構って欲しくてもこれは違うです~!
ユニバンス王国・王都郊外ノイエ小隊待機所
グローディアとエウリンカが来て帰って3日過ぎた。
何故か夜な夜な妖艶な衣装を着て僕を誘ってくるノイエの攻勢にも慣れたので、本日はちょっとした散歩というか社会科見学的なことをしてみようとなった。
「へぇ~」
大きく目を見開いたテレサさんが四方に目を向けて驚いている。
その様子は初めて『園』の名の付く施設に来た子供のようだ。遊園地でも動物園でも連れてきた子供がここまで驚き喜んでくれたら両親としては本望であろうってそんな感じに思えた。
あれ? ここに来るのは初めてなの?
「はい」
戸惑いながらも彼女が答える。
何で?
グルンと顔を動かし横に居るルッテを見る。
「あの~ここは一応王国の最重要施設ですので……アルグスタ様こそちゃんと陛下の許可は得たのですか? 他国の要人とか普通連れてこないですけど?」
そんなもん得ている僕だと思いますか?
「ですよね~」
『あはは。あは。あはは』と笑いながらルッテが見て分かるほどの汗をかく。
これこれルッテくん。この程度のことで問題になると思っているのですか?
「結構おもいっきり」
「あはは」
どうしようもないお馬鹿さんだな~。この巨乳は~。
うんうんと頷き僕は足を進めて待機しているメイドの中からそれを掴んで引っ張り上げる。
「これで大丈夫」
「放すのですぅ~」
「……」
ジタバタと暴れる猫持ちした幼女メイドの存在にルッテは全てを悟った様子だ。
こういう場合は僕よりも偉い人に全ての罪を押し付けてしまえば良いのだよ。ここに居る王妃様にな!
「おにーちゃんが邪悪な笑みを浮かべているですぅ~」
「気のせいです」
「絶対にわたしに全ての罪を押し付ける気ですぅ~」
「そんなことはない」
全ては流石に気が引ける。言い出した罪ぐらいは僕が引き取ろう。後はお前が先導して実施したことにするだけのことだ。
「邪悪ですぅ~」
何を言おうがここに居る時点で君の負けなのだよチビ姫がっ!
躾けのなっていない幼女メイドを脇に抱え、ペチペチと尻を叩きつつ、とりあえず辺りを見渡す。
流石にこの場所に来ているのはテレサさん以外だと彼女の本来の保護者であるフランクさんのみだ。フランクさんの部下たちにはゲート街に残って貰った。
何でも少しずつ人員を入れ替えているそうで、今日はその入れ替え日だったらしい。
決して狙ってなどいない。いないのです。
「これほどの規模の施設を作るとはな」
ユーファミラ王国の近衛団長でもある彼は、ノイエ小隊の待機所を見て頭を掻いている。
「ウチの近衛の数倍も規模が大きいんだが?」
「そうなの?」
チビ姫にペチペチを継続しながら彼の愚痴に耳を傾ける。
「この規模の要塞を築き上げて小国とか過小評価しすぎだろう?」
「あはは。何を言います?」
ユニバンスは小国ですよ? ただ近隣に存在していたのが大国だけでしたので、比べていた物差しが間違っていたんじゃないのかと思う時はあるけどね。
「それにこの施設はウチの資金で作ったしね」
「……個人でか?」
「まあね」
ぶっちゃけドラグナイト家の稼ぎはノイエの頑張りである。
つまりこの待機所の資金を提供したのはノイエ個人とも言えなくない。
ただ彼女はお金に関して無頓着なのでどんなに稼いでも気にもしない。結果僕がどれほど使っても怒りもしない。彼女が怒るとしたらご飯にお肉が出て来ない時だけだ。
「もぐもぐ」
あっちで仕事前の軽食をもぐっているノイエが『その通り』と言いたげに頷いている。
「本来のドラゴン狩りは儲かるんだよな……」
サツキ村もそうだったけどドラゴンを狩れるのに儲かっていない方がおかしいのです。
深い深いため息を吐いてフランクさんが視線を遠くに向けた。
貧乏国であるユーファミラ王国は最近までドラゴンスレイヤーが居なかった。そのせいで国庫は大炎上し、破綻寸前にまで追い込まれていたそうだ。けれどテレサさんがドラゴンキラーに見いだされめでたくドラゴンスレイヤーになった。
「それでもあれは不器用だから」
「納得」
フランクさんの愚痴が止まらない。
不器用なのはテレサさんとキラーの両方だ。敵対するドラゴンを素材として使いづらい感じで仕留めてしまう2人のおかげで儲けが少ない。何よりユーファミラ王国の立地が悪い。ゲートとの間に公国を挟むために商人の流れがとにかく悪いのだ。
『騎士を護衛に付けて夜の時間にこっそりと移動してな』と彼の愚痴が止まらない。
そのせいで商売規模は大きくできず、どうしても大きな商いをする時は、ゲートを近い北西部から西部へ変更し、大きく迂回をして貿易するしかないとのことだ。
それだってドラゴンに襲われる脅威が付きまとう。ドラゴンスレイヤーはテレサさんしか居ないから護衛に回すこともできない。常にドラゴンに怯えながらの貿易を強要されていたのだ。
ただ今回ウチの国に来たことでユーファミラ王国は北西部の、つまり公国の近くに存在するゲートを使わないで済むようになる。率先して西部のゲートを使うだろう。
大陸の西にはサツキ村という対ドラゴン用の傭兵集団が居るのだ。そしてテレサさんはモミジさんと仲良くなって友達にまでなった。友達のためならとあの変態は実家に手紙を書き、その手紙によってサツキ村はユーファミラ王国に属する隊商の護衛を格安で受けることとなった。
あの脳筋一族がどうして?
