胸焼けしそうな話をどうも
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
「おっ……おおっ?」
思わず何とも言えない声が出ていた。
あれは斬新を通り越してある意味で最新の芸術かもしれない。
ただ芸術センスのない僕からするとこの芸術を表現する言葉が見つからないけどね。
呼んでも来てくれないので、お手洗い休憩がてらノイエを回収しに厨房に来てみれば、彼女は僕の語彙力では表現できない方法で耳を塞いでご飯を食べていた。
両手で焼かれたお肉を消費しながらアホ毛がガッチリと耳を塞いでいる。
その様子はまるでミイラ男だ。包帯をクルクルと頭に巻いた感じだ。包帯がアホ毛なだけです。
食事のためにだろうけど、奇麗に口の部分だけを避けてアホ毛が頭の上半分を覆っている。その状態でノイエはパクパクとご飯を食べているわけだ。
「ノイエ?」
「……」
声をかけてみるが反応はしない。でも両手は動いてお肉は消えていく。
あれって両目も閉じている格好だから……流石はウチのお嫁さんだぜ。視覚と聴覚を失ってもご飯に対する執念だけは失わない様子だ。それはそれはでぶっちゃけ怖いが。
トコトコと歩いて近づいてみる。
うむ。全く気付いている様子がない。
そして厨房の隅でお腹を抱えて『うんうん』と唸っているチビメイドの2人は揃って何がしたいのだろうか? 馬鹿か?
「あの2人はどうしたの?」
近くで肉を焼いていたメイドさんに声をかけると教えてくれた。
何でも巨乳を求めてお腹いっぱい食事をした結果の所業らしい。
うん。ただの馬鹿だ。
僕が鬼であればその口から追加の食事を押し入れるところであるが……噴水となってこんな場所でエロエロされるのは困る。何より食べ物を無駄にするのはノイエが許さないしな。
お馬鹿な2人よ。ノイエに感謝するが良い。
そんな訳で2人の管理をメイドさんにお願いし、改めてノイエの元へ向かう。
あっそこのこれから焼こうとしているお肉は、全部居間の方に運んでもらっても良いかな? それと飲み物と軽いおつまみもお願い。
移動しつつメイドさんにお願いを飛ばし、僕はお代わりを待っているノイエの背後に立つ。
いつものワンピース姿の彼女は頭だけミイラ男だ。
男? はて? 何故ミイラは男縛りなのだ? 女性であってもおかしくないだろう? 全身を包帯で巻いた女性が……エロさしか見いだせないのは僕の心が曇っているからなのか?
とりあえず両手にフォークを握ったノイエが目の前に居るのです。
椅子に座り机にお代わりが来るのを待っている状態です。
そんなものを見たら悪戯したくなるよね?
なります。僕はなります。
「んっ」
悪戯を始めたらノイエの口から吐息がこぼれた。
そうか。僕は聞いたことがある。人は五感を失うことに感度が増すとかいう都市伝説を!
今のノイエは視覚と聴覚の2つを失っている。つまり感度が増しの増しなのか?
これは高度な研究結果を求めるための科学的なあれだ。
エロい……邪まな気持ちなど微塵もありません。
続行します。
彼女の背後から手を回して両手に収まりきらない絶妙な大きさの双丘を揉み揉みする。
どうですかノイエさん? 今日の僕はリグとファナッテを揉みまくって揉みスキルが間違いなくアップしています。
感じるでしょう? 僕の揉みテクニックの素晴らしさを。
全力で揉み揉みしていたら、ノイエのアホ毛がスルスルと外れだした。
「アルグ様?」
「はい」
「……何してるの?」
答えに困る言葉である。
「ノイエを迎えに来ました」
「はい」
間違っていないはずだが、僕はたぶん何かを間違ってはいる。自覚はある。だが悔いはない。
フォークを机の上に置いたノイエがそのまま立ち上がる。
僕も彼女の胸から手を放そうとしたが、それよりも早くノイエの手が僕の手を掴んだ。
「もっと」
「……ソファーに座ってからね」
「むぅ」
何故か拗ねるし。
「もう少し話が続くらしいんだけど、ここからはノイエが居ても良いっていうことだから一緒に話を……ノイエさん?」
「何も聞こえない」
またスルスルとノイエのアホ毛が耳を覆い隠そうと動き出している。
本当に便利なアホ毛だな? そこまでして真面目な話は拒否ですか?
