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楽しい狩りの時間だ

 ピィーピィーピィー……


 気分良さそうに鳥たちが鳴いている。それをノイエに抱えられて聞いている。

 大荷物を背負ったノイエの足取りは本当に軽い。まるで風の上を走っているかのように軽やかな足取りで草原を抜けて森林地帯を走っている。

 ……枝とかが目の前に来るからめっちゃ焦るんですけどね。


 と、ノイエが木の枝の上で足を止めた。


「アルグ様」

「ん?」

「ここなら良い?」

「ん~」


 軽く辺りを見渡して確認する。

 姿を隠す木々が多くて丁度良いとも言える。


「近くにドラゴンは居る?」

「はい」

「なら良いか」


 ベースキャンプにするには問題無いはずだ。


「出来たら水場の近くが良いかな」

「分かった」


 ぴょんと枝から飛び降りたノイエが迷うことなく駆け出した。




「隊長が居ない状況での試験運用……ね」

「ああ。確りと頑張ってくれ」


 カラカラと隣で笑う幼馴染の脛に全力で蹴りを入れ、ノイエ小隊を預かっているフレアが疲れた様子で首を振った。


「……私たちは隊長とミシュを取られているのだけれど?」

「いつつ……頑張れ。代わりにモミジが居るだろう」

「……それも取り上げられているのだけれど?」

「その苦情は次期国王に持って行け」

「……もう良いわ」


 フルフルと頭を振ってため息を吐く。

 フレアは数少なくなっている小隊の幹部……見習い騎士のルッテに目を向けた。


「状況は?」

「はい。処理場にドラゴンが集まっています」

「ほう。モミジの話は本当だったらしいな」


 脛を押さえて飛び跳ねていたハーフレンが話に加わって来た。

 西から来た少女がもたらした情報……ドラゴンは焼かれた同族の死体の匂いに強く反応する。

 その言葉を実証するかのように、処理場には数多くのドラゴンが向かっていた。


「これならモミジ1人で対応出来るな」

「ええ。でも……シュニット様が言った通りの問題も生じるでしょうね」

「あれか。そっちは兵たちの頑張りを信じるしか無いな」


 言って笑った近衛団長は部下が持って来た武器に手を伸ばした。

 フレアは一瞬目を瞠り、慌てて彼を見る。


「ハーフレン。それは」

「ああ。研ぎ直して戻って来た」

「でもそれは」

「心配するな。俺だって少しは成長もする」


 彼が持つ剣をフレアは知っていた。

 知っていたが故に動揺して彼を呼び捨てにしたのだ。


 成人女性1人分の大きさを誇る大剣・胴斬り。

 ドラゴンの血を煮詰める鍋の底に溜まった血液中の鉄分を集めて用いられた大剣だ。その超重量でドラゴンの胴体ですら真っ二つに断つ様子からその名が付いた。

 だが扱う者を選ぶ武器はずっとの間城の宝物庫に死蔵されていた。ハーフレンと言う主を得るその日まで。


 ため息を吐き出してフレアはルッテに配置につくように指示を出す。

 トコトコと胸を揺らして走って行く相手に軽い怒りを覚えつつも、フレアはそっとハーフレンの耳元に背伸びをして口を寄せた。


「また狂わないでね」

「それを言うならお前もだろう?」

「ええ。でも……だからよ」

「分かっている。心配せずに配置に行け」

「……分かった」


 軽く耳元に彼女の唇の感触を覚えつつ、離れて行った幼馴染を頭を掻きつつハーフレンは見送った。


「全く……昔から変わらずお節介な奴だよ」


 ポリポリと頬を掻いて苦笑し、ハーフレンは嬉しそうに大剣の鞘で肩を叩く。


「さ~てと! 楽しい狩りの時間だ!」




「……」

「アルグ様?」

「もう少し待って」

「はい」


 ノイエの膝枕を堪能しつつも回復に努める。

 今日の回復アイテムは食事だ。昨日の夜から仕込んで貰ったお弁当が山と準備されている。

 それをノイエが『あ~ん』とかしてくれるからさっきから食べまくりだけど、どうにか空腹が収まってきた感じだ。


「何かこれって絶対に体に良く無いよね」

「……はい」

「ノイエも食べてる?」

「はい」


 閉じていた目を開けると、ノイエがスプーンでゼリーらしい物を食べている。

 と目が合うと彼女がスプーンを差し伸ばして来る。間接キスだ~とか思いつつも空腹がその気持ちを上回る。2人でパクパクと食べてある程度回復した。


「良し! またやろう」

「はい」


 立ち上がり左腕の術式を発動する。

 金色のシャボン玉が現れ、それをノイエに向けて投げる。

 右の拳でシャボン玉を割ったノイエの姿が消える。遠くでドラゴンの断末魔が響いた。


 またノイエが戻って来る。


「どうだった?」

「いい」

「そっか……」


 良し良しとノイエの頭を撫でて魔力の残量を感覚で把握する。

 食事で回復とか出来ないから魔力の残量が結構ネックだ。


「アルグ様。大丈夫?」

「まだまだ平気」

「本当に?」

「おう!」


 実は結構ヤバい。たぶんあと何度かやったら燃え尽きる。

『だから今夜は頑張らないでねノイエ』と、心の中でそう訴えかけて残された魔力と気力で実験を終える。




「アルグ様」

「うん」

「もう」


『今夜は大人しく寝ようね』発言からノイエの機嫌が悪い。

 また僕を抱え、空となったお弁当の包みを背負ったノイエが帰宅する為に草原を走っている。


「今夜は無理だけど……明日以降は頑張るからそれで許してね」

「約束」

「はい約束ね」


 口約束でノイエの機嫌が戻る。鼻歌でも歌いそうな感じで草原を飛ぶように駆ける。

 ところで……本日のドラゴン対応はどうなったんだろうね?




(c) 2019 甲斐八雲

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