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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Main Story 28

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その反抗的な娘のような言葉はなんだ?

 ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘



「あれはどうでしょうか? 人の行いとして」


 首を傾げて彼女はそう言う。


 脇に抱えているチビ姫はシクシクと泣き、コロネは蒼い顔をしている。

 唯一喋れそうなのがユリアなので彼女に語ってもらうことにした。


 さあ新人よ。君が見た新人研修の内容を語るが良い。


「はい」


 静かにユリアが口を開いた。




 王妃様を縄で縛り床に転がすとメイド長様が手にした鞭で叩いたのです。ただ強化魔法が掛けられているので王妃様が怪我を負うことはありません。メイド長様の魔法技術は天才的だと思います。しかし王妃様に施したのは強化魔法です。魔法はいつか切れるのです。それがいつなのか分からず、叩かれる方は常にいつ切れるか分からない恐怖にその精神を侵されます。


『そろそろ魔法が切れる頃ですね』とメイド長様が冷静に言いながら鞭を振り下ろす姿を、私たちは震えながら見ていました。そして叩かれていた王妃様はたぶん途中で色々な何かが壊れたのか……ですがそれでもメイド長様は許してくれません。


 今度は私たちに顔を向け、感情を感じさせない笑顔でこう言うのです。

『良い経験です。この鞭でこの新人メイドを打ちなさい』と。


 最初はコロネ先輩が泣きながら鞭を振り下ろしました。もしかしたら強化魔法が切れるかもしれないという恐怖に精神にダメージを受けながら、鞭を振り下ろすのです。でも一度や二度では許されません。何度も何度も鞭打ちをさせられ……あんな悲惨な姿を見たことはありません。決して忘れられません。


 次いでひと通りその場にいたメイドたちが鞭打ちをして、最後がメイド見習いになりたての私でした。


 ケタケタと壊れたように笑っている王妃様に鞭を振り下ろし、でも一度で終わることは許されず、何度も何度も命じられるがままに鞭を振り下ろしました。

 最後は何故かメイド長様から『貴女は筋が良いですね』と言われて延長で何度も……とても怖く恐ろしい経験をしました。


 はい? 何で笑っているのかですか?


 笑うわけないです。あれは本当に恐ろしい経験でしたので笑えません。あれで笑えるような人はその人の精神を疑います。


 はい? そこの水面を見ろ?




「違います~!」


 バシャバシャと水面を叩くユリアが居る。


 うむ。どうやら自分の表情に納得がいかないらしいが、事実だ。そしてたぶんそれが君の本質だ。フレアさんは天才肌だからきっと君の本質を見抜いたに違いない。納得しろ。


 これだからアニマル系のテイマーさんはマジで怖いわ~。

 テイマーに鞭ってセットだと思うわけです。今度から常に鞭を持って、


「できませ~んっ! むが~!」


 バシャバシャしているユリアを放置し、とりあえず僕は抱えていたチビ姫を降ろす。

 彼女は膝を抱えて座り込むと……水面に浮かぶ自分の顔を見つめ始めた。


「鞭が肌に当たるんです。ぶつかるんです。痛くは無いんです。でもそれがいつまで続くのか分からずに……みんなして鞭を振り下ろしてくるのです。止めてと言っても止めてくれないのです。それで何度も何度も鞭が体のあちらこちらにぶつかるんです」


 何やらトラウマを抱えたらしいチビ姫が自分の膝を抱えている。

 口調も忘れて沈む様子は精神を病んでしまった人のようだ。


 うん。そんな時は温泉に身を委ねると良い。


 暖かなお湯は胎児だった頃を思い起こす。ゆらゆらと揺れる何かが良い感じにあれするとテレビで言ってた気がする。だから温まりなさい。


 手でチビ姫を押すと横に倒れそのまま流れていく。


 スズネさん。一応溺れないか観察していてください。お願いします。


 静かな狩人のように全く動かず静かにしていたスズネにチビ姫の介護を任せた。


 大丈夫。温泉は壁に次いで人間の何かを癒してくれる存在です。だから彼らに任せれば良いのです。


 次なるターゲットは蒼い顔が温泉で温まって比較的安定して来たコロネだ。


「ちかくにこないでよ」

「その反抗的な娘のような言葉はなんだ?」

「だってご主人さま……はだかだし……」


 もごもごと歯切れの悪い言葉が聞こえてくる。


 なるほどなるほど。理解したよ。


 確かに現在の僕は裸である。が、しかしでもある。ぶっちゃけようか?


