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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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その子は何者なの?

 ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘



 全力疾走で義母さまが使用している部屋へと向かう。ただ全裸で行くのは大問題なので急いで服を着た。そしてあの馬鹿悪魔は面倒くさいのでシーツで包んで脇に抱えた。もし義母さまがこの悪魔の身柄を引き渡せと言ってきたら……ごめんポーラ。可愛い妹を救えない愚かな兄を許して欲しい。ちゃんと命日にはいつも君のために花を供えるから。


 ポーラってどんな花が好きなんだっけ? トリカブト? 彼岸花とか?


「義母さま! 失礼します!」


 返事を待たずに部屋の中に飛び込む。


 失礼な行為とかは向こうへ放った。今は一刻も早く弁明しなければだ。


「ノワールちゃ~ん。スゥハァスゥハァ……あ~。このお腹の辺りの甘い臭いがたまらないわ~」

「……」


 義理の母親が我が子のお腹を顔に当てて深呼吸していた。

 あれだ。猫好きの人がする猫吸いだっけ? あんな感じで全力にだ。


 ただこちらに目を向けてきた我が子ノワールの達観したような表情が何とも言えない。助けてとも救ってとも語らないその目は、ただただこの時間が早く過ぎることだけを望んでいるようだ。


 それで良いのか我が子よ?


「……あら? アルグスタ?」


 完全フリーズして暫し、ようやく気付いたらしい義母さまが、ノワールを顔から話すと胸に抱き、軽く咳払いをしてからこちらに視線を向けてくる。


「何か私に用でも?」

「今更真面目な振りをしても遅くないですか?」

「大丈夫よ。母の威厳はこうやってコツコツと積み重ねてこそ味が出るんですから」

「崩し方が半端ないから無理があると思いますけど?」

「もうっ! アルグスタまでハーフレンみたいなことを言って」


 ああ。あの馬鹿兄貴も言ってるのね。うん。気持ちは分かる。凄く良く分かる。


「それで何かしら? 晩御飯までにはまだ時間があると思うのだけど……まさかお義母さんと一緒にお風呂? ダメよアルグスタ。私と貴方は家族と言っても男と女。もし何かの間違いが起きたら大変だわっ!」


 うん。大変だけどそんなことは起きません。安心してください。


「私が興奮して貴方を襲ったらどうするの?」

「そっち?」

「冗談よ」

「ですよね~」

「今はまだ」

「可能性があるの?」

「どうでしょう」


 コロコロと義母さまは楽しそうに笑う。と、一瞬でその気配を変えて僕らにまた視線を向けてきた。


「それで来室の理由はその脇に抱えているヤンチャな妹の件かしら?」

「はい」


 スッと脇に抱えていた悪魔を前へと突き出す。


「焼くなり煮るなり蒸すなり潰すなり挽くなり何なりどうぞご自由にっ!」


 これぞドラグナイト家伝統の誠心誠意魂を込めた謝罪の仕方だ。決してスケープゴートの類ではない。


「えっと……義理とは言え妹よね?」

「妹です」


 厳密に言うとノイエのですが。


「ですがこの馬鹿がしでかした所業、王家に列なる者として看過できません。どうぞご自由に」

「あらあらまあまあ」


 何処か楽しそうに義母さまは、ノワールを自分の顔へと近づけ頬ずりする。


「家族を愛するアルグスタが妹よりもお義母さんを優先してくれたわよ」


 します。今はします。というかこれが公になったら僕的にちょっとヤバい。ちょっとで済むか? 無理だな。かなりヤバい。場合によっては国外に逃亡するしかない。逃亡先に伝手があるから問題は無いのだが、あの変態女王を頼ることには抵抗がある。そうするとサツキ村か? あそこもあそこで変態が勢ぞろいだから……この世界の変態率って高すぎやしないか?


 少しは真面目な僕を見習えと全世界に声高に伝えたい。


 義母さまはノワールを抱き器用に片手を自分の頬に当てた。


「でも……お義母さんはポーラちゃんとちょっとお散歩に出ただけよ?」


 相手の言葉に掲げ持つ悪魔をそっと動かし視線を向ける。義母さまは何処か楽し気に笑っている。


「ずっとこの別荘に居たでしょう? だからポーラちゃんに連れられてちょっと散歩に出ただけ。まあこの別荘を囲っている人たちにも秘密で出かけたから騒ぎになったみたいだけど」


 やっぱり騒ぎになってるのね? この別荘の周辺に配置されているのは馬鹿兄貴の部下たちか? つまり現在フレアさんがこの場に居ないのはその対応か?


 何故だっ! 何故そんな状況で僕は約半日も爆睡していた!


 もっと早くに気づいていれば対処も楽だったというのに……完全にじり貧だ。


「それにお散歩中にちょっと星とか降ってきたりしたけど」

「……はい?」


 ちょっと何を言っているのか本当に分からないんですけど? 星が降ってきた? 何よそれ?


