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絶望の底に希望なんて無かったんや

「手紙は持ちましたね? ミシュ」

「持ってはいないです」


 事実としてミシュは手紙を持っている。手には持っていないだけだ。

 胸の余白の多い部分に差し込まれて泣きそうな顔をしているのはいつものことだからスルーで。

 ただどうしてスィークさんがミシュの首根っこを掴んでいるのかが分からないけどね。


「コンスーロは王都から真っすぐこっちに向かうことでしょう。ならばこの角度で良いはずです」

「一応何かの時の為に、等間隔で光魔法の信号弾を打ち上げるように伝えてあるけど?」

「良い仕事ですアルグスタ。どこぞの馬鹿王子にも見習って欲しい」


 実際後で食糧補給に寄る時に見つけられないと面倒臭いからと言う横着ですが。


「ならばミシュ」

「あの~師匠? 冗談ですよね?」

「いいえ」


 きっぱりと言い捨て、スィークさんはそれはそれはとても良い笑顔を見せた。


「今日は随分とわたくしを『ババア』と呼びましたね。その性根を直すのは帰ってからするとして、今は手っ取り早くお仕置きと助走を」

「あれをやられたらマジで死ぬから!」

「貴女は強い子です。死んだら……部屋に住むカサカサな虫が悲しむくらいでしょう」

「人っ! せめて人であっ」


 恐ろしいほどの速度でスィークさんが駆けて行くとその姿が消えた。


 しばらくすると遠くで『死ねババア~!』と言う声と豆粒ほどの何かが宙に浮かぶ姿が見えた。

 もしかして……あの人も祝福持ちか?


「これで多少はミシュも早く着くでしょう」

「えっと……」


 恐ろしい早さで戻って来た叔母さんは、とても上品に携帯食のビスケットを食べています。


「今のって祝福ですか?」

「ええ。ただ速く走るだけの何の芸も無い物ですが」

「走るだけなの?」

「はい。足さえつけばどこでも走れる『瞬足』と言う物です」

「……」


 足さえつけばって、もしかして水面の上とかでも走れちゃう系っすか?

 何このリアル忍者。ちょっと憧れるわ~。


「さて。そろそろ中の様子でも」

「のわ~っ!」

「のわ?」


 慌てて彼女を制する僕に、不信感いっぱいの目が。


「あれです。まだちょっとあれがこれしててそれしてるから」

「はっきり言いなさい」

「……馬鹿兄貴がまだ頑張ってるはずだから、もう少しだけ待っててあげて下さい」


 頭を下げてお願いする。


 ぶっちゃけ兄貴の方はどうでも良いんです。あれで失敗するなら叔母様に頼んで性根を入れ替えて貰うから。ですが現在ノイエはシュシュになって黄色いんです。あれを見られたら流石に言い訳出来ない。


 数瞬の後にスィークさんが息を吐いた。


「良いでしょう。ならばここの怪我人の手当てが終わるまでに終わらせなさい」

「はい。って治療とか出来るのですか?」


 鼻で笑った叔母様は、包帯を手に取るととても慈悲深い言葉を発した。


「わたくしが手当てをするのですから、それで治らないのは手当てを受けた方に問題があります。すなわちそんな屑は要りません。息の根を止めて埋めて行きます」


 静寂が訪れ、痛みに唸っていた騎士たちの口が閉じられた。


『何か力が湧いて来たな~』『今の俺なら走って帰れるぜっ!』などなど……怪我って脅しでも治るんだ。病は気からと言うけど、怪我も気からどうにかなるのね。

 ただ何故か彼女の目が半眼に。


「つまりこれは怪我と自称し怠けていたと言うことでしょうか?」

「「すごく痛いですっ!」」

「宜しい。治療しましょう」


 どうやら治療行為をしたかったらしい叔母様の手により、騎士たちに包帯が巻かれて行く。ってそれはちょっと締め過ぎなのでは? 血流が止まっているように見えるんですけど?


 地獄絵図が展開されそうな気がするので、こっそりと洞窟に入り奥へと向かう。


 はて? 何か忘れているような……まあ良いか。


 歩くことしばらく、奥の部屋ではまだ光る箱が存在していた。


「まだやってる?」

「うお~ん。旦那ちゃ~ん」

「どうしたの?」


 何故か頬を上気させたシュシュが箱に抱き付いていた。


「凄いよ~凄いの~壮絶だぞ~」

「修羅場っすか」


 選択肢を違えたか兄よ。骨は拾ってやろう。


「見る~?」

「惨状ぐらいは把握しといた方が良いかな」

「どうぞ~」


 ポカッと目の前に窓が出来る感じで中の様子が見える。

 うん見えるね……見え過ぎじゃない?


「ふおっ! 何かあり得ない角度であり得ない動きをしてるんですがっ!」

「だぞ~。あんな~幼かった~フレアが~。お姉ちゃんは~嬉し~恥ずかし~だぞ~」


 いつものフワフワじゃ無くクネクネと動いているシュシュの動作が物語っている。

 大人ってあんな凄い動きとかするんだ。僕ってばまだまだ子供だったのか。


「凄いぞ~。みんな~大興奮~だぞ~」

「ちょっと待てシュシュ」

「何だ~ぞ~。忙しい~ぞ~」


 じっくりと見てやるな。何かこれは弟と言うか家族として見ちゃいけない類のあれだ。

 両親が夜中こっそり頑張っている所を見てしまったような罪悪感が半端無い。

 それは良い。もう見なければ良いし、そうして子供は色々学ぶんだ。たぶん。


「みんな大興奮って?」

「みんな~だぞ~。ホリー~なんて~最前列~から~動か~ないぞ~」

「引き剥がしてっ! 具体的に全員からあれを求められたら僕が死ぬから!」

「あ~。諦めが~肝心~だぞ~」

「何でだよっ!」


 まだだ! まだ間にはずだっ!


「……これで~もう~3回目~だぞ~!」

「話し合いって最初っからボディーランゲージだったの!」


 絶望した。絶望の底に希望なんて無かったんや……。




(c) 2019 甲斐八雲

 作者からの一言


 見ていないのはディアぐらいです。セシリーンは見えないだけで確り聞いてます。先生は……

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