こんな雑魚じゃ燃えないよ!
ユニバンス王国内、とある岩山の洞窟の中
「あれからの報告が届いたそうだな?」
「ええ。小竜がこれを」
竜司祭は小竜が咥え運んで来た手紙の入った筒を相手に渡す。
受け取った男……ゴーンズは、その中身を確認した。
「余程優秀な密偵を抱えているらしい。この場所を見つけ出し、近衛の団長が手勢を連れて王都を出たそうだ。あの白いドラゴンスレイヤーの娘を連れてな」
「それはそれは、僥倖」
クククと笑い竜司祭は視線を巡らせる。
壁に繋がれている小娘は完全に準備を終えている。
今なら命じればどんなに愛して止まぬ相手でも迷うことなく殺めることだろう。
彼女は、竜司祭が信じ忠誠を誓う皇に身も心も捧げているのだ。
これでドラゴンスレイヤーの亡骸までもを捧げるようなことが出来れば、自分の地位はますます高まる。
竜司祭は、皇の近くで仕え従う自分の姿を思い浮かべた。
「これで貴方たちの復讐も完遂ですね」
「ああ」
ゴーンズはほくそ笑みながら手紙を懐に押し込んだ。
「あの憎きユニバンス王家の一族も死に絶える。あれが持つ宝玉は司祭殿の眷属だ。オーガや黒髪の小娘では退治など出来ない」
「ええ。実体を持たぬあれ等を斬ったり殴ったりは出来ない。王都はきっとドラゴンたちに蹂躙されることでしょうね」
「ああ。それにゴブリアスも居る。薬の使い過ぎで動く死体と化し、そして我らの施設で疑似的な竜人となったあれを屠れる猛者など王都には居ない。滅び去れば良い。あんな国など」
ゴーンズは笑いながら、自室と使っている洞窟内部の小部屋へと向かい歩いて行く。
復讐の炎に身を焦がす相手を見つめ、竜司祭も内心でほくそ笑む。
「復讐など勝手にすれば良いのですよ。こちらは手を貸しますが、ね」
彼は壁に繋がれている女性の元へ歩み寄る。
力無く頭をもたげている相手の髪を掴み持ち上げると、黒い瞳に深い闇を宿していた。
「さあ仕上げですよ。貴女を皇に相応しい供物としましょう」
「……」
何も答えず、フレアはただ黒い瞳で虚空を見つめていた。
ユニバンス王国王都
「アルグスタ様っ!」
「ほ~い?」
入り口から飛び込んで来たルッテがこっちを見て苦笑する。
「……何でもう飽きた感じで居るんですか!」
「感じでは無くて飽きたのです。癒しが無いのです。チビ姫の黄色い下着も見飽きたのです」
「な~です~」
ソファーでうつ伏せになって足をパタパタしていれば下着も見えると言う物です。
前まではナーファが居てこっそりと隠していたけど、医者の先生が戻って来たので彼女は自宅に戻った。
結果として捲れたスカートを戻す人が居なく、チビ姫は毎日ここで下着を晒す生活を。
「見られたです~。おにーちゃんは変態さんです~」
「ふっ……笑止。そんな色気の無い下着をしているから、まだまだお子ちゃまなのだよ! 君はいくつか問いたいわっ!」
「何が……です?」
衝撃を得たのかチビ姫がおののく。
残念な義姉に現実を教えるのが、弟としての使命である。
「もっとクレアを見習って、こ~んな、こ~んな感じの下着を履きなさい!」
「こ~んな、です?」
愕然とした全員の視線が、資料整理をしているクレアに向けられた。
耳まで真っ赤にしてプルプルと震えた彼女は……何も言わずそのまま机の下に消えて行った。
「当たりだったか。流石クロストパージュの令嬢だ」
「こ~んなです。頑張るです」
手で下着の形を作り自分の下腹部にあてているチビ姫から視線を外す。
部屋の入り口で呆れ果てた感じのルッテと目が合った。あっ存在忘れてた。
「ルッテの下着は普通だよね?」
「ですね。って何の話ですかっ!」
「年相応の下着の話?」
「そうじゃなくて、見つかったんですよ! 大型の荷車が!」
腕と胸を震わせてルッテが犬のように吠える。
そんなに胸を大きく揺らすな。ここには小さい人しか居ないんだから。
でも大きい胸は良い物だ。大きく揺れるのは最高じゃないか!
