表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2181/2334

溢れてる

 ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘



 時は深夜。夜はまだ明けていない。



「あら姉さま?」

「はい」


 いつも通りの無表情で迷いのない足取りでやった来た相手に小柄なメイドは苦笑する。


 時は深夜。


 別荘ということもあり、この時間のこの場所……厨房は静まり返っていた。

 竈の火も落とされている。何故なら食事を求めるであろう人物が今夜は寝室から抜け出してくることを想定していなかったからだ。だからこの場で働いていた者たちは皆、温泉を楽しみ眠りについている。


 折角の温泉なのだから皆に楽しんでもらった方が良いとの配慮だ。

 兄は残念なことに寝室の住人なので指示は体の持ち主の振りをして自分が出したが。


「今夜はもう肉を焼くとか無理よ?」

「むぅ」

「拗ねるくらいなら兄さまでも味わってなさい」

「それはしている。いっぱい」

「はいはい」


 している最中なんだと思いつつ小柄のメイド……ドラグナイト家の末妹であるポーラの姿をした三大魔女は苦笑した。


「何かある?」

「鼻は良いのね」

「はい」


 相手の食べ物に関する嗅覚は野生動物並みだ。故に隠しきれない。


「と言ってもこの果物で私の手持ちは終わりよ?」

「むぅ」

「拗ねないの」


 エプロンの裏から取り出した果物は巨峰のように粒の大きなブドウだ。時期は違うがそれは魔法の力で強引に誤魔化した。具体的には冷凍して保管だ。


 ただ現在進行形で解凍中だから若干凍っている。


「これを湯船で暖まりながら食べるのが好きなんだけど」


 温泉に入りながら冷たい物を食べる。贅沢だ。贅沢である。

 冬場にすると犯罪級の背徳感を得られる。アイスクリームでも可だ。


「それか冷たいお酒を飲むってパターンもあるけど……姉さまは酔わないしね?」

「たくさん飲めば酔う」

「止めてよね。お酒が勿体ないわ」

「むぅ」


 ガラスの器に房から外した身の粒を盛っていく。

 ただ横から伸びてくる姉の手が摘まんでいくので、いっぱいになるまでに時間がかかったが。


「もっと」

「嫌よ。私のだもの」

「むぅ」


 拗ねながらガラスの器に盛られたブドウの粒を摘まんで姉は自分の口へと運ぶ。


 その様子が本当にエロい。何故か顎を持ち上げ顔を上に向けて口にするのだ。


「天然エロ子には本当に勝てないわね」

「もっと褒めても良い」

「はいはい」


 苦笑しながら持ってきた椅子に腰かけ魔女も自分の口に粒を運ぶ。


 もう少し解けたぐらいが丁度良い。もう少しシャクシャクとした触感が良い。これだとまだ氷だ。


「それで姉さま」

「なに?」

「兄さまは?」

「んっ」


 口へと運んだ粒を咀嚼して姉はその目を向けてくる。


「小さいのに大きい子を前後に激しく揺すってた」


 あの姉の認識はそれで固定らしい。


「あまり激しくすると飛んでいくわよ。あの胸?」

「ん。『飛ぶ飛ぶ飛んじゃう』って言ってた」

「でしょうね」

「嬉しそうに」

「……それはそれで違うモノが飛んでいるのかもね」


 何気にあの医者は兄とのエッチが嫌いではない感じだ。ただ終始胸を重点的に狙われるから拗ねてしまう。自分の魅力が『胸』だけなのかと考えてしまうのだ。

 ただ持っていない者から言わせてもらえば、『優れた一つを持つ者がなんて贅沢を』と言いたくなるだろう。間違いなく。


「毒っ娘は?」

「ん。ずっと笑ってる」

「それはそれで確実に飛んでるわね」


 あの毒娘に野獣と化した兄の責め苦は、違った意味で毒でしかないだろう。


 ただその毒は人によっては中毒性の強い快楽だ。仮にあっち側へ落ちたとしたら……まああの兄ならどうにかするだろう。


「それで姉さまは休憩?」

「ん」

「傍に居なくて良いの?」

「ここなら間に合う」

「凄い自信ね」


 普段のガツガツとしたスタイルではなく味わって食べている姉の様子に魔女は確信していた。


「兄さまが『止めて』と言ったから?」

「はい」


 姉の返事に迷いはない。


「でも離れる時は使うんでしょう?」

「はい」


 その返事もまた迷いがない。


「本当に姉さまは兄さまのことが大好きなのね」

「はい」


 迷いはない。


 苦笑し、魔女はエプロンの裏からブドウの房をもう一つ取り出す。

 摘まんで粒を外し、姉が差し出してきたガラス器に乗せていく。


「前から聞きたかったんだけど……姉さまはどうして兄さまをそんなに愛しているの?」


 不思議ではあった。

 この姉が何を考えているのか全く分からない。だからこそここまで兄に執着する理由が謎だ。


 姉……ノイエはクルンと若干重そうに見えるアホ毛を回す。


「キスしたから」

「それだけ?」

「はい」

「……」


 もしそれが本当の理由だとしたら少しだけ兄に同情してしまう。


「カミューが言ってた。男の人とのキスは一生ずっと一緒に居る人とって」

「あの暴力鉄拳女が?」

「はい」


 ただ姉の目が若干泳いでいるから、その言葉が正しいか疑問が残る。

 たぶんあの狂暴女から伝えられた言葉をニュアンスで覚えているのだろう。


「お姉ちゃんたちとしても何もなかった」

「あ、うん」


 してるんだ~と素直に思った。

 ただ喜んでやりそうなそうな姉が魔眼の中には複数居るから、魔女ですら該当者多数としか判断できない。ぶっちゃけ自分もしてしまいそうだ。それほど姉は魅力的なのだ。


「でもアルグ様としたら違った」

「違う?」

「はい」


 その唇に粒を運びゆっくり咀嚼して喉を動かす。


 本当にこの姉は美しいという言葉が似あう。


「あれ」

「なに?」

「凄かった」


 それはどういう意味だろうか?


