過去の偉人で亡くなっております
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
「ノイエ。ノイエ。ノイエ……」
「ん」
ノイエを抱きしめたファナッテの甘えっぷりが半端ない。何より甘えているはずなのにエロくしか見えないから不思議だ。何このエロすぎる展開は? アダルトな映像だってこんなにもエロくならない気がする。というか天然美形でエロボディを所有している2人の抱き合った姿は危険すぎる。とても危ない。
天然R18禁な君たちはもう少しそっちで……何故に接近してくる? それも2人仲良く一緒に来るな。抱き付くな。そして挟むな。暴れるな。ぱふぱふするな。
頑張れ僕の自制心。念仏でも唱えるべきか?
ただ僕は真面目に唱えられるほどの念仏などはない。
寿限無寿限無とかって念仏だっけ?
一生懸命に現実逃避をする。左右からの柔らかな誘惑になど僕は屈しないのだ!
「にゃん」
「ん」
左右の2人が甘い声を発する。
「兄さま? 真面目な顔をして胸を揉むその手は何かな?」
「……本能には逆らえないだけです」
左右に柔らかな存在があれば揉みたくもなろう? 違うか?
ただこのまま誘惑に屈してしまうわけにはいかない。そこは全力で回避しようと思います。
せめて視線だけでも醜いものでもと思い、コロネとチビ姫を捜す。
2人は隅で膝を抱えて人生を終えたような表情を浮かべていた。
気のせいか頭の上にキノコとか生えてないか?
うん。幻覚だな。幻覚で見えるキノコか……つまり幻覚キノコ! なんて恐ろしい。
「キノコは兄さまのこか、」
「黙れ外道!」
「あべしっ!」
手頃の石を投げて悪魔を黙らせた。
投げた石は体を擦る用の軽石だから問題ない。何より悪魔への攻撃はほぼ無効なのではないかと最近思うわけです。実はボケに対するツッコミへの防御力はMaxなのか?
絶望を堪能している2人を慰めるユリアも大変だ。
君だって小さいのに挫けない心を持っていらっしゃるのね。というか慰めることで実は優越感に浸ったりしてないよな? 若干負け犬2人を慰めている君の口角が上がっていることに一抹の不安を覚えるんだが?
うおっ! また左右からの柔らかいが半端ない! なんて圧力だ。柔らかいのに存在感が物凄い。やはり別のモノを見て気を紛らわさないとダメだ。
他のものでも見て……ん? ひょうたんな島がひょっこりと?
プカプカと褐色の島が浮いている。あれはなんだ? 決まっている。リグの胸だ。
「どう? リグ?」
「ん~」
フレアさんに背後から抱えられたリグが温泉の中で脱力している。
重力から解放されたリグの蕩けっぷりも凄いが、フレアさんの表情の蕩け具合も凄い。普段のあのキリリとした表情は何処かに忘れてきましたか?
「お~」
「んふふ」
リグの肩を揉むフレアさんはもうダメだ。
完全に猫を可愛がる女性のようだ。それで良いのか二代目メイド長?
「そだ。悪魔」
「何よ? 私は今、物凄く忙しいのよ」
宝珠を抱えた悪魔が鼻息荒くこちらを見もしない。
その宝珠は何を映していますか? 僕を含んだキャットファイトな2人を映す感じですかね? それともあっちのほのぼのひょうたんな島を映している感じですか? 君がこっちを見ていない感じからして絶対にこっちを映していますよね?
知ってます。君はそんな感じの人の屑です。
ただ僕は自分が写る映像を見て興奮するタイプではありませんが、キャットファイトな感じが写る映像なら後で見たいのでよろしくお願いします。
「悪魔よ」
「フンフン……何よ?」
とりあえずその鼻息を落ち着かせて話を聞け。
「リグの刺青を元に新しく治癒魔法とかって作れないものなのかな?」
そうすればこの世界から怪我人が減ったりするわけです。
「不可能よ」
「即答かよ?」
片手で宝珠を掴みこちらを撮影しつつ、悪魔が無い胸を張る。
「この私がこんな面白い存在を無視しておくと思うの? 隅から隅まで確認したわよ」
「ごめん。それはどっちの意味で?」
「エロい方が8割で!」
残りの2割は何ですか? つか何の話よ?
「まあその胸を中心に色々と確認したけど」
「おひ」
「刺青よ刺青」
本当かよ? つか胸を中心にってリグの胸には刺青ないからね?