「そう言わずに一緒に聞きましょう」
「いや」
「ノイエさん?」
「むぅ」
拗ねる相手を背後から抱きしめそのまま抱えると……大丈夫。僕にだってノイエを抱えることぐらいできる。でも不思議と覚悟を決めて持ち上げるとノイエって一瞬フワッと軽くなるんだよね。
疑問に思っていたけれど、悪魔が言うには『相手を信頼して身を委ねると受けては軽く感じるのよ』との言葉を得たことがある。だから『お腹の上に跨っている女性が重く感じる時は相手が信用していない証拠だから。愛されていない証拠だから』と恐ろしいことも言っていた。
ただその理論で言うとノイエはとても軽いので僕のことを信じてくれているのだろう。
「一緒に真面目なお話を聞きましょうね」
「アルグ様が聞けばいい」
「ノイエも一緒にです」
「むぅ」
拗ねる彼女を抱えて居間へと向かった。
室内は黒板が片付けられ……何故かユリアが部屋の隅で頭を抱えている。
常識というか自分の中の何かが崩壊していっぱいいっぱいなのだろう。だが頑張れ。その限界の向こう側にきっと何かが待っている。何が待っているのかは僕にも分からない。もしかしたら新たなる試練かもしれないけど。
「フレアさんは大丈夫?」
「何がでしょうか?」
微動だにせずに立っているメイド長さんは……その様子からして常識が崩壊した感じには見えないな。
「悪魔の言葉って普通の魔法使いからしたら精神的に来るかな~と」
今まで培ってきた常識とかに大ダメージでしょう?
「いいえ。これでも私はアイルローゼ先生に学んでいたので……突飛もない発言には慣れています」
「あ~。なんかごめん」
僕が悪いわけではないんだけどね。ただノイエの姉が本当にごめんなさい。
「ですから私のことは気にせずにお話を続けてください」
「いや~。正直僕ももう限界なんだけどね」
ぶっちゃけ最初に聞いた話なんて忘れかけている。
人は力の強い言葉を連続で聞いちゃダメだと学びました。ある意味でそれが本日一番の戦果です。
「無理をしてでも続けてください」
『今日はこれぐらいで終わろう』と切り出そうとした僕の先手を制してメイド長様が口を開いた。
あれ? これはマジか? マジのトーンだよね?
「お願いできますか?」
ニコリと絵に描いたような笑みを浮かべてフレアさんの圧が強い。
「善処します」
頑張ります。任せてください。ですが本当に色々と限界でして、
「お願いできますね?」
笑みが消えて圧のみで押してきた。
「頑張ります」
あはは。任せろっ! こうなれば明日以降の帰宅は延期する覚悟でどんと来いだ!
それか帰宅してから急病ということでしばらく屋敷に引きこもってやる。
あはは。癒しだ。今の僕には癒しが必要だ。
その為にも僕には最後のピースであるノイエを連れてきたのです。左右にリグとファナッテを置き、膝の上にノイエです。どちらを向いても癒し素材があります。
これで天下が取れるぜっ! おぱーいで取れる天下とか想像もしたくないけどねっ!
「さあこの糞悪魔っ! かかって来いやっ!」
「私に八つ当たりされても困るんだけどね」
テンションを上げて僕の脳みそを破壊する呪詛をまき散らす存在に目を向ければ……この糞悪魔は優雅にお茶してやがる訳ですよっ! お前は後で絶対に泣かせるからになっ!
「安心なさい兄さま。いまからまた言葉の暴力で泣かせてあげるから」
「お前って奴は本当に鬼かっ!」
「だから鬼は……まあ良いわ。それに今から語ることは大した話じゃないし、しいて言えば姉さまに関係している話だから話さなくても問題ないけど?」
君は馬鹿かね?
「ノイエの話を語らないとか君は馬鹿なのかね? その頭は飾りかね?」
「うわ~。兄さまにだけにはそんなこと言われたくないわ~」
失礼な。
「僕はノイエに対しては常に全力なだけだよ?」
「はいはい。分かりました。胸焼けしそうな話をどうも」
あはは。褒めるなって。
「さて、では」
悪魔が手にしていたティーカップを消した。
「姉さまの“魔法”に関して私の研究結果を披露しましょうか?」
© 2024 甲斐八雲
もっとも踏み込んで欲しくない場所に足を踏み込みます。
ただここは避けて通れないしね…どうするのかは、まだ悩んでるんですけど。
問題はこことそこをどう繋ぐのか問題が…まっどうにかなるっしょ!




