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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Side Story 03 追憶③ 『ユニバンス魔法学院~アイルローゼ記~』

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赤き神童

 本日より『Side Story』が始まります。

 ガタゴトと揺れる馬車の中で、少女はぼんやりと窓の外を眺めていた。


 馬車の中には少女と向かい合うように座り本を読むメイドが1人。馬車を動かす御者の計3名だ。

 ごく普通の馬車が向かう先は、ユニバンス王国の王都ユニバンス。

 赤い髪の少女を王都に存在する魔法学院へと案内するのがこの旅の目的である。


 その成長が楽しみな整った表情の少女は、幼き頃より"神童"と噂され、その持って生まれた才能を遺憾なく発揮した。結果として地方の都市では彼女の師を務められる者が居なくなり、国の優れた才能が集まる王都へと渡ることとなったのだ。


 新しく彼女の師となるのは現国王の相談役でもある宮廷魔術師だ。

 一般の出である少女からすればあり得ないほどの破格の待遇ではあるが、彼女はその栄誉をまったく気にしている素振りも無い。


 ただぼんやりと窓の外を眺め続けている。

 時折長い赤髪を指先で弄ぶくらいで、少女は暇を持て余していた。


「馬車を止めてくれる」

「……はい?」

「良いから止めて」


 不意に言葉を発して少女は、停まっていない馬車から飛び降りた。

 急ぎ停車する馬車を尻目に街道に出た少女は、もと来た道を戻り街道の隅で足を止めてしゃがんだ。


「大丈夫?」

「……は、い」


 そっと手を伸ばし、赤毛の少女は地面で倒れている少女を起き上がらせる。

 幼い少女の近くには木桶と地面には水で出来たのであろう染みが広がっていた。


「少し膝を擦り剝いているわね」


 言って赤毛の少女はハンカチを取り出し、幼い少女の膝を拭ってそれを巻き付けた。

 金髪でどこか不健康そうなボロを着た幼子は、自身の膝に巻かれたハンカチを不思議そうに眺める。

 もう一度幼い少女に笑いかけた赤毛の少女は、相手に優しげな目を向けた。


「木桶にいっぱいの水は止めなさい。重くて転んでしまうから」

「でも」

「分かるわ。何度も往復するのが嫌なのでしょう?」


 素直に幼子が頷く。


「でもこうして転んでしまえば、ここまで来た労力を無駄にするだけよ」


 手を伸ばし赤毛の少女は幼子の頭を撫でる。


「だから大変でも半分ぐらいの量で往復なさい」

「はい」

「良い返事ね」


 クスリと笑い、赤毛の少女はその口を滑らかに動かす。


 魔法語と呼ばれる特殊の言葉を吐き出し軽く指を鳴らすと、地面で染みとなっていた水がゆっくり浮き上がり球体を作る。土まみれの水に対してもう一度指を鳴らし球体を震わせると、浮かぶ水から土だけが落ちて真水となる。それを起こした木桶へと落とし終いとする。


 流れる動作で高等魔法を披露した赤毛の少女は、金髪の幼子に柔らかく笑いかけた。


「頑張りなさい。きっと貴女は美人になるわ」

「?」


 ポンポンと頭を優しく叩き赤毛の少女はゆっくりと立ち上がった。


「貴女の名前は?」

「……ノーフェ」

「そう。頑張りなさいノーフェ」

「はい」


 木桶に手を伸ばし危なっかしい足取りで歩いて行くノーフェと名乗った少女を見送り、赤毛の少女は停車している馬車へと向かった。


「待たせたわね」

「いいえ」


 出迎えたメイドに挨拶をし、少女はまた馬車の椅子に腰を下ろした。

 御者と会話をし馬車が動きだすと……メイドはまた窓の外を見ている赤毛の少女に目を向けた。


「どうしてあのようなことを?」

「……目の前で子供が転んでいれば助けるものでしょう?」

「ええ。ですが伺っていた貴女の噂からすると少し」

「失礼ね」


 少し鼻を鳴らして少女はメイドを睨んだ。

 軽く肩を竦めるメイドは気にした素振りすら見せない。


「知識ばかり求めて他のことに目を向けないとかっていう噂でしょう?」

「はい」

「……否定はしないけれどね」


 頬杖をついて少女は自身の行いを否定しない。


「でも子供を蔑ろにするような人間にはなりたくないわ。それだけよ」


 呟き彼女はまたぼんやりと窓の外を見始める。

 メイドである彼女はその様子を見つめ、やれやれと肩を竦めると座席の上に置いた本に手を伸ばし読書を再開するのだった。




「うむ。珍しく宮廷魔術師がそれらしい格好をしているな」


 ふらりと現れた現国王に、宮廷魔術師のバローズ・フォン・クロストパージュは相手に冷たい目を向けた。


「ウイルモット王よ」

「何だ?」

「……相談役を辞めて田舎に引っ込みたいのだが?」

「辞めるなら宮廷魔術師にせよ。相談役を辞めるのは許さん」


 挨拶替わりの会話を交わし、2人は軽く仕事を済ませる。


「してその格好は?」

「思い出したように言い出さないで下さい。この度新しく弟子を取るのです」

「ほう。お主がか?」

「言いたいことは分かりますが、この魔法は誰にも伝える気は無いです」


 肩を竦めて笑う彼に現国王も苦笑する。

 彼の魔法は余りに特殊であり禁忌に等しい魔法の類である。


「ならばどうして今更?」

「ええ。何でも抜けた才能の持ち主らしく、地方の都市では教える者が居ないということで、こちらに話が回って来たのですよ」

「それは凄いな」


 ウイルモットも数度頷き椅子に深く腰掛けた。


「それにしてもここ最近優れた子供が多く発見されているな。学院の方にも10年に1人と呼ばれる才ある者が多く入学しているとか」

「ええ」


 ユニバンス魔法学院の学院長を務めるバローズが頷き返す。


「ただ少し怖くもありますな」

「ほう。それは?」

「はい。こうも才ある子らが多く出て来ると言うのは何かの前触れかも知れません」

「良く無いことが起こると?」

「……分かりません」

「そうだな。分からんな」


 2人は頷き合って言葉を止めた。


「さて。それでは会いに行くこととしましょう」

「そうか。してその弟子の名は?」

「はい。赤き神童と呼ばれし"アイルローゼ"と言う少女にございます」




(c) 2019 甲斐八雲

 ユニバンス魔法学院での過去編となります。

 主人公は…アイルローゼ先生です。って他に主人公キャラが居ないw

 リグは無理だし、シュシュも無理だし、ミャンは色々アウトだし…あれは出せないし!

 結局なし崩し的に先生のお出番となりました。アイルローゼ視点の学院の過去を楽しんでいただければと。


 ただ書きだしてから気づく。ネタバレになるから色々と制限が…。

 どうしてこんな過去編を書こうと思った作者よ? 馬鹿なのか?

 苦しみもがく作者の必死の努力を感じて貰えたら幸いですw

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