「間違いなく系統としては私の系統なんだけど、色々と別の理論が混ざっているのよね」
「はい?」
「だから言ったでしょう? たぶんベースはマーリンの馬鹿の理論なのよ」
なるほどね。つまりお前の娘が作った魔法というわけか。
「検証はしたけどあまりお勧めしない魔法よ」
「具体的には?」
「人の命を代償にする系の魔法よ。どうもこの系統を好んだ始祖の馬鹿を真似た感じかしらね。だから馬鹿だと言うのよあの馬鹿は……」
頬を膨らませ悪魔が僕から視線をそらした。
「この世界にまともな魔女はいないのか?」
「分かった。後で赤毛の魔女にそう伝えておくわ」
「よっしゃ来い!」
返り討ちにしてくれるわ! 先生がガチ切れしてなければだけどね。
「肉体を再生する系の魔法なら比較的簡単なんだけど、ただ再生には発狂死するほどの痛みが伴うので……意識を失っていればとか考えるんだけど、激痛を通り越した痛みで意識が覚醒しちゃうから意味がないのよね。結果として一番無難な方法は、魂を抜き取ってから再生して魂を入れ直す感じかな?」
「おひおひ悪魔よ? それって死んでますがな」
怪我を治すのに死んじゃったら意味がないやん。
「あら? 兄さまの体ってばそんな感じで蘇生したはずだけど?」
悪魔が物凄く軽い感じで……貴女は何を言ってますか?
と、一瞬冷たい空気が走った。
リグを溺愛していたフレアさんがお湯を掴んで剣を作るとその剣先を悪魔の喉元へ。
けれど悪魔は薄く笑って……彼女の喉に触れた水の剣が解けていた。
「あら凄い。水を固体にするほどの強化系って結構レアなんだけど?」
「……」
初手を封じられ余裕を見せる悪魔にフレアさんがさらなる攻撃を、
「溺れる」
突然寄りかかる相手を失ったリグが後頭部からお湯に突っ込んで暴れていた。
ってこの状態で僕は知った。本当に胸って浮かぶんだ。
「見て見て悪魔。ひょうたんな島がこんなところにっ!」
「奇跡よ兄さまっ!」
慌てて僕らは手を合わせてひょうたんな島に祈りを捧げる。
凄いよ異世界。ひょうたんな島ってば実在したんだ! ラ〇ュタを発見したぐらいの衝撃だ!
ラ〇ュタはまだ発見していないけどね。
「で、フレアさん?」
悪魔への攻撃を諦め彼女はリグの救出を優先していた。
というかその浮き輪は多分勝手に浮かんで溺れることはないぞ? さっき溺れかけたのも突然背後の支えを失って後頭部からお湯に突っ込んだことで鼻とか口とかにお湯が入って慌てたって感じだしね。
まあそれは良い。そのひょうたん浮き輪は決して溺れない。
「で、今のは何の攻撃よ?」
「……」
リグを抱えた彼女はこちらに対しきつめの視線を向けてくる。
「アルグスタ様に施した魔法は国家機密に該当しますので」
「でしょうね」
おい悪魔?
「その場に居なかった者がその事実を知っていることは大罪なのです」
「あら? メイド長様はご存じのようですけど~」
腰を振りつつ前かがみで悪魔がフレアさんを煽っている。
本当にこの悪魔は相手を苛立たせる天才だな。
「……私は関係者ですので」
「でしょうね」
悪魔の相槌に僕も納得する。
フレアさんほどの人材だもの。まったく携わってないとか考えられない。
何よりこの人は数少ない魔女たるアイルローゼの直弟子だ。
「それで貴女が何故その事実を知っているのですか?」
「いやん。兄さま……年増のメイド長がこわ~い」
巻き込むなって。
ほら? フレアさんが怖い目でこっちを睨んでいるよ?
悪魔の首根っこを摑まえて僕は相手に問題児の頭を差し出しておく。
「とりあえず殴りますか?」
「迷うことなく私を売り払おうとするその性格に、オラ……ぞっくぞくすっぞ」
するな。怖いわ。
「現在ポーラに憑依している存在があの糞とか屑とかで有名な三大魔女の1人、刻印の悪魔とかいう存在だそうです」
「魔女よ魔女」
「お前の場合は痴女っぽいけどな」
「いやん兄さま。エッチなんだから~」
相手の頭をフレアさんに突き出しておく。
殴るのでしたらこの頭を全力でお願いします。
だがリグを抱きしめたフレアさんはフッと笑う。
「刻印の魔女は過去の偉人で亡くなっております」
「「ですね~」」
普通の人のリアクションだとそんな感じですよね?
まあ無理やり納得してもらう必要とかないんですけど。だって絶対に面倒なことになるし。
でも納得してもらわないと説明するのもまた面倒だし……はてさて困ったな。どうする?
「フレア」
「なに?」
フレアさんが抱えているリグが口を開いた。
「それ本物」
「……分かったわ」
納得した~!
© 2024 甲斐八雲
フレアさん的には旧友のリグという存在はとても大切です。
だって生き残っている知り合いってもうほとんど居ませんしね。
何よりアイルローゼは先生であってこんな風にベタベタはできないので。
で、リグの言葉だと信じるのね。それで良いのかフレアさん?




