私が消すわよ
Main Storyは一端ここまでとなります。
「間違いありません。これは魔道具です。『転移』の術式が刻まれています」
「そうか」
一礼するメイドにシュニットは息を吐いた。
新しく見習いとして城に来ることとなった"メイド長"を見た時、流石のシュニットも苦笑いするしか無かった。
髪を短くし変装の為か眼鏡をしている彼女は、先頃騎士の地位を不名誉な理由で失ったはずの人物だった。それを『メイド長見習い』として城に送り込んで来るとは、流石前王は食えない人物だと痛感させられる。それとも弟の悪企みなのか? 考えるだけで頭痛がした。
「つまりこれは処刑されたグローディアが封印倉庫から持ち出した物として判断しても良いのだな?」
決め打ちにも思える国王の言葉に、メイド服姿のフレアは控えめに返事をする。
「それは断言できません。同じ物を偶然手に入れた可能性もありますから」
「それは無い。あれは最近その手の買い物をしていないと調べが付いている」
「……そうですか」
フレアとしてはこれ以上弁護は出来ない。命を救って貰った相手なだけにどうにか手助けしたかったが、シュニット王は完璧なまでに調べ上げていたのだ。
これを否定するのは自分の身が危ないと判断し……フレアは肯定に回るしか無かった。
「アルグスタ・フォン・ドラグナイトを呼べ。
病気で休んでいるそうだが……登城出来るのであれば至急来るように申し付けろ」
「はっ」
王の指示が出され……それを聞いたフレアは深い溜息を胸の中で吐いた。
きっとまた元上司はとんでもないことをやらかすに違いない。それがアルグスタと言う人物であるとフレアは理解していた。
「アカン。近年稀に見る大ピンチだ」
「はい」
「どうしようノイエ」
「大丈夫!」
「……どうしようノイエ?」
「大丈夫?」
自信満々だったお嫁さんが何故か視線を逸らした。
こっちの表情を察して『ダメ』と判断したな? その成長が嬉しいよ全く!
あの日完全に忘れていた転移の魔道具をコンスーロのオッサンが回収していたらしい。
ぶっちゃけ今朝、お城から来た使者の言葉を聞くまで存在自体忘れてたよ!
何よりここ最近病気を理由にずっと寝室に居たしね。
病気と言うかちょっと元の世界に戻ってから、ノイエの中でリアルハーレムは地獄と言う体験をしただけだけど……そこから戻って来てこの2日間、ノイエが抱き付いて離れなかっただけです。
可愛いお嫁さんがずっと甘えん坊モードで甘えて来るから全力で相手をしていたら、結果として6日ほど無断欠勤してました。それを叱られるのかと思ったら……グローディアが盗み出した魔道具についてだと? そんな言い訳直ぐに思いつくか!
「アカン。今度ばかりは終わったかもしれん」
「大丈夫?」
「……ノイエ」
「はい」
「最悪2人で逃げようね。遠くに」
「はい」
甘えて抱き付いて来るノイエが居れば、最悪逃亡者になっても良いや。
今回は本気で逃げ道を潰しに来たな、お兄様よ?
絶対僕の顔は引き攣っているはずだ。向かいに座る馬鹿兄貴が目元を横に引っ張って笑ってやがる。
後ろに立っている美人なメイドさん。その馬鹿に天誅を!
「調べは付いているアルグスタよ。お前はドラグナイト家を興してから"一度"も魔道具の類は買っていない。ならばその転移の魔道具はどうした?」
「……拾ったとか苦しい言い訳でも良いっすか?」
「無理があるな。そのような高価な道具を捨てる者が居るとは思えん」
「ですよね~」
場所は国王の執務室。
国王はいつもの机の所に居て、向かいのソファーには馬鹿王子とメイド姿のフレアさん。こっちには僕とノイエだ。
最悪ノイエに抱きかかえて貰って逃げ出すしかない。
現状として僕は最悪な容疑が掛けられている。犯罪者を匿っていると言う容疑だ。
「グローディアの骨が偽物だと言う調べは付いてるからな……後はお前が彼女を匿っていると言えば丸く収まるぞ? アルグよ?」
「匿って無いし」
「ならグローディアが盗んだ魔道具をどこで手に入れた?」
「……」
さあ考えろ。どう言い訳する?
Q.どこで手に入れた?
A.彼女の屋敷跡で見つけました。
Q.何故そのような場所に行った?
