祝福って誰が与えているか知ってる?
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
無心で揉んだのが良くなかった。トロンとした目で僕のことを見つめてきたファナッテの様子がエロかったのも良くなかった。つまり彼女のスイッチが入って襲い掛かってきたのだ。
が、どうにか鎮圧できた。
そもそもファナッテはある意味で典型的な魔法使いだ。その扱う魔法が特殊というか、特殊過ぎるというか……それもあって彼女の身体的な能力は普通だ。ごくごく普通だ。普通に美人でエロい体をしているだけだ。
故に身体能力はか弱い部類に入る。非力だ。
返り討ちにするのは簡単だが、し過ぎると拗ねるので大変なのである。
今は僕の右隣に座り全力で甘えてきている。それなら問題は無い。ただそれを見てリグも座り直して左側から僕に甘えてきている。甘えて、今は目を閉じてフリーズ中だ。つまり寝た。
「兄さまの自由っぷりに文句を言う気はないんだけど、時と場所ぐらいは考えて欲しいのよね~」
悪魔の苦情はもっともだ。この件に関しては何ら反論できない。マジでごめんなさい。
「おかげで時間が作れたわけだけど」
言いながら悪魔は書きかけだった黒板にまた白墨を走らせていた。
うん。良く分からんがそれなりに大作らしい。見た限り物凄く奇麗な模様に見える。
「ちなみにそれ何?」
「これ? ただの落書き」
マジか?
「違います。とても高度な魔法回路だと思います」
そうメイド長が言ってますが?
「高度かどうかは知らないわね~。まあ私からしたらただの落書きよ」
言いながら悪魔が細かい修正を施している。
「もう何百万、何千万回と描いてきた魔法だから」
「若返りの魔法とか?」
「作ったらバカ売れでしょうね。似たモノはあるけど」
あるんかいっ!
「ただ全身の細胞分裂を促進するから寿命が縮むわよ?」
嫌すぎる仕様だな?
「使う人とか居るの、それ?」
「怖いことに女性は寿命を縮めることになっても使うし使いたがるのよ」
こわっ!
「で、兄さま?」
「はい。何でしょう?」
「現実逃避は終わった?」
「もうしばらくしていたい感じだけど?」
「諦めて。後が詰まっているのよ」
そうですか。
と、悪魔は手にしていた白墨を置いた。
「はい完成」
お~。
黒板に浮かび上がるはとても奇麗な円形の魔法陣だ。ただ言葉というより模様が敷き詰められている感じで、ひと目で魔法陣には見えない。やはり複雑なレースの壁飾りにしか見えん。完成までに何十年とかかりましたとかそんな類のあれだ。それって絨毯だっけ?
「これに魔力を流せばあの馬鹿の居場所が分かるわ」
パンパンと手に付いた白い粉を払いつつ悪魔が振り返った。
「つまり?」
「ちなみに魔竜こと魔竜皇は北に居るわ。あっちね」
言って悪魔が指をさす。多分北だろう。
「で?」
「ほいっ」
悪魔が振り向きざまに黒板を叩く。それを合図に黒板に描かれた模様が淡く光った。
「お~」
流石は腐ってもあれは三大魔女らしいな。
黒板から抜け落ちるような動きを見せた模様が、ゆっくりと倒れ込んで水平の状態で宙に浮く。そして一番光り輝いている部分が、どうやら方位磁石で言う北を示す先端部分のようなものがゆっくりと動いて……魔女が指さしていた方角を向いた。
「あっちですか?」
「あっちね」
そうか。
「魔竜が別の方角という可能性は?」
「無いわね」
「何故断言できる?」
それも魔法の類で確認したのかね?
「お肉と取引した姉さまがそう断言したから」
それは間違いないな。絶対だよ。
ノイエのドラゴンに対する執念というか嗅覚といったそれらは超高性能だ。たぶんノイエが断言したのなら正解のはずだ。
「その2つが一緒に居るとして……何か問題でもあるの?」
「問題しかないのよ」
もしかしたら始祖の魔女が魔竜をペットにして可愛がっているだけかもしれないという希望を悪魔が真正面から否定してくる。つまり魔竜が始祖の魔女をペットにしているのか?
「男としたらなんか羨ましい!」
「勝手な妄想で暴走するのは良いんだけど、少しは真面目に聞きましょうか? 兄さま?」
「へい」
マジトーンで悪魔がそう言ってきたから頷き返す。
「でも相手は竜なんでしょう? つまりドラゴンでしょ?」
「まあね」
忘れてもらっては困るが……ウチのお嫁さんは最強種のドラゴンスレイヤーですぜ?
