どんな力を持っているの?
ユニバンス王国・王都郊外ノイエ小隊待機所
「小娘~! 豚を独占するな~! 抱えて逃げるな~!」
「勝者の特権」
いつもながらにオーガさんが騒いでいる。
ふと視線を向ければノイエが豚の丸焼きを相手に踊るように逃げていく。ダンスの相手としたらそれで良いのかと思ってしまうがノイエならありかもしれない。
その様子に焚火を囲いつつ酒まで飲んでいる人たちが大笑いだ。
宴会モードだからそんな空気も許される。完全なる無礼講状態だ。
故に気の合う仲間が集まり飲んで食べてをしている感じだ。
ただ不思議なことはオーガさんの周りには不思議と人が集まっている。
本来恐怖の対象であるはずの彼女だが、周りから全く怖れられずその豪快な飲み食いに笑いが生じるのだ。あれがカリスマか?
豚を抱えて逃げて行ったノイエを追うことも無く、酒樽をジョッキ感覚で持ち飲んでいるオーガさんは良い感じで出来上がっている。それもあってちょっとしたことで大声を上げている。
「で、ポーラさん」
「……はい」
こちらも鶏の丸焼きをモグモグしていたポーラが咀嚼をしてから返事を寄こした。
氷の祝福を使ってお腹が減っているのだろう。悪いタイミングで声をかけたね。
「オーガさんがこっちに来たことはちゃんと連絡して貰った?」
「はい」
頷き妹様が返事を寄こす。
そもそもあのオーガさんは自由人だ。ノイエと互角に戦ったという異国のドラゴンスレイヤーと戦いたいからという理由で、勝手にこっちにやって来たそうな。今頃キシャーラのオッサンは大慌てだろう。
もう何日も前のことか? そうすると慌てて部下に命じて追いかけている感じか?
それは良い。オッサンの慌てふためく姿は想像できる。問題はこっちだ。
「チビ姫~」
「ケーキを食べ終わるまで待つですぅ~」
待たん。ポーラさん、あの馬鹿を回収してきてください。
問答無用で妹様がメイド姿のチビ姫を抱えて運んできた。
「何ですぅ~?」
ケーキを盛った皿を抱えチビ姫が僕の前に運ばれてきた。
「オーガさんの件は陛下に報告した?」
「ですぅ~」
パクっとケーキを頬張りつつチビ姫が説明を続ける。
「いつも通り勝手に来たってことでシュニット様には報告したですぅ~」
「ならば良し」
「あとおにーちゃんがお客様たちを戦わせたことも報告したですぅ~」
「余計なことを」
ポーラさん。その馬鹿を羽交い絞めしなさい。
「何をするですぅ~」
ガッチリとポーラに拘束されたチビ姫が慌てふためく。
余計なことをした悪い子には、この苦い野菜を食べて貰おうか?
「止めるですぅ~! 野菜は嫌いですぅ~!」
だから君は成長しないのだよ。好き嫌いなく満遍なく栄養を取るべきなのである。そうすることで人の体は成長するのです。コロネを見なさい。渋々野菜を食べるようになりました。彼女は少なくとも君よりかは成長の可能性があるのです。
「錯覚ですぅ~! そんな苦いのを食べても育たないですぅ~!」
だから実験が必要なのだよ。
「いや~ですぅ~! 苦いのは嫌ですぅ~! むぐっ」
無理やり相手の口にゴーヤチックな野菜を押し込む。捻じ込む。
吐き出さないように口と鼻を押さえて……ゴクッと相手が飲み込むのを待ってから解放した。
「おにーちゃんが無理やり苦い物をわたしの口に~ですぅ~!」
発言!
禁書指定されている薄い本バリに卑猥なことを言わない。
「そんなわけでポーラさん」
「はい」
「その馬鹿にあと何回か野菜を食べさせておいて」
「分かりました」
恭しく頭を下げるポーラが近くに居るメイドさんたちに指示して……あれ? 僕は何回かって言ったよね? 何故に何本もゴーヤチックなモノを持ってきて焼き出すのかな? それを全部チビ姫に食べさせる気ですか? まあ良いか。頑張ってくれたまえ。
チビ姫への罰はポーラに任せ、僕は即席バーベキュー会場を歩いて回る。
「で、何でお前が付いて来る?」
気づけば僕の横にコロネが居た。
「ごえいです」
胸を張ってから傷が痛んだのか顔をしかめる馬鹿が居る。
君に守られるほど僕ってば弱くないと思いたいんですけどね。
コロネを引き連れちょいちょい会話に混ざりながら辺りの様子を確認する。
兵たちはそれぞれグループを作って飲み食いしている。話の内容は見目麗しいハルムント家のメイドさんたちをどうやったらワンナイトに誘い出せるのかだ。
うむ。僕が教えてあげよう。絶対に無理である。
何故だと? あの人たちの基準は自分たちより強いことが大前提だ。そして何よりメイドさんを養える経済力が必須である。貴方たちにあの見た目だけは一級品だけど、恐ろしい化け物の何かを宿しているメイドさんたちの主人になれますか? はい? なら僕がどうしてあの人たちの主人でいられるのか?
