兄さまの敵です!
ユニバンス王国・王都下町診療所
手術室と銘打たれた病室に成人した人間が入りそうな袋が何個も運び込まれた。
サクサクと進む準備を眺めていて感じた疑問、『あれ? 解剖の検体は?』の答えだ。
何でも氷魔法で良い感じに腐らないように保存された……そんな技術とかこの国に存在していたのね。と思っていたら検体を運ぶメイドさんたちが静かにポーラへと視線を向けていた。
『何故だろう?』と思いメイドさんに声をかける。
はい? ポーラの氷は大変に役に立つ?
それが全ての答えでした。
特に暑い時期に魔力消費無しで氷を大量に出せるウチの妹様は各方面から垂涎の的らしい。
元々大人気の妹様なので、売りに出したら一番人気間違いなしだと言われているしね。
ノイエの姉たちを差し置いて一番の座を奪うとは恐ろしい妹だよ。その中身にあれが入っていると知られればポーラの人気は爆上がりだろう。問題はあれは簡単に扱える人間ではないので、普通の人が相手をするのはとても疲れる。だから普通の人である僕は毎日疲労困憊なのである。
そんな悪魔は『リベンジよリベンジ!』と声高に騒いで魔眼の中に引きこもっているらしい。
ポーラから得た情報だとエウリンカを捜し回っているとか。
ああ。義母さまを一撃入れたドラゴンキラーだかスレイヤーだかいう魔剣の存在を聞き忘れていたな。今度覚えていたら聞くことにしよう。
ポーラを除外したノイエの姉たちの人気ランキングはおおよそ予想通りだった。
予想通りだったけれども一番に関してはビックリだ。アイルローゼは一番では無かったのだ。
人気は高いと思っていたが、まさかのレニーラだったのです。
その存在を馬鹿姉に押し付けてはいるのだけど『絶対にあの女好きであれば、必ずや舞姫を囲っているに違いない。独占は許さん。一度で良いからあの舞姫の健康的な足に踏まれたいのだっ!』と独身な貴族たちが騒いでいるとのことだ。
何でも青少年の頃にレニーラの舞を見て初めて性的興奮を得て以来彼女を求めて止まない一派と前回のあれで彼女の舞を見て性的興奮を覚えた一派が合体して最大勢力を作っているとか。
一部真面目に舞を求める人たちも居るが、大半はエロい目だ。
うむ分かった。代わりに神聖国からマッチョで逞しい女リキシたちを探し出し、彼女らのツッパリを馬鹿な野郎共の股間に浴びせ倒しの刑とかで良いでしょうか? そもそもレニーラに踏まれるとかどんな贅沢かと?
たまに僕の背中をマッサージ代わりに踏んでくれるが、フワッとした感じで体重を感じさせないあれはたぶん前世が羽毛か何かだったのかもしれないと思う。
問題は下から見上げるために仰向けになると問答無用でお腹に体重をかけてくることだ。
鉄の腹筋を得なければ下から見上げる舞姫の踊りは見れないのだよ!
悪魔に強化ガラスか強化アクリルを作れないか相談してみたら『舞台の床にカメラを仕込めばいいんでしょ? ただし有料よ? 私的には興奮しない映像な気がするから』と金をせびってきた。
だから今は我慢だ。何かレニーラの弱みを握った時に実行する予定である。
次いで二位では無いが真面目な芸術枠として人気なのが歌姫だ。
彼女は女性陣……ご婦人様やご老人からの要求が多い。こっちは性的な捌け口としてではなく、純粋に彼女の歌声に魅入られている感じなので芸術を求めての要求だ。
問題はセシリーンはまだ歌えない。
最近は鼻歌程度なら披露するけど声を出して歌うことはほぼない。まあ鼻歌でも彼女の子守歌は秀逸らしいので今度外に出てきて貰ってノワールのために披露してもらおう。
で、ぶっちゃけこの2人に関してはこっちの都合で外に出しにくいだけだ。
歌えないセシリーンは仕方ないとして、レニーラがまた出てファンを増やそうものなら本格的に暴動が起こりかねない。ガス抜きは必要なのだが、彼女の舞は抜くべきガスを作り出してしまう。
この世界に娯楽が少ないのが問題なのだ。娯楽が増えれば人の目は移り変わる。テレビ離れと呼ばれている世代がそれだろう。
今頃の日本のテレビはどうなっているのだろうか? 滅んでないよね?
そして能力として求められているのがアイルローゼだ。
彼女は全体から見て二位だ。安定の上位だ。
だか彼女の場合は魔道具を作り定期的に輩出していれば、それほど強引に求められない。
実際彼女が時折作る失敗作の魔道具を定期的に市場に下ろし、金を得てプレート購入資金にしているおかげでそこまで煩くないらしい。
唯一の問題は共和国辺りから物凄い圧力がかかっているらしいが、そこは頑張れ大臣たちよ。
あの国は全盛期よりだいぶ衰弱しているから多少強気に交渉しても良いと思う。
それ以外だとカミーラなど戦争時にヒャッハーした組への勧誘も多い。
こっちは前回の神聖国が攻めてきたことに対する恐怖心が原動力だと思う。
ただそういう人たちに言いたい。管理できない猛獣を傍に置くほど危険なことはない。
カミーラは普通に噛みつくよ? ジャルスとか普通に暴れるよ? スハとかも結構危ない逸話が残っているからね?
