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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Side Story 01 追憶① 『愛しき君へ』

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それでもお会いしますか?

 兄に手を引かれ歩く少女は、何も分からずに左右を見渡す。

 自分たちを見つめる大人たちの視線に恐怖を覚えるが、その手をしっかりと握ってくれる兄が居るから我慢出来る。


 良く分からないまま馬車でやって来た大きな建物。

 一番上まで見ようとして……フレアはひっくり返りそうになった。

 それほど高く大きく広い建物の中を歩いている。


(怖い)


 キュッと兄が握ってくれる手に力を籠めると肩越しに彼が顔を向けてくれる。

 柔らかく微笑んでくれるが声も無い。頭も撫でてくれない。


 きっとここはそう言うことをしてはいけない場所なのだろうと……幼いなりにも礼儀を教えられているフレアは何となく理解した。

 自分が出来ることは……黙って兄の後ろを歩いて行くことだと。


 本来手を繋いで歩いていることが少々問題ではあるのだが、幼いフレアにはそれが分からない。そしてハーフレンはそんな忠告に耳を貸さない。

 メイドの案内で通された場所は……謁見の間であった。




「大きくなったなハーフレンよ」

「はっ」

「見違えるようだ」


 玉座に座る王は我が子に対して他人行儀に接する。

 それが形式であり、綿々と続く決まりなのだ。


 父親に対して片膝を着いて臣下の礼を取る息子とその横で所在無げな様子の少女。

 ウイルモットは息子への挨拶を済ませると、優しげな眼を少女に向けた。


「フレア・フォン・クロストパージュだな」

「はっぃ……」

「良い良い。幼きお前にこの場は辛かろう」


 理解していない少女の返事に大臣たちの視線は厳しい。

 だが王が許したことで誰も文句など言えなくなる。


「お主の母フロイデには本当に世話になった。これからは儂を父親とでも思い王都で暮らすと良いぞ」

「はぃ」


 ペコリと頭を下げてフレアは兄に抱き付く。

 優しげな眼を息子へと向け直し、ウイルモットは表情を王へと戻した。


「ハーフレンよ」

「はっ」

「お前には近衛になるべく鍛練を科すこととする」

「はっ」

「良く励み国を支える人材となれ。良いな」

「はっ」


 王が立ち去るまで頭を下げ続け……ハーフレンは大きく息を吐いて顔を上げた。

 と、先ほどまで王が居た玉座の横に一人の女性と男の子が居た。


 ひと目でハーフレンは相手が誰かを察した。

 トパーズ・フォン・ルーセフルトだ。

 なら手を握られ指を咥えている男の子が年の離れた弟……アルグスタだろう。


 しばらくハーフレンを睨みつけた彼女は、子供を連れて立ち去って行った。


「ハフ兄様?」

「心配するなフレア」


 立ち上がり礼に欠くが、ハーフレンは少女の頭を優しく撫でた。


「お兄ちゃんがお前を護ってやるからな」

「はい」


 笑顔を浮かべて抱き付いて来る少女を何度も撫でてやり……ハーフレンたちは謁見の間を後にした。




 王都での生活の場は王城を想定していたが……ハーフレンたちが案内されたのは、上級貴族たちが暮らす区画の一つだった。

 前に住んでいたのは余程力のある貴族だったのか、広大な庭と大きな屋敷が特徴的だ。


 馬車から降りたハーフレンは、フレアに手を貸し中へと向かう。

 だが……入り口に立つ人物の気配に、ハーフレンは自然と妹を庇っていた。


「お初にお目にかかります。ハーフレン様」

「貴女は?」

「はい。この屋敷でメイドを務めているスィークと申します」


 やんわりと一礼して来る女性に……フレアまでもが怯えて兄に抱き付く。

 長年の感覚で見もせずに妹の頭に手を乗せて撫でてやりながら、ハーフレンは自身が丸腰であることを初めて後悔した。


「何をそんなに警戒なさいますか? わたくしはただのメイド。最近では"メイド長"などと呼ばれていますが」


 ユニバンス王国のメイドには明確な順位など無かった。だがある日を境に順位が生じる。

 絶対的圧倒的な頂点……スィークをメイド長とし、その下にメイド頭、そしてメイドとなる。

 何故そのような順位が生じたのかは謎だが、メイドの世界ではそれが絶対不変の構図となったのだ。


 美人だが目つきの鋭いメイドがゆっくりと口を開く。


「わたくしはこのお屋敷にて王妃様専属のメイドをしています」

「……お母様がこのお屋敷に?」

「はい」


 と、スィークの気配が強まる。

 ハーフレンは意味も分からずに妹を抱きしめて庇う。


 自称メイドの割には纏う空気が異常染みている。

 ほとんど兵士と変わらない……それ以上の殺気を孕んでいるのだ。


 だがハーフレンはこの場から逃げ出せずに居た。

 何の説明も無かったのは、自分を驚かせるためか別の意味があってなのか……それでもこの屋敷に母親が居るのだ。


 従姉からの手紙でしかその状況を知り得なかった存在。

 何があっても会いたいと……彼の心を突き動かす。


 相手の様子を見つめてスィークは認めた。

 あの国王の息子にしては実にいじめ甲斐のある良い表情をしているからだ。


 スィークは一歩足を引いて二人を促すように、扉の方に手を差し伸べた。


「たぶん王妃様とお会いしたいとと思っているのでしょうが……ご忠告のほどを」

「……何だ?」

「王妃様はあのお怪我で血を失い過ぎました。ご存知ですね?」

「ああ」


 今でもハーフレンの両手には、母親の内臓の熱が消えずに残っている。


「血と内臓共に……王妃様はお記憶を失っております」

「……」

「現在残っている記憶は国王陛下と挙式をあげられ新婚生活を送っていた頃まで。

 つまり王子の記憶どころか王子を生んだ記憶すらございません」


 冷静に残酷な現実をスィークは王子に告げた。


「それでもお会いしますか? 貴方のことを覚えていない母親と?」




(c) 2019 甲斐八雲

 作者の独り言


 告げられた事実とスィークとの出会いです。

 王妃様の記憶喪失は、出血のショックによる記憶障害の一種と言う認識で良いです。変な小細工はありません。


 ボチボチツッコミが来そうだからこの辺で語っておこうかな?


 ハーフレンたちの精神年齢が高いのは、当たり前のことです。

 彼らは夜明けから夕暮れまで学ぶことを課せられます。それは知識だけでなく、思想や一般常識に至る全てです。俗に言う帝王学って奴ですね。


 八雲さんはとある事情でこの帝王学をリアルで受けている少年(6歳)と会ったことがあります。

 下手な子役も真っ青なほど大人でした。礼儀作法とか成人している自分よりも確りしててマジ引きましたよ。6歳児なのに小学校中学年レベルの勉強をしていたりとか…これが国を背負って立つ人材なのね~と感心したことがあります。


 話は戻って…よって遊ぶ時間など無く鍛練とて教育の一環です。

 それを毎日12時間ぐらい休みなく課せられる。

 今の日本では考えられませんが、江戸時代ぐらいまでなら極々普通にやってた事ですよ? 西洋とて同じです。


 特権階級と呼ばれる人たちもそれ相応の義務を背負っているのです。

 だから子供とは言え甘い考えは許されません。教育がなっていないと叱られるくらいです。


 今の時代は本当に平和なんだな~と書いてて思います。

 子供たちが外で自由に遊べるって…実は凄いことなんですよ?

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