アルグ様。聞いて
大陸北西部・ユーファミラ王国内
提供した塩樽は全部で5つだ。
ぶっちゃけユニバンスを出た時にフランクさんに渡した物だからウチの物ではない。ウチの物では無いのだがウチのゴーレムが途中からずっと背負っていたので扱いが曖昧になっていた。まあ良い。
で、フランクさんは全ての報告を国王陛下にしていたらしい。
彼の立場としたらそれが正しい。近衛は国王陛下の直轄組織だからだ。
だが王妃様はそれを許さなかった。
『戦うことしかしないごく潰し共が~!』と烈火のごとくにお怒りになり、フランクさんの息子をオーバーキルした。あれもまた素晴らしいスイングであった。
ただゴボウさんが限界を迎えお亡くなりになった。
ポーラがニンジンとゴボウできんぴらを作っていたから今夜は国王一家に振舞われることでしょう。
僕ですか? ノイエが野菜嫌いなのでそれに付き合わないと拗ねるのです。
だからそのきんぴらは皆さまでどうぞと言って避ける予定である。
追加の塩は各兵士が抱え急ぎ走って行った。運んできた部下のほかにも今日明日かもしれない人が居るらしい。救える命は全て救って欲しいものだが、ただあの薬は一時の時間稼ぎにしかならない。
それを王妃様にもちゃんと説明した。
股間を押さえて蹲っている国王陛下とフランクさんを運ぶために開いたお茶会で……何故か復活したはずの王女様がまた気絶していたが、気絶するほどビスケットに感動したのかな?
その席で僕はちゃんと説明した。
あの薬は根本を解決しないとずっと使う必要があると。
『そうですか』と王妃様はビスケットを完食してから頷き返してくれた。
あの~皿の上の小さな粒まで集めなくても良いですよ? ポーラさん。追加をお願いします。
ウチのメイドが新たに王妃様の皿にビスケットを盛る。と、テレサさんが妹を捕まえ箱ごとビスケットを奪い取った。
うむ。礼儀のなっていない魔乳である。ポーラさん。その魔を揉んで成敗しなさい。
命じポーラがテレサさんの胸を揉み……しばらくしたら膝から崩れ落ちて涙していた。ノイエのように揉んでから『美味しくなさそうな脂肪』とは言えなかったか。まだまだ甘ちゃんだな。妹よ。
「ユーファミラ王国でも呪いについて色々と調べてはいました。ですが解決法は見つからず」
まあ異世界で原因がストレスとか嫌がらせでしかない。
「不幸な家庭が呪われやすいと考えれば宜しいのでしょうか?」
「ええ。簡単に説明するとそんな感じです」
「……難しいですね」
そう。これは本当に難しい。故に根絶は無理だろう。
「人は他人の幸せを妬む生き物です。故にどうしても心を病んでしまう」
あれが幸せなのはおかしい。自分が同じ立場だったら……そんな風に考える人は沢山いる。下手をすれば家族内、兄弟間ですら人は嫉妬してしまうのだ。
「それら嫌な感情が集まると呪いはそれを餌にします」
「そして人を殺すと?」
「はい」
故に根絶は不可能だ。何も考えずに生きろと言うようなものだ。
感情を持たず何も感じず何も考えず……どう考えても不可能だ。
「ただ自分が幸せだ。不幸じゃない。そんなことを考えているほど暇じゃないって感じで毎日を全力で取り組んでいる人は呪われにくいです」
「それもまた難しいですね」
王妃様がビスケットを食べる手を止め嘆息する。
その通りです。ぶっちゃけこれらは僕に該当します。もう毎日が楽しくて楽しくて仕方ない僕としては小さな不幸に目を向けている暇がない。そんな暇があるなら少しでもノイエを見ていたい。
そんな訳でノイエを見る。ノイエを見れば幸せになる。結果として僕は毎日がハッピーである。
「お嫁さんを愛でているだけでこんなにも幸せだと言うのに」
「……それは本当に幸せなことですね」
何故か王妃様が苦笑した。何故だっ!
「普通結婚すれば……こう毎日顔を合わせていると飽きといいますか」
「全然飽きません。毎日が楽しみで仕方ないです」
「……本当に奥さまを愛していらっしゃるのね」
『おほほ』と力なく笑われた。
解せぬ。何故だ? どうしてみんなお嫁さんを見て幸せになれない?
僕は毎日ノイエを見ることが楽しみで仕方ない。今日は何をしてくるのか全く読めないだけに毎日がドキドキだ。何より可愛いし今日みたいに甘え全振りの時なんて一日中甘やかしていたい。
「する?」
ベーコンの残りを物色していたはずのノイエが不意に僕の横に来た。
あはは。ノイエくん? 今夜の君は僕に躾けられるのだから覚悟しておきなさい。
「はい」
僕の膝の上に座りスリスリとノイエが甘えだす。
本当に今回はノイエが甘えん坊である。どうした?