「思わず掴んで握り潰したけど、衝撃でいいのかしら? あれまではどうにもできなくて大きく地面が震えてしまって……この別荘は問題無かったみたいだけど、王都の方はどうかしらね? 下町とか揺れに弱い家とかが潰れてないと良いんだけど」


 たぶん大丈夫かな? 王都は震源地ノイエってパターンが度々発生しているから倒壊しやすい建物には住みつかないように注意しているし、何より下町の建物にはドラグナイト家が主体となって耐震補強を推し進めているから、ここ最近は崩れ落ちて死傷者が発生する事態は格段に減ったはず。

 まあゼロではないんだけど、それは使用禁止にしている家屋に立ち入っていたりとかしての事故なのでこちらとしては打つ手がない状況だしね。ルールを守らないで被災した人たちまでカバーはできません。


「一応姉さまにお願いして王都の倒壊した建物への対処は任せてあります」

「まあまあ。ならお義母さんは何も心配しないで良いのね?」

「問題ありません」


 掲げ持つ蓑虫状態の悪魔が断言した。つかそこまで根回ししてあるのなら、


「心配するのは今夜も兄さまが姉さまに襲われることぐらいかと」

「おひ」

「大丈夫よ兄さま。ただ姉さまに新しい男の喜ぶ方法を伝授しようかと」

「マジで止めて」


 ノイエさんはあの馬鹿娼婦マニカから教えてもらわなくても良い技術を伝授されてレベルが高まりすぎている。たぶん上限を突破し、ついでに天元も突破している感じだ。本格的に僕の身がヤバい。


「そんな感じで兄さまが委縮するから姉さまが楽しめなくなってストレスに感じているのよ」

「……」


 蓑虫悪魔がおぞましい言葉を吐き出しているんですけど?


「まあまあダメよアルグスタ? ノイエちゃんを可愛がってあげないと」


 違うんです義母さま。可愛がられています。物凄く可愛がられています。


 ただ僕からではなくノイエからですが。


「姉さまは『アルグ様にも楽しんで欲しい』とお願いしてきたのよ? だから私は改良型の魔法を使った。おかげで今朝の姉さまはとても上機嫌で仕事に向かってくれたの」


 そうは言われましても。


「それに兄さまは姉さまの加護を受けているから、姉さまと触れ合っている限り死にはしないわよ」

「……はい?」


 今また何か言ったよね? この蓑虫?


 掲げている蓑虫の顔をこちらに向けると『もうこの馬鹿夫婦は』と言いたげな感じで呆れ果てた表情の悪魔が何とも言えない視線を向けてきた。


「色々と準備してから寝室に突撃して観測したから間違いないわ」

「何が?」


 スッと悪魔が視線を遠くへ向ける。


「……人って若くても心臓が止まるのね」

「おひ」

「でもその度に姉さまの加護で強制蘇生されるから問題ないわよ。というかあんな器用に蘇生できるなら普段からアクティブにしてなくても良いと思うんだけどね」

「……」


 つまり僕の心臓は限界突破しているというのですか?


「大丈夫よ。姉さまが死なない限り兄さまは姉さまより先に死ぬことはない。加護が切れてなければという言葉が前提になるけどね」


 うわ~。知りたくもなかった事実を知った感じです。


「怪我や病気も姉さまの加護で治りは早い。何よりその底抜けな精力は……生まれ持った要因もあるのだろうけど、多分姉さまが望む限りは尽きることがない。それが原因で兄さまの体が限界を迎えると強制停止状態になるんだろうけどね」


 強制停止って死んでるやん。


「でも死なない。姉さまの愛が加護となり兄さまを必ず生かす。ある意味で世界一重たい女に愛されたわけよね~。で、兄さま? ご感想は?」


 決まっているだろう?


「ノイエへの負担は?」

「ドラグナイト家に対しての金銭的な負担だけだと思う。あくまで現時点ではだけど」


 それはノイエが頑張るからつまり無しということだね?


「ならば最高じゃないかっ!」


 常に背水の陣だと思っていたら自分の背後にマットが敷かれているという事実を知った感じだ。


「ノイエがそこまでしてくれているなら今夜から頑張らないとね」

「……やっぱ兄さまだわ~」


 何よ? その呆れ果てた笑みは?


「普通は嫌がったり怖がったりする場面よ?」

「そう?」

「少なくとも喜ばないわよ」


 そっかな? まあ僕が普通の人とはちょっと違うのは自覚しているけどね。


「で、昨夜のことを覗いていたと先ほど言っていたこの糞悪魔をどうしてくれようか?」

「いや~! あとループ再生で10回は見てから3つぐらいに保存してからマスターデータを渡すから許して~」


 それを許したら僕がいくら何でもザル過ぎるだろう?


 とりあえずこの馬鹿悪魔への躾を……ああ。義母さまの存在を忘れていた。


「二度とこのようなことが起きないよう、この馬鹿妹を折檻してきますので失礼します」


 頭を下げて悪魔を脇に抱えて、いざ脱出へ!


「あらあら逃げ出すの。アルグスタ?」


 コロコロと笑う義母さまの目が笑ってない。


「で、その子は何者なの?」

「……」


 あかん。逃げられる気がしない。




© 2025 甲斐八雲

 ただ色々と計算しまくる刻印さんは…まあその辺の種明かしはしない方向で。


 ぼちぼち王都に帰ります。たぶん?

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