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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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ガチの禁忌でした

 セルスウィン共和国・とある街



「う……ぐぅあ……」

「我慢ですよ。国家元首様」


 くすくすと美女は笑い、太い針の注射器を相手の背中に突き刺す。


 厳密に言えば……多分内蔵のどれかだ。色々と弄りすぎてどこに何があるのかはぶっちゃけ運任せだ。

 でも大丈夫。中身を体内に入れれば問題ない。臓器にヒットして直接注げれば効率が良い程度だ。本来なら血管から入れれば良いのだが、注射器の内容物がちょっと個性的なおかげでそれもできない。


 こんな固形物が混ざった物を血管に入れたら詰まってしまうし破裂すること間違いなしだ。この辺は異世界の適当補正でどうにかしてほしくも思う。

 きっとあの糞魔女ならそう言いながら血管に針を刺し入れるだろう。


 だが悲しいかな、自分には聞きかじった知識しかない。

 彼女たちが居た世界の話はすべて聞いたことでしかない。


 見て触れて学べていれば……自分の知識はより深まってもっと色々なことができたはずだ。


「がふっ……ごふっ」

「あらあら。ダメですよ国家元首様。せっかく入れた物を……まあただの吐血みたいだから問題ないか」


 今相手の口からあふれ出たのはただの血液だ。だったら問題ない。


「はい。今日の培養液の補充はおしまいです。後はそれが体の中でどんどん馴染んでいけば」


 いずれは変質化する。そうすればこの国家元首様は人の領域を飛び越え次なる高みに至るだろう。

 もうそれを“人”と区分して良いのかは分からない。

 ただその変化で彼はきっと自分の願いをかなえる力を手に入れるだろう。それは間違いない。


「どうですか? 国家元首様?」


 使い終えた注射器を机の上に戻し、旅人と呼ばれる人物は椅子に腰を掛ける。


 拾ってきた事故死した遺体の残骸に一瞬目を向けるが……あれの片づけは後で良いと判断し放置した。

 大半は培養液に入れて国家元首の餌にすれば良い。そうすれば無駄なく再利用だ。そんな精神が大切だとあの糞魔女が言っていた。


「ねえ国家元首様?」


 くすくすと笑い旅人は口の端に血の泡を作り出す相手を見る。


 入れた培養液に体の内側を侵食され喋る気力もないのだろう。あれは内側から体を食らう感じがし、また激痛に襲われ続ける。最初は虚勢を張れても3日もしないで泣き叫び命乞いをする。そこからが本番だ。そこからがこの作業の真骨頂だ。どんなに相手が泣き叫ぼうが培養液を注ぎ込む。


 仕方ない。人間は軟弱な生き物だ。だから簡単に死んでしまう。

 それを回避するにはどうすれば良い? 簡単だ。強靭な肉体を手にすれば良い。


 三大魔女たちの研究により作り出されたホムンクルス技術。

 人工的に人間を作り出す研究の一環で作り出されたのがこの培養液だ。

 ただ『道徳的にね~』と糞魔女が言い出し禁忌にされた。


 不思議だった。これほど効率的な技術を何故使用不可にする?


 使うモノは別に生きた人間ではない。死体だ。生を終えたものだ。それはもう土に埋めるか燃やして灰にするか……そんな無駄なことをするなら有効活用した方がいい。これこそ再利用だ。


 だから研究を進めた。1人で進めた。

 彼女たちが求める『強靭な人間』の作成に近づく道筋のはずだからだ。


 だがこれを知ったあの糞魔女は激怒した。ヒステリックに叫んで攻撃してきた。

 後はいつも通りに大喧嘩だ。研究所は魔法で吹き飛び、自分が暮らしていた集落は地図から消えた。だがあれはそれでも許さなかった。最後まで泣きながら自分に厄介な呪いをかけた。


『人を助ける。人を救い続ける』呪いだ。拒めば自分が死に至る凶悪な呪いだ。醜悪な呪いだ。


「……だから私はあれを見限った」


 ぽつりと呟きそれは自身の膝を抱いた。


「望みを叶えようとしただけだった。彼女たちの望みを“母さん”たちの望みを叶えようと頑張ったのに」


 母親を自称していた刻印の魔女は最後まで自分を許さなかった。どんなに謝っても、どんなに自分の研究の優位性を説明しても、どれほどの言葉を綴っても……決して許してくれなかった。