「兄さまの祝福と姉さまの機動力があれば魔竜には勝てる……とか今思っている?」
「普通思うでしょう?」
我が家は大陸屈指の対ドラゴン殲滅夫婦だと自負しています。
「そう簡単にいかないから困っているのよ」
困った様子で悪魔が……ちょっと待て?
「おひ。お前は簡単にいかないことを知っていて僕ら夫婦に始祖との戦いに誘ったのか?」
「当たり前でしょう? 簡単だったらそもそもあの手この手の搦め手なんて使わないわよ」
「ひどっ!」
この悪魔、本当に性悪なんですけど? どこの誰に訴えたら良いのでしょうか?
「異世界の魔竜皇は……ぶっちゃけ色々と未知数な存在よ。私も見たことは無いし、何よりあれを召喚したお馬鹿なお嬢様は召還のことなんて考えてなかったしね」
「はた迷惑だな」
今度会ったら正面からあの馬鹿の顔を殴ってくれようか? あん?
「そして最も面倒なのが始祖の魔女よ」
「何が?」
「……忘れたの? あれが何をしてどうなったか?」
忘れるわけないだろう?
「異世界に来てから調子に乗ってヒャッハーしまくってこの世界を滅茶苦茶にした大悪人の1人!」
「間違っていないんだけど、文章にされてはっきりとそう言われるとぶっちゃけ私たちってただの屑だなって本気にそう思えてきたわっ!」
「遅いわっ!」
今頃になって気づくなと言いたい。
「じゃなくて……あれが天界で何をしたのかよ」
「神様相手にヒャッハーしたんでしょう?」
「そう。ヒャッ……神殺しよ」
ヒャッハーで良いと思うぞ?
「そっか~。嚙み殺したんだ。何を? 神を? 噛み噛みした感じ?」
「そろそろ一回この世の地獄を見せるわよ?」
だからここが地獄なんでしょう?
「あれは天界で神を殺し、そして神の力を手に入れた」
「それの何が問題なのよ?」
私には分かりません。
「……祝福って誰が与えているか知ってる?」
馬鹿だな~。知る訳ないだろう? あれ?
「もしかして?」
「多分正解。祝福は神の奇跡なのよ。つまり神様が人に与えた贈り物。その力に差はあっても根底の部分は変わらない」
悪魔が軽く肩を竦めた。
「祝福は神が人に与える力なのよ。その力を使って神を攻撃して傷つくことは無い」
「……」
でもでも~。
「相手が魔竜とかなら?」
「そうね。それならワンチャン希望はあるわね」
「ですよね~?」
ならば僕の祝福も、
「ちなみに始祖が得意としていた魔法形態はキメラよ」
「はい?」
その言葉にどんな意味が?
「鵺やキマイラに見られるような異なる生物を合体させて強い種を作るのが、始祖の得意としていた魔法よ」
見える。見えるよ。とんでもなく大きなフラグがっ!
「知っての通り私たち魔法使いは接近戦とかに対してとにかく弱い人種よ。取り分け三大魔女は基本固定砲台だった。だから始祖はキメラを作り出し、自分の周りを守らせていた」
「お前は……あれか」
「そう。ゴーレムよ」
冗談みたいなゴーレム作品にもちゃんと意味があったのね。
「召喚の魔女は私たちよりも後ろで固定砲台をしていたからどっちかが守る感じね」
「で、そのキメラを得意としていた始祖様は何をしていると予想しているんですか?」
弄んでいないでそろそろ一思いに殺してください。
「……あれの魂は一応封印してある。でもそろそろ限界のはずなのよ。で、肉体の方はもうボロボロだから」
「魔竜の体を乗っ取る感じ?」
「私はそれを一番恐れているわ」
「確かにね」
それはハードルが確かに爆上がりだな。
「でもまあ大丈夫じゃないの?」
僕の言葉に悪魔が驚いたような表情を向けてくる。
「本当に分かっているの? 兄さま?」
「たぶん?」
分かっていると思います。
「でも所詮ドラゴンでしょう?」
「ええ」
なら問題は無い。
「だってウチのお嫁さんは無敵のドラゴンスレイヤーですから」
ただしバトル会場が水の上とかだと一気に使い物にならなくなりますが。
「ノイエは負けないよ。僕のお嫁さんは最強なんだからね」
© 2024 甲斐八雲
まるで打ち切り作品のような終わり方w
続きますから。この作品はまだまだ続きますから。
ただ主人公のお嫁さんに対する信用や信頼は絶対なだけです