僕の疑問への答えは簡単だった。『未知のドラゴン退治ができる』とのことで受けたのだ。
何でもサツキ村周辺に出るドラゴンとユーファミラ王国周辺で出るドラゴンとでは種類が違うらしい。サツキ村周辺のドラゴンはコモドオオトカゲチックなでっかいトカゲよりの種類らしい。
で、ユーファミラ王国周辺に出る中型以上のドラゴンは正統派のドラゴンだそうだ。立って歩くドラゴンだ。西洋のあのタイプだ。
それを聞いていたノイエがフリフリとアホ毛を左右に揺らして僕の顔をガン見してきた。どうやら狩りたいらしい。『間に合ったら狩りに行こうね』と言ったら機嫌良くアホ毛を揺らしていた。
それもあってテレサさんは急いで帰る必要が無くなった。何より本国から『ユニバンス国王より滞在の許可が許されている。しばらく外の世界を見て学ぶと良い』と言う指示が届けられたそうだ。
『ドラゴンスレイヤーが居なくても大丈夫なの?』と疑問に思っていたが、テレサさんが現れるまでは必死にドラゴンを攻撃して王都から遠ざけていた実績があるそうだ。退治はできないらしいけど。
ならのんびりと色々学ぶと良いってことで彼女はユニバンス王国での生活を満喫している。物凄く満喫している。満喫しすぎて体重が増加したそうだ。
ケーキに嵌まったのはテレサさんが悪いのであって僕は悪くない。
あと現在とある問題児がこちらに向かい移動中らしいので、僕はテレサさんの足止めをしていなければいけない。キシャーラのオッサンはもう少し自分の“娘”を手懐けた方が良いと思うのです。
まあ新婚のオッサンの邪魔をしたくなくて娘が変な気を使っている可能性もある。
つまり第二回ユニバンス最強王座決定戦の開催か?
その場合はカミーラとジャルスを呼ぶ必要がある。必要はあるが優勝するのはどうせノイエだろう。
「ふぁ~。このスープ美味しいです~」
気づくとテレサさんがノイエたちと一緒に軽食を楽しんでいた。
あ~。あそこの鍋のメンバーは良くないな。実に良くない。
ノイエにルッテにモミジさんが居る。その3人にテレサさんだ。つまり祝福持ち3人に囲まれている彼女は自分のペースを乱している。『相手もこれだけ食べているから大丈夫かな?』と思い込んで食べてしまう。しかしあの3人は大食漢だ。よく食べるのだけど太らないチートだ。
「何かいつも恵んでもらってばかりで済まないな」
「良いんじゃないんですかね」
ノイエがテレサさんのことを嫌っていない。
先の戦いで強かったから一目置いているのだろう。
ただ悪意はないのだけどテレサさんのことを『太った人』と呼ぶのがちょっとね。
知ってる。スリムなノイエから見ればテレサさんは太って見えるだろう。だが世の女性たちのために敢えて言葉を選んで欲しいのだ。『ふっくらさん』と呼んであげてとお願いしているが無駄である。
「おにーちゃん」
「はい?」
抱えているチビ姫がシクシクと泣いていた。
「無視しながらのペチペチは精神的にクルですぅ~」
「……」
なるほどなるほど。
ペロっとスカートを捲ってチビ姫の下着と尻を晒す。
「意図が分からないですぅ~!」
「ああ。構って欲しいのかと思って」
「構って欲しくてもこれは違うです~!」
チビ姫のシクシクがマジ泣きへと変化した。
© 2025 甲斐八雲
実はノイエはチビ姫のことを結構気に入っています。
だからアルグスタとこうしてじゃれていても嫉妬とかしません。
嫌わない理由はチビ姫が『家族のみんなが大好きです~仲良くです~』だから。
裏表なくそう考えているチビ姫をノイエ的には嫌う理由が微塵も存在しません。
そっか。テレサさんって祝福の人たちに囲まれて…そりゃ確実に太るなw
 




