動かしグローディアを見ていた。


「ティーレ?」


 駆け寄ろうとしても力が入らない。

 床に崩れ落ち……それでもグローディアは彼女に向けて手を伸ばした。


「お嬢様。聞いて、下さい」


 落ち着いた声でティーレは語る。


「全てを……私に押し付けて」

「……」


 驚き目を見開くグローディアにティーレは震える笑みを向けた。


「良いんです。お嬢様。全てを……私に……」


 力尽きるように笑みを残し、ティーレはこと切れた。


 グローディアはしばらく彼女を見つめていると、ゆっくりと体を起こして屋敷の外へと出た。

 立ち昇る煙が空へと続く。幾重にも見える様子に……王都の混乱が伝わる。


 玄関先で座りグローディアはずっと待った。

 駆けて来た騎士が敷地内に入ると、慌てて手綱を操り遠ざかる。

 苦笑し待ち続けると……王国正規兵の一団がやって来た。


「グローディアか」

「ええ。陛下」


 槍を構える兵たちを左右に退かし姿を現したのは国王ウイルモットだった。


 震える足を動かし立ち上がったグローディアは、血濡れたドレスの裾を手に一礼してみせた。


「何があった?」


 陛下の問いに彼女は笑いそして答えた。



『気紛れよ……全てを殺したの? それが何か?』




 政治的なこともあり彼女の処分は最後となった。

 何度も重ねられた話し合いは、宰相ウイルアムなどが反対に回り……それでも罪人として処刑されることとなった。

 幾人もの命を奪った処刑台に昇った彼女は、最後まで毅然とした態度で刑に服した。




(c) 2020 甲斐八雲

 異世界から呼び出したモノは、ユニバンス王国を中心に周辺国へと範囲を広げ…あることをして姿を消しました。

 その話は…まあ本編にて。


 唯一味方であったメイドの言葉を振り払い、グローディアは王女として胸を張って処刑台へと昇りました。

 全ては自分が犯した罪だから…逃れたくはなかったのです

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