王妃様に殺されま~す!
大陸北西部・ユーファミラ王国内
「ドラゴンを相手にするためだけに集められた傭兵たち……ユーファミラ王国はそんな戦闘大好きな者たちが集まって出来た国です。
おかげで政治と言うか内政はズタズタのボロボロで、挙句公国とも敵対してしまったのでドラゴンと公国と板挟みで大変でした。それでも貧しいなりにも頑張って今までどうにか繋いできたのです」
椅子に腰かけ王妃様が世間話がてらそんな話を聞かせてくれる。
知っている話ではあるが当事者からその手の話を聞くのは好きである。とても参考になる。
「でもここ数十年と魔剣を扱える者は現れず、我が国は本当の意味で滅亡の危機に陥りました」
それは全てぽっちゃり巨乳が大好物な魔剣が悪いと思います。
「魔剣を扱える人物は基本テレサさんのようにぽっちゃりした胸の大きな女性です」
「やはりですか」
どうやら王妃様も気づいていたらしい。
「それに魔力があるのも条件です」
「ですか」
どうやらそこまで条件が重なるとハードルが上がるらしい。
「難しいですか?」
「ええ。この国には元々魔力持ちが少ないのです。それに体質的にぽっちゃりも難しくて」
はい?
「テレサさんは特殊な例ですか?」
「いいえ。あの子は祖父の時代にこの国へ逃れてきた移民の子でして」
「納得」
ドラゴン以外でもこの世界には色々な災厄はある。それが原因で故郷を追われた人もたくさんいる。
「ですがそのことを今回はちゃんと記録に残し魔剣の後継者を育成するようにしませんと」
「あれ? そもそも記録に残っていなかったのですか?」
「いいえ。消失してしまったのです」
ドラゴンの襲来で王都が攻撃を受けた時に厳重に保管されていた後継の秘密が燃えてしまったらしい。そして運悪くその時は魔剣を扱える人が居なくて……そのまま継承条件が消滅してしまった。
「今度は石碑にでも刻むことにしましょう」
「あはは」
それはそれである種の公開処刑だ。
テレサさんほどの図太いメンタルの持ち主であれば一時的にショックを受けるぐらいで済むだろうけど……普通の人だと魔剣に選ばれるのを避けそうだよな。露骨に『お前は太っている』と公言するようなものだ。
あげくキラーに認められるほどの胸が無いと追い打ちが半端ない。人によっては精神的に死ぬね。
「さて長々とくだらない話を」
「いいえ。大変楽しい話でした」
「そう言っていただけると幸いです」
立ち上がり挨拶をしてくる王妃様が本当に王妃様でしかない。
これが王妃だよ。これが正しい王妃としての姿なのだよ!
「いつか王妃様を我が国に招待したいのですが」
「あら? わたしは言葉より先に足が出るような女でございますよ」
その点は問題ありません。ユニバンスですとその辺は結構普通ですので。
「ええ。我が国の王妃に『正しい王妃の立ち振る舞い』を見せていただきたいと思いまして」
「おほほ。このような女にですか?」
ええ。本当に是非。こちらから頭を下げてお願いしたいです。
「ですので」
ポーラくん?
ゴーレム連れて我が家のメイド様がやって来た。未来の猫型なあれが背負っているカゴの中にその身を躍らせて……大きな樽を一個ほど持って出てきた。
「手付としてこちらでどうでしょう?」
「……中身は?」
「先ほどと同じ物が詰まっております。それを後何個か」
「行きます」
即答であった。
「公国のゲートを使用しなければいけませんので色々と厄介ですが、何でしたら戦力を割いて一気に強襲しますので」
「あはは」
ヤバい。何気にこの人も血の気が多い。この国は王様はバイキングで王妃様はアマゾネスか?
