こっち見んなや!
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
「そもそも姉さまに関しては色々とおかしな部分が多いのよね~。バグというかチートというか」
悪魔がポーズを決めながら指を振りそんなことを言ってくる。
分かる。分かるぞ悪魔さん。
「可愛すぎるところと、美人すぎるところと、プロポーズが良いところと」
「ヘイヘイ。ミスター惚気? お前を蝋人形にするぞ?」
サラリと悪魔らしい脅し文句をっ!
「姉さまが奇麗なのは、たぶんは母方の血筋が原因かな~」
「血筋?」
「え~っと……姉さまの血筋には梓巫女の血が流れているのよ。で、神様って奴は勝手な存在でね? 聖女や聖人って存在は不思議と美男美女なのよ」
まあ何となく分かるかな? 聖女とか美人で穢れ無きことがマストだしね。
「それは神が美を好むからという説もあるんだけど、美に対しての恩恵を与えるって説もあるの。で、自分の眷属を自分好みにするっていうのもあってね~」
どんどんと悪魔の視線が流れていくよ。
「多分姉さまが属していた神様の一派がそんな感じだったんじゃないかな?」
「つまり美人に崇拝されたい神様が、自分の巫女に対して美人でナイスバディーになる祝福的なモノを与えていたと?」
「あ~。うん。あくまで仮説だけどね」
なるほど。
「そんな神様が居るのであれば、僕は全力で信者になりたいと思います!」
つかその神を唯一神として崇めよと思うわけですよ。
「うっわ~。居たよ。ここに人の屑が居たよ」
失礼だな? その神様が『穢れちゃダメよ?』とか言っていたら聖戦だけど、そっちに関して自由であるのならば、僕からすれば恩恵しかない。
ありがとうございます! 名も知らない神様よっ!
「はいはい。そこで変な宗教に目覚めないでくれる? つか姉さまの胸を揉みながら願う宗教って絶対に荒廃的な悪魔教の一種にしか思えないんだけど?」
「ありがとう悪魔!」
悪魔。荒廃。人の屑が、僕の目の前に。
「こっち見んなや!」
何故か怒った悪魔がミニハリセンを投げてくるが、ここがノイエとファナッテとの違いが生じる。
ウチの優しいお嫁さんは飛んできたミニハリセンをアホ毛で真っ二つさ!
……今、斬ったよね? ねぇ?
「だから姉さまが容姿に優れているのはその辺が関係していると私は思っているわ。まあ嘘だけど」
「噓なんかいっ!」
この糞悪魔がっ!
「はぁ? 最初から言ってたでしょう? 全部嘘だって」
「……」
そういえば今日は出だしからそんなことを言ってましたね。
「私の今日の発言は全て噓よ。だから記憶の隅に留めるだけにしておきなさい」
「ど真ん中に据えてはいけない理由は?」
「……過去の話は良いんだけど、推理や仮説は外れてたら恥ずかしいでしょう?」
「おひ」
「まあそれも嘘だけど」
へいへい。
「で、丁度姉さまの母方の血筋を語ったので、ここからは私の大胆予想を開始します!」
「……」
「なんかボケなさいよ」
「無理を言うな」
ちょっと待ち構えたらこの無茶振りだ。だったら身構えるようなことを言うな。
「多分なんだけど……姉さまの父親の血筋も結構厄介かもしれないわね」
「はい?」
何を言っているのか良く分かりません。
「だからパパンの血統?」
「ノイエの父親?」
「ほい」
あまり気にしたことないな~。
「たぶん聖人の家系ね」
「……」
はい?
「だから姉さまは母方が聖女の血筋で父方が聖人の血統だと私は山を張っている」
「その根拠は?」
「ん~」
僕のツッコミに悪魔が少しばかり悩む。
「ぶっちゃけ姉さまに関しては『聖』の属性が強すぎるのよ。母方の梓巫女の血筋を抜きにしてもね」
「その理由は簡単です」
お答えしてしんぜよう。
「ノイエが天使だからです」
「……うん。そうねー」
めっちゃ棒読みなんですけど? この糞悪魔? その頭かち割るよ?
「お前の命日を一分後にしてやろうか?」
「アンタの復活した日を三分後にするわよ?」
どっちだ? 脅しとしたらどっちが上なんだ?
「あ~。でも異世界の天使って可能性もあるのか~」
「もしもし?」
突然現実に戻らないでくれるかな?
しかし悪魔は僕を無視して顎に手を当てて悩むわけです。
「ただ亜人種の召還って大多数が失敗だったからその可能性は低いのよね……そうなるとやはり聖人の方が可能性は高いわけで、ただ聖人って基本童貞のはずだから」
「もしも~し?」
「まあ聖属性の強めな人種のはずなのよ」
とことん僕を無視して悪魔がそう結論を出した。
というかそんな強引に結論を出す必要があるのか?
