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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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ノイエは良い子で居てね

 ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘



「ぐるじぃ」

「吐くです~」


 パンパンに膨れた腹を抱え、幼く見えるメイドが2人床に転がっている。


 片方はこの別荘の持ち主であるドラグナイト家に仕えるメイド見習いのコロネだ。


 幼く愛らしい顔を持つ少女だが彼女の左腕は義腕だ。肩の部分から取り付けられたそれは、正式に公表されてはいないが国宝級の逸品である。ただ見た目がかなり禍々しい系統の物だ。簡単に言うと棘とか付いている。おかげで神々しさというか神聖というか……有難みを全く感じさせないので誰も指摘しない。

 気づくのは余程のマニアだけだ。それも変態……研究熱心な領域の研究者のみだ。


 もう1人は厳密に言うとメイドではない。

 地位を表す言葉を用いるのであれば、この国の現国王の正妃だ。いわゆる王妃だ。

 立場だけ言えばトップクラスの人物である王妃なのだが、これまた幼く愛嬌のある表情を苦悶に歪ませ腹を抱えて床の上に居る。メイド服姿で転がっている状況だ。


 ただこの王妃の場合は普段から床を転がるなど当たり前のため、ここが王城であったのであれば『あっまたですか? 手助けいりますか?』程度で処理される。

 だがここは魔窟と名高いドラグナイト家の別荘だ。ここに集う者たちは感性は生半可なものではない。何よりドラグナイト家の細君たるノイエは普通とは違う。王妃が床に転がっていても動じない。


「まだやれる」

「はぐぅ~」

「出るです~」


 むしろ蒼い顔をして転がっている2人に対し、大きなスプーンを用いて芋のサラダをその口に押し込もうとしているのだ。


 何故この3人がこんなことになったのかは説明することが難しい。

 ただ一つ言えることは、幼く見える2人が求めたのだ。大きくて豊かな胸を。

 そしてノイエは持っているのだ。大きくて豊かな胸を。


 どうしたらそれが手に入る? そのプルンプルンの大きな胸が?


 2人の疑問に天からの声が聞こえたのだ。『よく食べてよく寝るべし』と。


 結果として2人は頑張った。限界の向こう側のさらなるあっち側まで踏み込んだ。踏み込み過ぎた。ちょっとでも動けばリバースしてしまいそうな領域まで達した。

 ただコロネはとある理由から結構な量のご飯が食べられる。それでも限界を超えるまで頑張ったのだ。


 もう無理だと床に倒れ込んでいたら、そこに無表情の悪魔が姿を現した。

『まだいける』と……さらなる挑戦を求めるノイエに2人は自分の死を感じた。


「はぐぅ」

「うぷっ」


 流石に詰め込み過ぎたか……そうノイエは察すると急いで包帯を持ってきて2人の口を物理的に塞ぐ。


 あとは飲み込んで寝るだけだ。そうすればきっと大きくなれる。そう誰かが言っていた。


 ブクブクと横に大きくなれば全体的に大きくなると……誰の言葉か思い出せないがそんなことを言っていた姉が居たような気がしなくもない。


 姉だっただろうか? うん。思い出せない。


 気にせずノイエは蓑虫にした2人を床の上に放置した。


 現在厨房では、竈に火が入り凍らされた肉も解凍中だ。厨房に居たメイドたちは誰もが『火は消していないし、肉も凍ってはいなかったのですが……』と口にし頭を下げてくる。


 ドラグナイト家では不意に腹を減らすノイエのために常に食事が作れるようになっている。厳密に言うと肉を焼ける準備が整っている。もっと言えば準備してある肉が傷みそうだと思えば、焼いて待っているとノイエが姿を現し完食していく。故に迷うことなく焼き肉の準備がなされたままなのだ。


 ただ今日はそのルーティンが崩れ去った。誰もが気づかない間にだ。


 椅子に座りプラプラと足を振りながら、竈と解凍の状況を待つノイエは床に転がっている2人が救出される様子を眺めていた。


 何でも物理的に口を塞いでおくと戻した時に息が出来なくなって窒息してしまうそうだ。

 どうしてメイドさんたちがそんなことを知っているのかは謎だが、死んでしまうのは可哀そうだからダメだ。


 そんなわけでノイエは手を出さず足を振って待つことにする。


 少し離れた場所に居る彼は難しい話を聞いている。

 ノイエとしてはあんな話を聞いているのは辛いからやはりこっちで肉が解けるのを待つ方がいい。


 あの肉はどう調理してもらおうか?


