罪人の理論だなっ!
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
間違いありません。絶対あの馬鹿兄貴も情熱的に誘ってくるフレアさんの妄想を今までに何度も夢見ているはずです。何故ならば男という生き物は単純なのです。基本馬鹿なのです。そしてあの馬鹿兄貴はパパンの血を色濃く引いています。故に下半身がメインの生き物に違いないのです。よって自分の好きな人が情熱的に誘ってくれば絶対に乗ります。そして超燃えます。
思い出してください。フレアさんが馬鹿兄貴と超燃え上がったあの洞窟での行為をっ! 凄かったでしょう? 凄かったですよね? 今までで一番凄かった気がしませんか?
つまり普段と違う切っ掛け次第で男はみんな獣になるのです。つまりフレアさんもたまには酔った振りでもしてあの馬鹿に襲い掛かるのも悪くありません。
というかそのスカートの魔道具を使ってあの馬鹿を拘束して好き勝手してみるとかどうですか? 好きでしょう? 拘束するの? はい? 仕返しが怖い? それこそ願ったりでしょう?
良いですか? 大切なのは変化です。変化を引き起こすことでとんでもないことが起きるのです。そしてエクレアに妹が誕生するのです。
はい? 2人目はまだ必要ない? 何で? どうして?
長男が生まれるまではって、そっちは大丈夫。リチーナさんがポンっと産みます。というか正妻が長男産まないと後々面倒でしょう? それにクロストパージュ家の女系血統を僕は信じています。
どんどん娘を生んでください。頑張れ!
「ふぅ……」
僕は額の汗を拭った。
頑張った。頑張ったよね? ノイエさん。判定や如何に?
「私も産みたい」
「うむ。頑張ろう」
「はい」
フリフリとノイエが機嫌良さそうにアホ毛を振る。そのアホ毛を眠そうな目で見ているのはファナッテだ。たぶんフリフリと動くあれを見ていて眠くなってきたのだろう。
別に寝ても良いんだよ? リグなんてずっと寝てるしね。
逆に少しは起きて話に加われとあのおっぱいには言いたい。何気にリグは頭のいい子だからきっとこの手の話を聞いていてもついていけるはずだ。
問題は目の前に怪我人か死体でも転がっていないとやる気を見せないという点か?
それはそれとして人としてどうなのかと真面目に悩みますが。
「で、兄さま。延命作業は終えた?」
「失礼な」
呆れ果てた悪魔が、運ばれてきたおつまみに手を伸ばしつつワイングラスを揺らしていた。
こんな時に飲むなと言いたいが、僕が必死にフレアさんに対し語る『別シチュエーションの優位性』を楽しんで聞いていた感じだ。本当にこれは悪魔だと言いたくなる。
ただ真剣に『誘う……』と呟き思案しているフレアさんは……うん。大丈夫そうだ。
マジで危なかった。悪魔が『アイルローゼには効かない』とか言うものだから殺気を通り越し、明確な殺意を向けられた。殺されると思った僕はそこから彼女に対して頑張ってプレゼンをした。
『違うんです。これは真面目な人が乱れたらという一例でして……』とスタートし、最終的にはフレアさんがちょっと乱れて馬鹿兄貴を誘惑することで生じる化学変化へと話を持って行った。
多分これで大丈夫なはずだ。
「で、悪魔よ」
「ん?」
フレアさんがまた先生のことを思い出す前に話を進めよう。
「ノイエの魔法って?」
「ん~」
クピクピとワインを飲みながら悪魔が唸る。
「今から変なことを言うけど良い?」
「はい?」
君が変なことを言うのっていつものことやん?
「姉さまって意識して魔法を使ってないのよ」
「……おひ?」
「まあ待て兄さま。まだ焦る時間じゃない」
ジェスチャー付きで悪魔がそんな妄言を吐いてくる。別に焦ってはいない。
「言葉で表現するのが難しいんだけど……ねえ兄さま?」
「はい」
何でしょう?
「いつだったか兄さまに対して私が試練を出したことがあるでしょう?」
「キング様?」
「それ」
あれか~。
「酷い目に遭ったという印象しかないんだけど?」
無理難題を前にしてめっちゃ痛い思いをした気がするよ。
「うん。実はあの時……兄さまってば頭の打ちどころが悪くて、一回軽く死んでるんだわ」
「なるほど」
どうりでめっちゃ頭が……はい?
「軽く?」
「ぽっくり」
「マジで?」
「実は」
「そっか~」
なるほどなるほど。
「やっぱり今日をお前の命日にする必要があるらしいなっ!」
これは怒っても良いよね? どう思うノイエ? 怒っても良いかな?