「あるわよ。だって今しているのは姉さまの魔法に関しての話だしね」
「あ~」
そうでしたね。
「で、ノイエが何で魔法が使えないの?」
「使えるわよ」
「……はい?」
あっさりと返ってきた答えに僕は首を傾げる。
ちらりと胸を揉んでいるお嫁さんの横顔を確認すれば、大丈夫。まだいける。
「ノイエは魔法が使えないって」
「ね~」
「ね~って?」
ちょっとこの悪魔が何を言っているのか本当に分かりません。
でもそんな悪魔はバリバリと頭を掻いた。
「いや~。私も騙されたのよ」
「はい?」
「本当に姉さまってば規格外なのよ」
「だから何のことですか?」
貴女の仰っていることが分かりません。
「端的に言うと、姉さまは私たちが作った系統で魔法を行使していないのよ」
「はい?」
系統が違う?
「簡単に言うとこの世界の魔法は大きく4つに分けられるの。1つが私が作った系統。次いであの馬鹿の系統。それ以外だと道具を使う系統と異世界魔法ね」
「ふむふむ」
まあ僕の知識でもその通りだと言ってます。
「で、ここに第5の系統が入って来るのよ」
「それがノイエが使っている魔法?」
「ん~。まあその認識で大丈夫だと思う」
だからその奥歯に物が挟まったような感じは何?
「はっきりしてよ?」
「無理よ。だって姉さまの魔法はまったく全然系統が違うから」
この説明下手の悪魔を誰かどうにかしてください。
「具体的にノイエはどんな魔法を使うの?」
「ん~」
悪魔が腕を組んで体を斜めにする。
「どう説明したらいいのかあれなんだけど……というか姉さまの秘密を暴露することになるんだけど?」
「大丈夫」
ここに居るのはアイルローゼの忠犬と……僕と悪魔の視線がユリアを見た。
「今すぐ退出しますので! あれ? 何で……どうしてっ!」
慌ててこの場から逃げ出そうとして立ち上がったユリアが、膝から崩れ落ちた。
知ってる。アルグスタさんは知っている。あれを人は腰が抜けた状態って言うんだぜ?
「まあ良いわ。姉さまの秘密が広まったら犯人はその子ってことで」
「だろうね」
「ひぃっ!」
完全に震え上がったユリアはもう立ち上がる気力もないらしい。
「私じゃなくて」
それでも必死に視線をメイド長へと動かしたのは凄いと思う。でも相手が悪い。
「私は言いません。言うことを強要され、アイルローゼ先生に迷惑をかけるぐらいなら命を絶つ覚悟がありますので」
「……」
きっぱりと宣言されてユリアの言葉が続かなくなった。
ここまで覚悟の違いを見せられたら仕方ないね。
「あくま~」
「ほい」
こんな時は優しい嘘が必要なんです。
「もしユリアが秘密を話しそうになったら、とんでもない事態に陥るような強制力の高い魔法をかけてあげて」
「合点!」
嬉々として悪魔の指が動いて宙に模様を描いてそれを押し出す。
ターゲットとなったユリアに触れた模様はパリンと割れてキラキラと煌めいて消えた。
「で、どんな強制力?」
まあ脅しだからどんな魔法でも良いんだけどね。
「ん? 話そうとしたら全裸になって男の前で股を開く魔法よ」
「そっか~」
悪魔の言葉を噛み締める。
「その魔法をぜひ教えてくださいっ!」
思わず全力で頭を下げていた。
「兄さま?」
「アルグスタ様?」
はて? 何故か悪魔とフレアさんが台所で発見したGにでも向けるような目をしているぞ?
「違うんだ聞いてくれ」
「「……」」
僕の申し出には海よりも深い理由があるんだ。
「普段絶対にそんなことをしそうもない人がそんなことをしたら絶対に燃えるでしょう?」
「「……」」
あれ? 視線が増々あれ~な感じに?
だが言おう。言ってやろう。
「フレアさんが馬鹿兄貴の前でそんなことをしたらあの兄貴は獣になって大変なことになるよ? 間違いないよ? 多分エクレアに妹とかできちゃうよ?」
「……」
何故か少しだけフレアさんの視線が流れた。ちょっとだけ心が動きましたか?
「兄さま?」
「はい」
ただ全く視線の動いていない悪魔が僕を見る。
「赤毛の魔女は魔法抵抗が強いから、この手の魔法はたぶん効かないわよ?」
「なんてこったいっ!」
ガッカリだよ!
© 2024 甲斐八雲
この主人公は…やっぱり馬鹿だろう?
それよりもノイエの魔法系統の説明するの? あれって言葉で説明できるの?
頑張れ作者。感覚に生きるノイエの魔法を説明できるもんならしてみろやっ!




