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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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ご褒美はアルグ様を喜ばせる方法

 ユニバンス王国・王都郊外ノイエ小隊待機所



「……隊長?」

「ん」


 馬を駆ってやって来た人物、ルッテはその存在を目にして思わず辺りを見渡した。


 特に問題は無い。不自然な点もない。だからこそ戸惑ってしまう。


 この場所で頂点にも近い権力を持つであろう人物、ノイエ・フォン・ドラグナイトがワンピース姿で椅子に腰かけていたのだ。


 いつもなら夜が明けてから、夫である人物を絞り切ってから入浴と朝食を済ませてから来るはずなのに。


「今朝はこんな早くにどうしたんですか?」


 そんな人物が夜明け前のこの時間に居るのは珍しい。というか想定外の時間に動かれるとこっちの事情も色々とあって……などとルッテはその豊かな胸の内で考えてしまう。


 現在別荘で神聖国への遠征で『疲れた』という理由で休暇を楽しんでいるはずのこの夫婦に何かあれば、別荘近くで待機している人たちから連絡が“描かれて”いるはずなのだ。そんな連絡事項を夜明けに確認するのが、ルッテが国王陛下から直々に命じられている勅令でもある。


 それなのにそれをする前にノイエには来てほしくないのだ。

 もし『緊急』とか地面に書かれていたら……うん。夜明け前で見えなかったと言い張ろう。例え地面に油を使い炎を文字にしていても見えなかったのだ。


 煙とかが邪魔したんですよ。きっと。


 スッと立ち上がったノイエは、辺りをキョロキョロと見渡すとまた座った。


「隊長?」


 ある意味で通常運転だ。ノイエの奇行はいつものことだ。


「言われた」

「何をですか?」

「着替えて待ってる」

「はい?」


 相手の言葉にルッテは首を傾げる。


 いつも通りの奇行はどうにかなる。問題は成立しにくい言葉でのやり取りだ。


「えっと何か起きるのですか?」

「たぶん?」

「……何が起きるんですか?」

「なにか?」

「…………何が起きるのかは聞かなかったんですが?」

「どうして?」


 一回大きく息を吸ってルッテは気分を落ち着けた。


 大丈夫。まだ仕事前だから全力で息を吸っても苦しくない。最近また革の鎧がきつくなってきた気がするが気のせいだ。気のせいなのだ。だって胸だけでなくてお腹周りも少し……大丈夫。太ってない。太ってないから平気。


「油断するとブクブクと」

「こんな時だけ的確にっ!」


 ノイエの言葉に思わずツッコミを入れつつ、ルッテは咳払いをした。


「誰に言われたのですか?」

「変な人」

「……」

「凄く変な人」


 それはそれで困る。


 言ってはいけないことなのかもしれないが隊長ノイエの周りには、若干から結構まで数多くの変な人が揃っている。


「大きい子も含む」

「含まないでくださいっ!」


 何故か今日はノイエの調子が良いらしい。少しのズレで会話が成立する。


「今日は調子いい」


 また立ち上がったノイエがその場でクルっと回る。

 朝日を浴びてキラキラと輝く髪やいつも通りに艶々の肌が眩しい。


 何をどうしたらこんなに人は美しくなれるのだろうか?


「溢れるくらいに絞りつくしたら?」

「……そろそろアルグスタ様の心臓が止まりますよ?」

「平気。私の心臓が止まらない限り」


 ポンと自分の胸を叩いてノイエが胸を張る。


『ん?』


 その違和感にルッテは思わず目を細めた。


 張られたワンピースの胸の部分に違和感が?


「隊長?」

「はい」

「ブラは?」

「……」


 その言葉にノイエはワンピースの胸の部分を軽く引っ張り、そして辺りを探し出す。


「下も消えた」

「まさかの上下っ!」

「脱ぐまでは着てた」

「脱いでから着た記憶は?」

「服は着てる」

「ワンピースはそこまで万能じゃありません!」

「まだ頑張れる」

「ワンピースの限界を超えてますからっ!」

「むぅ」

「拗ねるのっ!」


 驚きつつも急いでルッテは相手を連れて建物へと入る。


 一応ノイエの私室として作られている隊長室だ。ただ使われない机と椅子と棚が置かれている場所である。それ以外はノイエが普段から使用しているプラチナ製の鎧が鎮座している。