「いつも通り」
「そうですか」
よしよしとノイエの頭を撫でていたら王妃様が何とも言えない視線でこちらを見ていた。
その目の意味を訪ねても宜しいでしょうか?
「本当に仲が良いのだと思いまして」
「仲良しですよ?」
「はい」
スリスリとノイエが甘えて来る。
「わたしは何分政略的な一面のある結婚でしたので」
「ウチもです」
「はい」
スリスリが止まらない。で、こっそりと僕の股間をスリスリしないの。
「ウチの場合はドラゴンスレイヤーであるノイエを囲い込むために僕が結婚相手に選ばれました」
「……」
王妃様? その目は何ですか? はい? ノイエが本当にドラゴンスレイヤーなのか?
あはは。ノイエさん。ちょっと行ってその辺のドラゴンを一匹とは言わない。数匹狩ってきなさい。大陸北西部のドラゴンの実力とやらを……ノイエさん。人がボケている時は最後まで聞くものですよ?
しかしノイエはアホ毛をフリフリして行ってしまった。
「ただウチのお嫁さんは国だと嫌われ者でしたので貰い手が居なかったんですよ」
「嫌われ者ですか?」
「ええ」
見ていれば分かりますがまず表情がない。甘えられても感情を表に出さない。
「無言で無表情でドラゴンを殴り殺すような人間を皆が恐れたんです」
「……」
王妃様は幸せそうな表情でビスケットを頬張っているテレサさんを見る。
天真爛漫を絵にしたような大変幸せそうな顔をしていらっしゃいますね。
「ウチのテレサとは正反対ですね」
「その通りです」
だからノイエは恐れられた。何より国が発行した『切り捨て御免』が厄介だった。
ノイエがその気になれば国王様ですら殴り殺しても罰せられない。おかげで皆が心底恐れた。
「彼女の機嫌を悪くしたら殺されるかもしれない」
ユニバンスの貴族で広まったその恐怖は、きっとその頃に呪いがあればウチの国は大変なことになっていただろうな。
「でも僕だけはそんな彼女を『面白い』と思ってしまったんです」
「面白いですか?」
「はい」
毎日見てても見飽きない。何をするのか分からない。本当にワクワクが止まらない。
「何より一緒に過ごすようになって知りました。ノイエほど優しい人は居ないんです」
人を傷つけることを望まない。だから武器を使わない。でも魂の収集は必要だ。故にドラゴンを喜んで退治する。
「今にして思うとあの頃の自分はまだまだで、最近になってようやくノイエの良さが分かってきた気がします」
うむ。昔の僕はまだ甘ちゃんであった。ノイエのことを理解していると思って全然理解していなかった。今ならこの溢れんばかりのノイエへの気持ちを……どう伝えよう? とりあえず今夜はノイエを躾けることで伝えよう。
あ~ポーラくん。悪魔と相談してノイエに着せる衣装を、はい? カメラはいくつまでだと? 使用不可に決まっているだろう! 勝手に撮影するでない!
「だから前に比べて今の自分はノイエが増々好きになって大変なんです」
溢れるノイエ愛が止まりません。
「この世界を敵に回すことになっても僕は彼女を愛し続けます」
「それは凄いですわね」
何故か王妃様が頬を赤らめている。
うむ。結構恥ずかしいことを言った気がします。
で、すぐに王妃様が慌てた感じで椅子から立ち上がろうとした。
テレサさんは……人間ってなれる生き物なんだね。慣れた感じでビスケットを頬張る君はそろそろダイエットを考えなさい?
「ノイエ~」
「はい」
両手でドラゴンにベッドロックをしたノイエが歩いて来る。
「アルグ様」
「はい?」
ドサッと絶命しているドラゴンが地面の上に置かれた。
「見て。肌の色が違う」
「そうだね~」
全体的に茶色でゴツゴツとした肌をしたドラゴンだね。
「これは二足系の特徴で、」
しまった。ノイエがドラゴンを語るモードになってしまった。仕方ない。僕が聞こう。
ポーラは王妃様に状況を説明してこの後の行動を決めて。
はい? 自分はただのメイド? だったらウチの妹は? あっちで漏らす寸前にゴーレムに救われけど間に合わず替えの下着を探してる? 最近のアイツってば踏ん張りが弱くないか? はい? 踏ん張るとお尻が痛い?
ごめん。色々と御免。コロネに少し優しくしてあげて。
「アルグ様。聞いて」
「は~い」
結果夕飯までノイエのドラゴン講座を聞かされました。
© 2025 甲斐八雲
過去のホリーが原因でノイエのドラゴン知識はホリーに次いで詳しいです。
故に語りだすと止まりません。師であるホリーの教えがそうだったからです。
ホリーって最近どうしてるんだろう?




