着せたのは君だけどね
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「それで何でしょうか。叔母さま?」
もしかしてあれですか? 馬鹿なチビ姫が旅先で赤ちゃんプレイに目覚め、最後はオムツまでしていた件ですか?
それは叔母さまの手で躾がなされたと聞いています。ただ義母さまから『半分ぐらいで許してあげて』と言われ、片方の尻だけを執拗に叩いた結果、チビ姫の片尻が膨れ上がりあれがしばらく斜めに生きていたとかそんな話ですか?
その件に関しては僕は一切かかわっておりません。たぶんきっと関わっておりません。
「グローディアに連絡を取って欲しいのですが」
「お断りいたします」
ソファーに腰かけた叔母さまの申し出を僕は最速かつ丁寧にお断りする。
「アルグスタ?」
睨まれた。
ですが違うのです叔母さま。聞いてください。
「嫌いなんで」
まごうことなき本音が溢れる。
「もう少し包み隠しなさい」
「顔も見たくないので」
「包み隠すという言葉の意味を知っていますか?」
あれでしょう? オブラートに包むってやつでしょう?
「拾い食いでもしてしばらく苦しんでから、糞尿垂れ流しながら無様に死ねば良いと常に思っています」
「アルグスタ?」
はて? 言葉を選んだはずなのにとってもストレートな物言いになってしまったぞ?
「ぶっちゃけ目の前に居たらその顔面に拳を放つ自信しかありません。ただ相手は一応女性なので利き腕ではない左拳を使います。怪我をしたくはないので鉄製のグローブはしますが」
「……」
額に手を当て叔母さまが何とも言えない感じで頭を振る。
しかし相手が叔母さまであっても譲れないこともあるのです。あれは敵です。僕とノイエの仲を引き裂こうとしたラスボスです。抹殺しないだけ感謝して欲しい。
なんなら猫に頼みあれを毎日甘噛みしてからガブっとしてもらいたいほどだ。
頼んだらしてくれるかな? 今度出てきたら聞いてみよう。
「……キルイーツからの頼みです」
「先生の?」
ふむ。そうなるとちょっと話を聞こうかなと思う。
「何でもグローディアの元に彼の愛弟子が居るとか?」
「あ~。はいはい」
合点がいった。つまりリグを呼びたくてグローディアに連絡を取れと?
はて? ちょっと待て? あの抉れた地平線の所に居るのは誰にしてたんだっけ?
護衛でカミーラ。暇潰しでセシリーン……あれ? 残りはリグだっけ? エウリンカだっけ?
「アルグスタ?」
「少々お待ちを」
うん。ちょっと待とうか?
いつも脊髄反射的に嘘を言っているからこういう時にマジで困る。
どうする? 確か……うん。分かった。こうなれば僕の真骨頂だな。
「あの~たぶん先生からのご指名って、娘のリグを呼んで欲しいって話ですよね?」
「ええ。それと貴方にも来て欲しいと」
それは分かる。一応僕はリグの保護者であるのです。
「実は現在あの馬鹿姉が馬鹿をして色々と問題が」
「聞きましょう」
スッと表情を正して叔母さまが僕を見る。
「実はあの馬鹿が『自分の胸を大きくできないか?』と言い出し、リグに無茶な指示を出したんです。ですがご存じの通りあれの胸は抉れた地平線。水平線の方がまだ凹凸があるぐらいでして……そこでリグは『無いモノを増やすことはできない』と言って喧嘩になったとか」
「……」
叔母さまの目が何とも言えない感じで座った。
「そこでリグは旧知の魔女に救いを求めて現在アイルローゼの隠れ家の方に居る感じです」
「つまり?」
「はい。色々と制約がかかるので呼び出せても1日が限界かと。隠れ家がバレないように帰るのにも制限がかかるので1日ぐらいで強制的に帰還することになるかと思います」
「そうですか」
良し。誤魔化せた。
これで今後何かあったら『あの馬鹿姉が……』で話を始めて勝手にこっちでシャッフルしてしまおう。
あの馬鹿に汚名を被せることに何ら抵抗などはないしね。
「それでも構いません。ただ出来れば早急に連絡を取って呼んでもらえれば良いとのことです」
「はい。分かりました」
視線を動かすと事前に察したポーラが窓を開けていた。
反抗期ではできた妹である。
「ノイエ~」
「……はい」
呼べば飛んでくるのがウチのお嫁さんだ。
窓の枠に足を置き手をかけて体を固定し僕に変わらぬ愛らしい姿を見せてくれる。
ごめんポーラ。後で頭を撫でてあげるから掃除しておいて。
ノイエが返り血でドロドロなのは想定してませんでした。
「なに?」
「小さいのに大きいお姉ちゃんを呼んで欲しいんだ」
「?」
分かってます。君が呼べなくても今のオーダーを魔眼の誰かが伝えてくれるはずです。
「急ぐのって歌の人が言ってる」
あれ? 思いがけない返事がノイエから?