「初回から舌とか入れられた感じの話?」

「違う」


 なら良かった。


 ファーストキスでそんなことをしていたら、流石に後であの兄の腹にワンパンを入れていただろう。

 ただあれは鬼の血を引く天然エロ大王だ。その可能性は拭えない。


「繋がった」


 しかし諸々の魔女の予想を超えて姉はそう言葉を紡いだ。


「繋がる?」

「はい」

「唇が?」

「違う」


 クルンと姉のアホ毛が回った。


「深い場所」

「……」

「たぶんここ」


 言って姉は自分の胸の真ん中に両手を当てる。


「そう」


 姉がそう言うのであればきっとそうなのだろう。


「教えて」

「なに?」

「ここは何?」


 首を傾げる姉に魔女はクスクスと笑った。


「姉さまは何だと思う?」

「むぅ」

「少しは考えなさい」


 椅子から立ち上がり魔女は軽く背伸びをした。


「分からない」

「で、しょうね」

「むぅ」

「拗ねないの」


 美人だけれど可愛い……兄が姉に対して使う言葉だ。


 その容姿は美しい部類に入る姉だが、このような小さな反応は本当に愛らしくて可愛らしい。


「姉さまは見てて本当に飽きないわね」

「アルグ様もそう言う」

「それはそうでしょうよ。兄さまは姉さまのことを“心”の奥底から愛しているんだから」

「知ってる」


 何処か拗ねた雰囲気を漂わせて姉がそう返事を寄こす。


 分かっているなら自分がした質問の意味ぐらい気付いてほしい……そう思いながら魔女は手を伸ばし姉の胸の真ん中に触れた。


「たぶんここに魂とか心とか呼ばれるモノが存在しているのよ」

「ここに?」

「ええ。ただし姉さまは……だけどね」


 その在り処を研究したこともある。魂や心の存在だ。


 結果としては不明であったが、ただ刻印の魔女の持論としては、魂や心の在り処は人それぞれだと認識している。決まった場所に存在はしていない。その人のどこかに必ず存在しているのだ。


「姉さまの魂……むしろ心はそこに存在しているのよ。だから兄さま繋がった時に響いたのかもしれないわね」

「……」


 分からないと言いたげな雰囲気で姉は首を傾げる。


「分からないなら兄さまとずっと一緒に居れば分かるはずよ」

「はい」


 クルっと背を向けノイエは歩き出す。


「ところで姉さま?」

「なに?」


 その声に姉の足が止まった。


「兄さまとはあと何回?」

「大丈夫」


 何が?


「まだ1回もこっちから手を出していない」

「あっそう」

「お姉ちゃんたちの邪魔はしない」

「燃え尽きるのを待ってるのね」

「残りは根こそぎ」

「間違っても殺さないでね?」

「はい」


 魔女はそれを見て動きを止めた。

 振り返った姉の表情が一瞬笑っているようにも見えたから。


 ただそれは錯覚だったのだろう。姉の表情はいつも通りの無表情だ。


「加護を使うから大丈夫」

「殺す気満々じゃないの?」

「大丈夫。今日のアルグ様はいつもと違う」

「そうね」


 あの冗談の延長で作り出した魔法を受けて色々と耐えられる兄はやはり違った意味で人外なのかもしれない。普通なら体が持たない。次いで精神が持たない。


 だが兄はその両方が破綻しないのだ。


「忘れてた」

「はい?」


 姉の声に魔女は視線を向け直す。


「あとであれを教えて」

「……」


 あの時のあの発言は冗談だったのだが、どうやら姉はそう思っていなかった様子だ。


「教えて」

「本気?」

「はい」

「分かったわよ」


 これは絶対に折れない。なら教えた方が楽だ。抵抗しようものなら絶対に面倒なことになる。


 魔女の返事を受け姉は止めていた足を動かす。その様子を見ながら魔女はスカートのエプロンの裏からバケツと雑巾を取り出した。


「それと姉さま」

「はい」


 また姉は足を止めた。


「兄さまで遊んだ後に歩き回る時は……中のモノを出すかしてからにしてくれる?」

「ん」


 姉の視線が下を向く。


「溢れてる」

「知ってる」


 だから姉の歩いた後に液体のラインが作られているのだ。


 下を向いていた姉の顔が上がった。


「アルグ様が悪い」

「で、しょうね」


 その理論で言うと回り回って自分が悪くなると魔女は知っていた。

 だから温泉に再突入する前に掃除をしておくしかないのだと呆れつつも。




© 2024 甲斐八雲

 前回の話よりちょっと前の話ですね。

 どっちを先に使おうか迷ってこっちを後にした感じです。理由は自分にも良く分からんのですが。

 結果として今年最後がエロオチで終わるという…まあこの話としてはある種のお約束ですね!


 本日が年内最後の投稿となります。

 次回は1日からですね。投稿ペースは変わらずです。


 来年は…現在進行形の日常編を書き切ってから、あれとそれとこれをしてからまたあれをしてからの完結編かな? 適当に書いているから漏れが多そうだけど。

 ざっくり計算で残り3年から4年程度で完結編を書き終わる予定です。所詮予定ですがw


 それと来年は現在進行形で書いている文庫一冊分の作品を投稿したいな~と思ってます。

 問題は遅々として進んでいないので、この年末年始である程度形にしたいと思っていますが…どうなることでしょう?


 さてと。ではこの辺で。みなさま良いお年を

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