「予備があるからって、もうっ」


 急ぎ棚の中を確認したルッテは、ノイエ用の替えの下着を手にする。


 普段から汚れ仕事の多い彼女にはこうして替えの下着が準備してある。ただ何故かあれほどの汚れ仕事をしているのに下着を汚さずにいることも多い。

 何かしらの力が働いているのか……そう思うほどにだ。


「これで良いですね?」

「アルグ様が興奮するのが良い」

「あの人なら何でも興奮しますっ!」


 少し触角のようなひと房の髪を回してから、ノイエは差し出された下着を受け取る。


「……隊長?」

「はい」

「まさか穿けないとか言いませんよね?」

「平気」


 告げてノイエはワンピースを脱ぐとまずブラをする。そしてキョロキョロと辺りを探し出した。


「下着はその手に握ってますよ?」

「違う。靴下」

「はい?」

「下着は最後が良いって」

「なんてことを教えているんですかっ!」


 まったくあの上司は……と内心毒づきながらルッテはノイエが握っている下着を奪い取る。


「靴下は後で良いんです」

「アルグ様が興奮しない」

「します! あの人は何でも興奮します!」

「そうとも限らない」

「絶対に興奮しますからっ!」


 何故か抵抗するノイエに無理やり下着を穿かせ、ルッテは額に浮かぶ汗を拭う。


 それから替えの靴下を取り出し彼女に渡す。ノイエは受け取った靴下を見つめると、椅子に腰かけ足を高く上げて靴下を吐き出した。


 太ももの奥まで見せつけるように穿くその姿に同性のルッテですらドキッとする。


 これは危ない。確かにこの状態で下着を穿いていなかったらあの上司は間違いなく欲情し襲い掛かるであろう。


「って、どうせ隊長は今朝も絞りつくしてから来たんでしょう?」

「ん」


 靴下を穿いたノイエは何処か満足げな雰囲気で頷く。


「いっぱい絞った。泣きながら喜んでくれた」

「それって大丈夫ですか?」

「ん。私のお腹が空いたぐらい」

「……」


『あ~。流石の隊長でも男性のあれではお腹は膨らまないんだ~』とルッテは一瞬そう思う。


「飲んでないから」

「飲むっ!」


 まさかの発言にルッテですら目を剥く。


「苦いから好きじゃない。でも小さな子が大好きで良く飲んでる」

「小さな子って……」


 思わずルッテは自分の両腕を摩った。

 ドラグナイト家は小さな子……メイド見習いの少女たちが多数居る。そう居るのだ。


 つまりそのうちの誰かが飲んでいることになる。否、待て。1人とは限らない。相手は貴族様だ。


「私は飲むより絞る方が好き」

「そっそうですか……」

「アルグ様のあの顔が好き」

「……」


 腕を摩りつつルッテは思わず相手から顔を背けた。


 理解してしまった。相手の言葉を痛いほど分かってしまったのだ。だって自分も結構好きだから。


「あの顔を見ていると何度もしたくなる」

「……」

「次はなんて言うのか凄く楽しみになって」

「もうそれ以上は勘弁してくださいっ!」


 胸の奥を抉ってくるノイエの言葉にルッテは頭を深く下げて懇願した。


 はいその通りです。自分もその傾向が……認めます。というかその通りです! 大好きです!


 泣き出してしまいそうな自分の精神状態に鞭を打ちルッテはノイエにワンピースを被せた。


 スルッと服を着たノイエは、そのまま鎧の元へ向かい装着をし始める。

 下着や服を着るのは怪しい彼女であるが鎧は自分から進んで着る傾向にある。問題はロック部分を閉じ忘れるので、装着後の確認は必須であるが。


「ん」

「お~」


 ただ今日はロック忘れもなく無事に装着を終える。


 その様子にパチパチと拍手を送ったルッテは……忘れていた何かを思い出した。

 ぶっちゃけ現実逃避をしていたのだけど、思い出してしまったのだから仕方ない。


 ため息を吐きつつ左目に手を当てて自身が持つ祝福を発動した。


 確認するのは王都より北の位置に存在するドラグナイト家の別荘だ。

 その近くに近衛の部隊が待機していて、地面に……あっあった。ちゃんとこれでもかと大きな文字が地面に描かれていた。


「って、はいぃ?」

「なに?」


 着替えを終え、ぼーっと突っ立て居たノイエの声にルッテは右目を向ける。


 ノイエが居たから両目での確認はしていなかったが、こうして左右の目で違うものを見ると頭の中が混乱する。昔はそれが原因で気持ち悪くもなったが、今のルッテは慣れたおかげで我慢ができる。


「むぅ……だから“それ”ができない」

「はい? じゃなくて」


 相手の声に思わず聞き返したルッテだが、流石に流されずに意識を戻した。


「隊長! 前王妃様が居なくなったって!」


 大事件だ。たぶんとんでもなく大騒ぎになる案件だ。

 急いで城に連絡をと思ったルッテだが、口を動かし発言するノイエの言葉に足を止めた。


「小さな子と散歩に行くって」

「……はい?」


 動かしかけた足を止めルッテは相手を見る。


 いつも通りのノイエの表情は“無”だ。だからこそ相手の感情は全く読めない。


「小さな子と散歩に行くって」

「何処にですか!」


 重要なのは場所だと気づきルッテは相手に尋ねる。


「人気のない場所?」

「あ~! 一番厄介な!」


 思わず頭を抱える。


 ルッテとしては一番困る話だ。何故なら捜索を命じられる。間違いなく、それこそ王国中を確認するようにと命じられる。下手をしたら見つかるまでずっとだ。


「大丈夫」

「何がっ!」


 パニックの余りにルッテは声をあげる。だがノイエは動じない。いつも通りに口を動かす。


「終わりの合図は……何だっけ?」

「思い出してくださいっ!」


 たぶん手がかりだ。間違いなく手がかりだ。


 それに気づいたルッテは相手の肩を掴んで前後に振るう。

 触手のようなひと房の髪を前後に揺らし……ノイエは唇を動かした。


「地面が揺れる」

「はい?」

「だから今日は早く来た」


 言ってルッテに肩を掴まれたままノイエは外に向かい歩き出す。

 相手の力で両手を外されたルッテも慌ててノイエの後を追った。


「地面が揺れるって何ですか?」

「そのまま」


 外に出て広場の真ん中に立ったノイエは顔を上げ空を見た。

 釣られ視線を動かしたルッテは、一瞬自分の腰を抜かしかける。


 星が……空に浮かぶあの星が1つ落ちてきていたのだ。


「揺れたら崩れるから救ってって」

「えっあっはい?」


 ノイエの言葉にルッテの理解が追い付かない。


「ご褒美はアルグ様を喜ばせる方法」


 トンッとノイエは軽く地面を蹴った。




© 2025 甲斐八雲

 あれ? ノイエの話をしてから別荘の話をして…と考えていたら1話でもボリューム過多に入る文字数になった挙句に別荘にまで戻れなかったぞ?

 うん。だって興が乗ると話が長くなるんだもん。仕方ないよね?


 お散歩に出た刻印さんと前王妃様…で、星が堕ちてくる状況って、あの2人は何してるの?

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