 最初の頃の僕にも恥じらいとかありました。存在していました。だって日本人だったんだもん。だから色々と対策をしていました。その名残で僕らの寝室には伝声管が存在しているわけです。


 新婚当初はメイドさんたちに色々見られるのが恥ずかしくて、夫婦二人の部屋作りをと考え導入したのだけれど……今では主に調理場に対してのメニュー伝達で使用するぐらいだ。それ以外は部屋の中で知らない間に待機している妹メイドが全てをこなしている。


 そうです。その1人の侵入を皮切りに、気づけば他の人が入って来ていても気にならなくなりました。


 元々ノイエは誰が居ても気にしない。そして彼女は基本裸族だ。見られることに抵抗が無い。挙句に面倒臭がりというか自分で何もしない傾向がある。メイドさんに世話をされる方が性に合っているのだ。だから現状をあっさり受け入れた。


 そんなお嫁さんが横に居るからか僕も慣れてしまった。

 人って高い所から低い場所へ流されるように楽な方へ楽な方へと突き進むのです。


 そもそも朝の僕はぐっすり寝ているパターンが8割だ。厳密に言うと7割は気絶している。後の1割が寝ていて、残り2割は徹夜だ。つまり寝ずに誰かしらの相手をしている。主にノイエだが、体がノイエだけで別の人のパターンも多い。


 結果として全裸でベッドの上で燃え尽きていることが多い。そうするとメイドさんたちは慣れた感じで僕の体を綺麗に拭き清めてくれる。汚れの元凶たる僕を放置しておくとベットやシーツが汚れるのを嫌っての行為だと思う。そう思っている。


 つまりメイドさんたちに見られまくりなのだ。ただこれは結構普通らしい。貴族あるあるって奴だ。


 メイドさんが居る貴族はそれこそ子供の頃からメイドさんのお世話になる。朝から晩までお世話になる。人によっては朝から次の朝までお世話になるわけだ。


 そうですよね? 二代目メイド長?


 そんなこともあってメイドさんに裸を見られるというのは普通のことらしい。着替えを手伝ってもらうからそれが普通なのです。この着替えの手伝いが中々に罠なのです。だって着替えの中には“下着”が含まれているからです。その手伝いまで“着替え”に含まれるので、男女ともに貴族の者は見られるのです。


「ふ~ん。つまり君は僕を見るのが嫌だと? あ~ん?」

「そうじゃないけど……」


 仁王立ちして相手の前に立つとコロネが顔を真っ赤にして困った感じで後ずさる。


 こんな場所でウチのお馬鹿をイジメるのは趣味が悪いか?


「まあそれなら僕の担当から外して」

「ちがうからっ!」


 今度は慌てた感じで詰め寄って来る。忙しい奴だな?


「なら何が言いたいか問おうか?」

「……」


 ボソボソと蚊の鳴くような声が。


 何ですか? はっきりと言いなさい。


「そんな大きいの見たことなくて」

「……」


 真っすぐ見て来るコロネの視線に自然と前を隠してしまう。


 いやん。恥ずかしい。


 ここに来て僕はメイドさんに見られる恥ずかしさを思い出しました。




「ところでご主人さま?」

「何だい。鞭打ち娘?」

「違いますからっ!」


 新たなる称号をユリアが全力で拒絶する。


 はっはっはっ……ある意味で決定だよ? 今度、話の分かる魔道具制作者にお願いして君に相応しい鞭を作らせよう。ただ問題はその出来がる魔道具が国宝級とかになるんですけどね。


「で、何よ?」

「……コロネ先輩ってどうして片腕を?」


 スズネと共にチビ姫を回収し体を洗いに行ったコロネに対しユリアは不思議そうな目を向けている。

 まあ普通の貴族なら左腕を失った少女をメイドになどしない。挙句にあんな魔道具製の義腕なんて与えない。


「知らないの?」

「えっと誰に聞いても『ご主人さまから直接』としか」

「なるほど」


 我が家のメイドたちの守秘義務は完璧らしい。


「で、知りたいの?」

「……気にはなります」

「そっか~」


 まあ別に隠していないけど公になると面倒なんだよね。


「他言したらメイド長の拷問……躾が可愛く思える拷問を受けることになるけど?」

「結局拷問なんですね? 言いません。私はもうドラグナイト家のメイドですから。まだ見習いですけど」


 薄い胸を張ってユリアがはっきりとそう告げた。覚悟は決めているらしい。


「別に難しい話でも無いよ? あれが元、僕の命を狙う暗殺者だっただけで」

「……はい?」


 キョトンとした表情をユリアは浮かべる。


 あれ? そんなに意外だった?




© 2024 甲斐八雲

 今のコロネを見ててあれが暗殺者とか…普通思わんな。ただの馬鹿な子だしw


 そして何故か話が長くなるから不思議だ。というか裸ネタだけで一話分も使うなと言いたい

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