 とりあえずステーキは確定だ。塊肉をハムハムするのも悪くないがあれは調理に時間がかかるらしい。でも注文はしておいた。明日の朝食はそれが良い。だから今からのステーキで妥協だ。


 肉は分厚いほど正義である。それだけは譲れない。


 塊は最強だ。丸焼きは至高だ。ただ小さい丸焼きは裏切りだ。願うは牛の丸焼きだが誰も作ってくれない。何でも物理的に難しいらしい。だから丸焼きは豚か山羊までだ。もっと頑張って丸焼きを極めて欲しい。牛に挑む人を強く求める。


「んっ」


 ビクッと反応したノイエは今一度その声を確認した。


 どうやら耳を塞がなければならないらしい。

『どうして?』とも思うが、あの奇麗な人が言っていたから仕方ない。だってあの人ははっきりと言い切った。


『貴女の優しい姉が苦しむことになっても良いなら聞きなさい。でも聞かせた以上、そして姉が悲しむことになったらそれは貴女自身の責任よ? 責任を取るなら聞きなさい。できないなら耳を閉じなさい。約束できる?』


 約束はできない。


 約束は絶対だ。破ったら胸の奥がギュッと苦しくなることが起きる。何かに強く握られ、握り潰されるような強い痛みだ。

 あれは嫌だ。凄く痛いし涙が溢れて止まらなくなる。


 だから嫌だ。


 だから約束はしない。


 約束を破ったらノーフェねぇもカミューも居なくなった。


『ノイエは良い子で居てね』と約束し、それを破ったからだ。だから2人は居なくなった。

 でもねぇはすぐに戻ってきた。戻って来たけどいつも自分の後ろに居た。ピカピカすると地面の上をのた打ち回って楽しそうだから何度かやったら本気で怒られた。


『消えるから! 本気で消えるから! 馬鹿なの! もうっ!』とあそこまで怒られたことは今までにない。きっと自分が約束を破ったことをねぇは今も怒っているのだ。


 そしてカミューは居ない。たまに声はするが、ねぇとは違い姿は見せない。いくら探しても見つからない。きっと自分が約束を破ったからだ。


 だから約束はしない。したくない。


「耳を塞ぐ」


 命じられたことを実行するため、椅子に座っていたノイエは自分の耳を塞いだ。




「あれは何です~?」

「……」


 パンパンのお腹をさすりながら体を起こした2人のメイドはそれを見た。

 椅子に腰かけている王国最強のドラゴンスレイヤーが耳を塞いでいる姿をだ。


 まあ耳を塞ぐことなど普通によく見る光景だ。ただこれは見ない。見たことが無い。

 何故か彼女は両手で耳を塞ぐ前に自分の能力で何かした感じだ。


 問題はそれを能力と分布して良いのか?


 あれは多分違うだろう。うん違う。絶対に違う。


「ごしゅじんが言ってた。ノイエさまのあれは生きてるって」

「……」


 言いえて妙だ。確かに何度か不思議な動きをしているのは見たことはあるが、あそこまで露骨に動くとその言葉を受け入れるしかない。

 普通何処に自分の髪の毛を、触角のようなひと房の髪を伸ばし、クルクルと巻き付けて両耳を塞ぐだろうか? その上から両手で耳を押さえている意味は何なのか?


「それよりもどうして耳を押さえているのです~?」

「……わたしたちからのくじょうを聞かないため?」


 コロネの言葉に王妃は理解した。


 たぶんそれが正解だと。つまり自分たちの頑張りは無駄だったのだと。


「ノイエおね~ちゃん~」


 根性で立ち上がった王妃は……口元に手をやる。


 大丈夫。ちょっと何かが駆けあがって来ただけだから。抑えたから平気。口から出ていなければ問題ない。歯茎まで来たけどそれ以降は進んでいない。つまり問題ない!


 上を向いて喉を動かし、飲み込み……王妃は頑張った。その尊厳を守った。


 厨房でそんな事態に陥っている時点で尊厳も何もありはしないが。


「胸を大きくする方法は嘘だったです~?」

「……」


 だがノイエは何も答えない。


 何故なら彼女は完全に遮断していた。


 周りと自分との音の行き来を全てだ。




© 2024 甲斐八雲

 チビ姫とコロネは厨房でフードファイトを強制的にw


 ノイエの話は気を付けないとネタバレを多く含むんで怖いんですよね。


 次回はシリアスさんがたぶん頑張ります!

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