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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 29

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2318/2351

誰が偽物ですかっ!

 大陸北西部・ゲート前



「全隊準備完了しました!」

「良し!」


 部下の報告に公国の将軍は鷹揚に頷く。


 上からの指示はない。ないが時は来た。

 本日ここに敵国であるユーファミラのクソ共が、呪いの特効薬を持って現れると。


 それを手に入れれば出世は思いのままだ。そう判断した彼は部下を動かした。


 名目上はユーファミラのドラゴンスレイヤーの捕縛だ。


 聞いた話では妙齢の美しい女剣士だという。伝説と化している魔剣ドラゴンキラーに選ばれた腕前を持つ女傑だという話だ。実に捕まえたい。捕えたい。そして味わいたい。


 将軍はもうすぐ訪れ叶うであろう夢と希望に胸と股間を大きく膨らませた。


 ゲートの前が揺らめく。誰かが転移してきた証拠だ。


「構え!」


 将軍は反射的に手を上げ部下に命じる。


 総勢は50人だが、この数で一斉に矢と投げやりを放てば回避のしようがない。

 流石の女傑も回避不能のはずだ。


 揺らめきが安定してそれが姿を現した。


「放、てぇ?」


 間の抜けた声が響いた。故に何も放たれなかった。

 でもそれは仕方ない。彼等の常識ではありえないことが起きたのだ。


 荷車が転移してきた。荷車だけが転移してきたのだ。

 人の行き来のついでに抱えられるか背負えるか程度の荷物しか運べないゲートの常識を無視して、荷車だけが姿を現したのだ。


 慌てふためく部下たちが一斉に将軍に視線を向ける。『どうしますか?』と。


 ただ彼とて目の前の現象に対しての答えを持ち合わせていない。

 自身の常識がガラガラと音を立てて脳内で崩壊している最中なのだ。


「あ~はっはっはっはっ~!」


 ただ突如としてその笑い声が響いた。

 何処からか荷車の上に姿を現した小柄な少女のような存在が笑っている。


「どう? 常識が崩れた今の状況はどう? 滑稽よね? 滑稽でしょう? お前たちのその顔が~!」

「調子に乗るな~!」

「ありがとうございま~すっ!」


 何故か荷車の上で笑っていた存在が横合いから飛び出してきた青年に殴り飛ばされた。


 そして包囲する公国兵はそれに気づいた。あの青年もまたどこから現れたのかと?


「で、だ」


 肩に白い大きな扇のような物を担いだ青年がニヤリと笑う。


「襲う以上は返り討ちに遭うことも想定しているよね?」

「「……」」


 相手の言葉に公国兵の全員が背筋に冷たい汗が走るのを感じた。


 上空からフワッとした感じで白い女性が下りて来る。


 両腕に紙袋を抱え、何故かひと房の長い触角のような髪にマントを括り付けた女性だ。


「ちなみにそっちは視線の誘導で、本命はこっちなんだけどね」


 青年の声に魅入っていた公国兵の皆が正気に戻る。けれど時すでに遅い。


 彼の横には光り輝く剣を握り締めた大変ふくよかな……ピカッと光ってドカンとなった。




「あれはやり過ぎじゃない?」


 僕の声にプリプリと怒っているテレサさんの頬が増々膨らんだ。


「絶対にあの人たちはわたしのことを変な目で見てましたっ!」


 視姦されましたと言いたげな彼女の怒りが止まらない。


 まあ確かにノイエから移った視線は普通では無かったけど、


「たぶん変な目では見ていないって」

「なら何だというんですか? わたしの目には露骨に目の色が変わるのが分かりました」

「ん~」


 これは説明しても良いのだろうか?


 僕らの後ろに居る保護者さん……おいフランク氏? 何故両手で耳を塞いでいる? 両目を閉じている? こっちを見てちゃんと話を聞け。言うぞ? ぶちまけるぞ?


「ならテレサさん。ちょっと想像しようか?」

「はい?」


 歩きながらで良いです。その胸に手を当てて……別に谷間に押し込めとは言ってません。もう少し上の部分に手を当ててください。そうです。それで良いでしょう。


「貴女の目の前にとても美味しそうなケーキが存在しています。果実も載って大変美味しそうです」

「……」


 想像しただけで若干笑顔になる彼女はもうケーキなしでは生きられないのではないか?


「そのケーキを食べようとしたら貴女は気づきました。そのケーキは精巧に作られた偽物であると!」

「……」


 絶望に染まった。そんなにケーキが食べたかったのか?


「つまり公国兵たちが感じたのがそれです」

「はい?」

「だからケーキがノイエで」

「……」


 ようやく気付いたらしい彼女がブルブルと震えだした。


 あはは。凄いな? 人は怒りに震えるとここまで胸も震えるモノなのか? 見給え誰か! 胸が打ち寄せる波のようだ!