A.趣味で。
Q.何処で見つけた?
A.隠し扉があってその中から偶然。
これだ! 地獄の底で蜘蛛の糸を見つけた気分だよ!
「それにアルグスタよ」
「はい?」
手を組んで顎を乗せた国王様がとても冷静な目を向けて来る。
「お前の両腕のプレートだが、アイルローゼが刻んだ物と言う話であったが違うであろう? お前が彼女が刻んだプレートを買っていないと言う調べも付いている。
何よりお前は何も刻まれていないプレートと魔法書だけを買っている。それらを何に使った?」
はい。グローディアの件を乗り切っても次の質問は言い訳のしようがございません。
購入の有無とかどこで調べたの? お兄様の密偵が凄すぎるんですけど……。
「……完璧に調べてますね」
「見逃せない名前ばかりだからな」
そっちの調べも付いてるってことは、つまり先生の生存も疑われているってことか。
捕まえたのは目の前の筋肉王子でしょうに。疑うなよもう!
流石に前回の1件で無理をし過ぎた。
ある程度のピンチは考えていたけど、八方塞がりは想定してない。
「答えられんか? アルグスタ?」
「……はい」
「なら今から国王命令でお前の職務を解かざるを得ん。それでもか?」
「……」
言える訳が無い。
僕は誰を敵に回してもノイエの家族を裏切らない。そう決めたんだ。
なら……。
目を閉じて息を吐いて覚悟を決めた。後は出たとこ勝負だ。
「陛下。それでしたら」
「別に言えば良いじゃないの。馬鹿らしい」
「「っ!」」
突然の言葉に全員の視線が"彼女"に向けられる。
優雅に足を組んで気怠そうにする彼女は……僕の自慢のお嫁さんだ。
でも傍から見て分かる。いつものノイエで無いと。たぶん先生だ。
「どうして?」
自然と声が震えた。自分の隣に居る人物は笑みを浮かべる。
「自分が言ったのでしょ? 『どうにもならないほど困ったら助けて欲しい』って」
クスクスと笑ったノイエがその色を赤くして本性を晒す。
完全に先生となった彼女が……その目を驚き目を見開いているメイドへと向けた。
「メイド服が似合っているわねフレア? また『わたしのご主人様はあの人だけです!』とか言い出すのかしら?」
「……まさか」
顔色を蒼くさせたフレアさんがブルブルと震える。トラウマでも抉られましたか?
馬鹿王子と陛下も身構えていつでも動ける気配を見せているが……諦めろ。相手はある意味ノイエより始末に負えない。
辺りを一瞥し、先生がラスボスのように口元に笑みを浮かべた。
「このアイルローゼを忘れるなんて本当に馬鹿な弟子ね。それだから周りに迷惑をかけるのよ?」
「っ!」
衝撃を受けたように息を飲んで、フレアさんがまた数歩後退する。
多分あの人も本能から、ノイエの形をした人物が本物だと気付いたのだろう。
「さて……まずは紅茶かしらね。それから具体的で全員が幸せになれる話し合いをしましょう」
「……断ると言ったら?」
国王様が苦い表情でそう問うて来る。
「その時は簡単よ。ノイエの体に寄生し住み着いているこの術式の魔女と全面戦争ね。私は初手から終末魔法を全力で放つから、貴方たちは頑張って国を護りなさい。それが王家の務めでしょう?」
優雅にフレアさんに紅茶を求め、先生がそんな物騒なことを言い放つ。
僕もユニバンス一の厄介者とか呼ばれているけどさ……先生に比べたら可愛いと思うよ。本気で。
「さあ国王シュニット。そして王弟ハーフレン。この術式の魔女を前に、前王ウイルモットほどの胆力を見せなさい」
魔女がクスッと優雅に笑う。
「死ぬ覚悟も無く国の頂点で踏ん反り返っているなら……私が消すわよ」
ほとんど脅しからの交渉がこうして始まった。まあ交渉としては間違えて無いのか。
ただ相手があの術式の魔女アイルローゼだというだけで。
(c) 2019 甲斐八雲
作者の独り言
弟子に無茶をさせた責任を取って先生が姿を現しました。弟子との約束でしたしね。
そして始まる交渉と言う名の脅し合い…この結果は次回からの本編にて語りましょうか。
と言う訳で今回の本編はここまでです。
例のヤツを挟み次回からはSide Storyの方が始まります。
何をするのかは始まるまでのお楽しみと言うことで。
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