 最後は呪いをかけて自分を追放したのだ。


「だから私は呪いに逆らいながら自分自身を改造し続けた」


 それには色々な材料が必要だった。研究資材も必要だったし、とにかくお金がかかった。


「だから私は自分の呪いを捻じ曲げた」


 血反吐を吐きながら、自分の死を覚悟しながら、それでも決行して成功した。


 奇跡といえばそれまでだったが、成功すればこっちのものだ。


「変質した呪いで私は……人を救うことからは逃れられなかったけれど、でも機会を得た」


 貧乏人は実験材料に。金持ちはさらなる実験材料に……救ってはいる。その“命”は救っている。ただ大半の者が救ってから自ら進んで命を絶つだけのことだ。

 特に実験材料にした貧乏人の大半は命を絶つ。


 それらは悲しい事故だ。


 事故だからしょうがない。自分の視界に入らない場所で勝手に死んでいるのだから関係ない。


「分かるかしら? 国家元首様?」


 くすくすと笑い旅人はその美しい顔を相手に向けた。


「私はこうして実験を重ね経験を積んだ。それは全て私を愛してくれなかったあの糞魔女へ復讐するためなの……」


 旅人は綴る。旅人は歌う。それは毎日のように繰り返している行為だ。


 何も言わずに変質化していく相手に対して一方的に繰り返し告げる旅人の独り言だ。


「絶対に許さない」


 何故なら自分は本当に愛していた。


 自分のことを『異世界から召喚してしまったエルフ』などと言いながら本当のことを教えてくれなかった存在を。決して語ろうとしなかった存在を。自分の血肉を分けて作り出した“娘”を愛してくれなかった存在を。


「だから私があれの希望を潰してあげるの」


 これは復讐だ。自分を愛してくれなかった人物に対しての復讐だ。

 自分の気持ちを理解せず一方的に拒絶したあの糞魔女に対しての復讐なのだ。


「だから絶対に許さない。私はあれを許さない」




 ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘



「吐け」

「いやん兄さま。ポーラの弱い所を……私のお尻に何をする気っ!」


 あん? 新しい何かを開かれる前に全てを吐くが良い。


 どうせお前のことだ。その旅人に対して酷いことでもしたんだろう?


「違うわよっ! あの馬鹿は禁忌を犯したの! だから呪いをかけたの!」

「禁忌?」

「近親交配」

「うわ~。引くわ~」

「嘘だけど……らめ~! ポーラのお尻が、お尻の中心が大変になっちゃう~!」


 皮を剝いたワサビかショウガか自然薯でも突っ込んでやろうか?


 使用用途が不明な棒を手に馬鹿を脅迫する。ノリノリで尻を突き出してくるな。


 ユリアが求め呼んできた援軍によりコロネとチビ姫の救出が進んでいる。蓋を開けてからまさか戻すとは思わなかった。一瞬見なかったことにでもしそうな勢いだったが、力関係から泣きながらユリアが2人の救出をして……現在彼女は嗚咽交じりで自分の体を洗っている。


 あっちの2人に比べればまだマシだろう? あの2人なんてなぜかデッキブラシ的なあれで磨かれてるぞ? もはや完全に汚物の掃除にしか見えん。実際汚物掃除なんだろうけどね。


 うん。ヤドカリさんたちの今夜の調理は無理そうだな。つか食することが難しそうだ。そのまま殺処分でお願いします。悲しいけれどこれって事故なのよね。


「どうせ禁忌とか言ってお前のおやつを食べたとかそんなレベルだろう?」

「そんなことで自分の娘に呪いなんてかけないわよ!」

「お前はやる」

「あん?」


 やるんかこの馬鹿? この喧嘩買うぞ?


 睨みあっていると悪魔が溜息を吐いて僕の膝に座った。


「撫でなさいよ」

「……」


 仕方なく相手の頭を撫でる。


「……あの馬鹿は死者の尊厳を冒とくしたのよ」

「はい?」

「だから死体を使った人体実験を繰り返したのよ」

「……」


 ガチの禁忌でした。


「私が気づいて向かった時には、あの馬鹿が住んでいた集落の人口は半数以下になっていた」

「ん?」


 死者の尊厳はどうした?


「だからあれは手段を選ばなかったのよ。死体を材料にするために死体を作り出してその死体を材料にしていた。狂っているでしょう?」

「末期だな」


 それだったら生きている人間を……それもどうかって話か。


「だから私はあれを許さなかった。違う。あれは私に近い人物だったから狙われた。だから突き放したのよ。どんなに恨まれてもいい。あれが私の近くに居ればますます狂わされることは確定的だったから」

「そっか」


 よしよしと僕は相手の頭を撫でてやった。




© 2024 甲斐八雲

 今回に関しては多くは語らず。

 何故ならまだ続くから…続けるの? どうだろう?


 そろそろ温泉地での話を終えたいのよね~

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