「誰が偽物ですかっ!」

「あ~うん。確かに偽物は酷いな……贋作?」

「意味が分からないけど絶対に同じようなことを言ってますよね!」

「お気づきで?」

「気づきます!」


 怒りのままでテレサさんは腕を上下に激しく振るう。バインバインと胸の揺れが凄いことに。


「わたしがノイエ様と比べて残念過ぎたとでも言うんですかっ!」

「うん」

「迷わず頷いた~!」


 迷いません。だってノイエは完璧だからね!


「美の化身であるノイエと一部の好事家にしか愛されないテレサさんとじゃ比べる時点で勝負にはならないけどね」

「落差が激しすぎて何も言い返せない~!」

「あっはは。事実なのだから認めなさい」


 荷車の上で腰かけているノイエを呼ぶ。

 彼女はずっと北の方角を見つめながらフリフリとアホ毛を揺らしていた。


「なに?」


 フワリと僕の横に着地したお嫁さんを捕まえる。


「これが美です!」

「……」


 ほれほれ。ちゃんと見なさい。あ~ん?


「この長くて奇麗な髪。艶々で滑々の肌。何より整いすぎたこの顔だち。そして大きすぎずでも小さすぎないこの胸から腰への曲線の美しさっ! これが美です!」

「……」


 もう膝から腰から砕けそうなテレサさんはフラフラだ。

 レフリーである悪魔がどのタイミングで飛び込んできてコングを鳴らすか測っている。


「で、君のその体の何処にノイエに勝てる要素が?」

「……あります!」


 下唇を噛んでテレサさんが踏ん張った。


「圧倒的にわたしの方が胸が大きいです!」


 両手で自分の胸をワシッと掴んで引き寄せる。

 確かにそうだ。それだけは認めよう。


「ノイエさんどうぞ」

「ん」


 僕に甘えていたノイエがその目をテレサさんに向ける。

 歩きながら自分の胸をワシッと掴んでいる傍目から見たら斬新な痴女をノイエの冷ややかな視線が貫いた。


「美味しくなさそうな脂肪」

「今まで生きてきた中で最も残酷なことを言われました~!」


 テレサさんが泣きながら走って逃げて行く。


 気持ちは分かるけど……ただノイエが此処までの毒を吐くとは思わなかったな。普段のノイエなら『美味しくなさそうな肉』とかだったと思う。


「なに?」


 僕の視線に気づいたノイエが甘えて来る。


「言い過ぎ」

「そう?」


 抱き付いてきたお嫁さんが顔を上げて僕を見る。


「いつもと同じ」

「そうかな?」

「はい。いつもと同じ」

「そっか~」


 ノイエがそう言うならそうなんだろうけど。




 ゲート前から移動した僕らは普通に街道を進む。


 隊商のような感じで荷車をガラガラと……ちなみに荷車を引っ張っているのは馬ではない。未来の世界の猫型〇ボットだ。青くはない。石の色をそのままに素材を生かした自然色豊かなゴーレムだ。

 そんなゴーレムくんが荷車をリアカー感覚で牽いている。


 取り出したのは悪魔だが主にノイエの魔力で動いている。魔力を使う分にはノイエは普通にお腹が空くだけなので問題はない。どうやら傷の手当に関してのみ加護を使っている感じだ。


「それで悪魔よ」

「ふにゃ?」


 街道を進みながらふとそれを思い出したので悪魔を捕らえて脇に抱えた。

 本当のことを言わないお尻を叩いてドラグナイト家名物の躾を開始するぞ?


「そんな脅しに屈するとでも、」

「ノイエの高い高いと選ばせてやる」

「いやんお兄さま。わたしはお兄さまの可愛い奴隷です」

「……」


 フリフリとお尻を振ってこっちを叩けと悪魔がアピールしてくる。


 それで良いのか? まあ良いなら僕も特に何も言わないけどね。


「どうせ次の襲撃まで暇だし今のところ分かっていることを全部話せ」

「いやん。わたしポーラ五才。まだ異性を知らない女の子で大好きなのはお兄さま」

「打ち上げるか」

「何でも答えるから直ぐに姉さまに丸投げしようとするのは止めようか? ねえ?」


 何故か結構マジなトーンで悪魔がそんなことを言ってきた。


 全てお前が悪いと思うぞ? 脱線のし過ぎだしな?




© 2025 甲斐八雲

 ゲートで人以外の輸送はできます。

 その方法を知っているのは製作者のみですが、悪魔が居るから問題なしですねw


 あれだけ引っ張っておいて移動はあっさりです。それがこの物語なので!

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― 新着の感想 ―
更新乙 「で、君のその体の何処にノイエに勝てる要素が?」 この一言こそアルグスタwww てっきりゲート潜り抜けて第一陣凌いだら ノイエがドラゴン求めて飛び去ると思ってたわ~
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