猛獣は檻の中に入れておくから周りは平和に過ごせるのです。
あとは優秀な魔法使いと言うことで魔法学院に所属していた人物を求められている。
こっちは主にクロストパージュが中心となって騒いでいるのだが、問題はあの一族が求めている人の何人かはお亡くなりになっているので、上から順に求めてきている感じがする。
以外なのはシュシュの評価が低いことだ。確かに彼女は学院に所属していた学生だったので目立っていなかったのか?
代わりにミャンの順位が上の方になっててビックリした。
で、案の定と言うべきだろう。もっとも厄介な一族が求めている存在がエウリンカとファナッテだ。
あの2人に関しては悪魔ですら『存在がバグよ。バグ』と言うほどのバグだ。その能力は特殊過ぎる。
そしてそんな2人を欲しているのがユニバンス王家だ。実家だよ。酷い話だ。
ただこれに関しては『王家が求めている存在だから他家は口を出すな。分かってるよね?』という暗黙の脅しが含まれている。エウリンカはほとんど知られていないがファナッテは前回の騒ぎで名が知られてしまったのでお兄様が手を打ってくれた感じだ。
その脅しの見返りというか『その2人に対し睨みを利かせている謝礼は分かっているだろうな?』という感じのあれが露骨に伝わって来る。裏口の脅しだ。始末に負えない。
お兄様の本命は常にホリーである。宰相から始まって好きな大臣の椅子をいつでも開けられるようにして待っているとかいう恐ろしい噂もある。
国王陛下のホリーに対する期待の高さは劉備玄徳も真っ青だな。
それら全ての存在を隠しているということになっているウチへの嫉妬は国中で渦巻いているとか。
今回神聖国に向かっている隙に家探しを決行したのも『それら人物を常に屋敷に隠しているのではないか?』との疑いの目を晴らす行為も含まれているとのことです。
そんな長々とした説明を順を追って受けたら、叔母さまの行いが許せてしまったから仕方ない。
完全に丸め込まれている気もするが、この件に関しては自ら丸まっていく所存だ。
「何だかな~」
僕としてはノイエとノイエの家族たちと一緒に楽しく生きられれば良いのに……あの姉たちが優秀で魅力的なのが悪いと思います。
「兄さま」
「ほい?」
まだ膝の上で座ったままのポーラが僕に背中を預けて甘えてくる。
ツンツンが姿を消したので愛らしさが増し増しだ。本当に可愛い妹である。
「グローディアさまとマニカさまの件は?」
「その2人は僕の中で死んでいます」
「……」
考えるなポーラよ。察するのです。
あの2人は僕の中で『敵認定』している存在です。
叔母さまが懲りずにその所在を確認してくるグローディアは仕方ない。あれは王家の末席に名を載せる腐った女だ。利用価値が高いからどうしても良からぬことを考える人がいるらしい。
簡単に言うとあれを手に入れて僕ら三兄弟を暗殺すれば国を乗っ取れる。血筋の上ではだ。問題はあれがそんな簡単に従う女かと言いたい。絶対にそんなことをしたら一族郎党を巻き込んで自滅するだろう。あれはファナッテよりも始末に負えない毒である。
「そこまで酷い人では、」
「ポーラさん。兄さんはその言葉に君への好感度が大暴落しました」
「……酷い人です。兄さまの敵です! 今度会ったら一撃で始末します!」
うむ。ポーラさんも分かってくれた。実に良い妹である。
ほ~れほれほれ。顎の下を撫でてやろう。うんうん。甘えるが良い。
マニカに関しては……うん。それを問い合わせてきた馬鹿には叔母さまのブリザード系の視線をお見舞いしておけばいいと思います。高級娼婦を求める野郎だなんて碌な人間ではないのです。
問題はそんな碌でもない野郎の中に前国王とかクロストパージュのエロ親父とかが混ざっているらしいが、それはそれぞれの奥さんに報告しておいてください。
味わえなかった果実を今更求めるなと言いたい。
死ぬ前に甘露の味を覚えて逝きたいとか贅沢すぎます。
最後の瞬間まで自分のお嫁さんを味わえばいいのですよ。
「さてと」
いい加減に色々と思考を現実に戻そうか?
僕がこうしてポーラを抱きしめてのんびりしているのには理由がある。
手術室からね、何とも言えない親子の会話が聞こえてくるんですよ。
時折質問する叔母さんの声も混ざって……覚悟を決めて聞き耳を立ててみようか?
© 2025 甲斐八雲
一番人気はやっぱりポーラですw
あのスィークから一目を置かれているちびっ子メイドはどこの貴族も欲する存在です。
あとは大方の予想通りですね。一位はレニーラですがw
無名で優れた人材で言うと……アイラーンとか結構チートなんですけどね。って誰も覚えてないか?
作者的には癒しが欲しいので、意外と家庭的なシュシュが欲しいかな?




