できるかどうかやってみよう!
ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘
「何よ? この私が何をしたというのよ? ってこっちを見なさいよっ!」
煩い黙れこの諸悪の根源が。
コロネの義腕に拘束されている馬鹿がキャンキャンと騒いでいるが無視だ。そして義腕を取り外したコロネとユリアが僕の命令を受けて黙々と作業中だ。
はい? 人手が足らない? 2人も居るだろう? 片腕がない?
それは仕方ないな。必要であれば他のメイドの手を借りるのも良しです。
はい? 義母さまが寝ぼけたせいで問題が発生していてそっちに人手を取られている? 何をしているあの人は?
ならトラウマ新人メイドの手を借りることを許可する。猫の手よりかは器用に仕事をするだろう。
そんなわけで爆睡していたチビ姫ことトラウマメイドも召喚して舞台を整えた。
「ちょっと兄さま? 少しわたしの話を……その大きな木桶は何ですか?」
主に洗濯物、僕らが使ったベッドのシーツを入れて選択する時に使うあれです。
メイドの皆様、毎日本当にありがとうございます。今もベッドのシーツが酷いことになっていると思いますが、はい? メイドたちから物凄い苦情が出ていると?
ですよね~。できるだけ気を付けるように努力はしますが期待はしないでください。
何故ならノイエはそんなこととか気にしないので。
「兄さま? どうしてその桶の中に砕石を?」
より尖った系の石をたくさん集めて敷き詰めてみました。どうですか?
「それでそこに運ばれてきた漬物石を思わせる石は?」
決まっています。漬物ではない別のモノを漬けるのに使う石です。
「は~い。ならみんなでそこの馬鹿をこの桶の中に」
「いやぁ~! 出ちゃうから! ポーラに穴が開いて色々と出ちゃうからっ!」
暴れるなよこの悪魔?
「あれ~? 兄さまから強い意志を感じちゃうのは気のせいかしら? 気のせいでない? 気のせいじゃないのね。うん理解した」
猫持ちして桶の上に運ぶと全てを悟ったらしい悪魔が穏やかな笑みを浮かべた。
「ごめんなざい~!」
涙腺を崩壊させて悪魔が全力で謝ってくる。だが許さん。
そのまま桶の中に入れて……コロネさん。このムカデのような義腕が邪魔なんですが? はい? 外したらポーラが逃げる?
大丈夫です。そこのトラウマメイドがロープを持ってきたのでこうして手足を拘束すれば逃げられません。どうですか?
僕の本気を察したらしいコロネが義腕を解除して自分の左腕に戻す。
そして桶の中には拘束された悪魔と採石が。
「兄さま~!」
「何かね?」
うるうると両眼に涙をためた悪魔が見つめてくる。
「ポーラの初めてを最初から最後まで……それこそ前も後ろも全て捧げるから許してっ!」
「ギルティ」
「なぜっ!」
「決まっている」
その無い胸に手を当てて色々と思い出してごらん?
「小さいけどあるし! 後ろ手に縛られているから当てられないし! というかしばらく何もしてないし!」
うん。だが君の場合は余罪という概念があるのだよ?
「よざい?」
その初めて聞いた単語っぽい発言は何ですか?
「厳密にいえばお前が犯した今までの全ての罪だな」
「フッ……笑止」
縛られた桶の中の生物が偉そうに胸を張った。
「そんな昔のこととか奇麗に忘れたわ!」
「ギルティ」
「なぜっ!」
決まっています。そんな馬鹿に人権がないだけです。
「お前が諸悪の根源であることはわかっています。だから吐けっ!」
「えろえろえろえろ~」
カエルの鳴き声のように簡単に言うなと言いたい。
イラっとしたから……コロネ君。そこの桶で温泉を汲んでもらっていいかな? はい? 漬物石を投げ込むのでは? 馬鹿だな~。そんな攻撃がこの馬鹿に通じるわけないやん。厳密にいうと早いです。
とりあえず全員で桶にお湯を入れる。悪魔の顔が半分ほどお湯に浸かった。
「こんな古典的な拷問に屈する……兄さま? 聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「めっちゃ投げやりっ!」
気のせいです。
できればこの桶を塞ぐくらいの蓋になる板が欲しいんだけど、ある?
あるんだ。完璧です。大至急持ってきて。
あっ出来たらあまり熱いお湯にしないで。可哀そうだから。
はい? この馬鹿の心配なんてするわけないやん。できるならこの馬鹿は煮えたぎるマグマに突き落としてやりたいわ。
もう少し水を足して……うんうん。そんな感じで。
「兄さま? 黙々とそっちで準備しているのが物凄く怖いんですけど?」
当たり前です。拷問時の沈黙ってめっちゃ恐怖を誘うんですよ?