「あの~アルグスタ様? 突然どうしたんですか?」
机に額をぶつけだした僕にルッテがそう声をかけて来た。
うん。そっとしておいて。ちょっとした地雷を踏み抜いて大変な精神汚染を受けただけだから。
「で、コンスーロのオッサンに報告は?」
「はい。近衛から人員を向かわせるとのことです」
「そっか……」
一度落ち着いて下着と巨乳を忘れよう。
ホリーからの指示では、化け物にそれなりの戦力を当てて、敵の本命が動くのを待てば良いらしい。
ただ敵の狙いはここと王妃様が住む屋敷だ。
「ほ~い。全員注目」
パンパンと手を叩いて全員の目を集める。
早速チビ姫とお菓子を食べ出しているルッテが、一番の自由人だな。
「たぶんこれから目まぐるしく敵の襲撃を受けるかも知れません」
「「はい(です)?」」
綺麗に声が揃って全員が首を傾げたよ。ただチビ姫が輪を乱しているな。
「そこで今から先手を打ちます」
いつまでも受けているだけと思うなよ?
今回の僕は結構マジギレしてるんだからな。
「これをアルグスタ様が?」
「はい。多分急げば間に合うと」
「だが」
「『ご安心ください』と重ねて言ってました。騎士を動かす事態は生じさせないとも」
一枚の紙を手にやって来た少年のような相手の言葉にコンスーロは苦笑した。
どうやらこの国にはまだまだ恐ろしく、そして将来有望な若者が多く居るらしい。
「なら言葉に甘えることとしよう。アルグスタ殿に宜しくと伝えて欲しい」
「はい。必ずやお伝えします」
相手の返事を見て、コンスーロは部下に対し新しい指示を下した。
彼はその時を待っていた。
手はず通りならそろそろ最初の行動が起きるはずだからだ。
懐にしまってある物を何度も確認し、合図となる行動を待った。
『きゃぁ~』
『化け物だ~』
人々の悲鳴の後に天へと昇る土煙を見た。手はず通りに行動が起きたのだ。
彼は覚悟を決めて走り出した。折角得た機会なのだ。
あのユニウ要塞で蠢く死体を見た時は心底驚いたが、それ以降あれを管理すると言う仕事を得てどうにか生き永らえて来た。
そしてこれが成功すれば、もう少し良い生活が出来るはずなのだ。
彼は折れ曲がって潰れた鼻を擦って、騒ぎとは別の方へと走り出した。
指示に通り狙うは、王城と前王の住まいである屋敷だ。
荷車に括りつけられていた彼は、拘束を解かれ自由を得た。
そして下された命令は『全てを殺せ』だった。だから指示を出した男の頭を掴んで捩じり殺した。自分の行動に停止を指示しようとした男に死体を投げつけて黙らせた。
「ゴロズ……ゼンブ」
巨人と呼ばれていた男は荷車の上に置かれていた戦斧を掴むと、立ちはだかる倉庫の壁を破壊した。
「きゃ~」
「化け物だ~」
そう声を発して誰一人として逃げない。
巨人は何も考えず、何も考えられず……ただ目の前の人間を殺す為に動き出す。
「この手の化け物は好きじゃ無いんだけどねっ!」
声と共に放たれた拳を受け、巨人は元居た倉庫へと吹っ飛び戻される。
ゴキゴキと拳を鳴らして楽しげに笑うもう一人の巨人……オーガのトリスシアは、自分ほどの体格を持つ相手を見下した。
「図体だけ大きくても弱けりゃ意味が無いんだよ。少しぐらい根性があるならアタシを楽しませな」
「ゴロズ……ゴロズ……」
「何だ。とっくに人間を辞めてたのかい?」
相手の返事を聞いてトリスシアは無造作に近づくと、彼の足を掴んでそう庫から引きずり出した。
大半が腐り、腐臭を漂わせる人間だったモノだと確認する。
「つまらない相手を寄こすんじゃないよ。あの王子……後で追加報酬を貰わないと気が済まないね」
掴んでいる足を片手で釣り上げる。ジタバタと暴れる巨人を地面へと叩きつけた。
「こんな雑魚じゃ燃えないよ! 白い娘を連れて来なっ!」
本物の巨人による一方的な暴力……人間の形をする存在でしか無かったゴブリアスは、あっと言う間にバラバラにされた。
(c) 2019 甲斐八雲
作者からの一言
ゴブリアス(改)対オーガのはずが……トリスシアの姉さんは、マジで強すぎるんです。チートキャラですから




