表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Side Story 02 追憶② 『愛しいからこそ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

423/2336

煉獄

 地面に()してハーフレンは必要とあれば拘束されることも辞さない気持ちでいた。

 自分の行いが、その地位が……やってしまったことに対する責任を求めるはずだからだ。

 後悔は無いが、小言は正直勘弁して欲しい。


 頭を掻こうとして今は我慢する時だと理解し堪える。

 暇潰しに辺りを見渡せば、自分の後ろには部下たちが同じ様子に座っていた。

 若干一名だけ寝そべっているが気にしない。気にしたら絡まれる。


「何だよう?」

「何でもない」


 見ていただけでも『遊んでくれ』とばかりに絡んで来た。

 やはり放置した方が良さそうだ。


「待たせた」

「いいえ」


 天幕の中に入って来た大将軍は、潔く地面に座している若者を見て苦笑した。

 これで自分は『王子を地面に座らせた大将軍』として名が残ると、自嘲的にもなる。


 だが相手の強い意志を感じるからこそ、彼は椅子に座り直すようになど言わない。

 椅子に腰を掛け、シュゼーレは目の前の人物を見た。


「ハーフレン王子」

「はい」

「誰の許しを得てこの場に?」

「誰の許しも得ていません。強いて言うなら自分でしょう」

「そうか」


 胸の内でシュゼーレは笑う。


 やはり自分の目に狂いはなかった。

 政治に長けているシュニットと軍事に長けているハーフレン。

 この2人が手を握り協力し続けている限りこの国の未来は明るい。

 出来れば2人が争わぬように仲を持つ存在が欲しいが……それは贅沢と言えよう。


「貴公は自分の許しを得てこの場所に来たと?」

「はい」

「それは何故?」

「……ちょっとした復讐です」

「復讐と?」

「はい」


 背筋を伸ばしハーフレンはただ素直に自分の気持ちを口にする。


「負けっぱなしは性に合いません。だから勝ちに来ました」

「……性に合わんか。そうか……くくく……あははっ!」


 我慢出来なくなったとばかりにシュゼーレが声を立てて笑い出す。

 目の前に居る若者こそ生粋のユニバンスの男だ。


「その負けず嫌いな所は嫌いではない。だが起こした行いに責任を取って貰おうか」

「はい」

「第二王子ハーフレン・フォン・ユニバンスに告げる」


 懐から一枚の紙を取り出し、シュゼーレは今一度目を通す。

 それは早馬で王都から飛んで来た騎士が届けた手紙であり、国王陛下からの物だ。


「ユニウ要塞攻略まで大将軍の元で良く学ぶこと。以上」

「……はい」


 突き出された手紙には……本当にそれしか書かれていない。

 ハーフレンは苦笑しながらそれを懐に押し込んだ。


「では部下となった貴方には、自分から罰を申し上げましょう」

「はい」

「ユニウ要塞が陥落するまで後方にて物資の管理と警護を命じる。

 勿論ご自身の部下に頼るのではなくご自身で数を数えて管理するように……以上」

「はっ」


 頭を下げてハーフレンは素直に罰を受け入れた。

 と、大将軍は軽く身を乗り出しハーフレンを見る。


「お見事でしたぞ王子。見事復讐を果たした」

「……まだまだです」

「ですが今回はこれ以上の勝手は許しませんぞ。早々に後方の部隊と合流して下さい」

「はっ」


 座したままで一礼をし、相手の許しを得てから立ち上がったハーフレンは……腹を掻いて寝ているミシュを捕まえて、それを小脇に抱えると天幕を出て行った。


 王子の背を見送ったシュゼーレは、懐に手をやるともう一枚の手紙を取り出す。

 それには国王陛下からこう書かれていた。


『済まぬが、もしハーフレンが何をやらかした場合、目に余る酷いことでなければ握り潰して欲しい。

 これは国王としてではなく一個人……父親としての頼みだ』


「本当に無茶なことばかり言ったりやったりする親子ですな」


 やれやれと肩を竦め、シュゼーレは次なる仕事へと向かった。




 ユニウ要塞を包囲して5日目の夕方……要塞に立て籠もる男たちはそれを見て驚いた。

 包囲している敵が陣を引き払っているのだ。


『もしかして総攻撃か?』『共和国の増援が来たのか?』などと口々に話し合う。そうしなければ不安で仕方ないのだ。


 正門を護っていた巨人が敵の手で殺されたことは真新しい事実だ。

 この要塞の最強が討ち取られたことは、立て籠もる兵たちの心に影を差した。


 翌日の早朝。荷物を抱えて要塞を出て降伏しようとする者に対し、こちらから矢を射かけることがあった。逃げ出した者たちは矢を受けて全員死んだが……不安は増幅した。


 何より要塞を支配している貴族たちは、自分たちだけで酒と女を楽しんでいる。

 不安や不満が重なるにつれ……兵たちの動揺は広がるばかりだ。


 だがそんな気持ちなど微塵も関係しない攻撃が……要塞よりも遠き地で解き放たれた。

 上級貴族クロストパージュ家に伝わる秘匿魔法にして大規模術式『煉獄』だ。


 刻印の魔女が生み出したと言うその術式は、『要』となる場所から決められた範囲内に半円のドームを作り出しその中を延々と燃やし尽くす魔法だ。


 使用するプレートに注いだ魔力の量により、燃え続ける時間と熱量が決まる。

 故にクロストパージュ家当主のケインズは動員できる全てを呼び寄せて実行した。


 その集めた魔力は……要塞を半日ほど燃やし続けたのだ。

 こうしてユニウ要塞は何も残らずに全てを灰にして消滅したのだった。


 呆気無いほどあっさりと、そして見る者を凍らせる恐怖を顕現し……反乱は僅かな時で終焉した。




(c) 2019 甲斐八雲

 作者の独り言


 国王のお陰でハーフレンは最初から参軍していたことに。

 結果として…命令違反だけど敵の大将首を取ったからプラマイゼロどころか完全にプラス評価ですね。

 この評価がのちの"あれ"を生むことになろうとは…。


 で、刻印の魔女の魔法再びです。

 意外と刻印さんはあっちこっちに魔法を残していますが、余りに強力過ぎるから知る人が秘匿してしまう傾向があります。


 で、クロストパージュ家の秘匿魔法『煉獄』です。

 要となる場所から半円のドームを作り出してその中を高温の炎で焼き尽くす魔法です。

 今回はクロストパージュ家の主要な者を集めて魔力を注いだので、半日燃えましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