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でも本当に普通ですよ?

 耐えられない。


 ルッテは座っている椅子の上で何度もお尻を動かし、緊張に震え続けていた。

 今日の日の為に準備したドレスは、先輩である女性からの『どこの娼婦ですか?』の一言で変更することになった。

 店員のおすすめに従い見繕った大胆な胸元カットのドレスは……やはりダメだったらしい。


 フレアと共にドレスを買った店に行き、彼女は笑っていない微笑みに恐怖した店員が新たに準備してくれたのは、新緑の色をした大人しめのドレスだった。

 記念すべき本日にそれを着用したルッテは……完全に暇を持て余しながら緊張で身震いしていた。


『お見合いの基本は黙って話を聞いて頷いているだけで良い』らしい。その予備知識だけでルッテは経験の無い戦いに挑もうとしていた。

 何度か胸を撫で少女は呼吸を整えた。


 呼び出しを受け……彼女は戦いの場へと向かった。




「あれ? 今日ってルッテが休みなの?」

「はい」


 報告書を持って来たのはモミジさんでした。


 処理場へ向かう途中に立ち寄った彼女は、ここ最近着物を卒業して洋服姿だ。

 ただ……何故、皮鎧の胸元の留め紐を緩めているのかを問いたい。

 ノイエ以上の胸を寄せて報告書を提出する彼女に、僕はどこぞの司令官のように手を組んで顎を乗せた。


「だが甘い」

「はい?」

「残念ながら僕は胸に興味は無い!」


 現在はクビレに魅力を感じるお年頃です。

 ノイエのクビレは世界いちぃぃぃいいい~!


 自分の胸を確認したモミジさんが、いそいそと紐を結んで胸の谷間を隠した。


「ノイエを愛して止まない僕には他人に目を向けることなんてありませんから」

「……」


 悔しそうなモミジさんが揺れた。厳密に言うと執務室が揺れた。たぶん王都が揺れたな。

 惚気の言葉で舞い上がるなノイエよ。愛の言葉で良ければ今夜耳元で囁いてあげよう。


「僕を口説きたいなら来世にでも出直して来なさい」

「……諦めません」

「精々頑張るが良い」


 カラカラと大物気取りで笑っておくけど……『諦めません』ってどんなフラグですか?


「女を武器にしても僕の気持ちは動かないよ。つか誰に教わったの? その谷間見せ」

「……姉様に」


 さあ考えよう。

 長男であるマツバさんは真の変態だ。モミジさんはまだ毒されていないが結構危ない。


 そこで長女であるカエデさんはどうなのだろうか?


 聞いた話では、あまり男性とは会話をせず女性とは親し気に会話をしていたとのことだ。

 マツバさんに対しての当たりはとても強く、妹に対しては激甘らしい。つまりシスコンか? いや待て落ち着け……あの変態一族がそんな簡単な訳はない。


「君の姉は男性に厳しいと聞いたが?」

「厳しいと言うか……でも姉様は同性に優しい方です」


 ビンゴ!


 たぶん間違いない。だがそうなると少しおかしい。

 あの姉が自分の妹を僕にけしかける意味が分からない。


 もう一度どこぞの指令よろしく手を組んで顎を乗せた。


「君の姉はあれかね? 百合かね?」

「百合……ですか? お花ですよね?」


 理解していないだと?

 落ち着け僕。彼女は基本無害だ。

 つまり無自覚で大変な事態が?


「……1つ聞こう」

「何でしょうか?」

「確か君たち姉妹は仲良くお風呂に入るとか言ってたね」

「はい」


 小首を傾げてこちらを伺う彼女はやはり無自覚なのだろう。


「お風呂でどのようなことを?」

「えっ? 普通ですよ」

「その普通を聞きたいのです。ほら僕って王子だったから"普通"が良く分からないのよね。だから教えてくれるかな」

「……はい。でも本当に普通ですよ? 一緒にお風呂に入って体を洗い合うだけです」

「どんな風に?」

「それは……」


 余りの爆弾発言にこっそり聞き耳を立てていたクレアが悶絶して机に額を打ち付けた。イネル君が鼻血を噴いているし、隠し扉から出て来たチビ姫が両手を頬に当ててムンクの叫びを見せている。


 カエデさんとモミジさんの入浴は余りにも刺激的過ぎました。


「……確か君たちは仲良く一緒に寝るんだよね?」


 モミジさん以外の視線が僕に集中する。

『まだ聞くの?』と言う視線に僕は屈しない。


「何をしているんだい?」


 魔王が舞い降りた。

 姉妹愛と言う名の裏に隠れたとんでもなくドロドロとした官能の世界が。


 クレアの頭突きが止まらない。イネル君の鼻血は噴水状態だ。チビ姫は叫び過ぎて違う生物になっている。

 唯一理解していない呪詛を吐き続けたモミジさんがまた首を傾げた。


「あの~アルグスタ様」

「何かな?」

「わたしは普通だと思うのですが……周りの反応が予想と違うのです」


 3人の少年少女の何かを破壊してみせた自分の言葉に不安を覚えたのだろう。

 僕もノイエとの経験が無かったらある意味壊されていたかもしれない。ただ知識無しで今の話を聞いていたら……自家発電にしばらく困らなかったろうな。


「モミジ君」

「はい?」

「君と君のお姉さんの関係はね……マツバさんのことを決して笑えないほどの変態関係だからね」

「っ!」


 驚愕して彼女が数歩後退する。


「変態……? わたしと姉様との関係が?」

「うん。それもマツバさんに負けないぐらいに、その内容を外で語ってはいけないほどの変態っぷりです」

「いっ……いやぁ~っ!」


 頭を抱えてモミジさんが執務室を飛び出して行った。

 あの様子だと今日はもう仕事にならないだろうな。


(ノイエ。頑張って)


 軽く囁くと返事が振動になって帰って来た。

 今日のノイエはいっぱいドラゴンを狩ってくれそうだ。



 ちなみにモミジさんは3日ほど休んでからどうにか現場に復帰した。

 その3日間で、姉に対して大量の手紙をしたためたらしいが……無事に届くのかな?




(c) 2019 甲斐八雲

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