オーガさんが来たら大喜びしそうな国である。それと姐さんもか。
「ゲートに関しては……」
この辺は後々のこともあるのでちゃんと説明しておく。
現在ユーファミラ王国は大陸北西部に存在するゲートを使用している。このゲートは公国の支配下にあるのでユーファミラ王国の人が使用するのは大変難しい。
ですが西側のゲートなら比較的安易に使用できる。何故なら公国の支配下では無いのである。西側のゲートはその周辺国が共同で管理している。誰の物でもないので利用に制限はない。管理運営費となる使用料は発生するけどね。
「西側のゲートを使用する……ですが、」
王妃様の反論も分かっていた。街道の問題だ。ですがその辺はあそこにいるテレサさんが頑張りました。頑張ってウチに居る変態と友達になったおかげでどうにかなります。
「小型程度のドラゴンなら切って捨てる人たちが護衛に?」
はい。サツキ村と言う狂った集団が住まう人たちが大陸西部に住んでいます。そこの変態……村長の娘さんをウチの国で預かっていまして大変仲良くさせて貰っています。
で、テレサさんがその変態……娘さんと仲良くなりまして、公国を通らないでどうにか物資の輸送ができないか相談したらしいのです。
そうしたら『でしたらウチの見習いの訓練に丁度良い』ということで西側ゲートから現在手探りでユーファミラ王国を目指して物資を輸送しているはずです。
フランクさんから話しとか報告とか来てませんか?
「おほほ。おほ」
笑って王妃様がターゲットをロックオンした。
だが相手も分かっていたのか、改めて手当をしていた王女様を投げ捨てて魔道具を使用して逃げ出した。流石不敗だ。戦う前に戦いを終わらせた。
しかし王妃様が止まらない。ターゲットをフランクさんから別の者へ変化した。国王陛下だ。
よろよろとこちらに向かい歩いてきていた彼を蹴り倒し、顔を踏みつけ……らめよ~! 国王陛下の息子にそれ以上酷いことをしないで~!
ってゴボウ? まだ残っていたの?
「うぎゃ~!」
国王陛下の断末魔が木霊した。
前回の反省を生かし今回の王妃様のスイングは完璧だった。完璧すぎた。王女様の時も中々凄かったが今回はその上を行った。行き過ぎた。たぶん色々なモノが飛んだであろう。
「……失礼しました」
何事も無かったように王妃様が戻って来る。
向こうで蹲り震えている国王陛下は完全にノックアウトだ。あれはもうダメかもしれない。
「フランクの悪い癖で全ての報告をあの馬鹿……国王にしてしまうのです。それに気づいて私がちゃんと手紙の類を確認していれば良かったのですが、テレサ不在もあり色々と忙しかったのでつい見逃しておりました」
「そうですか」
そしてノイエさん。そこで両手を握り締めてスイングの真似事をしなくても良いですからね?
今日の君は僕の膝枕で満足しながらゴロゴロしていなさい。
「ちなみにどこまで報告とか届いているのでしょうか?」
「……」
余計なことを言ったのかもしれない。
王妃様は矢継ぎ早にフランクさんの部下らに命じ出した。
フランクさんは逃走したままだ。だから代わりにテレサさんが連れて来られたが……この人に報告の類とか無理でしょう? はい? テレサさんを人質にすればフランクさんが飛んでくる?
流石に命の危険があるこのような状況でやって来るのは、
「フランクさ~ん! 助けてくださ~い! 王妃様に殺されま~す!」
棒読みでテレサさんが叫ぶ。その救援信号でやってきたら、僕はフランクさんのことを褒めよう。
だが来た。彼は来た。土煙を背負い魔道具を発動させて彼は来た。
その姿はまるで姫を救いに行く騎士のようだ。ようだった。
しばらくして国王陛下の横で股間を押さえて蹲るフランクさんの姿があった。
ただ僕はそんな勇者の姿に感銘を受けた。貴方は実に素晴らしい人である。そんな素晴らしい人の惨たらしい姿をテレサさんに見せるのは忍びない。
そんな訳でテレサさんには王妃様と復活した王女様を誘い……これが我が国で販売しているお菓子です。焼き菓子です。ビスケットです。バターと砂糖をこれでもかと使っているので甘いですよ?
どうやら女性は年齢に関係なく甘いものに弱いらしい。
あ~そこそこ。そこの惨たらしい死体じゃなくて国王陛下と近衛団長を運んでおいてくれるかな?
うん。できればテレサさんには見せたくない。それが義理や人情だと思うわけです。
© 2025 甲斐八雲
テレサ 言えば良いんですか?
カローラ ええ。いつものように。
テレサ 分かりました。
テレサ 美味しいですよね?
カレン うまっ! なにこれ? うまっ!
カローラ おほほ。カレン? もう少し上品に振舞いなさい。
カレン ふぐっ!
カローラ 本当に美味しいですね(殴って黙らせ娘の皿からビスケットを回収する)
テレサ ですね(あ~。ようやく帰って来たって気がします)
意外とテレサさんがバイオレンス慣れしすぎているw
実際ユーファミラ王国での話って少ないんですよね。
何せ公国戦が本番なので