「急ぎですよね叔母さま?」
依頼主である叔母さまに視線を向けたら、何故か彼女は傍仕えのメイドたちに清掃道具の準備を命じていた。
ごめんなさい。全部横着した僕が悪いんです。
「ええ。陛下からの命ですので」
おっと? 知らない。僕はその話を聞いてませんが?
「貴方が渋ったら使おうと思っていたのですよアルグスタ」
「そんな~。僕が叔母さまの言葉に逆らうわけ、」
「ならグローディアをここに」
「お断りです」
それだけは聞けません。無理です。細胞レベルで僕の何かがあれを拒絶するのです。
「そうなった場合に使おうと思ったのですよ」
「……」
確かにお兄様の命令となると……ああ。仕方ないってなるな。
お兄様のおかげで今の僕がこうして日々無茶をすることができるんだ。他の貴族からのクレームも宥めてくれているわけだしね。
「確かに……遺憾ですが」
「そこまで拒絶しますか?」
「はい」
あれは敵なのです。諦めてください。
「ん。行ってくる」
はい?
突然ノイエがそう言うと姿を消した。
えっと……ノイエさん? 何がどうしましたか?
ただもうノイエが居ないので分からない。
えっと……どうしたら良いのでしょうか? とりあえず清掃かな?
叔母さまも同じ結論に達したのか、僕はポーラに、叔母さまは自分のメイドにそれぞれ清掃を、
「にょ~~~~~」
はい?
聞いたことのない声に視線を動かす。
外から聞こえてきた声は窓の所で止まった。否、勢い余って転がってきた。
どうやらノイエが脇に抱えていて、でも今の彼女は全身返り血で汚れていて、挙句急停止も相まって……ズルっと発射された荷物がコロコロと、うん違うね。ボヨンボヨンと床の上を数回跳ねた。
「胸が……そろそろ本当に取れる……」
自分の胸を抑え込んで床の上で悶えるのは、いつものように南国調の水着にしか見えない衣装を身にまとった小さいのに大きいで有名なリグだった。
「とりあえずポーラさん」
「はい。兄さま」
『胸が~』とどこぞの大佐さんのネタを思わせる感じで悶えているリグの姿にため息が出る。
はい。全部僕が悪いんですね。
「リグを大至急お風呂へ」
「畏まりました」
王都・王城付近
「……」
お城を出て移動する馬車の中、リグがこっちを警戒しながら見ている。自分の胸を完全ガードでだ。
待って欲しい。流石の僕もこんな場所で君の胸で遊ぶ気はない。確かに温泉地ではハッスルしすぎてしまったが、あれは温泉の魔力だ。旅先での出来事だ。色々な要因が重なった結果だ。
「それで叔母さま。どうして先生はリグを」
「……」
僕の問いに何か言いたげな叔母さまがリグに向けていた視線を僕に戻す。
あれ? 何ですか? その『汚らわしい』と言いたげな視線は?
「その衣装はリグの好みですよ? 着ることを強要はしていません」
「……」
だからその下種を見るような目は止めていただきたい。最近その手の視線にゾクゾクしてしまう僕が居るのです。これ以上変な性癖を覚えさせないでください。
水着を思わせるリグの衣装は確かに布の面積が少ない。
おかげでリグが特急でお風呂に放り込まれて現れている隙に洗濯と乾燥まで終えてしまうほどだ。それぐらい布の面積が少ないのです。
「着せたのは君だけどね」
「……」
叔母さまの視線がとっても冷たくなったんですけど?
「落ち着こうかリグさん?」
大変言葉に語弊があります。
ちょっと待ってください。今から良い感じの嘘を……言い訳を言いますので待ってください。
「リグの持つ魔法はその身に刻まれた刺青を用いて放たれる特別なものです。ですか人の皮膚はふとした拍子に変化する場合もあります。刺青の変化はリグにとっては大変危険です。命にかかわる問題です。ですから変化がないかを確認するためにこうしているのです」
どうよ。完璧な言い訳でしょう?
「つまりいやらしい目で見ていないと?」
叔母さまがようやく重い口を開いた。
「それは違います。ぶっちゃけ見てます。だって僕は正常な男ですので」
「「……」」
ここで否定の言葉は悪手だ。だって僕は常にリグをエロい目で見ているのだから。
叔母さまは盛大にため息をついて諦めた感じだ。
リグはその褐色の肌を若干赤くしている。褐色の肌だから違いが分かりにくいんだよね。
「で、そんなエロ娘をあの先生はどうして呼んだんですか?」
© 2025 甲斐八雲
ストーリーを優先して若干話のタイミングを変えたが大丈夫かな?
たぶんうまく繋げられると信じるほかないんだけど。
そんな訳でまたリグです。ですが普段のリグって結構エロい格好をしています。
全て主人公の趣味ですが何か?