「んっ……少し痛い」
「ごめん」
危ない。怒りに任せてちょっと強く握ってしまった。
「いや~ごめんごめん。あの時は本当に事故でね~。あはは~」
「……」
ここまで誠意のこもっていない謝罪が存在するモノなのか?
殴っても良い? 殴っても良いよね? 正面からグーで全力で?
「だから急ぎ姉さまの魔力供給を再開して……おかげで助かったでしょう?」
「助かったって死んだんでしょ?」
「まあね。でも物の数秒よ」
「おひ」
「大丈夫。後遺症も残っていないから」
「おひ」
「その点に関しては姉さまに感謝なさい」
「……」
決めた。やはり後でコイツを殴る。
「で、今の会話の中に無視しちゃいけない疑問点があるんだけど気づいた?」
「お前が自分の罪から逃れようとしているところ?」
「馬鹿ね。罪を罪だと思わなければ罪は罪にならないのよ」
罪人の理論だなっ!
決めた。後でこの馬鹿を殴る。
「で、疑問点……まあ簡単に言うと姉さまに対しての魔力供給よ」
「はい?」
それが何か?
「ノイエは魔法が使えないから、その有り余る魔力で色々と物理的な何かを捻じ曲げているんでしょう?」
「物理というか捻じ曲げているのは常識なのかもしれないけど」
言い得て妙とはこのことか?
「私もたぶん赤毛の魔女もそう思っていたのよ。だって魔法を行使していないんだから」
「ふむ」
やはり分からん。
「でもノイエは魔法を使っているんでしょう?」
悪魔は先ほどからそう言っている。
「……そこを口で説明するのが難しいのよね」
「おひ」
腕を組み過ぎているせいか悪魔の胸が寄り過ぎて凄いボリュームになっている。だがリグの方が上だな。
「起承転結ってあるでしょう?」
あ~あれ。
「投稿系の小説だと無視されてるヤツ?」
「大多数の何かを敵に回すから言葉には気を付けなさい」
大丈夫。テロップで『彼は冗談を言っています』と貼り付ければどうにかなるさ。
「私たちが作り出した魔法は少なからず何かしらの段取りが存在している。つまり起承転結ね」
「はい?」
悪魔が黒板の前へと移動する。
「起は魔法選択。承は魔力操作。転は魔法陣の構築。結は魔法発動って感じかしら? あまり言葉にしたことが無いからニュアンスが違うかもしれないねど……何となく伝わった?」
「漠然と」
「上等」
白墨を動かし悪魔が黒板に説明書きをしてくれる。
「で、姉さまの場合はこの起承転結が存在していないのよ」
「はい?」
ちょっと何を言っているのか分かりません。
「たぶんよ? たぶんだけど……」
言って悪魔は自分が書いた文字に注釈を入れる。
「起は存在するのかな? 承は……操作してるの? してないような気がする。転は存在しないわね。結は存在しているんだけど微妙よね」
呟きそれぞれの文字に言葉を加えるが、何のことだか分かりません。
「こんな感じ?」
「分かるかっ!」
「分かれっ!」
そんな無理を言うなって。
「超感覚派の姉さまは色々な過程をすっ飛ばして魔法を使っているのよ」
「……」
「そんな目で見ないで。言いながら私も三大魔女とかいう看板を疎ましく思っているぐらいだから」
そうだろうな。専門家が頭を抱える状況って……君たちが作ったプレートを渡された魔道具研究をしている魔法使いたちの気分だろう。
「で、一番厄介なのが」
「まだあるの?」
「ありまくりよ」
勘弁してください。
本格的にため息を吐きつつナイスな胸をお持ちのお嫁さんの顔を見る。
我関せずを地で行くノイエの横顔が少し格好良く思えてきました。
「多分姉さまってば一度見た魔法を全て使うことができるはずよ」
「はい?」
「というか触れた魔法かしら?」
スッと悪魔が掴んでいる白墨の先端をフレアさんへと向けた。
「ジークフリートって魔法がこの世界には存在しているの。というかたぶん存在していたのよ」
何その厨二心をくすぐるようなネーミングは?
「その魔法はそこのメイド長に対して使用されていた。発動したのを見ていたから間違いないわ」
マジですか?
慌てて僕もフレアさんに視線を向けると彼女は何とも言えない表情を見せていた。
戸惑いと……どこか泣きそうな感じだ。
「でも現在その魔法は変異して使用されている」
「フレアさんにですか?」
「違うわよ馬鹿」
スッと悪魔が掴む白墨の先端が僕に向けられた。
「兄さまによ」
「はい?」
© 2024 甲斐八雲
無理だ。ノイエの魔法形態を説明する語彙力は作者にないw
超感覚派のノイエが使っている魔法は…もはや魔法じゃないんですよ。ならな~んだ?