「うんうん。揃ったかな?」
あとは初日というか、僕らが来る前に捕まえたそれの出番です。
コロネは見ない方がいいぞ? 多分お前は苦手な気がする。変なところで強気になるな。覗こうとするな。人の親切は聞くもんだぞ?
バケツの中身を覗き込んだコロネが……二度見? ああ。初見はショックが強すぎて理解できなかった感じか? で、二回目の感想は?
「ばぁかぁ~」
ボロボロと涙を落してコロネが泣き出した。
トラウマ? お前もやめておいた方が……チビ姫もコロネと一緒に並んで三角座りに移行した。ボロボロと泣きながらだ。
そして2人してこっちを恨めしそうに睨んでくる。解せないな。
「うわ……凄い数ですね」
唯一耐えたというか平然としているのはユリアだ。
「大丈夫なの?」
「はい」
意外と野生チックな貴族令嬢だな。
「この手を餌に混ぜると喜ぶ子も居たので」
「へ~」
納得。
で、気づけば悪魔がガタガタと震えていた。
会話だけ聞こえてくるこの状況に恐怖心が爆上がりなのだろう。
だが許さん。
「兄さま?」
「さあ本日のメインイベント~!」
「こっちの都合も聞かずに勝手に開催~!」
聞きませんよ。
唯一大丈夫なユリアがバケツを抱えて中身を全て悪魔が入っている木桶にぶちまける。
うん。わらわらと元気よく動き出した。
ずっと狭い所に居たから自由を嚙み締めたいんだね? 許す! 大いに許す!
「ん? この体を登ってくる感じは……」
縛られ横になっている悪魔が感覚だけで推理する。
「沢蟹っ!」
「外れ」
「外れか~」
『あはは~』と笑った悪魔が暴れだす。ビタンビタンと陸揚げされた魚のようだ。
「絶対にカニ系でしょう? 分かる。分かるから!」
「うん。ただのヤドカリ」
「そっちか~」
正解を知ってますます悪魔がのたうち回る。
ちなみにこのヤドカリはうちの温泉に集まる野生種である。留守中に勝手に集まって繁殖する。だから来る度に箒と塵取りが仕事をすることとなる。全部集めてバケツに入れておく。
油で揚げれば食べられなくもないんだけど、ちゃんと泥抜きというかお腹の中を空にしておかないと何を食べているのかわからないので食べることに抵抗がある。
まあこんがり揚げればノイエがバクバクとおやつ感覚で全部食べちゃうんだけどね。そしてノイエのお腹なら何を食べても大丈夫なんだけどね。
でも時折ノイエが『食べる?』と言って勧めてくる時がある。その1個に備えるのが僕です。経験って人を成長させるんだよ。マジで。
で、集められた彼らはバケツの中で胃の中を清掃していたのだが、今日は別の仕事をしてもらおう。
「いぃやぁ~! 体中を這い回ってくるぅ~!」
木桶の中でのたうち回る悪魔は蟲毒の壺に放り込まれた何かのようだ。
何かは分からん。ご想像にお任せします。
ビタンビタンと暴れる悪魔を見つめるコロネとチビ姫は抱き合い恐怖におののいている。多分これが普通だろう。
若干ニコニコとしているユリアは……少しずつ開けてはいけない何かしらの門を開き始めているのかもしれない。このままやんわりと成長を促し、ユニバンスで変態どもを調教する調教師になってもらおう。
「兄さま? 兄さま? 本当にごめんなさいっ! 心の底から……兄さま?」
ボロボロと泣く悪魔の表情が絶望に染まる。
僕が持つ桶の蓋に気づいたらしい。というか見えるように掲げているから良く分かるはずだ。
「嘘よね?」
「どうかな?」
「いぃやぁ~!」
絶叫し悪魔がこちらに切なげな視線を向けてくる。が、僕は容赦なく蓋を下した。
「ごしゅじん?」
「おにーちゃん?」
抱き合う2人が僕に何とも言えない視線を向けてくるがスルーだ。
ニコニコ度が増した気がするユリアの表情に関してもスルーだ。
「さてみんな」
最後の仕事だよ?
「その石を蓋の上に乗せてからゆっくりと温泉を堪能しようか?」
これが俗にいう放置料理です。このままこの料理は放置しておくと不良な悪魔が更生し、善良な悪魔に生まれ変わるのです。
ただ実験したことはないので、できるかどうかやってみよう!
© 2024 甲斐八雲
復活の刻印さんを容赦なく迎え撃つのがこの主人公です。
ただ温泉で何をしているんだ? この馬鹿たちは。
知ってるかい? 全員裸なんだぜw