良し分かった。文句のある奴は全員並べ。1人ずつ僕の偉大さを……何故全員並ぼうとする? お前たち全員僕に勝てると思っているのか?
ならば勝負方法は僕が指定する。経済力勝負だ。圧勝だな。
野郎共が僕との勝負を諦めた。
そもそも僕はこの国でトップとも言われる経済力を誇るドラグナイト家の当主である。個の武力は無くとも経済力だけはあるのだよ! 主にノイエの収入ですけどね!
カカカと笑いながら『どうよ?』とコロネに話を振れば『あ~はいはい。すごいですね』と受け流した。悪いメイドは罰が必要なので抱えて……スズネさん? ちょっと良いですか? この義腕外せる? あっさりだね。そのまま義腕を確保しておいてね。コロネ? 今からお仕置きです。
脇に抱えて尻を叩きながら次なるグループに向かう。
こちらはルッテを中心とした女性たちのグループだ。テレサさんも合流している。
「あれ? 今夜は腰振りに行かないの?」
「わたしたちを何だと思っていますか?」
「猿」
「アルグスタ様?」
ルッテが睨んで来るがその通りでしょう? モミジさんが大人しいのは、彼が仕事で会えないから仕方なくこっちにいる? また新しい魔道具を作ってる感じ? それなら仕方がないね。
で、そっちのイーリナが爆睡しているのは? はい? 酔って寝ているだけ?
勝手にお持ち帰りされないように手配しておきなさい。当たり前です。飲ませた人の責任です。
「で、テレサさん」
「はい?」
モグモグとケーキと鶏肉を交互に食べている彼女が顔を上げた。
どうやらエロい大人の話にはまだ加わる気が無いらしい。真面目か?
「保護者は?」
「えっと……少し辺りを回ると言ってました」
「あっそう」
ちょっと用があったんだけどね。
「で、アルグスタ様?」
「ほい?」
「その脇に抱えているのはメイドさんは?」
これですか?
「躾の最中です」
「……」
何故にそんな表情を向けて来るのかね?
「リズミカルに叩きながら時折フェイントを入れる。叩かれると思っていた相手はお預けを食らうことでさらに感度を上げるのです」
「それって躾なのですか?」
「躾のはずなのに喜び出すのも居て大変なのです」
具体的にそこに居るモミジさんという変態がこっちに羨望の眼差しを向けているでしょう?
これも本物の変態ですからあんな目を向けて来るのです。
「よろこばないし」
うむ。抱えている荷物がそんなことを言って来るので、お尻のホール部分にちょっと強めの刺激を入れたら『きゃんっ』と甘い声を出して鳴いていた。もうこの馬鹿も色々と終わっている気がする。
「で、テレサさんや」
僕は適当に座り改めて彼女に質問をすることにした。
「ちょっと聞きたいんだけど良いですか?」
「何ですか?」
うむ。基本素直で人を疑わない彼女であれば僕の質問にちゃんと答えてくれるだろう。
「公国にもドラゴンスレイヤーが居るんだよね?」
「居ますね」
「見たことは?」
「無いです」
そうか。それは残念。
「でもどんな力を持っているのかは知っているよね?」
「はい。知ってます」
やっぱり知ってますよね。
あっこっちのケーキも食べますか? それとも焼かれた鶏肉の方が良いですか?
スズネ君。その義腕はここに置いておいて良いのでケーキとお肉をそこの女性にお願いします。
「で、どんな力を持っているの?」
これは決して買収ではありません。
© 2025 甲斐八雲
保護者が居ない隙に情報収集です。
公国のドラゴンスレイヤーは『老師』と呼ばれる魔法使いです。
この辺は有名ですが、テレサさんはそれ以上のネタを持っています。
つまりどんな魔法を使うかです




