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年寄りは裏方で頑張れば良いのです

 王都の護りと言う本来の仕事に戻る為、僕とノイエは急いで王都へ向かう。

 途中コンスーロさんたちと合流し、食糧を分けて貰ってノイエに補給させる。


『どうして王都に居るはずの貴方があちらから?』と苦笑して頭を掻くオッサンには、仕えた主人が悪かったのだと諦めて貰い、一緒に苦行の道を進んで貰うこととした。簡単に言えば始末書の山だ。


 問題は、ミシュはだいぶ前だな……全力で王都に向かっていると見える。


「ノイエ」

「はい」

「ミシュに追いつける?」

「頑張る」


 グッと拳を握ってやる気を見せる。本当に可愛いお嫁さんだな。


「ならミシュを追い抜いて先に王都へ」

「はい」


 ノイエに抱えられて僕らは王都へと急いだ。




 仲の良い夫婦を見送り、コンスーロは頭を掻く。

 ミシュからは『急がないとヤバいの! 色んな意味で終わるから食べ物だけ頂戴! あの馬鹿がどうしたって? それ以上の馬鹿が来て、根底から全てを引っ繰り返したよ!』と訳の分からない言葉を得ていたが。


「本当に……無茶をするのがユニバンスの血筋らしい」


 故にこの国は強いのかもしれない。

 国を支配する者が率先してこんな無茶をするのだから……仕える者としてはたまったものでは無いが。


「苦労させられる身になって欲しいですがね」


 愚痴を放ち彼は停止していた部下たちと共に先を急ぐ。

 指示された通りの場所に主人たちは居て、そして連れ去られていた『彼女』も一緒に居た。


 本当にやって来た部下たちを見つめ苦笑した主はいつも通りの雰囲気に戻っていた。

 それだけでも無茶に付き合った甲斐があったと感じコンスーロも苦笑する。


「済まんなコンスーロ」

「いいえ。もう諦めております」

「言うなよ。今回の罪は大半俺が被る。アルグの分も含めてな」

「……貴族たちや大臣などが一斉に噛みついて来ますが?」

「仕方ないだろう? その時はその時だ」


 いつもの主人らしい言葉にコンスーロは息を吐きかけた。


「頭の一つでも下げてアルグにでも協力させるよ」

「……そうですか。だったら罪を被らず巻き込んだ方が手っ取り早いですが?」

「それはあれだ。俺の矜持だ。うん」


 カラカラと笑い怪我をした部下たちの移動に手を貸す主人を見て、コンスーロは心の中で笑った。

 何があったのかは知らないが、彼は間違いなく成長したのだろう。それが嬉しかった。


「……コンスーロ様」

「フレア様」


 控えめな足取りで歩いて来た女性は、恭しく迎える男性に頭を振る。


「私は罪を犯しました。ですからそのような呼び方は」

「ですがまだ貴女の罪は確定していない。なら確定するまで貴女はクロストパージュ家の令嬢フレア様です。ですからそのように振る舞われるよう願います」

「……はい」


 薄っすらと涙を浮かべて頷く彼女に、彼は自身が羽織っていたマントを外すと肩に掛ける。


「着替えの準備を失念しておりました。お許しを」

「平気……」


 言いかけて彼女はそっと自分の腹部に手を伸ばす。


「出来たら何か着れる物を。何でも良いので」

「分かりました。探してみます」


 彼女の動きに不自然さを感じたがコンスーロは気にせず、部下の誰かが着替えの1つを持っていることを期待し声をかける。

 どうにか替えの肌着を手に入れそれをフレアに手渡すと、彼女は急いで物陰へと飛んで行った。


「コンスーロ」

「……これはメイド長」


 初めて呼び捨てにされたことに驚きながら、コンスーロは一礼をし相手の腰の飾りを見た。

 見間違えではなく現在2家しか存在していない王族一族の飾りだった。


「改めて自己紹介を。スィーク・フォン・ハルムントです。ウイルアムからは『何かあった場合イールアムを支えるように』と言われているので、しばらくはメイド長の地位を返上します」

「左様にございましたか。失礼のほどを」


 間違い無き王族一族の現当主とも言える人物に、コンスーロは内心冷や汗をかいていた。

 何より決して敵に回してはいけない人物と化していたからだ。


 やんわりと笑ったスィークは、その表情を普通に戻した。


「構いません。それでコンスーロ」

「はっ」

「わたくしにも食糧を。急ぎ王都に戻りアルグスタの手伝いをしようと思いますので」

「はっ」


 視線で部下に指示を出す。

 本当に良く出来た副官に、スィークは口元を緩めた。


「それと急ぎ洞窟内の見分を。

 ゾングとゴーンズが居たとハーフレンが言っておりました。何かそれの証明になる物があるか調べるように……今回のことが過去の罪人の行いであると証拠が出て来れば、あの大馬鹿な甥も少しは対抗策を練ることが出来るでしょう?」

「はっ」


 クスリと笑いスィークは一歩彼に近づき顔を寄せた。


「何よりわたくしたち年寄りは裏方で頑張れば良いのです。このような時代としてしまった責任はわたくしたちにあるのですから」

「私もそう思います」

「なら後を頼みます。わたくしも急ぎますので」


 食糧を収めた皮の袋を受け取ったスィークは、人とは思えぬ速さで駆けだし姿を消した。

 それを見送ったコンスーロは、軽く肩を回すと……数人の部下を引き連れ洞窟内へと入る。


「お前たちは奥へと向かえ」

「「はっ」」


 通路を歩いていた彼はそれに気づき、部下たちを先に行かせた。

 コンスーロは騎士であり魔法使いでもある。故にそれが何かを理解出来た。


「この刻まれた魔法語から……転移の魔道具? まさか過去に封印倉庫から消失した?」


 地面に置かれたままのそれを拾い上げ、描かれている言葉を確認する。

 間違いない。"あの日"が生じた新年に、王城の封印倉庫から盗み出された魔道具のうちの一つだ。


 ただの絨毯らしき物に魔法語を刻んで魔道具にするなど、術式の魔法を専攻している者でも絶対に出来ない。あの術式の魔女でも不可能だろう。

 一度程度の使用なら出来なくも無いが、布には魔力を通し使用した残滓がはっきりと残っている。

 最低でも一度以上使用し、燃えることなく残ったと言うことは……刻印の魔女が作った物である。


「どうしてこのような物がここに? それよりも……」

 

 魔道具の存在よりも、この魔道具を盗み出した犯人が一番の問題だ。

 封印倉庫内から転移の魔道具を盗み出した犯人は分かっている。


『殺戮姫グローディア・フォン・ユニバンス』


 それが何故ここに? そして王都に居るはずの彼がどうしてここに?

 考える必要もなく答えが見えて来る。


「……アルグスタ様。貴方は厄介者だが詰めが甘い」


 騎士である以上、これは報告をしなければならない案件だ。

 きっと弟を庇うであろう主人では無く、仕える国王に対して。


 掴んだ物を懐へと押し込み彼は苦笑した。


「それでも貴方ならまた驚くような方法で引っ繰り返すのでしょうね」


 それがアルグスタだとコンスーロは理解していた。




(c) 2019 甲斐八雲

 作者からの一言


 うっかり回収を忘れてしまった転移の魔道具。これが理由でアルグは窮地に……でも先の話っす

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